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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
385/706

385 思わぬ争い

「お疲れ様!」

「はい?え……えぇっ!?お、王女様っ?!」


 ウォルトと別れたリスティア一行は、門番に驚かれながら王城を目指す。


 お転婆王女の自覚がある私でも、夜の王都を歩くのは今日が初めての経験。日中に比べると人通りが少ないとはいえ、お酒を楽しんだ後なのか陽気な人達が多い。あちらこちらから笑い声が聞こえて安心する。


 大通りには街灯として『魔力灯』が設置されていて、薄暗いけれど足下を照らすには充分。私達は思ったほど目立ってないみたいでよかった。


「夜の王都は雰囲気が違うね」

「明るい内の活気を落ち着かせる時間なのです。世界には1年中明るく休まぬ街もあると聞きますが、何事にも休息は必要かと」

「そうだね。ダナンとカリーのおかげで私はゆっくり休めたよ。我が儘に付き合ってくれてありがとう」

「有り難きお言葉」

「ヒヒン」


 2人が真夜中から付き合ってくれたからこそ行けたんだ。本当に感謝しかない。


「ですが、私もカリーもウォルト殿にお会いしたかったのです。機会を与えて頂いて逆に感謝しております」

「ヒヒン!」

「そっか。また一緒に行こうね」


 何事もなく王城に辿り着いた。ダナンが門番の騎士に声をかけてくれる。


「トニー。王女様が戻られたと城内に伝えてもらえぬか?」

「帰るのが遅くなってゴメンね」

「お疲れ様です!お待ちください!」


 しばらくしてトニーが戻ってくる。


「陛下がお待ちのようです。城内へどうぞ!」

「うむ。ありがとう」

「トニー、ありがとう!」

「ヒヒン!」

「ご無事でなによりです」


 お礼を告げて城内に入ると、メイドのターニャがいた。


「王女様。お帰りなさいませ」

「ただいま、ターニャ!遅くまで起こしてごめんね」

「予想しておりましたので、少し仮眠させて頂きました」

「あはははっ!鋭い!お父様に会ってくるから、荷物を部屋に運んでもらっていいかな?」

「かしこまりました」


 カリーに騎乗したまま、ウォルトからもらった服や魔石を入れている布袋を渡す。ターニャは私が赤ん坊のころから仕えてくれている専属のメイド。若いのに多少のことでは動じないことで有名らしい。多分、私のせいかな…?

 彼女はとても聡明で、メイドなのに私をフォローしてくれたりと何度も助けられている。物怖じしない性格で、私に対してもハッキリ意思表示するから凄く助かるし信頼してる。お父様の人選は的確だ。

 もし他国に嫁いでも、できるならターニャは連れて行きたい。けれどいい縁談があるのなら勧めたい。


「ダナン。怒られたらゴメンね」

「我々は自分の意志で同行したのです。咎められようと王女様に責はありませぬ」

「ヒッヒン!」

「2人ともありがと!」


 カリーはお父様に懐いてないから、あまり刺激すると蹴飛ばしちゃうかも!賢いからそんなことしないって知ってるけどね!


 お父様の寝室の前でカリーから降りる。


「お父様、リスティアです!ただいま戻りました!」


 ノックして呼びかけると「入っていいぞ」と返事が聞こえた。ゆっくり扉を開けると、お父様とお母様だけでなくお兄様達もいる。


「お帰り。無事だったようだな」

「無事に戻りました!」

「うむ。なによりだ」


 心配をかけた自覚はあるから、ちゃんと答える。起きて待っていてくれたんだ。


「予想できない行動をとるのだけやめてくれると嬉しいけどな」

「でも、今回も噓は吐いてないね。父上から許可をもらって、ちゃんと日が変わる前に戻ってきた。おかえり」

「ただいま!」


 お兄様達も優しい。ちょっと過保護だけど2人とも優しい兄様だ。


「ダナンとカリーもご苦労だった」

「有り難きお言葉」

「ヒン」

「許可した手前、あえて訊かぬつもりだったが一応確認する。どこへ行っていたのだ?」

「勉強に行ってたの」

「勉強?」

「いろんなことを学んだ。人の苦労や優しさ、命の大切さも。友人が教えてくれたの」

「そうか」

「友人って誰だ?」


 ストリアル兄様が訊いてくる。


「皆も知ってる人だよ。ね、ダナン」

「はい。仰る通りです」

「俺達も知ってる者…?」

「うん。あえて言わないけど、お父様もお母様も、お兄様もウィリナさん達も、ボバンやシノもみんな知ってる!」


 お母様は苦笑してるけど嘘は吐いてないからね!完全に屁理屈だけど、カネルラの大魔導師サバトを知らないとは言わせないよ!


「そうか。お前が大切なことを学んだと言うのならなによりだ」

「お父様にお願いがあります」

「なんだ?」

「私は、お父様が私に望まれることを真摯に受け止めて実行します。ですから、たまにで構いません。また自由な外出を許可して頂きたいのです」


 真剣に告げる。


「今回の外出で、勉学の知識だけでは理解できぬことを身を以て学びました。外出を希望した理由はそれだけではありませんが、また外の世に触れたいのです」


 お父様は私を見つめて表情を緩めた。


「いいだろう。機を見て許可する」

「心配であれば、外出可能な範囲や時間、護衛も決めて頂いて構いません」

「あいわかった。その時は考えるとしよう」

「ありがとうございます」

「今日はゆっくり休め。明日への活力となったのであろう?」

「はい、充分に。では、おやすみなさい」


 ペコリと頭を下げて部屋を後にする。言いたいことは言えた。お父様達にも本当に感謝してる。これからは、ウォルトに会いに行くだけでなく、いろんなことを学んで成長してまた会いたい。

 

 親友として誇ってもらえるような人間になるんだ。



 ★



 リスティアが去った部屋で、ルイーナは会話に聞き入っていた。


 やはりというべきか、男性陣はリスティアの行動が気になっている様子。


「なぁ、ダナン。リスティアが会いに行った友人というのは誰なんだ?変な男じゃないだろうな?」

「僕らも知っているなら教えてくれていいんじゃないか?どうこう言うつもりはないんだからさ」


 ストリアルとアグレオに問われたダナンは冷静に返答する。


「ストリアル様とアグレオ様には、王女様から直接お伝えすると伺っております。何卒、御容赦下さい」

「またこのパターンか…」

「最近リスティアは僕らに内緒にしてることが多いんだよね。特に人について。寂しいなぁ」

「いつの間にか人脈を築いていることは喜ばしい。ダナンも口が固い」

「甲冑ですので」

「ヒヒ~ン…?」


 カリーはジト目を向けるけれどダナンは気にも留めない。本当に気の置けない相棒ね。そして、カリーは人の言葉を理解しているかのような反応をする。


「ストリアル、アグレオ。あまり追求してダナンを困らせるな。今は言えぬ理由があるのだ。違うか?」

「ナイデル様の仰る通りでございます。まだその時ではないかと」

「父上…。私はアグレオと同じく寂しいのです」

「寂しい?なぜだ?」

「ジニアスの祝宴の時もそうでした。意見を違えたとはいえ、リスティアはどんな人物であったのか未だに教えてくれません」

「仕方ないことだ。あの子の意見を頑として聞き入れなかったのだから。人ならば然もありなん」

「それが寂しいのです。我々は断じて私情を挟まない選択をしました。けれど、リスティアは理解しているはずなのに意固地なまま。可愛い妹から爪弾きにされています」

「むぅ。確かにな」

「我々に不満があって言わないワケではないようですが…難問です」


 ずっと黙っていたけれど、少し口を出させてもらおうかしら。


「ナイデル様達にお伝えしたいことがあります」

「なんだ?」

「リスティアは…本当は全てをナイデル様達に伝えたいと思っているのです。今すぐにでも」

「そうなのか?」

「はい。なぜなら、皆の理解を得たならば間違いなくいい方向へと事が運ぶのです。ですが…同時に恐れてもいるのです」

「もしや、以前聞いたように俺達がリスティアの友人になにかしら横暴を働くと?」

「そうではありません。もしそんなことをすれば、リスティアはこの国とナイデル様達を見限るだけでしょう」

「ふむ」

「あの子は、それ以上に恐れているのです」

「なにをだ?」

「私に言えるのはこの程度かと」

「そうか。いつもながら全く理解できんな」


 いつもと変わらぬナイデルの素っ気ない態度に、私は笑顔で青筋を立てた。


 勘が悪いのもいい加減にしてほしい。ナイデル様もストリアルもアグレオも…リスティアの行動について真剣に考えたことがあるの…?お転婆娘の可愛い我が儘だと思っているんじゃないの…?


 私はウォルトを知っている。一度しか話したことはないけれど、獣人であるのに心優しく素晴らしい魔法を操る稀代の魔導師。

 誰もが驚く魔法を操るウォルトは、宮廷魔導師をして『カネルラの魔法を大きく発展させる存在』と言わしめるほど。

 そんな彼は、リスティアにとって唯一無二の親友。優しく知的に見えて、「国王に頼まれてもそれだけで魔法は見せない」と主張していたと聞いた。


 現状で彼を動かせる可能性があるのはリスティアだけ。カネルラ魔法界の発展の鍵を握る人物を。付き合い方を一歩間違えば驚異と成り得る存在。以前ボバンとの手合わせに勝ったのもウォルト。現役騎士団長を倒し、エルフの魔導師すら寄せ付けない獣人の魔導師。

 偶然とはいえ、彼とカネルラ王族は縁ができた。私達のタメに多幸草を採取し、ジニアス達の誕生を稀有な魔法で祝福してくれた。そんな彼との交流はカネルラの発展を左右する可能性が高い。


 3人は聡明であるのに、なぜ過去の一連の出来事から気付かないの?愛する夫と息子であるけれど本当に理解できない。リスティアも「いつバレてもおかしくないんだけどね」と不思議そうにしている。

 私が思うに…ナイデル様達はリスティアの未来を本気で憂いたり、真意を汲もうとしていない。あの子はウォルトの存在を知らせたいと考えているのに。いつでも自信を持って親友として紹介する準備は整っているはず。


 ナイデル様達は、カネルラ建国以来の傑物であると認めるリスティアのことを、まだ11歳の子供であるのに世の全てを見通しているとでも勘違いしている。

 放っておいてもまず間違いは起こさない…と信頼しているつもりだろう。だから、気にしているのは変な虫が付かないかということばかり。外出しても、王城に招いても、二言目には「どこの誰に会ったのだ?」と尋ねる。


 どうでもいい。私に言わせれば…とんだ勘違い野郎共だ。誰だって間違いを犯す。たとえ王族であろうと。

 だから理解し合い助け合うのだ。訊くべきことは「誰に会ったのだ?」ではなく「なにをしてきたのか?」だ。


 大切なのは、必要ならば手助けをすること。そういった気遣いが王族の男には足りないと祖国にいた頃から思っていた。



「最後に一言よろしいでしょうか?」

「なんでも言ってくれ」

「では、言わせて頂きます。ナイデル様、ストリアル、アグレオ…。この件について真面目に…真剣に考えて下さい!貴方達がリスティアの秘め事に気付かないはずがないのです!無意識に目を逸らしているだけなのです!」


 久しぶりに声を荒げる。何十年ぶりだろう。


「急になんだというのだ…?目を逸らしているだと?」

「リスティアがなにをしているのか、深く考えたことがおありですか!?」

「むぅ…」

「むぅ…じゃありません!そうやって知らないフリをするからいけないのです!」

「そんなつもりはない」

「ことの始まりはただの偶然だったのです…。けれど、リスティアの行動はカネルラの未来にとって非常に重要な鍵を握っています。貴方達は王族であるのに真剣に知ろうともしない…。器が小さいのです!」


 こんなこと言いたくはない。


「ルイーナ。ちょっと落ち着け」

「落ち着いていられません!この際なので言わせて頂きます!リスティアは、カネルラを大きく発展させる可能性を秘めた事象と向き合い、邪魔されたくないから伝えないのです!」

「なにを言う!俺達がカネルラの発展に寄与することを邪魔するなどあり得ない!」

「そうです!いくら母上といえども愚考というもの!」

「母上、冷静になりましょう。我々はカネルラの未来について常に真剣に考えています」


 そう思っているでしょうね…。巨大な勘違いだわ。憂いていると言えばこちらが全て納得するとでも?


「現に一度は未遂がありました!ナイデル様はご存知だと思いますがっ!だから申し上げているのですっ!」

「バカなっ!?お前達が教えないから知らないのだ!なぜそんな重要なことを言わない!?なぜリスティア1人に任せている?!」


 言っていることは至極真っ当。けれど、この状況を招いたのはナイデル様達自身。そのことに気付いていない。

 リスティアは、ナイデル様に真実を伝えてウォルトと堂々と交流したいはず。彼と実際に話せば人となりを理解してもらえる。宮廷魔導師との交流も図れるかもしれない。


 けれど…一度危険な発言をしたナイデル様のことを疑っている。万が一にも親友を失いたくないから必要以上に慎重に行動しているだけ。選択を誤ると、カネルラはリスティアとウォルト、両方を失いかねない。あの子はそれくらいウォルトに懐いている。そうなったとしたら、この国にとってあまりに大きな損失。


「…何度も言わせないで下さい。教えると援護どころか邪魔をする可能性があるからなのです!深く考えることもせず、吠えるだけであれば黙って指を咥えておけばいいのです!」

「なんたる言い草だっ…!」

「カネルラに関することが、全て自分達の意のままに動くと思っているのなら大間違いです!」

「そんなことを考えたこともない!ふざけるな!」

「ふざけてなどいません!臣民に対してはそうでしょう!ですが、家族に対してはいかがですか?!妻や娘、妹ならば言うことを聞く。思い通りに動かせると…そう思っているのではないですかっ?!」

「俺は思ってなどいない!」


 …いや、思っている。私は王族に生まれた女だ。国を背負う男達は最も近い位置にある王族女性を軽んじている。

 大切だと口にしながら、心のどこかで所有物のように扱っている。国の発展を願い、憂いをなくすという理由で縁談を進め、贈与品のように扱われる。

 善悪の話ではなくそれが王族。否応なく納得せざるを得なくとも…私達も言いたいことはある!


「私は…このままで構わないとも思っています。この件は、いかにナイデル様達が真実に辿り着こうとリスティアがいてこそ成し得ること。ナイデル様だけでは不可能です」

「ぬぅっ…!」


 言いたくはないけれど紛れもない事実。ナイデル様は、ウォルトと交流できる手札を持たないのだから。


「ですが、理解を示して頂きたいのです。ダナンが述べたようにまだ時期尚早ではあります。それでも、カネルラの未来を想うなら早期にナイデル様御自身で答えに辿り着いて頂きたいのです。それだけを望みます。仮に判断を違えたとしても…失うモノは大きくともカネルラは変わりませんが」

「変わらぬことが悪いと言うのか?」

「そうではありません。ですが、正しい判断を下されたならカネルラは大きく発展する可能性を秘めていると断言できます」

「なにを根拠にそんなことを…」


 ムッカァ~ッ!この…分からず屋!カネルラに嫁いでから、初めて腹が立った!


「話は以上で!今夜ナイデル様はストリアルとアグレオと共にお休み下さい!ウィリナとレイはこちらで寝かせます!」

「なっ!?」

「母上!?それはどういう?!」

「異論があるのですか?!今日そうしないというのであれば、期間を1ヶ月に延長しましょうか?!私は構いませんが、こちらも寂しい想いをするのです!よくお考え下さいっ!」

「言っていることが滅茶苦茶だ…」

「するのですか?!しないのですか?!」


 ナイデル様と王子達は顔を見合わせて頷いた。


「望む通りにしよう…」

「ありがとうございます!存分に話し合われますよう!あと、ウィリナとレイに此方に来るようお伝え下さい!事情は私から説明致します!」


 とぼとぼと肩を落として部屋を出ていく男性陣の背中を見ながら思う。


 本当に良い夫と息子だ。常にカネルラを想い民を想う王族。限りなく優しく、妻を愛し大切にしてくれる私の誇り。

 現に、今も罵倒した私の言葉を尊重してくれた。こんなにも心の広い王族は世界のどこにもいない。


 世界の王族でもこれほど幸せな毎日を過ごしているのは私達だけだろう。ウィリナもレイも、他でもないリスティアもそう思っているはず。

 ただ、それとこれとは話が別。今は真剣に考えるとき。ウォルトのことはこの先避けては通れない。

 第一、ナイデル様は「サバトに会って話してみたいものだ」とまで仰っていたのだ。こちらとしては有言実行してもらいたい。


「どうなるのかしらね…」


 お灸を据えたつもりはないけれど、甘い顔ばかりしてもいられない


 私はカネルラの王妃なのだから。

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