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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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381 ゆっくり話せるね

 住み家に戻って、開口一番リスティアが希望したのは「ウォルトの日常生活を見たい!」だった。


「いいの?全然面白くないと思うよ」

「いい!前に来たときは、多幸草探しでそれどころじゃなかったから!私にはなんでも新鮮!」

「じゃあ、畑仕事から始めるよ」

「手伝う!」


 宣言通り花壇に水をあげたり野菜を育てている畑を耕す。ダナンさんも手伝ってくれる。働く手を止めずに、リスティアが訊いてくる。


「ねぇ。ウォルトって、シノと手合わせしたんだよね」

「したよ」

「勝ったの?」

「勝ってない。リスティアにお礼を言わなきゃいけない。本当にありがとう」

「どういうこと?」

「シノさんはボクを殺さないように手加減してくれてた。リスティアとの不殺の約束を守ってたんだ。だから、ボクは元気で今も生きてる」


 シノさんは意識をなくした状態でもリスティアの名前に反応した。忠誠心の高さに暗部の誇りを感じた。


「そっか。シノらしいね」

「凄い人だ。ボバンさんもそうだけど、『鬼神の如き強さ』っていう言葉はあの人達を表現してる」

「暗部に誘われたんでしょ?」

「誘ってもらって凄く光栄だった。断ったけど」

「シノはまだ諦めてないよ。ウォルトが暗部好きだから、あの手この手で勧誘してくるかもね!」


 勧誘なのかなぁ?玩具にされてるような気がするけど。


「嬉しいけど荷が重すぎる。リスティアの傍にいられるのは嬉しいけどね」

「そうだよ!早く来て!」

「今はまだ無理かな」

「だよねぇ~。もし、暗部に入る気になったらお父様に激推しするから!断ったら縄で縛り付けてカリーに王都中を引きずり回してもらう!」

「ヒヒン!」

「国王陛下にそんなことしちゃダメだよ」

「いや!本気だからね!」


 やると言ったらやるんだろうな…。前は「ぶん殴って牢屋に入れる」って言ってたのに、より過激になってる。普通どこの猫の骨かわからない男は暗部に入れないと思うけど…。


「ウォルトは嫌かもしれないけど」

「なにが?」

「魔法が使えるウォルトは、宮廷魔導師になれる可能性もあるし暗部にも誘われてる。直ぐ会える距離にいてくれる可能性があることが嬉しい!」

「どっちも嫌じゃないよ。宮廷魔導師はさておき、暗部に誘われたのはもの凄く嬉しかった」

「絶対にどっちかになれ!って言われたら暗部になる?」

「そうだね。逆立ちしても宮廷魔導師にはなれない。暗部でもお荷物だろうけど、宮廷魔導師より役に立てると思う」


 秘薬作りで雇ってもらえるかもしれない。


「ウォルトって、騎士と暗部は尊敬してるみたいだけど、宮廷魔導師は…そんなことない…のっ!?」


 育ったダイコンを引っこ抜きながら、そんなことを訊いてくる。勢い余って転びそうになってるのが可愛い。


「宮廷魔導師のことをよく知らないんだ。元々尊敬してたのは暗部だけで、騎士のことはアイリスさんやダナンさんと出会えたから詳しく知って今では尊敬してる。宮廷魔導師を知ったら…どうかなぁ?」

「一度修練の見学に来てみる?」

「魔法は凄く見たい。でも無理だ」

「なんで?」

「獣人をバカにするような行動をとられたら腹が立って仕方ない。しかも高確率でそうなる」


 ウークのエルフやクウジさんがそうだった。魔導師は魔法を使えない獣人を蔑んでる風潮がある。もしかすると純粋に嫌いな可能性もあるけど、魔法のエリートである宮廷魔導師ならなおさらだろう。

 マルソーさんやサラさんは違ったけど、マードックやアニカ達が事前に伝えていたからかもしれない。『操れないくせに、魔法を見てどうするつもりだ?』という怪訝な顔で見られる自信がある。


「まぁ、そうなるよね」

「その点、武闘会はよかった。ボクが近くで見てても問題ないから凄く楽しくてね」

「変装してたけどね!…そうだ!変装すればいいんだ!」

「もうお面は被りたくないんだ。無駄に目立って噂になるのはこりごりだよ」

「気付かれないくらい遠くからだったらいいの?」

「それなら大丈夫かな」

「わかった!」


「ふんふ~ん!」と鼻歌を軽やかに響かせる。ちょっと休憩することにして、花茶を飲みながら思い出した。


「リスティアに、もう1つお礼を言いたかったんだ」

「なに?」


 飛脚のボルトさんから教えてもらったこと。


「王都の獣人の待遇を変えてくれたって聞いた。同じ獣人として嬉しい。ありがとう」

「私はお父様にお願いしただけだよ。だから感謝するならお父様にだよ。でしょ?」


 う~ん。そうは言っても…。


「それでもありがとう」

「ふふっ!わかってないなぁ!」

「なにが?」

「今のはウォルトの真似だよ!いっつもこんなこと言うでしょ!「感謝するならボクじゃない」って!相手の気持ちがわかった?」

「参ったなぁ…」


 1本とられた。確かにそうだ。ボクはいつもリスティアのような言い回しをする。モノマネも上手い。相手を困らせてるんだな。


「今後気を付けるように!」

「わかったよ」

 

 ボクらは微笑み合う。


「私はね…ウォルトに出会ってから獣人の可能性について深く考えたの」

「ボクがきっかけってこと?」

「怒らないで聞いてね。魔法を使えたり、料理が好きだったり、細かいモノを作る獣人って珍しいんだよ」

「珍しい獣人っていう自覚はあるよ」


 ラットだって絵が上手いし、他にもいると思うけど数は多くないと思う。


「大多数ではないけど確かにいる。それが突然変異なのか、元来備えている能力を扱いきれてないのか私にはわからない。だからお願いしたの。獣人の働き方や学び方を変えてほしいって。もし後者ならより能力を活かせるんじゃないかって」


 政策も打ち出してくれたんだろうな。


「ボクの知り合いの獣人は、リスティアに感謝してケンカしないよう気を付けてた。驚いたよ。普通なら考えられないことなんだ」

「今だけかもしれないけど、『ケンカを我慢できた』っていう事実が財産になって『できないことはない』と思える。そんな小さなことが大事だと思うの」

「そうだね。初めは小さな変化でも、積み重なれば大きく変わるかもしれない」


 きっと、モノづくりや魔法の修練のように少しずつ形になっていく。


「私は獣人を変えようなんて思ってないよ。自分の思い通りに人を変えようなんて思い上がりだから。もし変われたとしたら、それは獣人の皆の努力の結晶」


 リスティアはふわりと微笑む。


「私の望んだ政策で獣人が変わったとしても、喜ばしいこととは限らないよね?」


 ボクは頷く。


「獣人の本質まで変わる可能性もないとは言えない。そのせいで「軟弱になった」と批判する獣人もいるかもしれない」

「そう。獣人らしさは失ってほしくないし、この政策ではそうならないと思う。この世界には…人間がいてエルフやドワーフもいて獣人もいる。それが当たり前で種族に優劣なんてない。人間寄りになるとか、獣人寄りになる必要もない。互いに寄り添うことが大切で、同化して1つになるのは違う」


 リスティアが打ち出してくれた政策は、獣人が多種族と上手く交流することで、より発展してほしいという願い。可能性を広げるとはそういうこと。どう応えるかは獣人が決めなきゃいけない。


「もしそんな方向に進んだなら、私の案は大失敗。そうならずにより互いの種族が近付くきっかけになればいい。そうすれば…獣人は温かくって上で寝たら気持ちいいことに気付いてくれるはず!」

「あはははっ!」


 この子には敵わない。本当に凄いなぁ。人として尊敬する。


「…リスティア」

「なに?」

「やっぱりボクが仕えることがあるのなら君の元がいい」

「と~ぜんだよ!親友なのに他の人に仕えるなんて許さないよ~!」

「もしそうなったら、料理は作らせてくれるのかい」

「好きなだけどうぞ!話し相手と専属料理人になってもらうからね!ちなみに、モノづくりや魔法の修練も自由だよ!衣食住付きで、充分な休みと給金もあげる!」


 そうなったら特権階級みたいな生活だ。


「給金はいらないけど、魅力的過ぎる破格の条件だね」

「でしょ!なんならウォルトの友達もまとめて歓迎する!」

「甘やかしすぎだと思う。けど嬉しいよ」

「その分、カネルラにいない可能性が高いけど…」

「仕えると決めたならどこだって構わない。リスティアがいることが重要で、それがどこの国なのかは関係ない」

「ありがとう!もしお父様が仕えてくれって言ったらどうする?」

「丁重にお断りするよ。ボクは国王様のことを知らない」


 リスティアの父親で、歴代の国王と同様に聡明だと評価されている国王陛下だ。悪い人物でないというのはわかる。でも、知らない人に仕える気にはならない。


「「これは命令だ!」って言われても?」

「絶対に断る。カネルラ国民だけど命令される筋合いはない。強制するなら国を出るか誰にも会わない場所へ行く。そんな国王じゃないだろうけど」

「よくわかった!そうなったら私も付いていく!いなくなる前に「調子に乗るな!」って2人でボコボコにしよう!」


 リスティアは父親でもある国王様に恨みでもあるのかな…?


「フィガロの手甲も毎日磨いて大事にしてる。ありがとう」

「どういたしまして!ウォルトはフィガロが好きなんだって感じたからね。喜んでもらえたならよかった。こっちこそ誕生日の手紙とタルトありがと!凄く嬉しかった!」

「字と花の魔法は上手くいった?」

「凄かったよぉ。お母様やジニアス達と一緒に見たの。みんな驚いてた。また見せてね!」

「ボクが付与した魔力が切れるまでは、『精霊の加護』の力で何度でも発動するよ」

「そうなの?!とってあるから帰ったらやってみる!」


 2人でゆっくり話すのは初めてだけど、言いたいことも気兼ねなく言える。本当に11歳なのか疑いたくなる。


「今日はゆっくり話せて嬉しいよ」

「私もだよ!ところで、ウォルトはライアンに会ったんでしょ?」

「亡くなる前に会ったよ」

「会ってみてどうだった?」

「紛れもない大魔導師だった」


 高齢でありながら磨き上げた魔法を操って見せてくれた。病に冒され、魔力量や精神力、体力は衰えていたかもしれないけど、積み重ねた年月を刻む見事な魔法に圧倒された。

 年を取ってもライアンさんのように死ぬまで修練を続けたいと刺激されたし、魔導師として尊敬できる。話したのはたった一度だけど、亡くなる前に交流できたことは幸運でずっと記憶に残る。

 獣人の魔法使いへの興味本位だったとしても、遠路はるばる会いに来てくれたことに感謝しかない。ボクの魔法を見たいと言ったときの表情は信じて疑わない顔だった。


「ライアンがね、ウォルトに会ってからずっと笑ってたんだって。弟子も初めて見るくらい楽しそうだったみたい」

「獣人の魔導師は珍しいから楽しかったかもしれないね」


 リオンさんも楽しそうだった。あの2人は直に話して獣人をバカにしてないとわかってるからそれでいい。


「サバトって偽名はどこからきたの?」

「亡くなったじいちゃんの名前なんだ」

「へぇ~!サバトラなの?」

「そうだよ。ボクと同じ猫顔だった」

「会ってみたかったぁ」

「ボクも会わせたかったよ」


 その後も少し会話したところで、リスティアが立ち上がった。


「うぅ~っ!今日はいろんなことが聞けて楽しい!でも作業を続けよう!」

「そうだね。話しながらゆっくりやろう。昼ご飯のおかずになるから」

「楽しみぃ~!」


 昼ご飯も気合を入れて作ろう。身体を動かして存分にお腹が空いたであろう親友のタメに。


「ねぇ、ウォルト。話は変わるけど私の瞳を見てどう思う?」

「瞳?綺麗だよ」

「ありがと!…って、そうじゃなくて変じゃない?」

「綺麗なオッドアイだよ」


 リスティアの瞳は左右で色が違う。翠と碧で水晶のように綺麗だ。


「でもね、国によっては忌み目なんだよ」


 そんな話も本で見たことがある。でも、ボクには関係ない。


「謂れなんてどうでもいい。猫の獣人にとっては普通のことだよ」

「えっ?!そうなの?」

「獣人の中でもオッドアイなのは猫の獣人ばかりだから知られてないかな?ボクの目をよく見て」


 リスティアは近くでジッと覗き込んでくる。ちょっと照れるな。


「……あっ!よく見ると左右で少し色が違う!」

「だろう?ボクもそうだし、リスティアは仲間だ。忌むべき理由なんてない」

「うぅ~!嬉しいっ!」

「気になるなら魔法で同じ色に見えるようにもできるよ」


 気にする人は気にするかもしれない。根本的には無理でも色を合わせて隠すことは可能。


「いい!だって片方はウォルトと同じ色だから!」

「ボクも嬉しいよ。それに、リスティアの瞳は神秘的で好きだ」

「本当に?!セクシー?!」

「ではないかな」

「むぅ~!納得いかない!」

「瞳で色気は感じないよ」


 リスティアに色気はまだ早い。あと2、3年は子供らしくていいと思う。

 

「もう少し大きくなったらウォルトを悩殺しちゃうからね♪」

「ダメだよ。王女なんだから」

「い~や!私は第29代カネルラ国王ナイデルの長女として親友を動揺させてみせる!」

「そんな仰々しく目標立てられても…」


 やると言ったらやるだろうな。ボクを揶揄いたいんだろうけど、どうにか防がなきゃいけない。…とはいえ、賢すぎるリスティアはいつなにを仕掛けてくるか予想もつかない。


 …諦めよう。そして気が変わるよう祈ろう。


 その後も作業しながら会話を楽しんだ。

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