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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
38/706

38 マードックの夢

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 フクーベの衣料店で仕事中のサマラは、同僚から声をかけられる。


「サマラちゃん。狐みたいな獣人から渡してくれって手紙預かったんだけど」

「ありがとうございます」


 狐みたいな獣人?誰だろう?


 手紙を受け取って、封筒の裏側を見るとウォルトの名前。早く開封したい気持ちに駆られたけど仕事の真っ最中。休み時間にゆっくり見よう!


 そして、待望の休み時間を迎えた。休憩室で手紙を読もうとしてたら、またまた同僚達が話しかけてきた。


「ねぇねぇ。また恋文(ラブレター)?相変わらずモテるねぇ。サマラちゃんは」

「そんなんじゃないですよ。差出人もわかってますし」

「もしかしてウォルトさん?」

「そうです。よく覚えてますね」

「「「そりゃあね♪」」」


 あ。そっか。こないだ来てくれたときにウォルトのことが好きだってバレちゃったのか。あえて黙ってくれてるんだ。


 お客さんから手紙をもらうのは日常茶飯事。数え切れないくらいもらってるけど、当然全てお断りしてる。むしろ、私が手紙を貰うと周囲が盛り上がって毎回キャッキャ、ウフフだ。

 それにしても…ウォルトが手紙をくれるなんて珍しい。もしかして…よくない知らせなんじゃ…?


 ちょっとだけ緊張しながら丁寧に開封する。綺麗に折り畳まれた便箋を開くと、紙には綺麗な文字が並んでる。そして、ほのかに花の香りがした。インクに香料を混ぜてあるのかな。お洒落なことするね!


 また会いたくなったけど、気を取り直して読み始める。丁寧な挨拶から始まり、ウォルトの近況やなかなか会いに行かないことへの謝罪が綴られてる。まるで、目の前にウォルトがいて語りかけてくるかのような優しい文面。無意識に微笑んで、ゆっくりと読み進める。



 その様子を同僚達も安心して見守っていた。


 嬉しそうに頬を赤らめながら手紙を読むサマラを見て、これ以上は野暮だと感じた皆が席を外そうとしたとき異変に気付く。


 幸せそうに手紙を見つめていたサマラの表情が段々と険しくなって眉間に皺を寄せた。よく見ると肩が小刻みに震えている。

「ふぅ…」と自分を落ち着かせるように息を吐いたサマラは、丁寧に便箋を封筒に戻すと大事そうに自分のバッグにしまった。皆が怖くて内容を聞けないでいると、サマラが先に口を開く。


「休憩も終わりですね!もうひと頑張りします!」


 ニコッと、ただし全く目が笑ってない表情で告げ、足早に店頭に出て接客を始めた。

 手紙になにが書いてあったのか気になりながらも、気を取り直してそれぞれの持ち場へと戻って行く。



 ★



 エッゾがサマラの同僚に手紙を渡した頃。


 マードックは今日も今日とて昼から酒を飲んでいた。


 ククッ!クエストの報酬が入った帰りで懐にゃ余裕がある。サマラに渡す前にちっと酒を飲むくれぇはご愛敬ってな。俺が稼いだ金だ。


 そういや、エッゾはちゃんと辿り着いてんだろうな。とんでもねぇ方向音痴だが、死にやしねぇだろ。酒を飲みながらそんなことを考えていると、いきなりエッゾが現れた。


「よぅ。生きてたか」

「なんとかな」


 この感じは、アイツに会ってきやがったな。エッゾも酒とつまみを注文し、向かいの席に座る。酒が運ばれてきてとりあえず乾杯してやった。


「会えたみてぇだな」

「あぁ。会ってきた」

「で、()ったのか?」

「あぁ。負けたぞ。アイツは強い」


 ククッ!予想通りかよ。


「負けて嫌な気はしねぇだろ」

「なんでお前がそんなことを言う?」


 言わなきゃなんねぇだろうな。コイツも言ったんだ。


「俺も負けた。誰にも言うなよ」

「…なるほどな。だが、今ならその言葉も信じられる。アイツは強かった」


 直に闘った者しか強さはわからねぇ。そういう意味じゃ俺らは身を以て知ってる。


「アイツは強さの底が知れねぇ」

「なに?確かに強いが、そこまでか?」

「魔法は使ったか?」

「当然だ。手甲でもあれば別だろうが、俺の剣ではアイツを切り刻むことはできなかった。鉄より硬くなる」

「そうかよ。アイツが俺らに見せたのは、使える魔法のほんの一部だ。俺の勘じゃもっと強力な魔法も使える。アイツの性格からして対人じゃ使わねぇ」


 俺はアイツとケンカしたあと頭を捻って色々と考えてる。この間の闘いで見たのは、『身体強化』と『火炎』だけだ。それだけでも流れるような詠唱と威力にシビれた。

『治癒』も使った。アイツは俺に魔法が当たっても治療できる自信があって詠唱したに違いねぇ。


 昔からでけぇ口は叩かねぇ野郎だ。間違いなく魔法を隠してやがる。そんな気がしてならねぇんだよ。


「それが本当なら、どれほどの魔導師か予想もつかん。俄に信じ難いが、アイツならなくはないと思える。今まで感じたことのない魔法だった。まともに食らえば死ぬかもしれないと感じた」

「だろうが。俺の勘は当たるからな。ククッ!」

「お前、楽しそうだな?」

「あぁ。お前には教えてもいい。俺は昔からやってみてぇことがある。夢みてぇなもんか」

「最強の獣人になることだろう?」

「それもある。けど、違うぜ」

「なんだ?」


 この粗暴でガサツで好き勝手やっている男に夢などあるのか?とエッゾは思う。もしあるとすれば、世界中の酒を飲みたいとか、色々な種族の女を抱きたいとか下らないことだろうと。


「…お前、失礼なこと考えたろ?」


 誤魔化すように酒を煽りやがって…。顔に書いてんだよ。


「まぁいい…。俺がやってみてぇことはお前も考えたことあるはずだ」

「俺も?」

「あぁ。獣人だけのパーティーで最高峰の迷宮(ダンジョン)を攻略してやる」

「それは…確かに夢だな」


 獣人は身体能力を生かして冒険者パーティーの前衛や斥候を務めてきた。だが、獣人だけのパーティーはバランスが悪ぃ。だから、エルフや人間の魔導師って奴が必要不可欠だ。

 ダンジョンの攻略にゃ魔法が欠かせねぇ。普通の攻撃が効かねぇ魔物もいるし、補助魔法や回復魔法が必要になる場面っつうのは必ずくる。


「フィガロみてぇに有名な獣人は何人かいる。けどよ、獣人だけの冒険者パーティーじゃ上に行けねぇっつう常識に俺は昔からムカついてる」


【フィガロ】っつうのは伝説の獣人で、勇猛果敢な戦士。とんでもねぇ強さで死ぬまでタイマンで負けたことがねぇらしい。世界中の獣人の憧れって奴だ。


「いかに獣人の能力が高くても、それだけで攻略できるほどダンジョンは甘くない。高難度になるほど攻略は困難になる。お前も知ってるだろう」

「だから叶わねぇ夢だと諦めてた。ただ…アイツとならやれっかもしれねぇ」

「ウォルトなら魔導師として必要な実力があるかもしれない…か」

「アイツと実際にやりあうまでは思わなかった。魔法を操ろうがどうでもいいと思ってたぜ」


 魔法を使えるっつっても、どうせしょぼい魔法だと思って無視してた。蓋を開けりゃとんでもねぇ野郎だった。


「魔法を操る獣人が現れるなんて思わねぇだろ。今まで存在してねぇんだ。けどよ、この時代に俺の近くにいやがる。ただの偶然で終わらせたくねぇ」

「アイツはダンジョン攻略なんて興味ないだろ」

「あぁ。けど、アイツも獣人だ。闘ってわかったろ?優しそうに見えても闘えば本能ってヤツが顔を出す」

「確かに鬼気迫る顔をしていたな。まさに獣人だった」

「闘えばアイツも自分を止められねぇ。今すぐじゃなくていい。俺がもっと腕を上げて、アイツを倒して無理矢理連れて行く。1回で構わねぇ」

「何回も最高峰のダンジョンを攻略できないだろ。ところで、俺にも声を掛けてくれるんだろうな?」

「お前次第だ。どうしても連れて行く必要がある獣人になっとけや」

「ククッ!面白い…!お前の話は荒唐無稽だ。だが…もしそうなったらと思うと興奮が収まらん!」

「こんなとこで盛んな。花街に行け」

「フハハハッ!そうするか!またな!」


 律儀に飲んだ分の金だけ置いて、そそくさとエッゾは店を出た。俺はまだ飲み足りねぇぜ。





 飲み終えて家に着くと、サマラが飯の準備をしてやがる。この匂いは…肉か。


「サマラ!食ってきたから飯はいらねぇぞ!」

「はぁ?!そういうことは早く言え!まったく…もう飲んできたの?うわっ、酒臭っ!」

「クエストで金入ったからな。ほらよ」


 巾着袋に入った金を放り投げる。受け取ったサマラは溜息をつきやがる。


「気分がいいのはわかるけど、クエストで疲れてんじゃないの?」

「けっ。どうってことねぇよ」

「呆れた。ご飯いらないなら肴を作ろうか?」

「珍しく気が利くじゃねぇか。頼むわ」

「珍しく…?…まぁいいや」


「先に飲んどいて」と、酒とグラスを持ってきた。自分で注いで飲み始める。家で飲む酒も美味ぇ。

 ぐいぐい飲みながら少し経って、身体がおかしいことに気付く。


 なんだ…?身体が痺れやがる…。冷や汗が止まらねぇ…。まさか毒か…?いや…そんな匂いはしてねぇ…。


 サマラが顔を出した。


「効いてるみたいね。気分はどう?」

「コレは…お前が…?」

「酒に入れておいたの。無臭だから気づかなかったでしょ?」

 

 毒なら匂いで気付く。酒に他の匂いは混じってなかった。なんだってんだ…?


「サマラ…。お前…なにしやがった…?」

「1つ聞きたいんだけど……ウォルトの所にエッゾさんを送り込んでどうするつもりだったの?」

「なんで……知ってんだ…?」

「ウォルトから手紙が来た。最後に書いてあったよ。マードックがウォルトの住み家をエッゾさんに教えて、闘ったら刀で刺されたって…!怪我は大したことなかったけどって!!」


 表情は変わりねぇが相当キレてやがる。こいつぁ……ヤベぇ…。


「色々とワケが…あんだよ…」


 力が抜けて上手く話せねぇ…。なにを飲ませやがったんだ…?


「へぇ~…。エッゾさんみたいな戦闘狂いのド変態狐をウォルトに会わせる必要があるって言うの?」

 

 アイツ…。酷い言われようだな…。エッゾは何度か俺と闘ってっから…戦闘狂の狐獣人としてサマラも知ってる…。


「マードック。もしかして私がウォルトと番になるのを邪魔しようとしてるの?目障りなウォルトを始末しようとして、エッゾさんを送り込んだ?それとも、負けたから逆恨みで嫌がらせ?」


 そんなつもりはさらさらねぇ……と言いてぇが…毒が回ったのかもう声が出せねぇ。


「そう…。無言は肯定とみなすよ。私の恋路を邪魔する一番の障害が親愛なる兄だったなんて…皮肉だね」


 涙を人差し指で拭うような仕草を見せてっけど……下らねぇことで泣くワケねぇ。コイツ…。猿芝居やりやがって…!


 お前の毒のせいで喋れねぇんだよ!…と言いてぇが…もうピクリとも動けねぇ。


「マードック……いや、お兄ちゃん。会話するのも最後だね。言い残すことはある?」


 ありすぎるわ!と怒鳴りてぇが…声が出やしねぇ…。


「言いたいことはないのね。その意気やよし!じゃあ、今からウォルトが受けた痛みの10倍…いや100倍の痛みを受けてもらおう♪」


 もらおう!じゃねぇよ!と思いながら、最後に見たのは狼の眼で笑いながら迫るサマラの姿。


 そこで俺の記憶は途絶えた。



 ★



 どうなってんだ、こりゃ…。


 目を覚ましたマードックは、顔や身体中を殴られてボロボロになっているものの、なぜかスッキリした爽快感に包まれていた。


 ワケがわからねぇ…。


 それもそのはず、サマラがマードックに飲ませたのはウォルトの母親ミーナ直伝の疲労回復スープ。

 いずれウォルトの番になってほしい…と小さな頃にミーナから伝授されていた。ミーナほどの完成度ではないものの、疲れたマードックには充分効果あり。

 今回はミーナから聞いた副作用を利用してマードックを拘束した。流石にサマラも兄に毒は盛らない。

 なので、疲れが取れて爽快な気分と、身体中を襲う殴られた痛みで複雑な感情のマードックはしばらく混乱状態に陥った。


 その後、エッゾを引き合わせた意図については伝えなかったが、サマラの恋路を応援していることやエッゾの件についてマードックがとりあえず詫びを入れたことで一応の許しを得た。

 ただし、「今後もウォルトにちょっかいを出す気なら兄妹でも容赦しない。どんな手を使っても抹殺する」と黒い笑顔で釘を刺されてしまい、マードックの夢は前途多難になってしまった。

読んで頂きありがとうございます。

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