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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
376/706

376 月と漆黒

 月が輝く夜。


 ウォルトはお風呂上がりに外で涼んでいた。夜風の涼しさで思い出す。


 ダナンさんとカリーに遭遇したのも月が綺麗な夜だった。突然現れた漆黒の甲冑と騎馬に凄く驚いたことを覚えてる。

 今ではカネルラ国王の相談役と騎馬のリーダーだ。2人には可能な限り今の世で暮らしてもらいたい。ダナンさんやカリー、当時の騎士や国民の尽力の賜物で今のカネルラがあるんだ。


 充分涼んで住み家に戻ろうとしたとき、ピンと立った耳が足音を捉える。


 音はどんどん近付いてくる。この足音は…まるでカリー達が現れた時と同じ…。


 予想通り森の中から漆黒の甲冑と騎馬が飛び出してきた。ダナンさんと違って背中に大剣を背負っている。ボクは駆け出して眼前に立つ。


『ムゥ…。ジャマヲ…』

『捕縛』


 素早く接近して、甲冑の言葉を遮り魔力の網で拘束した。


『ムウウ…。コレハ…ナンダ…』

『ヒヒーン…』


 身動きがとれないようキツく拘束し、横たわっている隙に即行で『診断』して、魔力成分を抜いた。意識を失ったのでしばらく待っていると、白銀の甲冑と白毛の騎馬に早変わり。

 既視感というよりも、ダナンさんとカリーに出会った時と全く同じ状況なので微塵も驚かない。


「う…。ここは…?」

「ヒヒン…」


 2人が目を覚ましたので、とりあえず尋ねてみる。


「気が付きましたか?ウォルトと申します。もしかして、貴方達は王都へ向かっているのでは?」

「む?…そうだ!早く王都に行かねば!」

「ヒヒーン!」

「落ち着いて下さい。もうカネルラの戦争は終結しています」


 この説明をするのも随分久しぶりだ。


「そんなバカなっ!絵空事を!」

「本当です。詳しく説明したいので聞いて頂けませんか?」


 ゆっくり話しかけると少しずつ落ち着いてきた様子。


「貴方は…何者なのですか?」

「カネルラの一国民で、ただの獣人です。貴方は騎士のダナンさんをご存知ですか?」

「ダナンさんを知っているのですか?!なぜ!?」


 やはり同僚だったか。


「ダナンさんは、昨年騎馬のカリーとともに蘇ったんです。貴方と同じように」

「なんですって!?蘇ったとはどういうことでしょう?!」

「ココは間違いなくカネルラ王国の動物の森ですが、戦争終結から400年が経っています」

「…そんな…バカな」


 いきなりこんなことを言われても到底信じられないだろう。この人はダナンさんと違って初めて蘇ったのかもしれない。


「詳しくお話しします。住み家へどうぞ」


 甲冑と騎馬は促されるまま住み家に入ってくれた。




 現在のカネルラの情勢、時代の違いなどについて詳しく説明する。甲冑騎士は驚きながらも静かに耳を傾けてくれた。ダナンさんと同じであれば、まだ記憶が戻りきってないはず。時間をかけてゆっくり話した。


「とても信じられません…。戦争が終結し、既に400年経っているなんて…」

「間違いありません。蘇ったダナンさんは今の王都で暮らしています」

「ダナンさんは…息災なのですか?」

「はい。騎馬のカリーとともに」

「ヒヒン!」


 騎馬が頬擦りしてくる。カリーと違って首を落とされたワケではないようで、しっかり顔がある。顔つきからして多分女の子かな?

 カリーの名前に反応したような気がするけど、知り合いかもしれない。優しく顔を撫でてあげると身動いで目を細めてくれた。


「よろしければ、お2人の名前を伺ってもいいですか?」

「名乗りもせず失礼を。私はシオーネと申します。騎馬はルビーです」

「ヒッヒン!」

「ルビー、よろしくね。シオーネさんは女性騎士ですか?」

「そう見えませんか?」


 ダナンさんと同じく全身甲冑なので、見た目だけでは判別できない。けれど、まだ本人は気付いてないのかもしれない。正直に答えよう。


「身体つきが一回り小さいのと、声と仕草が女性的なのでそう思いました」

「あまり言われたことはないですが、嬉しいモノですね」


 ふふっ!と笑うシオーネさん。声の印象からすると、まだ若くして…。


「よければ、明日にでもダナンさんに会いに行きませんか?そうすれば信じて頂けるかと。王都は場所が変わって近くには所在していません」

「そうなのですか!?なにからなにまで信じ難いです…。400年経ったカネルラに興味しかないけれど…」

「説明するより実際に見たほうが早いと思います。ルビーもいいかい?」

「ヒヒン!」


 カリーに比べると小さいけど立派な騎馬だ。懐いてくれたみたいで嬉しい。


「案内はボクに任せてください。責任を持って王都まで連れて行きます」

「よろしくお願い致します」

「ヒン!」

「しかし…貴方の仰る通りだとすると、私達は亡霊であるのに肝が据わっていますね」

「先にダナンさんとカリーに出会っていなければ相当驚いています」

「それはそうですね。納得です」


 かなり落ち着いてきた様子でゆっくり会話する。


「魔法使いの獣人が存在するとは驚きました。時代は大きく変化したのですね」

「いえ。おそらく一般的ではないです。自分で言いたくないんですが、珍しいみたいで」

「そうなると、私とウォルトさんは似た者同士です」

「シオーネさんとボクが?」

「私はカネルラ騎士団唯一の女性騎士です。もの好きな奴だと珍妙な目で見られていました」


 アイリスさんも少し前まで1人だったはず。今では女性騎士も増えたようだけど。


「現代の騎士団には、何名かの女性騎士が所属されているみたいです」

「是非お会いしてみたいですね」


 その後も、少しずつ記憶を取り戻していくシオーネさんと会話して、今日は泊まってもらい明朝王都へ出発することにした。


 来客用の部屋で休んでもらったけれど、直ぐに「な、なんじゃこりゃ~!?」と甲高い声が響いた。甲冑を脱ごうとしたのかもしれない。





 次の日。


「これが今の王都…。素晴らしい景観です…」

「ヒヒン!」


 住み家から休まず駆けてきて、昼前には到着できた。ルビーは仲良く併走して楽しかったのかご機嫌そうだ。


「戦争当時はキシックという町だった場所だそうです」

「聞いたことがあります。確かダナンさんの故郷だったような…」

「その通りです」

「やはり!…よし!いざ現代カネルラ王都へ!」

「ヒヒ~ン!」


 ルビーの手綱を引きながら、王都の街をゆっくり歩く。


「なんと平和な…」

「カネルラが平和なのは、ダナンさんやシオーネさんの尽力のおかげです」

「私など…なにもできていません。戦争が起こったとき新兵でしたし、ルビーも騎馬に成り立てでした。大した戦力になれなかったのです」

「それでもカネルラのタメに闘って頂きました。深く感謝しています」


 直ぐにでも会わせてあげたいので、寄り道せずに王城を目指す。ダナンさんはかなり忙しいとテラさんから聞いているので、おそらく家にはいないはず。


 城に到着して直ぐに門番の騎士に訊いてみる。


「フクーベから来たウォルトと申します。ボバンさんかダナンさんにお会いしたいんですが」

「約束はあるのか?」

「ありません。もし無理であれば、後でこの手紙を渡して頂けませんか?」


 一介の獣人では会えないだろうと予想はしていた。でも、手紙を読んでもらえたら今日か明日には会えると思う。


「わかった。必ず渡しておこ……ちょっと待て…。ウォルトと言ったな…?」

「はい」

「確認してくる。少しだけ待っていてくれ」


 どうしたことか門番は急いで城に向かう。


「どうしたのでしょう?」

「わかりませんが、待ってみましょう」


 10分ほど待っていると、大きな門が開きボバンさんが現れた。


「ウォルト、久しぶりだな」

「ご無沙汰してます。忙しいのに急に訪ねてすみません」

「構わない。ウォルトが訪ねてきたら必ず取り次ぐよう騎士達に伝達してある」


 それで呼びに行ってくれたのか。有り難いけど忙しいのに申し訳ない。


「今日は何用で……もしや、後ろの騎士殿は…」


 さすがボバンさんだ。直ぐにシオーネさんに気付いた。何者であるのかも気付いている風。


「ダナンさんの同僚だったシオーネさんという方です。昨夜たまたま森で遭遇しました。ダナンさんにお会いできないかと思いまして」

「任せろ。直ぐにとり計らう」

「ありがとうございます」


 ボバンさんはシオーネさんの前に移動して、深々と頭を下げる。


「当代のカネルラ騎士団長ボバンと申します。我々の偉大な先人とお見受け致します。以後お見知りおき下さい」

「き、騎士団長!?いやいや!頭を上げて下さい!私はそんな大層な者ではないのです!単なる一兵卒で!シオーネと申します!」

「ヒッヒ~ン!」

「ルビー!うるさい!」


 ルビーはシオーネさんを揶揄うような表情を見せた。ダナンさんとカリーみたいだ。


「少々お待ち下さい。直ぐにダナン殿を呼んで参ります」

「ゆっくりで構いません!本当に!噓ではなく!別に今日でなくても!」


 また一礼してボバンさんは城内に消えた。


「ウォルトさん…。この世に生はないのに寿命が縮む思いです…」

「あるあるですね」


 骨の友人達もよく言う死者の冗句だ。いつも言葉を控えているけど、どうツッコんだら正解なのか。それともツッコまないのが正解なのか。


 のんびり会話しながら待っていると、城の扉が開く。姿を見せたのはダナンさんとカリーだ。ボクと目が合ったカリーは全力で駆けてくる。


「ヒッヒーン!」

「ヒヒン!」

「ヒヒ~ン!?」


 負けじとルビーが嘶いて、カリーに向かって駆ける。カリーは減速してルビーを待つ。


「ヒッヒ~ン!ヒヒ~ン!」

「ブルルル」


 身を寄せあって嬉しそう。やっぱり知り合いだったのか。ダナンさんはゆっくり近付いてきた。


「ウォルト殿。ご無沙汰しております」

「こちらこそご無沙汰しています」


 挨拶を交わすとシオーネさんに向き直った。

 

「シオーネ…。久しぶりだな…。驚いたぞ…」

「ダナンさん…お久しぶりです!」

「お互いに…面影もなくただの甲冑姿になってしまったが」

「正直驚いています。自分が甲冑だと気付いたときは腰が砕けそうになりました!」


 表情があるとしたら、きっと互いに苦笑している。やはりというべきか、シオーネさんは昨夜来客用の部屋に移動したあとに甲冑を脱ごうとして、自分が全身甲冑になっていることに気付いたらしい。理解が追いつかず、しばらく放心状態で固まっていたとのこと。


 なぜ騎士が蘇ると甲冑姿になるんだろう?考えてもボクにはわかりそうにない。


「兎にも角にも嬉しく思う。こうしてまた会えると思わなかった」

「私もです!」

「神の思し召しか…。ウォルト殿のところへお前を導いてくれたのかもしれん」

「私も不思議に感じています」

「ダナン殿。積もる話もあろうかと思います。今日はこのまま家に戻られてはいかがでしょう。国王様も仰られていたではありませんか」

「はい。今日だけはお言葉に甘えさせて頂こうかと思います」

「ナイデル様には私からお伝えしておきます」

「よろしくお願い致します」

「それでは。ウォルト、またな」

「力添えありがとうございました。リスティアとアイリスさんによろしくお伝え下さい」

「伝えておく」


 ボバンさんと別れて、皆でテラさんの家に向かうことに。


「シオーネ。現代の王都はどうだ?」

「あまりに違いすぎて表現しようもありません。ただ…国民が幸せそうで胸が熱くなります」

「そうか…。私も最初驚いた。この空気が400年という長い月日の賜物。ココは間違いなくカネルラだ」

「はい」


 騎士2人は会話しながら肩を並べて前を歩く。ボクは少し後ろをカリーとルビーに挟まれる形で歩く。


『ウォルト。ルビーを正気に戻してくれてありがとう』


 カリーの『念話』だ。


『お礼は必要ないよ。カリー達と全く同じ状況だったんだ。なんの断りもなく戻してしまったんだけど』

『構わないわ。アンデッドのままでいたい騎士と騎馬なんていない』

『ボクもそう思ったんだ。ルビーはカリーの友人なのかい?』

『生前は可愛がってたのよ。まだ騎馬に成り立てでね。ちょっと私の顔が変わってるから驚いて……なんでもないわ…』


 魔法で整形したことも、その理由も知ってるけど照れくさいのかな。聞かなかったことにしよう。


『また会えるなんて縁があるね』

『そうね。貴方のことを気に入ってるみたいよ。馬種にモテる白猫かしら』

『多分違うけど、気に入ってもらえるなら嬉しいことだよ』

「ブルルルル♪」


 そっと顔を寄せてくるルビーは可愛い。モフモフ好きなのかな?優しく顔や首を撫でると喜んでくれる。


『ウォルトの手が温かいのもきっと好かれる理由ね』

『温かさを感じるの?』

『感じる。そういった感覚はなくはない。ただ、生きていた頃に比べるとひどく曖昧だけれど』


 久しぶりにカリーとの会話を楽しんでいると、テラさんの家に到着した。2人には時間をかけてゆっくり話してもらいたい。

 言いたいことや聞きたいことが沢山あると思う。会っていなかった間の溝が少しでも埋まるといいな。

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