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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
37/689

37 技と技

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

「テメェは強くなんかなれねぇよ!身のほど知れや、狐野郎!!」


 何度、同じようなことを言われただろう。


 狐の獣人ということもあって、線も細く特段優れた身体能力も持たない獣人。いわゆる十人並みの能力。それでも、幼い頃から強い獣人に憧れ誰彼構わず闘いを挑む腕白小僧だった。


 喧嘩をしても連戦連敗。同じ獣人といえども力の差はいかんともしがたく、闘えど勝てない日々が続く。

 それでも諦めなかった。とにかく負けるのが嫌いでやられっ放しは気に食わない。四六時中、相手を叩きのめす術を考えていた。


 やがて、身体能力には生まれ持った才能の差があることに気付き、どう鍛えても越えられない壁がある。ならば、他の手段で強くなればいいと考え、武器を扱うことに関して獣人では右に出る者がいないと自負するまでになった。


「卑怯な獣人の使うもんだ」「お前じゃなく武器に負けた」などと、言い訳がましいことを言う輩も少なくなかったが、俺は堂々と武器を使う。

 戦略はあれど卑怯な勝負などしたことはない。負け犬の遠吠えなど相手にせず、俺をバカにしていた輩を完膚なきまでに叩きのめし強さを証明した。


 マードックのような強者が現れると、更なる高みを目指すタメに新たな技の習得と武器の改良が必要だと感じた。世界の技術を学び研鑽する必要があった。

 そうして磨いた技を強者相手に試そうとして、巡り巡って変わった白猫の獣人に出会う。正確に言うと再会した。


 その男は、信じられないことに魔法を操る獣人だった。かつてないほど興奮した。長い獣人の歴史で存在しないと云われている魔法使いに出会ったのだ。そんな男と闘って興奮しない方がどうかしている。

 しかも、背筋が凍りつくような凄まじい魔法を放つ。冒険者の頃に出会った魔導師に感じたことがない驚異を肌で感じ、闘いが始まって直ぐに理解した。この男は同類だと。


 能力に恵まれなかった身体で、血を吐くような修練で会得した魔法(ぶき)を使って、刀という武器に立ち向かってきた。己の磨き上げた武器と魔法(ぶき)のぶつかり合い。


 力と技ではない。技と技の戦い。今までで最高の闘いだった。





 目を開けてガバッと起き上がる。


 周りを見渡すとベッドの上。隣にはポントーが置かれている。鞘からゆっくりポントーを抜き取って刀身を見つめる。ウォルトの血が付いている以外に変わったところはない。


 顔をしかめたまま声を上げた。


「おい、ウォルト!いるんだろ!」


 姿は見えないが匂いはする。近くにいるはずだ。


「なにかありましたか?」


 ウォルトがひょっこり顔を出す。


「さっきの闘い、俺が負けたのは覚えてる。訊きたいことがあるから答えろ」

「ボクは勝ってないですし、起きてすぐに言うことですか?」

「黙れ。最優先事項だ」


 当然だと言わんばかりに答える。仕方ないという面持ちで、ウォルトはベッドの横に置いてある椅子に座った。


「訊きたいことってなんですか?」

「お前にトドメを刺そうと抜刀した時、刀が抜けなかった。お前がなにかしたのか?」


 すんなり抜刀できていれば、間違いなく勝っていた。偶然にしてはあまりに出来過ぎている。

 今まで刀が抜けなかったことなどなかったし、コイツがなにか仕掛けたとしか考えられない。


「『氷結』です」

「『氷結』だと…?」

「刀を凍らせて鞘と固定しました。だからエッゾさんの抜刀は一瞬遅れた」

「なにっ!?魔法を使われた感覚はなかった。いつの間に…」


 魔力が身体に近づけば感知できたはずだ。


「ボクの腹に刀が刺さった時に付与しました。刺さった刀を抜こうと触れて、引き戻される直前に『氷結』を付与しておいたんです。魔力を調節して徐々に冷えるように」

「どういうことだ?」

「居合は鞘に収めた状態から抜刀してました。もしかして…と思ってたんですが」

「居合を繰り出すには、刀を鞘に納めておく必要があることに気付いていたのか」


 ウォルトは頷く。


「ボクにトドメを刺す技も居合だと思っていました。気持ちよく繰り出せる最も自信のある技だと」

「なるほどな。俺は、手元に戻した刀をそうとも知らずに鞘に納めた」


 魔力が微量すぎて気付かなかったのか。それとも油断か。どちらにせよ致命的なミス。


「その後、会話している間に少しずつ剣先から凍り付いたんです。刀に付いたボクの血が」

「血か…。綺麗に払っておくべきだった。いつもなら……いや、慢心か。注意を払っていれば気付いていたかもしれん」


 魔法を操る獣人との闘いに熱中し過ぎて冷静さを欠いていたのは間違いないが、最大の敗因は『俺の方が強い』という慢心。


「苦し紛れの賭けでした。ほんの一瞬でも隙を作れないかという。たまたま成功しただけですし、エッゾさんの優しさにも助けられてます」 

「俺の…優しさだと?」

「エッゾさんが話しかけてくれたから、ボクは傷を押さえて『治癒』で傷を塞ぐことができた。時間的に完治は無理でも痛みは和らぎました。だから最後の一撃に力が込められた」

「聞けば聞くほど己の慢心が腹立たしくなる。偉そうな口を叩いて敵を助けていたのか」


 思わず苦笑する。救いようもない。


「違います」

「違うだと?」

「ボクはエッゾさんの敵じゃない。貴方の磨き上げられた技は本当に脅威でした。けれど、それ以上に手本となるモノ。魔法と刀…武器はそれぞれ違っても、磨くことの重要さは変わりないと教わりました」


 ウォルトの言葉を聞いて腑に落ちた。コイツは俺に似ている。力ではないものをひたすら磨いて強さを手に入れた。闘いを好まないと言うコイツは、強くなどなりたくないかもしれないが。


 互いに磨いたモノを見せ合って、「俺のほうが凄いだろう?光ってるだろう?」と褒め合った気分。当たり前だが負けたことは悔しい。かなり腹立たしくもあるが、過去のどの闘いにもなかった充実感がある。


「お前の魔法は素晴らしい。流れるような詠唱で攻撃から回復までなんでもできる。少なくとも俺はそんな獣人を知らない。人間でもそうはいないだろう」

「ありがとうございます。魔法はボクが使える唯一の武器です。でも、エッゾさんには視えてないはずなのに全部躱されて…。修練が足りないと反省してます…」


 ウォルトはガックリと肩を落とす。


「ククッ!自慢じゃないが、魔法を感じるようになってからは一度もまともに食らったことはない」

「その『感じる』ってどんな感覚か教えてもらっていいですか?」

「陽炎のように空気が歪んで見える。飛んできてもどんな魔法かはわからん。『身体強化』は普通ならオーラを纏ったみたいに見えるらしいが、そういうのは全然わからん」

「へぇ~。ボクには理解不能です。エッゾさんだけの第六感ですね」



 ★



 話し終えたエッゾさんは、直ぐに発つと言うので外で見送ることに。


「俺の申し出を受けてくれたおかげで、心身ともに充実した。感謝する」


 戦闘中の禍々しい表情とは対照的な清々しい表情を浮かべてる。もうちょっと話したかったけど仕方ない。


「ボクもです。闘いたくなかったのに、終わってみるとよかったと思えます。闘いの中でいろんなことを教えてもらいました」


 ボクらは握手して笑い合った。


「街に戻ってマードックと闘うことにする」


 いきなりとんでもないことを言い出した。


「『治癒』で治療しましたけど、まだ動き回るのはオススメできませんよ」

「お前と闘って俺はまた強くなった。今こそ大願成就のとき!このチャンスは逃せん!」


 鼻息荒くエッゾさんは興奮している様子。闘っていたときと同じ凶悪な表情で嗤っている。知らない人が見たら腰を抜かしそうな顔だ。


 チャンスだと言うけど、疲れてるし間違いなくピンチだと思うのはボクだけか?やっぱりこの人は根っからの戦闘狂。説得を諦めて「街に戻るなら」と1つお願いをすることにした。


「そんなことでいいのか?お安い御用だ」

「よろしくお願いします」

「あぁ。早速行くとしよう。また、その内勝負するぞ。次こそ叩きのめしてやる」


 言い残してエッゾさんは住み家を後にした。



 その後エッゾは息をするように道に迷って、森で2泊してフクーベに戻ったのは余談。

読んで頂きありがとうございます。

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