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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
359/708

359 好きにやることに決めた

 ウォルト一行はボリスから訊いた場所に辿り着いて、誰もいない路地裏に入ってみる。


「ココが噂の犯行現場なんですね…。薄暗くて人気のない場所…。空気が澱んでます……」

「カネルラ史上類を見ないエロ剣士による…史上最悪の恐喝が行われたという…」

「シリアスに言っても事実じゃないからね」


 まるで大虐殺でも行われたような口調に、珍しくツッコんでみた。


「冗談はさておき、聞き込みしましょう」

「目撃者がいるかもです!」

「ちょっと待った。試したいことがあるんだ」


 2人も知らない魔法を詠唱する。


感覚強化(センフィル)


「初めて聞く魔法です」

「どんな魔法ですか?」

「『身体強化』みたいに五感を強化できるんだ。今は『嗅覚』に特化して強化してる」

「…はっ!」

「私達の汗臭さが邪魔を…」

「大丈夫。2人の匂いは好きだし邪魔じゃない」


 上の空で喋りながら集中して周囲の匂いを念入りに嗅ぐ。なぜか姉妹は顔を赤らめていた。


「殴られてた人を追えるかもしれない」

「えっ!?」

「なにかわかったんですか?」

「微かに血の匂いがする。オーレンは優しいから、反撃しても相手を必要以上に傷付けてないと思う。だから、血を流してたのはオーレンが見たという殴られてた人だ」

「なるほど」

「隙を見て逃げたって言ってましたね!」

「追跡してみよう」


 鼻を鳴らしながら男の足跡を追う。


「結構派手にやられたのかもしれない。小さいけど所々に血痕がある」

「本当だ!」

「でも、これ以上追うのは難しい。どうしようか…」


 匂いを追っていくと結局大通りに出てしまった。追跡者を撒くタメか、人の多い場所では乱暴を働けないと踏んだのかもしれない。残された微かな血痕も踏み荒らされてるし、匂いが大渋滞して頭が痛くなってきた。


「やっぱり聞き込みですね」

「片っ端から行きましょう!」

「…そうだ。闇雲に探すより、ちょっとボクの伝手を頼ってみていいかな?」


 駄目元で訊きに行ってみよう。ココから大して時間はかからない。



 ★



「久しぶりだね。急になんだい?」

「姉さんにお願いがあってきたんだ」

「珍しいじゃないか」


 ウォルトと一緒に訪ねたのは、黒猫の獣人女性。アニカは誰なのか直ぐにわかった。


「後ろの2人はアニカとウイカかい?チャチャじゃないね?」

「初めまして。ウイカです」

「アニカです!キャロルさんですよね!」

「そうさ。アンタ達のことはサマラから聞いてるよ。アタイのことも聞いてるだろう?」

「「はい!よろしくお願いします!」」


 私達は初対面。キャロルさんは地味な服装に身を包んでるのに、人を惹きつける色気を放ってる。もの凄くセクシーで美人な女性。お姉ちゃんとは違うタイプだけど、甲乙付けがたいね!


「マードックから、姉さんはフクーベの情報に詳しいって聞いてたんだ。もしかしてと思って」

「どんな情報が欲しいんだい?」


 ウォルトさんは事情を説明する。


「なるほどね。ちょっと時間をもらうよ」

「直ぐに調べてくれるの?」

「アンタの大事な弟子のことだ。早い方がいいだろ」

「ありがとう」

「「ありがとうございます!」」

「礼なんかいらないよ。水くさいねぇ。旦那さんに休みをもらってくるから待ってな」


 キャロルさんは職場に戻った。歩く姿も様になってる。


「キャロルさんは凄い美人ですね」

「姉御肌でカッコいいです!」

「そうだね。でも、なにより姉さんは優しいんだ」


 しばらく待っていると、キャロルさんが戻ってきた。


「さぁ、行こうか」

「どこへ?」

「アタイの家だよ。長い休憩をもらったから、待ってる間ちょいと話そうじゃないか。直ぐそこさ」

「調べるのは?」

「もう頼んだ。あとは待つだけだ」


 どういう意味なのかわからないけど、キャロルさんの家に移動して直ぐにウォルトさんが頼まれる。


「ちょっと早いけど晩ご飯を頼みたいねぇ。腹ごしらえは必要だろうし、食べ終わる頃に調べ終わるさ」

「わかった。任せてくれ」

「食材は勝手に使いな。大したモンはないけどね」


 ウキウキしながらウォルトさんは台所に消える。キャロルさんは私達を居間に案内してくれた。


「さて、アタイはアンタ達と話してみたかったのさ。サマラから同盟のことは聞いてる。鈍過ぎる弟分に不満が溜まってないかい?サマラは元気だから心配いらないけどねぇ」

「大丈夫です!…あっ!ウォルトさんに聞こえますかね?」

「大丈夫さ。昔から料理してるときはなにも耳に入らない。言いたいことがあったら今の内に吐き出しときな。時間は短いけどね」


 私とお姉ちゃんは特に不満がないので、キャロルさんに会えたら訊いてみたかったことを訊いた。

 昔のことから今のことまで笑顔で答えてくれる。頼りになる姉のようでもの凄く話しやすい。サマラさんが長女だって言うのも納得!


「サマラはアタイまで同盟に誘ってきてねぇ」

「私も加入してほしいです」

「大歓迎です!」

「お気楽だねぇ。聞いてたとおりかい。ライバルを増やしていいことなんてないだろうに」

「この人になら負けても納得できると思える人には加入してほしいです」

「そして、結果勝てばいいんです!」

「はははっ。アンタらは大したモンだよ。サマラが気に入るワケだ」

「「どうですか?」」

「一応考えとくよ」


 盛り上がっていると、ウォルトさんが食事を運んでくる。


「姉さん。使ってない鍋も多いね。もっと料理したほうがいいよ。せっかく美人なのに」

「余計なお世話だよ!美人なんかじゃないし、見た目は関係ないだろ!」

「もったいないお化けがでるよ?」

「そんなモンいやしないよ!」


 私達が笑ってる間に料理も出揃って皆で頂く。


「相変わらず美味いねぇ」

「ありがとう」

「けど、ちょっと作りすぎだろ。いくらなんでも量が多い」

「私達が食べます」

「ご心配なく!」


 宣言通り綺麗に平らげると、誰かが訪ねてきた。キャロルさんが対応に向かい、その間に3人で後片づけをする。居間に戻るとキャロルさんから情報が。


「アンタ達の知りたがってたことがわかったよ。賭博(ギャンブル)絡みの揉め事みたいだねぇ」

「ギャンブル?」

「近くにレース場があったろう?調教師と何人かの男が八百長で揉めてたみたいだ。会話を聞いてた通行人がいて、傷だらけの調教師が治癒師のところに来たんだとさ」

「オーレンは現場に鉢合わせたってことか。その調教師が誰なのかわかる?」

「もちろんさ」


 キャロルさんは調教師の情報が書かれた紙をくれる。この短時間で凄い。私達の聞き込みだけでは掴めたとしてもかなり時間がかかったはず。


「姉さん、本当にありがとう。恩に着るよ」

「「ありがとうございます!」」

「このくらいで大袈裟なんだよ。お礼には美味い酒と飯がいいね。あと、知恵の輪の新作も」

「わかった。楽しみにしててくれ」


 キャロルさんはさすがだぁ。お礼を先に伝えておけばウォルトさんは助かるし、それ以上にお礼されることもない。


「その時は私達も一緒に頂きたいです」

「楽しみにしてます!」


 キャロルさんは微笑んでくれた。


「それでいいよ。それと、ウォルト」

「なに?」

「巷で噂のサバトって魔導師の正体はアンタかい?」

「そうだけど、わざわざ調べたの?」

「そんな必要ないんだよ!なぁ、アニカ、ウイカ。そうだろう?」


 笑顔で頷くと、ウォルトさんは『ニャんでバレたんだろう?』とか言いそうな顔で首を傾げた。可愛いけども!ミーナさんの言葉通りニブチンなんだから!


「あと、やり過ぎちゃいけないよ」



 ★



 ウォルトは幾分か冷静さを取り戻した。


 キャロル姉さんはわかってる。「絶対に手を出すな」なんて獣人に言っても逆効果だ。基本的に理性より感情で行動する獣人は、命令されて黙って従ったりしない。お前は何様のつもりだ?と、逆に聞く気が失せる。どうするかは自分で決める。


 フクーベの街はすっかり夜の装いに変化していた。


 コンコン…コンコンコン…とドアを何度ノックしても反応がない。


「いませんかぁ~。開けないならノブを壊しますよぉ~」


『筋力強化』でノブを無理やり回す。バキバキ!っと見事に壊れた。中に入ると人の気配がする。真っ暗だけど体臭と微かな息遣いが聞こえる。


「ロイさんはいますか?話を聞きたいんですが」

「お前は……誰だ…?」


 暗闇の中、男が姿を見せた。


「ボクは今日貴方が殴られているときに通りかかった若者の友達です」

「なんの用だ…?」

「時間がないので単刀直入に聞きます」


 一瞬で懐に入り込み胸倉を掴む。夜目は効くので姿は丸見え。


「うぅっ…!」

「お前が逃げたあと、ボクの友達は衛兵に捕まった。なぜ殴られていたのか証言してくれるか?」

「こ…とわる…」

「だったら、お前が殴られた男達の居場所を教えろ」

「し…らない…」

「そうか。思い出させてやる…」


 爪を出して皮1枚で顔面を切り裂く。鮮血が飛び散った。


「ぎゃあぁぁっ!」

「思い出したか?いくら叫んでも誰もこないぞ」


 声が外に漏れないよう『沈黙』を展開している。


「た、助けてくれっ!」

「何遍も言わせるな。ソイツらはどこにいる?」


 逆方向に顔を切り裂く。


「ぐあぁぁっ!話すっ!話すからっ!」

「次は首だ。時間がないと言ってるだろう」

「メランコリーって店の2階っ!この時間ならそこにいるはずだっ!賭博のノミをやってる奴らだ!」

「名前は?」

「言う!言うから待ってくれっ!」


 白状したロイからそっと手を離した。すぐさま土下座をする。


「許してくれ!俺には…田舎に病気の家族がいて金に困ってる!だから八百長をした!でも…」

「失敗したんだろう?」

「え…」

「損をした奴らに問い詰められて殴られた。違うか?」

「そうだ…。呼び出されて「負け額をテメェが払え」って…」

「ドッグレースは日常的に八百長が行われてる。ノミ屋を儲けさせるのに失敗しても悪いことか?」


 ボクの理屈では、特定の者に儲けさせたら罪だけどそうでなければ普通のレース。いかにハウンドドッグを強化させても、必ず勝つとは限らないから面白いんだ。勝敗の分かりきったギャンブルなんてつまらない。


「お前は殴られて逃げ出しただけだろう?ボクは友達を陥れた奴を探してる。証言してくれるなら助かるが強要はしない。教えてくれて感謝する」

「アンタは…それだけのタメに来たのか?」

「時間が惜しい。噓だったら…」

「嘘じゃない!」

「そうか。ノブを壊して悪かった」


 男の顔を『治癒』で回復させて、ドアノブは『同化接着』で応急処置をしておく。


「では、ありがとうございました」

「あ、あぁ…」



 待ち合わせ場所でウイカとアニカが待っていてくれた。


「どうでしたか?」

「騙した奴らの居場所を教えてくれたよ」

「行きましょう!」


 ウイカとアニカは「私達も行きます!」と言ってくれたけど、「顔を覚えられたらよくない」と伝えて渋々待ってもらってた。

 ボクは魔法で変装できるし、フクーベの住人じゃないから問題ないけれど、街に住む2人が後々逆恨みされちゃいけない。2人を変装させることもできるけど、念には念を入れた。


 今のボクはテムズさんの若い頃だ。次の目的地でも待機してもらおう。

 



 教えてもらった店の2階に着くと、髪を剃りあげた厳つい人間の男が入口を守るように立っている。見るからに用心棒といった雰囲気。


「…なんだお前?」

「ココは違法な賭場ですよね?トライさんとデントさん、あとホセさんはいますか?」

「知らねぇな。帰れ」

「いないなら、居場所を教えてもらいたいんですが」


 厳つい男はボキボキと指を鳴らす。


「優男が。ションベンちびる前にさっさと帰れ。ふさふさなのも腹立つぜ」


 今の台詞をテムズさんが聞いたら喜ぶかな?


「残念ですが、貴方みたいにひ弱そうな人には負けませんよ」

「…面白いこと言うじゃねぇか。若造が…痛い目を見ねぇとわからねぇみたいだな!」


 振りかぶった大きな拳が迫るが、無詠唱で魔法を操る。


反衝撃(リフレク)


 拳がボクの顔面を捉えた瞬間…。


「ぶっはぁ!」


 厳つい男の顔面が変形すると同時に、後ろに吹き飛ばされて勢いよくドアをぶち破る。

『反衝撃』は、『反射』の応用として研究しながら習得した魔法。魔法ではなく物理攻撃の力をそのままお返しする。

 住み家に付与されているのも、おそらくこの魔法に似た魔法だ。正確に再現できてるかは不明。

 今のは過剰防衛じゃない。相手が殴ってきた力と全く同じ力で反撃しているから、正しく正当防衛。


 破れたドアから中に入って見渡すと、まぁまぁの人だかり。男も女も合わせて軽く20人はいる。違法賭博中って雰囲気だな。


「この中に、トライ、デント、ホセはいるか?」


 誰も答えない。ずっと見つめてくるだけだ。


「誰も聞こえてないのか?」


 賭博の最中なので、あちこちのテーブルにカードや賽子とともに現金が置かれている。札束から硬貨まで。いかにも賭博場。

 賭博場は国が公認している場所以外は全て違法。大衆娯楽とはいえ、揉め事も多く国の監視下に置くのも容易じゃない。規模は違っても街には1箇所が基本。ココは当然違法だ。


 手を翳して『炎』を操り現金を燃やす。


「なんだ?!金に火が?!」

「消せっ!早くっ!」

「早く答えないと、金を全部燃やすぞ」

「お前がやったのか!?あぁん!」


 問いには答えない。


「次いくか」


 別のテーブルの金を燃やす。


「コイツ…!マジだっ…!」

「水持って来い!」

「いないのか?じゃあ、全部燃やしてやる」

「まてコラァ!」


 男が3人近付いてくる。


「お前が探してるのは俺らだ」

「そうか。頼みたいことがあってきた」

「なんだと?」

「友達が貴方達のせいで衛兵に捕まった。恐喝は誤解だと証言してくれるな?」

「お前…あのクソ生意気なガキのツレか?無理だなぁ。俺らを脅してサイフを奪ったのはマジだからなぁ。くくっ!」

「証言してもらえないんだな?」

「証言もクソもないだろ?事実だからな」

「優しくお願いしても無駄か」

「で、どうすんだよ?兄ちゃん」

「気が済むようにやらせてもらう」


 柄にもなく何度か我慢した…。もういいだろう。

 


 ★



 私とアニカは、ウォルトさんに言われて静かに離れた場所で待っている。


「遅いね」

「ウォルトさんに限ってなにかあるとは思わないけど」


 心配していたところで、若い村長に変装したウォルトさんと3人の男達が階段を下りてきた。男達の顔からは生気が感じられない。


『ウイカ、アニカ。少し離れて付いてきてくれるかい?』


 頭の中に『念話』の声が響いて、私達はウォルトさんの後を追う。この魔法は地味に凄いと思う。お姉ちゃんと一緒に絶賛修練中だけど、かなり難しくて発動すらできてない。


 詰所に到着すると、男達は直ぐに中に駆け込んで懇願した。


「俺達を捕まえてくれ!洗いざらい話すから!」

「頼むっ!小僧を騙したのは俺達なんだ!」

「もう嫌だっ!気が狂っちまう!助けろぉぉ!」

「な、なんだお前らは!?大人しくしろっ!」


 奥の部屋に連行されていく。


「ウォルトさん。アイツらになにしたんですか?」

「強いて言えば成敗かな?単に痛めつけては回復させることを繰り返しただけだよ。真に悔い改めるまで。獣人流で徹底的にね」

「めちゃくちゃ焦ってますね。結構激しく成敗したんですか?」

「ボクが師匠にやられたことに比べたら軽いよ。あと、オーレンの気持ちを考えたらまだ足りないくらいだ」

「オーレンは意外に快適に暮らしてたりするかもです!」

「さすがにないと思うよ、早く釈放されるといいけど」


 …と、さっきウォルトさんに凄まれた衛兵が出てきて話しかけてきた。


「お前…ウォルトか?」

「はい。貴方に言っておきたいことが」

「なんだ…?」

「メランコリーという店の2階が違法な賭場になってます。今なら顧客が眠っていて現場を押さえられると思いますが、是非行ってみてはどうでしょう」

「わかった…。情報提供、感謝する」

「情報を頂いたので。気が済みます」


 その後しばらく待って、無罪放免で釈放されたオーレンと共に詰所をあとにした。

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