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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
356/707

356 一家を歓迎しよう

 外は晴天。時間はまだ昼前。ウォルトは森の住み家で料理作りに勤しんでいた。


 沢山の料理を作り手際よく『保存』していく。今日はチャチャの家族が一家総出で遊びに来てくれる予定。「皆に昼ご飯を作ってほしい」とお願いされて、歓迎する準備を整えている。


「よし。準備はできた。あとは来るのを待つだけだ」


 台所のテーブル一杯に並べた料理に、結界魔法陣を張って虫や埃の混入を防ぐ。充実感を感じながらゆっくりお茶をすすっていると、玄関のドアがノックされる。


 この叩き方はチャチャだ。人それぞれノックの仕方にも特徴がある。リズムや音の大きさもそれぞれ違うから、何度も来てくれる友達は判別できるようになった。


「「「ウォルト兄ちゃ~ん!遊びに来たよ~!」」」


 カズ達の元気な声が聞こえた。笑顔で出迎えに向かうと、チャチャの後ろに皆が並んでいる。 


「約束通り遊びに来たよ」

「待ってたよ」


 1人だけ知らない男性がいる。シュッとして細身だけど、鍛えられて俊敏性が高そうな身体つきの猿の獣人。直ぐに父親のダイゴさんだとわかった。


「ダイゴさん。初めまして。ウォルトといいます」

「初めまして。チャチャの父のダイゴです。タカン病の時は本当に助かりました。お礼に伺うのが遅くなってしまって申し訳ありません。その節は本当にありがとうございました」


 人間のように丁寧なお礼を述べてくれる。


「気にしないで下さい。こんな遠くまでお疲れ様でした。あと、ボクは20歳を過ぎたばかりの若造なので、普通に話してもらえると嬉しいです。中へどうぞ」

「それなら……よろしくな、ウォルト」

「私もそうした方がいいかしら?」

「ナナさんもお願いします」

「兄ちゃん!歩いたら腹減ったよ~!」

「昼飯はできてる?」

「うまいめし!」

「直ぐに準備するから少しだけ待ってて」

「「「お邪魔します!」」」


 居間に通してゆっくり花茶を飲んでもらう。カズ達には甘い果実水(ジュース)を用意してある。ララちゃんにはスプーンで飲んでもらおう。軽く魔法で冷やして差し出した。

 

「コレは…美味いな…」

「本当ね。もの凄く美味しいわ」

「冷たくて美味しいよ!」

「サッパリして甘い!」

「あまうま!」

「サンはなんでも略すんじゃないの。ちゃんとしなさい」

「こわあね!」

「あとで説教だからね」


 チャチャも手伝ってくれて昼食の準備をする。台所に作り置いていた料理を見て驚いてくれる。


「凄いね…。こんなに沢山作るの大変だったんじゃない?」

「全然だよ。喜んでもらえるといいんだけど」

「全く心配してないよ」

 

 居間のテーブルに並べ終えた。


「どうぞ召し上がって下さい。口に合うといいんですが。お代わりもあります」

「「「いただきます!」」」


 カズ達を筆頭にダイゴさん達も食べ始めた。


「やっぱり兄ちゃんの飯はうめぇ~!」

「どれも同じくらいうまい!すげぇ!」

「めちゃうま!」

「信じられんくらい美味い…。こんな料理を獣人の男が作れるのか…」

「あとで作り方を教えてもらおうかしら」

「きゃは~!きゃはっ!むぅ~!」

「ララも凄い勢いで飲むわね。こんなの初めてよ」


 ララちゃんには、ジニアス様達に作った栄養満点スープを森の素材で代用して作ってみた。喜んでくれてるみたいでよかった。美味しそうに食べてもらえて嬉しい。それだけで大満足。


「兄ちゃんは食べないの?」

「何度も味見してお腹いっぱいなんだ。お茶だけで充分だよ」

「ウォルトは料理人なのか?」

「いえ。料理は趣味です」

「もったいない技術だ。商売に活かせる」

「獣人に料理人は難しいと思います」

「それはそうか。毛の問題もあるからな。普段はなにをしてるんだ?」

「仕事をしていないので、基本的に自給自足です。畑仕事をして、薬を作ったり生地を織ったりしてます。あと簡単な修理も請け負ってます」


 ダイゴさん達には恥ずかしくて言えないけど、狩りもしている。


「素材を売って生計を立ててるのか?」

「売ってるというより物々交換です。多少は報酬も受け取ってますが」

「大変そうだな」

「好きでやってます。独り身だからできることで、家族がいるほうが大変だと思います」

「もし番ができたりしたら働くのか?」

「家族を養えなければ間違いなく働きます」

「まぁ、そうだよな」


 ナナさんがふふっと笑う。なにかおかしなこと言ったかな?会話しながらも皆はどんどん平らげていく。ボクの予想以上に食べるなぁ。やっぱり育ち盛りの食欲は凄い。


「兄ちゃんが食い物屋をやるなら、俺は毎日食いに行くよ!」

「俺も!狩りで獲った肉を持っていく!」

「たべるせんもん!」

「きゃはっ!」

「ありがとう。そんなことがあればボクも来てほしいよ」


 その後、何回もお代わりしてくれて満足してくれたみたいだ。


「よ~し!腹も膨れたし兄ちゃんの家を探検だ!」

「すごいモノがありそう!」

「いろいろもらう!」

「いいけど、面白くないと思うよ」

「俺達も見ていいか?」

「もちろんです」


 来客部屋とボクの部屋には特になにもないので、調合室に案内する。


「すっげ~!薬の山だ!」

「くさい!」

「サンの鼻は敏感だね」

「凄いな…。全部薬と素材なのか。薬学の本まで…。見てるだけで頭が痛くなりそうだ」

「傷薬も作り置きがあります。よければ持って帰って下さい」

「ウォルトの作った傷薬はよく効く。売れば高いだろうに」

「自家製ですし、対価にしてるくらいで大層なモノじゃないです。置くところに困ってきたので、少し貰ってもらえると助かります」


 いつもお世話になっているから、ナバロさんに対価として多めに渡したいけれど、絶対必要以上には貰ってくれない。商売に真摯なことを知ってるし、そんな人だから長く付き合っていける。


「幾つかもらうよ」

「兄ちゃん!狩りに行って膝をすりむいたんだ!使ってみていい?」

「もちろん」


 ニイヤの擦り傷に塗ってあげると、綺麗に回復する。


「もう痛くない!兄ちゃんは天才だぁ!」

「大袈裟だよ。ニイヤ達も持っていっていいからね。香水なんかもあるので、ナナさんもよければ」

「本当ね。香水も魅力的だけど、それよりこの生地は?」


 綺麗に折り畳まれている生地に目をやる。


「ボクが織った生地です。調子に乗って沢山織ってしまって」

「どれも綺麗だわ。チャチャのアオサイも作ってくれたんだものね。もしよければ、香水より生地を分けてもらえないかしら?子供達の服を作りたいの」

「使ってもらえると嬉しいです」


 ダイゴさんやナナさんは真剣な顔で選んでる。ナナさんの腕に抱かれて、指を咥えるララちゃんと目が合った。

 目がクリッとして可愛いなぁ。ゆっくり顔を寄せてヒゲと耳を動かすと「きゃはっ!」と笑ってくれた。彼女はコレが好きなのかも。


「兄ちゃんもララを抱っこしてみたら?」

「う~ん…。ボクが赤ちゃんを抱っこしていいのかな…」


 実は赤ちゃんを抱いたことがない。子供は好きなんだけど、力を入れすぎてしまいそうで怖いから。


「ふふっ。ダメな理由がないわ。もう首も座ってるしどうぞ」


 ララちゃんを受け取ると、小さくて温かくて軽くって柔らかい。顔を触ってくる手もプニプニしてて、とても可愛い女の子。チャチャと違って尻尾はない…のかな?これから成長するのかも。


「抱くってこんな感じでいいかな?」

「なかなか様になってるよ」


 そっと頭を撫でると、ニパッと笑ってくれた。皆は部屋に興味津々な様子でボクを気にしていないので、こっそり『幻視』でララちゃんの目の前に小さな花を映し出す。ポンポンポンと咲かせてみる。


「きゃはっ!?きゃっ!きゃっ!」


 魔法は視えるみたいだ。花に手を伸ばす姿が可愛くて仕方ない。もしかして父性というヤツでは?


「兄ちゃん…?」


 チャチャが気付いてジト目で見てくる。

ちょっと軽はずみな行動だったと苦笑い。魔法の花を消滅させるとララちゃんは「むぅ…」と若干不満げ。ゴメンね。


 カズ達がボクの前に来る。


「兄ちゃん。俺達は薬とかいらないんだけど、なにかない?」

「カズ達にはあげたいモノがあるんだ。隣の部屋に来てくれる?」

「もらう!」

「まだ早いでしょ」


 チャチャのツッコミはいつも的確。ララちゃんを抱いたままカズ達とチャチャを隣の来客部屋に連れて行く。


「引き出しを開けてみて」

「ここ?」


 カズが衣装箪笥の小さな引き出しを開けると…。


「…弓用の手袋だ!カッコいい!」

「ホントだ!」

「ろくぶて!」

「ユガケを3人分作ってみたんだ」


 ユガケは、薬指と小指の部分が切り取られたような手袋で矢を射る時に使う。軽くて丈夫、さらによく伸びるバイホーンという魔物の皮を鞣して作ってみた。気に入ってくれるといいけど。


「ありがとう!猿の影が刺繍されてて、めちゃくちゃカッコいい!」

「俺達、真面目に弓の練習してるんだ!やる気が出るよ!」

「ねぇちゃんをたおす!」

「アンタはそんな目標があったの…?」

「あははは。チャチャは強いと思うよ。使ってくれると嬉しい。手が大きくなってもサイズはすぐ直せるから」

「「「ありがとう!」」」


 カズ達はユガケを握りしめてダイゴさん達の元に戻った。喜んでくれたみたいだ。


「いつも弟達のためにありがとう」

「直ぐに作れるからね。偶然バイホーンと遭遇したんだ」

「私のも作ってほしいな」

「いいよ。どんなのがいい?」

「兄ちゃんに任せる」

「うぅ~!う~っあっ…!」


 急にララちゃんがぐずりだす。どうしたんだろう?


「ララもなにか欲しくなったんじゃないかな。あげられない?」

「なにかあったかな。…アレならどうかな?ララちゃんを預けていい?」

「いいよ」


 ちょっと恥ずかしいけど、赤ちゃんにあげられるモノはコレくらいしかない。自分の部屋から自作のぬいぐるみを持ってきた。余った生地を使って遊びで作ったモノだけど。


「それ…もしかして兄ちゃん?」

「そうなんだ。気に入ってくれるとは思えないんだけど」


 自分に似せたぬいぐるみを作ってみた。雨が続くとき、晴れを祈願して軒先にぶら下げるカネルラ伝統の『雨よけボウズ』の代わりに吊すつもりだった。


「きゃっは!きゃっ♪」

「兄ちゃんの予想に反して凄く嬉しそう」

「ぬいぐるみが好きなのかもしれないね」


 ララちゃんに渡すとギュッと抱きしめてる。ぬいぐるみならなんでも嬉しいんだな。嚙んだりしても破れないように『堅牢』をかけておこう。


 …と、ダイゴさんやカズ達が部屋に来た。


「コイツらにユガケなんて立派なモノをありがとう。俺が使ってるのよりいい」

「弓の練習の助けになればと思ったんです」

「兄ちゃん!俺達の弓の腕を見てくれよ!」

「上手くなったんだ!」

「それは見たいな。外で見せてくれる?」

「よし!やろう!」

「「おう!」」


 カズ達は意気揚々と外へ飛び出す。


「うぅ~!!うぁっ!」

「はいはい。ララが兄ちゃんに抱っこしてほしいってさ」

「ララちゃん、ボクでいいの?」

「きゃはっ!」


 う~む…。可愛い過ぎる。ぬいぐるみといい、実は無類の猫好きとか……ないかな。外に出ると、手が塞がってるボクの代わりにチャチャが的を設置してくれた。


「もういいよ」

「兄ちゃん!見てて!」

「うん」


 その的にカズ達が矢を放つと、ド真ん中とはいかなくても全て的を捉える。距離もあるのに凄い。


「どうかな!」

「凄いよ。ボクは狩りが下手だから尊敬する。そんなに当たらない」

「ウォルトは狩りが苦手なのか。コツを教えようか」

「「「俺達も手伝う!」」」

「是非お願いします」


 ナナさんにララちゃんを預けると、駄々をこねる。


「やぁぁ~!やっ!」

「ララ。我が儘はダメよ」

「うぅ~…!」

「またあとでね」


 頭を撫でると落ち着いてくれた。本当に可愛いなぁ。その後、ダイゴさん達から弓のコツを教えてもらう。


「姿勢もいいし、基本はできてる。あとは狙いと感覚だけ。もう少し照準の目線は上に。視る感覚と構える指の感覚が少しズレてるように見えるが修正できる」

「こうですか?」

「そうだ。あと、獲物全体を狙うんじゃなくて、目だけとか1点を狙う。中心でもいい。ピンポイントに狙えば、外れてもどこかに当たる」

「弦を引くとき脇を締めるといいよ!」

「指を離すときもブレないようにそっと離すんだ!」

「あとはかん!」

「皆も教えてくれてありがとう」



 ★



 弓で盛り上がる男性陣を離れて見守るナナ。


 ダイゴとウォルトは上手く話せているようでよかった。さすがに大人だったわね。ウォルトの器用さに驚いたからかもしれないけど。


「チャチャ、残念ね」

「なにが?」

「いつもはチャチャが弓を教えてるんでしょ?」

「そうだけど、楽しそうだし今日は譲ってあげるよ。皆は狩りくらいしか兄ちゃんに勝てないからね」


 自慢気なチャチャは微笑ましい。


「実際にココに来てそう思う。器用すぎる獣人って言ってた意味がわかるわ」

「きっとまだ驚くと思うよ」

「噓ばっかり。他になにがあるって言うの?」

「今はまだ内緒かな」


 これ以上驚くことがあるとは思えない。


「ちょっと待ってね」


 チャチャは流れるような動きで弓を構え、なにもない場所に向かって矢を射る。動作があまりに自然すぎて、私は驚く間もなかった。



 ★



「ギャン!」


 急に草むらから鳴き声が聞こえた。


 ボクらが揃って様子を見にいくと、1頭のフォレストウルフが首を射抜かれて事切れている。

 弓の修練に集中していて気配に気付かなかった魔物に、遠距離で気付いて一発で射抜いた腕は見事としか言えない。


「我が娘ながら溜息が出そうだ」

「本当に凄いですね」

「やるな!姉ちゃん!」

「ウォルト兄ちゃん!姉ちゃんとはケンカしない方がいいよ!」

「らんぼうさる!」

「アンタ達は…お姉ちゃんをなんだと思ってるの?」


 いつの間にかチャチャが傍にいた。


「チャチャは優しいからケンカになったりしないよ」

「だまされてる!おにばば!」

「サン!アンタは~!」


 追いかけ回すチャチャと必死に逃げるサン。結局捕まって拳骨を食らった。


 チャチャが仕留めたフォレストウルフは、晩ご飯のおかずにすることに決めて、こっそり『保存』しておく。

 夕方までは時間があるのでカズ達と遊ぶことに。弓を教えてもらったお礼に、孤児院の子供達に好評な手品を見てもらおう。魔法を使わない手品ならチャチャにも怒られないはず。

 訊くと「見たい!」と言ってくれた。カードや紐の他にも小道具は揃ってるので、見せるものには事欠かない。


「楽しんでもらえるように頑張るよ」


 早速披露する。


「すっげぇ~!!」

「どうなってるのか全然わからない!!」

「いかさまねこ!」

「たまげるな…。手品師顔負けだ。これだけで食っていけるぞ…」

「そうね…。チャチャの言う通りなのかもしれないわ…」

「手品は私も初めて見た。なんでもできるのは知ってるけど、毎回驚かされるよ」


 手品を見せた後は、カズ達が競走したいというので受けて立つことに。


「用意……どん!」


 更地と住み家の周囲を利用して作ったコースを駆ける。ハンデをあげていい勝負になるように調整してみた。


「兄ちゃんは速い~!」

「カズ達も速い。でも…」

「「「負けないぞ!」」」

「ボクもだ」


 疲れるまで遊んで、皆で楽しく晩ご飯を食べてから帰る予定だったけれど…。


「やぁ~!やっ!」


 ララちゃんがローブを握りしめて離れてくれない。ボクは嬉しいけどダイゴさん達は困り顔。

 

「ララ。また兄ちゃんには会えるから」

「やぁ!」

「我が儘言うと、もう会わせないよ」

「むぅ~!」


 まだ赤子なのに、チャチャが言ってることを理解しているような反応。賢い子なのかもしれない。リスティアも赤子の時の記憶があると言っていたし充分あり得る。


「ボクが会いに行くから。それまでいい子にしててね」

「うぅ~っ!」

「…そうだ!」


 くるりと皆に背を向けて、ララちゃんだけに魔法の花畑の景色を見せて囁く。


「ふぁぁ…」

「いい子にしてたらまた見せてあげる。約束するよ」

「きゃはっ!」


 笑顔になったところで振り返ってナナさんに抱っこしてもらう。


 チャチャ、ゴメンて…。そんな目で見ないで。


「今日1日世話になった。ウチにも遊びに来てほしい。いつでも歓迎する」

「はい。伺います」

「兄ちゃん、ありがとう!手袋も大事に使う!」

「俺も!次は駆けっこも勝つ!」

「うまいめし!しょもう!」

「料理も教えてくれてありがとう。また来てね」

「私はまた直ぐに来るよ」

「待ってるよ」


 皆の姿が見えなくなるまで見送って、楽しい顔合わせは終わった。もてなせてボクは満足だ。



 ★



 その日の夜更け。


「そろそろ寝ようかな」

「チャチャ、ちょっといいか?」


 部屋に戻ろうとするチャチャを、ダイゴが呼び止めた。


「なに?」

「明日から…ウォルトの住み家に行くときは門限は気にしなくていい。そうじゃなくても、泊まりたいときは遠慮なく言え」

「…ありがとう。心配かけるようなことはしないから」

「心配してない」

「兄ちゃんを信用してくれたの?」

「俺は元々信用してる」

「ふ~ん。そうなんだね」


 チャチャは嬉しそうに部屋へと向かった。隣でお酌してくれるナナ。


「本当によかったの?」

「今まではチャチャから聞いた話だけだったろ。直接会ってわかった。優しくて賢い獣人だ。強くはないかもしれないが、間違ってもチャチャに悪さをするような男じゃない」

「前から言ってるけど、私もそう思う。想像以上に器用だったわね」

「あんなに器用な獣人がいると思わなかった。猿の獣人にもいない。金を稼ごうと思ったら困ることはない才能だ。それなのに、苦手なことを隠そうとしない素直さもある」


 働こうと思えばウォルトはなんでもできる。まさになんでも屋になれるだろう。同じ獣人だからこそアイツの凄さがよくわかる。


「チャチャが言うにはもっと器用らしいわよ」

「いくらなんでも盛ってる。あれ以上なにができるってんだ?ありえないだろ。今でも充分信じ難いんだ」

「私もそう思うけど、チャチャが噓を吐いてるとも思えないのよね」

「ふぅ……」

「ふふっ。まぁ、惚れた男は格好よく見えるから」

「はっきり言うなよ」


 チャチャはいい顔をしていた。よほどウォルトを慕ってる。親父としては複雑だ。


「いい加減、娘離れしたら?教えてくれるだけチャチャは優しい」

「うるせい!まだ早い!」

「成人してるっていうのに、ホント頑固親父ね」


 コレが俺だから仕方ない。


「けど…チャチャは男を見る目があると思うぞ」

「ふふっ」


 ナナは微笑んで酒を注いでくれた。

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