表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフの魔導師  作者: 鶴源
351/706

351 なんでも修練が大事

「はぁっ!」

「うりゃぁ!」

「うん。いい感じで展開できてるね」


 森の更地で魔法の修練に勤しむのは、ウォルトとウイカ、アニカ姉妹。オーレンは別パーティーの依頼で合同クエストに参加していて今日は不在。夜に合流することになっている。

 最近、姉妹は『魔法障壁』の習得に力を入れていて、修練を重ねる2人は拙いながらも薄い障壁を展開できるようになった。あとは修練あるのみ。


 そんな姉妹に対して、ウォルトは障壁で防げるか防げないかという絶妙な威力の魔法を放つ。少しでも気を抜くとまともに食らってしまうという緊張感の中、2人は見事に防ぎきるから大したモノ。たとえ防げなくとも直ぐに霧散させるので安全。

『魔法障壁』を自在に操れるようになると、『強化盾』も覚えやすい。この修練をしていると師匠を思い出す。

 

『はははっ!!燃えカスになれ!雑魚が!』

『熱っつぅ~!』

『だったら涼しくしてやる!毛皮を零下まで冷やしてやる!』

『寒っ…!し、死にますって!』


 師匠に笑われながら魔法で燃やされたり凍らされたのもいい思い出。いや、辛い思い出か。

 ボクは修練だと思ってるけど、他の人からすれば拷問か虐待に見えたと思う。修練はとにかくギリギリの連続だった。常に綱渡りで、生きるか死ぬかで例えたら半歩だけ死の方に踏み出しているような感覚だったな。

 師匠は、全てにおいて絶妙に全力を超えることを要求した。コップに収まる分しか水がないのに「零れさせろ」と無理を言うような、そんな修練を毎回選定していた。性格の悪さが出た秀逸な嫌がらせと言える。


 ウイカ達に魔法を教えるようになって気付いたけど、ボクの技量を完全に掌握した上でわざとそうしていたはず。常にボクの能力を伸ばそうとしてくれていた。

 抵抗しようと試みて、裏をかこうと気付かれないように修練しても、その伸び率すら完全に読まれて毎度のごとく嬲られた。『小癪で狡猾な猫め!』といつもより強めに。

 魔法に関しては一生敵わない。他は壊滅的にポンコツだったけど、一芸に秀でる師匠。


「ウォルトさん、魔力が切れました。分けてもらってもいいですか?」

「私もお願いします!」


 それぞれの手を取って魔力を譲渡する。2人の魔力量は順調に増えていて、出会った頃に比べると既に倍近い許容量。凄まじい成長速度だ。自分の魔力量も完璧に把握してる。簡単にやってのけるけど、ボクはなかなか把握できなかった。


「満タンになりました」

「よし!やろう!」


 アニカ達は回復するなり直ぐに障壁の展開を始めた。姉妹を見ていると、魔導師としてどこまで登り詰めるんだろうなんて考えてしまう。このまま成長すると、師匠を超える魔導師になってもおかしくないと思うのはボクの贔屓目かな。

 

 修練を終える頃には、微かに障壁が強化されたのが見て取れた。信じられないくらい凄いこと。

 魔法の修練は地味で小さなことの積み重ね。雨の水滴が石を穿つように、ほんの少しが積み重なって強大な魔法を操れるようになる。


「そろそろ晩ご飯にしようか」

「「はい!ありがとうございました!」」


 食事は修練を忘れて楽しむ時間。魔法の修練に限らず、充分に休むことは大切。並んで会話しながら住み家に入った。



 ★



 台所に直行して夕食の準備にとりかかる。


 当然3人で仲良く調理することに。アニカとウイカの役目は、材料を切ったり洗ったりするのが主で、あとはとにかくウォルトを褒める。

 調理と味付けに関しては完全に任せてる。多くの調味料を自在に操って、数滴まで調整された絶妙な味付けはとても真似できない。


 ウォルトさんの料理の本当の凄さは、実際に隣で見た者でないとわからない…というのが4姉妹の共通認識。


「あっ…!」


 アニカはデザートにと皮を剥こうとしていた果実をポロッと落としてしまう。


「剥く前でよかったぁ~!」

「綺麗に洗えば大丈夫だよ。それより怪我はない?」

「大丈夫です!」


 ウォルトさんの後ろに転がった果実を拾おうと屈んだら、ローブからチラリと覗く尻尾が目に入った。真っ白の尻尾がピョコッと少しだけ顔を出してる。サマラさんはフワフワの尻尾が可愛い。チャチャにもくねっと器用に動く尻尾がある。

 けれど、ウォルトさんの尻尾はあまり見たことがない。貫頭衣に着替えたときも隠れてる。気になってなんの気なしに尻尾に触れると…。


「シャアァァァッ!」

「わぁぁっ!ごめんなさい!」


 ウォルトさんが獣の顔で睨んだ。隣でお姉ちゃんも驚いてる。


「…はっ!ゴメン!恐がらせるつもりじゃなかったんだ!」


 直ぐにいつもの表情に戻って、平謝りのウォルトさん。


「いえ!私こそいきなり尻尾に触れたりしてすみません!」

「それはいいんだ。いきなり触られて驚いただけで」

「これからは気をつけます」

「今は大丈夫だよ。触ってみる?」

「いいんですか?」

「どうぞ」

「私もいいですか?」

「いいよ」

 

 しゃがみ込んで指先で突いてみたり軽く触ってみる。尻尾の先はふかふかして気持ちいい。


「ウォルトさん!モフモフして気持ちいいです…って、どうかしましたか?」


 見上げたウォルトさんは、プルプル震えて目が虚ろ。調理する手も止まってる。もしかして…。


「あの…ウォルトさん?」

「…なんだい?」

「もしかして、触られるの嫌なんじゃ…?」

「…大丈夫。嫌じゃないよ」


 明らかに身体に力が入ってる。私達は顔を見合わせて、こちょこちょと尻尾をくすぐった。


「あはははははははっ!」


 ウォルトさんは過去に見たことないくらい声を上げて笑った。そして確信する。尻尾はウォルトさんの弱点なんだと。もうちょっといってみよう!


「もうやめてくれないか!あはははははっ!」


 その後、面白がって触りまくった私達は、笑い疲れたウォルトさんから珍しいくらい怒られた。「包丁も近くにあって、怪我したらどうするんだ!」という理由で。

 

「ごめんなさい。調子に乗りすぎました…」

「私もごめんなさい!」

「謝らなくていいよ。格好つけてハッキリ言わなかったボクも悪いんだ」


 晩ご飯を食べながらお互いに反省する。


「なんで「敏感だから触っちゃダメだ」って言わなかったんですか?」

「恥ずかしいからだよ」

「なんでですか?」

「敏感なのは関係ないかもしれないけど、ボクは尻尾を上手く動かせない。獣人には尻尾を上手く使える者が多いんだ。自分で背中にブラシ掛けができるくらいに」

「便利そうです!」

「といっても、くねくね動く尻尾を持つ獣人だけね。犬や狼の獣人みたいにふわふわの尻尾の獣人にはできないと思う」

「サマラさんには無理ですね!」

「チャチャは尻尾で字を書いたよ。目が飛び出るくらい驚いた」

「それは驚きますね。でも、チャチャならできそうです」

「器用な妹ですから!」

「劣等感があるんだ。便利だから克服できたらなぁ…」


 珍しいウォルトさんのお悩み相談。私達だから教えてくれたんだ。いつもお世話になりっぱなしの私達でも手伝えることがある!


「よかったら修練してみませんか!」

「なんの?」

「尻尾を動かす修練です!」

「う~ん……やっても意味あるかなぁ…」

「地味でも根気強くやってみましょう。手伝います」

「お姉ちゃんの言う通りで、少しずつでも動かせるようになるかもです!魔法と同じです!私達が付き合います!」

「その通りだね。決めつけはよくない。やってみようかな」

「オーレンが来るまでやりましょう!」

「とりあえず、ゆっくり食べてからね」


 食後にゆっくり休憩して、早速ウォルトさんがどの程度動かせるのか確認することに。ローブでは動かしにくいみたいで、貫頭衣に着替えてもらった。


「じゃあ動かしてみるよ」


 私達に背を向けて椅子に座る。すると、くねくね尻尾が動く。伸びたり縮んだり波打ったりと忙しいし、また触りたくなる。我慢我慢!


「結構動いてますよ」

「普通に器用だと思います!」


 縦横無尽に尻尾は動いてて問題なさそう。むしろ器用な感じだ。


「そう見える?自分では見えないけど、実はボクの意思通りに動いてないんだ」

「そうなんですか!?」

「試しに上に動かしてみるよ」


 尻尾は波打つように動く。


「次は丸めてみるよ」


 尻尾はピーン!と伸びた。


「ウォルトさん…?」

「真面目にやりましょう!」

「真面目にやってる。本当に上手く動かせないんだ」


 試しに私達の指示に合わせて動かしてもらうと、全然違う動きをする。わざと逆を行ってるのかと思うくらい。


「こんな感じだね」

「現状は理解しました」

「やっぱり修練が必要ですね!」

「まず私達が尻尾を持って動かします。その感覚を覚えるやり方はどうでしょう?」

「いいかもしれない。お願いしていいかな?」


「今は右です!」「今度は左です!」といった具合に、尻尾を掴んで動かしながらウォルトさんに伝える。くすぐったいのか震えながらも真剣な表情を浮かべてなんとか集中を保ってる。可愛いなぁ!


 そんなこんなで1時間ほど繰り返した。


「右に動かしてみてください」

「こうかな?」


 尻尾がほんの少し右に動く。


「ちゃんと動いてます」

「微かにですけど!」

「じゃあ、逆に動かすよ」


 今度は左に微かに動く。


「動いてます!」


 上下左右に動かしてもらうと宣言通りに動く。短時間で凄い進歩だ!


「ふぅ…。ありがとう。あとは自分で修練あるのみだね」

「魔法と同じですね!」

「そうだね。でも、難しくてやりがいがある。もし上手くいかなかったら、また手助けをお願いしてもいいかな?」

「「もちろんです!」」


 まだ背を向けたままのウォルトさんにお願いしてみようかな。お姉ちゃんは……やっぱり同じこと考えてる表情。さすが!


「ちょっと浅ましいんですが、手伝いの報酬を貰っていいですか!」

「いいよ。なにがいい?」

「もちろんこれです♪」


 お姉ちゃんと同時に尻尾を掴んでおもいきりくすぐった。


「あはははははっ!ダメだよ!」

「正当な報酬です。手触りが最高です」

「しばらく堪能させて頂きます!ブラシもしっかりかけますね!」

「ウイカ!アニカ!お願いだからやめてくれっ!あはははははっ!」

「「やめません♪」」


 滅多に見れないウォルトさんの爆笑する姿は、私達にとってなによりの報酬だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ