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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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348 明日への活力

 ネネが料理を作っている間にシュケルの核を探るウォルト。


 手料理を食べさせてあげたい。自然に食べた風に見せるのは魔法で可能だけど、鼻と舌がないから味も匂いも感じないはず。それでも…可能なら愛情のこもった料理がスケさんの力になるような案はないか。


「さすがに無理だろ。俺は骨しかないんだぞ?」


 心を見透かしたようにスケさんは苦笑い。


「少しでもどうにかできないか考えてます」

「そうか。それにしても、ウォルトが一緒に来てくれて本当に助かった。危うく白骨バラバラ死体になるところだった」

「強いとは聞いてましたが、まさか元暗部の奧さんとは思っていなかったので油断してました」

「気にすることじゃない。アイツが普通じゃない。昔からなんだ」

「ちょっと聞きたいんですが、ネネさんの名前は本名ですか?」

「出会ったときはクレナイと名乗ってた。変わった名前だと思っていたが、結婚するときに「呼びにくいからネネに改名する!」と言いだして今だ」


 おそらくクレナイという名は暗部で使用していた名前。暗部を抜けるときに改名したのかもしれない。若しくはそんな掟があるのかも。

 またサスケさんに会えたら話のネタになるかな。シノさんとも親しいみたいだし、是非訊いてみたい。


 会話しながらスケさんの核に色々と試みて構想は固まった。


「魔法を付与していいですか?おかしなことにはならないと思います」

「もちろんだ」


 一旦変装を解除して、スケさんの核を中心に幾つかの魔法を付与する。終わったらまた変装させて…と。ネネさんにも協力してもらおう。


「ちょっと台所に行ってきます」


 機嫌よく調理中のネネさんにあることをお願いすると、「そんなもんお安い御用だ」と笑ってくれた。そして、逆に意外なことを頼まれる。

 ちょっと困る要望だったけど、冗談で言ってないのは確実。ネネさんは真剣な表情だ。


「このくらいの大きさで、形と硬さはこんな感じだ」

「なるほど。できます」

「そうか!頼むぞ!」


 スケさんと会話しながらネネさんに頼まれたことをこっそり実行して、料理が出来上がるのを待つ。


「できたぞ!」


 見事な料理がテーブルに並べられていく。ネネさんは料理上手だ。


「さぁ、たらふく食え!」

「あぁ。いただく」


 懐かしむような表情のスケさんが口に含む。もぐもぐと咀嚼して飲み込んだ。食べる様子は、見た目には普通の人と変わりない。


「どうだ!」

「匂いも味も感じない…。だが、身体に活力が戻るような…不思議な感覚だ。なぜだ…?」

「ワタシの込めた『気』のおかげだ!感謝しろ!」

「『気』?それがどうしたんだ?」

「いいから黙って食え!とにかく堪能しろ!」

「ふっ。そうだな。ネネ…」

「なんだ?」

「久しぶりのお前の料理は…味がないのに最高に美味い」

「だろうが!長生きするよう腹一杯食って骨太になれ!バカタレが!」


 あっはっは!と高らかに笑うこの人を凄いと思う。これほど豪快で前向きで、我が儘で自分の気持ちに正直な女性に初めて会う。口が悪くて型破りなのに憎めない。

 スケさんのことがなにより好きなんだと感じる。強くて素敵な女性だ。スケさん…いや、シュケルさんとネネさんは、会えなかった時間を少しでも埋めるように会話しながらゆっくり食事を進めた。

 御相伴に与ったけれど、とても美味しい。味もそうだけど、なんというか気持ちがこもっている。きっとシュケルさんへの愛情。料理も歌と同じで上手いとか下手じゃないんだと気付かされた。


「ウォルト!ワタシの飯は美味いか!」

「凄く美味しいです」

「そうか!今度来たときも作ってやるぞ!」

「その時は今日のお礼にボクが作ります」

「なに?獣人の作る飯か。食ってみたい」

「是非食べて下さい」


 食事を終えたスケさんは満腹の表情を浮かべる。


「ふぅ…。胃もないのに満腹のような満足感がある。どういう魔法なんだ?」

「魔法を使って、食道のように口から魔力の核までの道を作っています。核はシュケルさんの心臓のようなモノです。核に到達する寸前で料理に込められたネネさんの『気』を魔力に変換できるよう魔法陣で細工しました。核から『気』を取り込んだ後は、徐々に食物を消化するよう薄い『漆黒』で満たされた腸のような器官を作ってあります」


 アンデッドだった頃の名残なのか、瘴気は少量なら骨に良い影響を及ぼすのが確認できた。ほんの少し試したら細かい傷が修復されたから間違いない。

 なにかを『漆黒』で消滅させると、同時に瘴気が発生する。その瘴気は皮膚変わりの魔力の膜内に充満して接触したスケさんの骨を癒す。

 この方法ならネネさんの料理は無駄にならず、骨にとって栄養となる。ボクの技量で考え得る手段はこのくらいしかなかった。


 説明を聞いたスケさんとネネさんはポカンとしてる。


「理解できなくとも凄い魔法だということはわかった」

「お前は信じられない奴だ。ワタシはそんな芸当ができる奴を他に知らない」


 ネネさんは、元暗部だけあって魔法にも精通しているのが伺える。


「ボクの精一杯です。魔導師ならもっと上手い方法を考え付くと思うんですが」


 師匠なら味覚や嗅覚さえ復活させられるんじゃないかと思う。


「おい、シュケル。ウォルトはいつもこんな感じか?イカレてるな」

「あぁ。ウォルトに常識は通用しない」


 そんなことないと思う。ボクは至って普通で常識はある…はず。


「料理のおかげで充分満たされた」

「そうか。それなら、今からやることは1つだな」

「やること?なにかあるか?」

「このアホ旦那!久しぶりに会った夫婦がやることと言えば1つしかないだろうが!とぼけるなっ!」

「はぁ…?まさか…」

「まさかもクソもあるか!そういうことだ!」

「無理に決まってるだろ。俺は骨だぞ」


 ネネさんはニヤリと笑う。


「はっはっは!バカめ!ワタシは調理中にウォルトに確認した。答えは「できる」だ!」

「なにぃ!?」

「つべこべ言わずにさっさと来い!ウォルト、またあとでなっ!」

「町を観光してきます」


 スケさんは手を引かれて部屋に連れ込まれた。素早く家を出て笑顔で町に繰り出す。


 スケさんに雑な変装をさせたつもりはない。見破られないよう限りなく人間に近く変装させたかった。見えないところにもこだわって人間に見えるよう造形してある。ただ、生前を知らないから寸分違わぬ再現はできない。

 確かめようもないけど、ネネさんの言う通りに形成できたはず。スケさんは感覚がないだろうけど。あとは夫婦の話だ。任せよう。


 それはさておき、実は行ってみたいところがある。この町にはフィガロゆかりの場所が存在していて町の名前だけは知っていた。


 夫婦の邪魔もしないし気兼ねなく自分も楽しめる。双方にとっていい話。足取り軽くフィガロゆかりの地の観光を楽しんだ。





 数時間後。


 観光を終えて家に戻ると、2人は落ち着いて会話していた。お茶を淹れてもらって一息つく。


「おい、ウォルト。ワタシは大満足だ。お前には感謝してる」

「よかったです」


 ボクもフィガロの足跡を追って最高の時間を過ごせた。


「ところで、俺はそろそろ修練場に戻ろうと思うんだが」

「大丈夫なんですか?」


 スケさんは数年ぶりに家に帰ってきた。数日滞在したとしても問題ないだろうし、魔法を持続させることは可能。


「大丈夫だ。連れて帰れ。今後はワタシも会いに行く。ミーリャもフクーベにいるから泊まる場所には困らん」

「そういうことだ。ネネと話して色々と決めた」


 揃って笑顔。2人がいいなら口出しすることじゃない。


「あと、今後は気合いを入れて修練しておく。次はお前を完膚なきまでに叩き潰す。また()るぞ」

「お断りしたいです」

「ダメだ。負けっぱなしは気が済まない。それに、お前は全然本気を見せてないだろ。シュケルの話だと魔法が半端じゃないらしいな」

「大したことないです」

「騙されんぞ!ワタシはシュケルを信用している!」


 ニカッと笑う顔にまぁいいかと思ってしまう。不思議な人だなぁ。


「お前は無類の暗部好きとみた。暗部の女性部隊の活動に興味があるだろ?手合わせするなら、言える範囲で内情を教えてやらんでもないぞ。どうだっ?ん?」

「くっ…!」


 なんて魅力的な提案…。意地の悪い顔はまるでシノさんのようだ…。ボクの嗜好を読んでいる。暗部が鋭いのか、それともボクがわかり易すぎるのか?

 

「どうする?」

「……また機会があれば」

「決まりだっ!久々に修練する理由ができた!」

「ウォルト……すまんな……」

「大丈夫です。暗部が好きなので…。はぁ…」




 すっかり暗くなった帰り道を、スケさんを背負って駆ける。脳内地図に浮かぶ最短距離で修練場に向かう。場所は覚えたから、森を突っ切れば来たときよりかなり速く到着できる。休まずに行こう。


「なぁ、ウォルト」


 背負っているスケさんが訊いてくる。


「なんですか?」

「ネネはどうだった?お前の想像通りだったか?」

「強く優しい女性でした。ボクはあんな人を他に知りません」

「そうか…。今日は本当にありがとう。胸のつかえが取れたのはお前のおかげだ」

「それはネネさんがずっと待っていてくれたからです。ミーリャさんの言った通りでしたね。骨になっても気にしないと」

「あぁ。大した嫁だ。あんな女はまずいない」

「スケさん達はどうやって知り合ったんですか?」

「冒険中に傷だらけで倒れてるのを見つけて、下手くそな治療をしたのがきっかけだ。黒装束に身を包んだ怪しい女と不審に思ったが、ほっとけなくてな」

「きっと暗部の任務中だったんですね」

「そこから押しかけ女房状態になった。…今ではあの出会いに感謝してる」

「お似合いですよ」

「そうか」


 落ち着いていて気配りができるスケさんと、豪快で細かいことを気にしないネネさんはお互いを補い合える関係に思えた。馬乗りになって消滅させられそうになるのは怖いけど…。


 なぜだろう。駆けながらサマラ達4姉妹に会いたくなる。

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