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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
341/706

341 色々驚いた

 トゥミエの幼馴染みトリオで合唱して、歌い終えるとそれぞれ満足の表情。


「ウォルトは上手いよ!完璧だった!」

「私もそう思う!間違いない!自信持っていいよ!」

「音程を外さずに歌えてたかなぁ?喉が渇いたからお茶にしよう」


 ウォルトは先に住み家に戻り、残されて2人で話す。


「ねぇ、ヨーキー。楽器って見ただけで弾けるの?」

「無理だよ。ウォルトは本当に凄いことをやってる」

「やっぱりか!いつものことだけど!」

「記憶力と指を動かす器用さが半端じゃない。リズムも正確だったし。ちょっと練習したら直ぐ追い抜かれちゃうな!」

「だよね~。歌も久しぶりに聴いたけど…上手すぎた!私は満足だよ!」

「僕はウォルトの歌を大勢の人に聞いてもらいたい。嫌がるだろうけど」

「まぁ、本人のやる気が出ないと無理だね。無理強いしたらヘソ曲げるよ」

「だよね。二度と歌わなくなるかもしれないなら、僕らの前だけでいいか!」



 ★



 冷たい花茶を淹れたウォルト。


 今日は喉に優しい蜂蜜入り。喉を潤してもらいながら2人に訊いてみる。


「今日は帰るの?」

「僕は泊まる!」

「私も!明日の朝帰る!」

「マードックは大丈夫?」

「バッハに頼んだ!」

「そっか。ゆっくりしていってくれると嬉しいよ。なにかやりたいこととかある?」

「私は特にない。ウォルトはなにかする予定あったの?」

「晩ご飯のおかずに、魚でも釣りに行こうかと思ってた」


 ファルコさんにも会ってないから、ちょっと行ってみようと思っていたところだった。


「いいね!行こうよ!晩ご飯を豪勢にしよう大作戦!」

「僕も久しぶりに釣りしたいなぁ!」

「じゃあ、一緒に行こうか」


 もしファルコさんに会えたら2人を紹介したい。いつもの穴場に行ってみよう。


「サマラは駆けたいよね?」

「と~ぜん!」

「ちょっと遠いから、ヨーキーはボクが背負っていこうか」

「いいの?重くない?」

「軽いから心配ないよ」


 ヨーキーを背負って『捕縛』の網でしっかり固定する。釣り竿と魚籠はヨーキーに持ってもらおう。


「こんな魔法もあるんだね!凄い安定感だ!」

「じゃあ、行こうか。サマラは準備いい?」

「いつでもいいよ!」


 競うように駆け出して、スピードに乗るとヨーキーは大興奮。


「2人とも速いっ!凄いっ!」

「そうかな?」

「ウォルト。もう少し速い方がいいな」

「了解」

「うわぁ!?まだ速くなるの?!」


 駆けながら昔を思い出して笑みがこぼれる。


「今ではヨーキーを背負って駆けれるようになったよ。昔は背負ってもらったけど」


 ボクらがまだ小さかった頃。元々サマラと仲がよかったヨーキーは、ある日ボクが殴られてボロボロになっているのを路地裏で見つけて、背負って家まで連れて帰ってくれた。

 

「頑張れっ…!もうちょっとで…家に…着くからっ…!」

「…ありがとう。…ゴメン」

「気にしなくて…いいよ…!」


 さほど親しくもなかったのに、ボクより身体が小さいヨーキーが家までおぶってくれたことは一生忘れない。それがきっかけで話すようになって、ボクらは仲良くなった。

 明るくて元気一杯のヨーキーと友達になれたのは幸運だったと思う。放っておくと誰とも話さない子供だったボクに、いつも変わない調子で話しかけてくれた優しい友達。


「よく覚えてるね!」

「あの時は嬉しかった。だから今はちょっと恩返しできてるかな」

「ウォルトはわかってないなぁ」

「なにが?」


 ギュッと首に抱きついてくる。


「こら!走りづらいでしょ!」

「このくらいウォルトは苦にならないはず!ねっ!」

「そうだね。大丈夫だよ」

「むぅ~!ヨーキーめ。わざとだな…」


 しばらく駆けて穴場に辿り着いたけど、ファルコさんはいなかった。残念だけど、とりあえず並んで竿を出す。


 …と、サマラから提案が。


「せっかく釣りするなら、勝負しようよ!」

「いいね!やろう!」

「ボクもいいけど、釣った数?それとも大きさ?」

「私はどっちでもいい!ヨーキーが決めていいよ!」

「む~……よし!数で勝負しよう!」

「じゃあ、最下位は勝者の言うことを聞くでどう?」

「賛成!制限時間は1時間でどうかな!」

「ボクはいいよ」


 2人は知らないだろうけど…ボクにはファルコさんという釣りの師匠がいる。最近では、釣りに来ても坊主で帰ることはないくらいに上達した。今回は負けられない。


「よ~し!釣るぞぉ~!」

「僕も負けないからね!」


 こうして釣り対決が始まった。





 1時間後。釣り対決は静かに幕を下ろす。


 結果は…。


「私は5匹だった!バラさなければあと2匹はいけたね!」

「僕は3匹!釣れた方だと思う!ウォルトは?」

「ゼロだよ…」


 アタリすらほとんどこなかった…。そんなに上手くもないのにさすがに勝てっこない。サマラ達と勝負するといつも負けるのは、日頃の行いが悪いからだろうか?


「僕とサマラの勝ちだね!」

「悔しいけど負けたよ」

「じゃあ、ウォルトにお願いがあるんだ!」

「なんだい?」


 ヨーキーはニパッと笑う。


「僕に恩返しするのは禁止!僕らは友達じゃないか!恩を感じるなんて他人みたいで冷たい感じがする!」

「そうかな?友達でも感じると思うんだけど」

「その代わり、友情はどしどし受け付けるよ!」


 友達だからやりたいって理由ならいいんだな。ヨーキーは優しい男だ。


「わかった。今後は恩返しはしない。厚意を押し売りすることにする」

「それならよし!」

「あと、今のはお願いにはならないよ」

「じゃあ考えとく!」

「サマラはなにかやってほしいことある?」

「今日はない!いつかお願いする!貸し1つね!」


 なにを言われるのかちょっと怖いけど、変なことじゃないことを祈ろう。ヨーキーは多分大丈夫。


「じゃあ、帰ろう…」

「ガァァォオッ!」


 声が遮られる。川に目を向けると、巨大な鰐のような魔物がのそりと上陸してきた。強靭な鱗を持つクロコダイルと呼ばれる魔物。尻尾を入れると体長はボクの倍以上ある。


「魔物だっ!ウォルト!サマラ!早く逃げよ……えっ?!」


 手を翳すと、魔物は凍りついて動きを止めた。無詠唱の『氷結』。

 

「お見事♪」

「この大きさだと放置できないな」


『疾風』で魔物の体躯を縦に真っ二つに切り裂くと、ヨーキーは呆然としてる。


「持って帰って肉を頂こうか」

「美味しいの?」

「丁寧に下処理すれば美味しいよ」

「やったね!晩ご飯がさらに豪勢になった!」


 魔法でカットした一部を凍らせて『圧縮』する。残りは『昇天』で土に還した。


「薄々感じてたけど、ウォルトって……実は凄い魔法使い…?」

「違うよ。誰でもできるんだ」


 サマラと目で会話したヨーキーは笑みを浮かべる。


「お腹空いたから帰ろう!」

「そうしよう!」


 来たときと同様にヨーキーを背負って住み家に向かう。


 2人が釣った魚も凍らせたから新鮮に頂ける。型のいいトラウト。魚好きのボクはサマラとヨーキーに感謝だ。



 ★



 住み家に到着すると、ウォルトは早速夕食の準備にとりかかった。僕とサマラは居間で寛ぐ。


「サマラ。ウォルトは相変わらず謙虚だね。絶対凄い魔法使いなのに」


 可能な限り小声で話す。さっきサマラは『後で教える』って目で送ってきた。きっとウォルトの魔法を知ってるんだ。


「ウォルトの魔法は相当凄いよ。今日見せたのなんて、ほんの一部なんだから。最近街で噂になってる魔導師のこと知ってる?」


 噂の魔導師…?よく耳にするのは…。


「もしかして、王都の武闘会に現れたっていう猫のお面を被ったエルフのこと?サバトだっけ?」 

「サバトって名前、どっかで聞いたことない?」

「どっかで…?……あっ!ウォルトのお爺さんの名前!」


 子供の頃に聞いたことある。確かサバトじいちゃんって言ってた。


「そう。サバトとチームを組んで武闘会に出てたのが…実はマードックなんだよ」

「まさか…!?噂のサバトの正体って…ウォルトなの…?エルフじゃないけど…」

「確かめてないけど賭けてもいいよ」


 サバトは類を見ない凄い魔導師だって聞いた。信じられないような魔法を操る魔導師だって。その正体がウォルトだなんて想像もしなかった。


「そうかぁ。本当に凄いんだなぁ」

「でしょ!でも秘密だよ!魔法使えるのも内緒だからね!」

「わかってるよ」


 驚きながらサマラと駄弁っていると、夕食の準備が整った。


「できたよ。召し上がれ」

「「頂きます!」」


 美味な夕食に舌鼓を打つ。クロコダイルの肉は魔物とは思えないくらい美味しすぎる。僕的には、どちらかというと魔法より料理の方が凄い。


 その後、限界まで食べて大満足。ウォルトの料理は美味しすぎる。


「ボクは…幸せ者だぁ~!」

「うぅ~!美味しかったぁ~!」

「口に合ってよかった」


『うミャいっ!』とか言いそうに熱いお茶をすするウォルトは、どう見ても凄い魔導師には見えない。昔から変わらない優しい僕の幼馴染み。


「ねぇ。最近、巷で噂の魔導師のサバトってウォルトなんでしょ?」

「そうだけど、マードックから聞いたの?」

「訊かなくてもわかるよ。お爺さんの名前でしょ?」

「そう。勘がいいなぁ。アニカ達も同じようなこと言ってた」


 やっぱり本当なんだ…。でも、なんでエルフって云われてるんだろう?内緒にするのにお面を被ってたなら、獣人なのはバレないと思うけど。


「帰ってきたマードックが凄く上機嫌だった!よっぽど嬉しいことあったんだろうと思ったけど、そんなことがあったなんてね!」

「アイツは対戦相手の熊の獣人に、ゴリラと間違えられて凄く怒ってたけど」

「あはははっ!相手は見る目があるっ!」

「アイツはほぼゴリラだから仕方ないよ!面白いなぁ!」


 お腹が落ち着くまでは武闘会の話で盛り上がる。ウォルトが言うには、凄い魔導師ばかりでいろんな魔法が見れて最高に楽しかったらしい。

 でも、最後まで目立つつもりなんてなかったみたいだ。僕とは正反対。


「そろそろお風呂入ろうかなぁ~」

「沸かそうか。ヨーキーも入るだろう?」

「ちょっと待った!釣りで勝ったからウォルトにお願いがあるんだけど…」

「どうしたの?」

「今日はウォルトとお風呂に入りたいんだ!」

「う~ん…。ちょっと恥ずかしいけど、構わないよ。かなり狭くなるけどいい?」

「いいに決まってるよ!」


 実は小さな頃から一緒にお風呂に入ったことがない。ウォルトはお風呂に浸かれなかったから。でも克服したって聞いた。この間は恥ずかしいからって断られたけど、今日は釣りで勝ったから頼みやすい。

 チラッとサマラを見ると、なんとも言えない表情をしてる。気持ちはわかるけど同性の強みだ!サマラも照れ屋だから一緒に入ったりできっこないし。


「そうと決まれば早く行こう!」

「そうだね」


 準備して2人で向かう。


 ウォルトが魔法で水を張ってお風呂を沸かしてくれた。改めて考えると凄いことを軽くやってる。確かに凄い魔法使い。

 脱衣所で並んで服を脱ぐと、ウォルトの細身だけど引き締まった上半身が露わになる。


「鍛えてるね!筋肉が格好いい!」

「相変わらず力は弱いけど、鍛えてはいるんだ……って、大丈夫かっ?!」

「なにが…?」


 ウォルトはなんで驚いてるんだろう…?あれ…?身体が…熱くなってきた…。


 ふらりと後ろに倒れ込んで慌ててウォルトが支えてくれる。


「ヨーキー!ヨーキー!大丈夫か?!」


 真っ赤な顔をしたヨーキーは、鼻血を出したまま気を失ってしまった。表情はなぜか嬉しそうに見える。


「…やっぱりね。予想通りだよ」


 居間にいるサマラが耳を動かしながら呟いた。

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