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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
340/706

340 策士に向いてない

 晴天に恵まれたある日のこと。


 友人同士、会話しながら動物の森を歩く。


「僕らが一緒に行ったら驚くかなぁ!」

「ふっと微笑むだけとみた!」

「そうかもね!」

「目に浮かぶよ!」


 足取り軽く歩みを進める2人は、白猫の友人の住み家に辿り着いた。直ぐに家の角から顔を出したのは、ほっかむり猫状態のウォルト。本当にいつも外にいる。


 競うように駆け出した。


「「ウォルト~!」」


 微笑んで待ち受けるウォルトに向かって突き進む。予想した通りの表情。


「もらったぁ~!」


 先にウォルトの胸に飛び込んだのはサマラだった。


「くっそぉ~!やっぱり獣人には勝てないや!」


 遅れて抱きついて悔しがるのは音楽好きの友人ヨーキー。今日は2人揃って訪ねてきた。



 ★



 サマラとヨーキーを優しく抱き留めたウォルト。


「2人とも、いらっしゃい」

「久しぶりに休みで遊びに来た!」

「約束通り一緒に来たんだ!」

「ありがとう。嬉しいよ。喉が渇いたろう?お茶を出すから中に入ろう」


 住み家に入って冷たいお茶を淹れる。


「うまぁぁ~い!」

「美味しすぎるんだぁ~!」


 大袈裟な反応に苦笑する。お茶がそんなに美味しいはずない。


「お代わりは?」

「「いる!」」


 お代わりも飲み干した2人に訊く。


「今日は約束して来たの?」

「街でヨーキーが歌ってるとこに出くわして、今日は私が休みだから一緒に行くか!ってなった!」

「僕はいつも休みみたいなモノだからね!マードックも誘ったんだけど「行かねぇよ」って断られた。アイツは冷たい!友達やめた方がいいよ!」


 相変わらずモノマネが上手いなぁ。マードックは基本的に誰ともつるまないのを知っているから、冷たいとかじゃない。


「ヨーキーは歌で食べていけてる?」

「なんとかね!大道芸人みたいだけど、投げ銭を貰えたりたまに舞台にも立ってるよ!」

「凄いなぁ」

「ヨーキーの歌は元気がもらえるような歌だからね。そこは私も認める」

「いやぁ!そうかなぁ~!」

「逆に言うと、元気の押し売り感が凄いけどね」

「サマラは一言多いんだよ!」


 サマラとヨーキーは、昔と変わらず仲良さそう。見ていてほっこりする。


「そろそろ昼だけど、ご飯食べる?」

「「もちろん食べる!」」


 作った料理を食べるご陽気コンビ。今日は、トゥミエの郷土料理ジゴクダキをアレンジして出してみよう。


「うんまぁぉぁぉ~!」

「美味しすぎて死ぬ!ウォルトは料理人にならなくちゃダメだぁ~!」

「大袈裟過ぎるって」


 でも、2人が嘘を吐いてないのはわかるから、もの凄く照れくさい。


「「ごちそうさま!」」

「お粗末さま」


 後片付けを終えて戻ってくると、ヨーキーにお願いされる。


「ウォルトにお願いがあるんだ」

「どうしたの?」

「昨夜、調弦してたらリュートの糸巻き(ペグ)が1本だけ割れちゃって。修理できたりするかな?」

「見せてもらっていい?」

「どうぞ」


 リュートを受け取ると、確かに弦を張るペグが根元から折れている。

 

「直せるよ。張る用の弦はある?」

「あるよ!お願いしてもいいかな?」

「もちろん。むしろやりたい」

「ありがとう!」


 抱きついてくるヨーキー。男同士なのに恥ずかしくないのかな?…と思っていたのもかなり昔のこと。

 ヨーキーは小さな頃からなぜかボクにだけ抱きついてきた。他にも獣人は沢山いたのに。確認したことはないけど、モフモフ好きなのかもしれない。サマラが声を上げる。


「こらっ!ヨーキー!」

「なにさ?」

「大人しく座って待ってなよ!ウォルトが作業できないでしょ!」

「むぅ~!いいじゃないか!僕はたまにしか会えないんだ!ウォルトもそう思うよね!」


 くりっとした大きな目で見つめてくる。


「会いに来てくれるのは凄く嬉しいよ」

「ほらぁ!」

「でも、直ぐに作業したくてウズウズしてるでしょ?」

「そうだね。ヨーキー、いいかい?」

「お願いします!どうやって修理するか見てていい?」

「面白くないけどいいの?」

「「いい!」」


 揃って作業机に移動する。そこで、横に置かれた足踏み式の織り機を見たサマラが驚いた顔。


「コレって、織り機だよね…?」

「最近、生地も織ってるんだ」

「ウォルトはなんでもできるなぁ!すごいや!」

「そんなことないよ。じゃあ、修理を始めるよ」


 リュートの弦を外して折れてしまったペグを取り除こうとしたけど、穴にがっちり詰まってる。


「欠片が差し込み部分に残ってるんだ。工具を当てる隙間もなくて。修理屋なら持ってるんだろうけど」

「大丈夫。心配ないよ」


 指先をペグの折れ残った部分に当てると、押し出されるようにポン!と抜けた。


「今のどうやったの?!」

「指先から魔法を弱く撃ち出した。この部分は腐ってもないし、後で使えるから取っておいて指で掴む部分を作るよ」


 家にある木材を削り出してペグを作る。丁寧に削り、ヤスリがけしながら寸分違わぬモノを作り上げた。


「あとは…」


 弦を通す穴を綺麗に空けたい。よさげな太さのネジ回しを手に取る。


「ヨーキー。作ったペグを指で挟んで持っててくれる?」

「こう?」

「少しだけそのままで」


 ネジ回しの先を木材に当てると、抵抗なくゆっくり先が沈んでやがて貫通した。


「よし。大きさの微調整をしよう」

「びっくりしたよ…。手品みたいだ…。今のも魔法…?」

「『貫通』の魔法なんだ」


 作った部分と差し込み口に残っていた欠片を『同化接着』したあと、再度差し込み口に嵌め込んで、ガタつきや動きを細かくチェックして作業は終了。


「大丈夫だと思う。弦を張って鳴らしてみて」


 サマラとヨーキーに目をやると、ポカンとしている。


「どうかした?」

「いや…。ウォルトが器用なのは知ってたけどさ…」

「職人みたいだなぁと思って…」

「モノづくりが好きなだけだよ。職人の足元にも及ばない」


 コンゴウさんやファムさん達ドワーフを知っているから、恐れ多くて器用なんて言えない。リュートを手渡してヨーキーに弦を張ってもらう。


「僕は調弦が得意じゃないんだ。結構適当なんだよね」

「音程も『大体このくらい』っていうノリってことか!ヨーキーらしい!」

「その通りだけど、サマラに言われると腹立つぅ~!」

「ボクが調弦しようか?」

「できるの?!」

「多分。各弦の音程を教えてくれる?」

「えっと、コレがEで…コレはDで…」


 弦を弾いて、ペグを回しながら音を合わせていく。微調整すること数分。ジャーンと全ての弦を弾き鳴らした。

 

「言われた通りなら間違いないと思う。緩まなければ」


 2人はまたポカンとしてる。


「どうしたの?もしかして、音が違った?」


『知ったかぶったかニャ~?』とか言いそうな顔で照れてしまう。恥ずかしいな。


「僕も正確な音はわからないけど、合ってると思う。凄く綺麗に鳴ってるから」

「っていうか、ウォルトってホントなんでもできるね」

「ボクも聴覚には自信がある。音程を合わせるくらいならできるさ」

「普通の人にはできないんだ。調弦師がいるくらいだから」

「そんなことより、ちょっと弾いてみていいかな?」

「え…?」

「ウォルト、楽器も弾けるの?私も初めて聞いたけど」


 サマラも初耳だろう。なぜなら…最近興味を持ったから。


「ヨーキーが弾いてるのを見て覚えただけなんだけど、弾けると思う」

「僕も聴きたい!」

「ありがとう」


 そっと手を添えて、ゆっくりリュートを弾く。





「なんとか弾けたけど、やっぱり演奏は難しいね…って、どうしたの?」


 リュートを弾き終えると、2人はまたまたポカンとしてる。


「いや…。この間、見たときに覚えたって言ったから、初めて弾いたってことだよね…?」

「そうだよ」

「充分上手いよ!私はびっくりした!」

「そうかな?ありがとう」

「器用とかいうレベルじゃないね!手も大きくて、僕用では弾き辛いはずなのに!」

「このくらいならボクでも弾けるんだ」


 褒められて純粋に嬉しい。そして、今回の行動にはちゃんと狙いがある。


「うぅ~!僕も弾きたくなってきた!外で弾きながら歌ってみよう!」

「いいね!皆で歌おうよ♪」


 ヨーキーとサマラはノリノリで外へ向かった。やっぱりこうなった。2人は幼馴染み。予想通りだ。ボクの…アピールが活きるはず!ヨーキー達を追って外に出て直ぐに声をかける。


「ヨーキー。サマラ」

「「どうしたの?」」

「ボクは、さっきみたいに簡単な曲ならリュートが弾ける。だから伴奏するよ」


 我ながら完璧な作戦。ボクはリュートの素人。弾きながら歌うのは無理だ。でも、弾きながら音程を覚えたから楽譜がわかる曲なら弾ける。

 歌が上手い2人に歌ってもらって、ボクは伴奏に専念して精一杯演奏するだけ。これなら歌わなくて済む。


「なに言ってんの?ダメに決まってるじゃん」

「そうだよ!伴奏はボクがするから、ウォルトも歌うんだよ!」

「えぇっ!?」


 呆れた表情のご陽気幼馴染みコンビ。


「ヨーキー、私達も舐められたもんだね~」

「だね!狙いは最初からバレバレだよ?リュートを弾けるのは驚いたけど、僕らをバカにしてるとしか思えない!」

「バカにはしてないよ」


 噓じゃないのに、なんでバレたんだろう?


「なんでバレた?って顔してるね。教えてあげようか?」

「知りたい」

「ウォルトは正直者だから、いつもと違うことをすると直ぐにおかしな行動だって気付く。さっきの演奏もそうだよ」

「普段のウォルトなら、好奇心で試しに弾くことはあっても、自分から弾けるアピールはしないよね。僕らを甘く見てる」

「なるほど…」


 だから裏があると気付かれてしまった。歌いたくないんだな…と。そして、姑息なボクに裁きが下される。


「歌ってくれたらバカにしたの許すよ!」

「僕も賛成!多数決だから決まりだ!」

「3人で多数決はダメだよ…。ボクは歌が下手で、迷惑になるから歌いたくないんだ。勘弁してくれないか?」

「ダメだってば。大体、誰がウォルトに下手だって言ったの?」

「そうだよ!僕はソイツを許さない!」

「それは…」


 しばし考え込む。言われたのはいつだったかなぁ…。…あれ?誰にも言われたことはない…のか…?

 

「ないかもしれない…」

「だよね!だって下手じゃないもん!」

「むしろ上手いよ!僕とサマラが保障する!」


 胸を叩く2人は確かに嘘を吐いてない。2人の匂いはよく知ってる。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、自信がないんだ」

「ウォルト。僕は前にも言ったけど歌は心なんだ!上手いとか下手じゃないんだよ!」

「前にヨーキーと歌ったとき楽しかったんじゃないの?顔に書いてたよ?」

「それは…そうなんだけど…」

「じゃあ歌おう!ウォルトは歌が好きなんだよ!」

「私もそう思う!」

「そうかな…?いや、そうかもしれない」


 下手だけど、歌うのは好きかもしれない。畑仕事をしてても、たまに口ずさむときがあったりする。


「よし!始めるよ!」

「ヨーキー、演奏は任せた!」


 2人にのせられて、ヨーキーの伴奏に合わせて歌い出す。やっぱり恥ずかしいから目はしっかり瞑って。


 サマラとヨーキーの姿は見えないけど、とても嬉しそうな匂いがしてる。

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