34 流浪の獣人
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
フクーベの中心街にある古びた飲食店。
手軽な値段で手軽な酒を飲ませてくれる良心的な店。店主はいつ寝てるんだ?…ってくらい朝から晩までぶっ通しで営業している。
そんな食事処か酒場かわからないような店で、1人酒をかっくらっている獣人がいた。
「かぁ~!クエストの後の酒は格別だぜ!」
陽の高い内から1杯引っ掛けている狼の獣人マードック。今回は難易度の高いクエストだったこともあり、いつも以上の爽快感を味わっていた。
「追加でつまみと酒くれ!つまみは肉ならなんでもいいぜ!ガハハッ!」
…ちっ!声がデカすぎたか?ジロジロ見やがって…。しっかし、昼間っからちびちび酒飲んでるジジィばっかだな。さっさと酒持ってこいっつうんだ!……ん?
カランと音を立てて入口のドアが開き、鼻がピクリと反応する。
この匂いは…。入ってくるなり中を見渡して、すり足のように足音もなく近づいてきやがる。
何事もねぇように俺の正面に座った。
「マードック。昼からいい身分だな」
「うるせぇよ。久しぶりに会ったのに嫌味しか言えねぇのか?エッゾ」
「ククッ!ちょっと羨ましくなってな」
コイツに会うのはかなり久しぶりだ。
刀身が細くて、若干しなるような形をした刀を背負う山吹色の毛皮のコイツは、狐の獣人。顔は狐で獣人にしちゃ線が細ぇ。
ウォルトのローブみてぇな見たこともねぇカラフルな装束を身に纏ってる。見てるだけで目が痛くなりやがるぜ。
コイツは元々フクーベのB級冒険者だ。当時は前衛だった。
なんで『元』かっつうと、3年前くれぇ前に「世界の強い奴に会いに行く」っつって剣を片手に旅に出たあと音信不通になった。そっからは生きてんのか死んでんのかもわかりゃしねぇ。俺も忘れてた。
まぁ、コイツはそう簡単に死ぬようなタマじゃねぇがな。冒険者時代はとにかく強さを求める戦闘狂で、素手で闘う獣人にゃ珍しく武器を使いこなす変態だ。
俺も何度かやりあってっけど、その度に返り討ちにしてる。いっぺんも負けたことはねぇが、間違いなくコイツは強ぇ。
「その格好はドコの衣装だ?この辺の国じゃねぇな」
今まで見たことがねぇ変な服だ。
「東の方にある季節の移ろいが美しい『ハポン』って国で手に入れた『着物』って装束だ。服が絵みたいだろ?気に入ってずっと着ている」
見てるだけで暑苦しいぜ。ウォルトといい細ぇ獣人は暑さを感じねぇのか?
「しっかし、いつの間にかいなくなって、いつの間にか戻ってくる。そんな根無し草みてぇな奴とは思わなかったぜ」
「いろんな土地を渡り歩いて強い奴に会ってみたかったからな。成果はあったぞ」
「へぇ…。腕を上げたってことか…?」
「あぁ。お前に挑戦しにきた」
「なるほどな。背中のソレは新しいお前の相棒ってワケか」
「そうだ。よく斬れる…。ククッ!」
背中の剣らしきモンをポンポンと叩く。剣で間違いねぇみてぇだが…この辺じゃ見たことねぇ形だ。
「面白ぇ。いつ闘る?俺はいつでもいいぜ」
どうせやらなきゃ治まらねぇんだ。コイツの性格はよく知ってっかんな。
「その前に、訊きたいことがある」
「何だよ?」
「街中で聞いたんだが、お前がどこぞの獣人にタイマンで負けたという噂は…単なるホラか?」
「…ちっ!そりゃあ…」
待てよ…。ちっと面白ぇかもな…。
「どうなんだ?まさかとは思ったが、気になったんで一応確認しておきたくてな」
「負けちゃいねぇが、引き分けってとこか」
「…なんだと?」
エッゾの眉間に皺が寄る。
「お前の強さは嫌というほど知ってるが、引き分ける獣人がこの街にいるだと?下らん冗句か」
「そう思うのはお前の勝手だ」
「記憶を辿っても候補になりそうな奴すらいない。いるとすれば『獅子王』か…。だが、今はフクーベにいないはず。もしくは、他の街から来た奴だが俄に信じ難い」
「ソイツは面白ぇぞ。お前も勝てねぇだろ」
ヘラヘラしながら挑発するように煽ってやる。
「知らないと思って適当なことを言ってるんじゃないだろうな…?」
「俺は戦闘に関しちゃ冗談言わねぇよ」
エッゾの顔が興奮に歪む。オモチャを貰ったばかりのガキ…と言いてぇとこだが、相変わらずイカレた面してやがる。笑いながら人を殺す奴ってのは、こんな面してんだろうよ。
「面白い…!強い獣人が他にもいるとはな!まずは前哨戦としてソイツと闘うことに決めた。その後はお前だ!最高に愉しくなってきた…!」
「うるっせぇな。相変わらずの戦闘狂が。…ったく。おい、エッゾ!」
「なんだ?」
一応マジで言っといてやるか。
「ソイツは強ぇぞ。舐めてんなら今の内にやめとけ」
「お前がそこまで言うとは…。クククッ!フクーベに戻ってきてよかった!ハハハッ!」
ダメだコイツ。思った以上に楽しみにしてやがる。
エッゾの様子に、ち~っと不安がよぎる。アイツと戦わせたら面白ぇと思って煽ったが、このことがバレたらサマラに報復されっかもしれねぇ。
ツ~…っと冷や汗が背中に流れる。……けっ!今さら後には引けねぇ!
「おい店員!なんでもいいから書くモン寄越せ!」
ウォルトの家までの地図を描いて渡してやる。
「ソイツん家までの地図だ」
「森の中に住んでるのか。早速行くことにしよう」
「ところで…お前、1人で大丈夫か」
「どういう意味だ?」
「……まぁいいか。なんとかなんだろ」
「意味がわからん」
話は終わりだ。テメェがわかってねぇのに、教えてやったところでどうしようもねぇしな。
運ばれてきた酒を空いたグラスに注ぐ。
「おい。奢ってやるから飲めや」
「ほぅ。気前がいいな」
「帰還祝いってヤツだ」
「人間みたいなこと」
フクーベの酒を口にするエッゾ。
「久々に飲むと、フクーベの酒は美味い…」
「お前はココが故郷だろ。遠慮せず飲めや。奢ってやるのは今日だけだぜ」
「…ふっ!」
「旅の話とやらを聞かせろや」
「いいだろう。強い奴も山ほどいた。それが面白くてな…」
酒を片手に、旅先で会った強ぇ野郎と絡んだっつう話を延々と喋りやがる。コイツは興奮させちまうといつまでも喋っちまう奴だっつうのを完璧に忘れてたぜ…。
…まぁ、今日くれぇはいいだろ。我慢してやらぁ。
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