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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
337/706

337 強い味方ができた!

 実家へ向かう帰り道でウォルトは姉妹に確認する。


「そろそろフクーベに帰る?誕生日なのに絡まれたりして大変だったろう」

「全然大丈夫です」

「すっごく楽しいですし、絡まれるのはフクーベの方が多いです!」

「それに、まだやり残したことがあって」

「ストレイさんに会いたいです!」

 

 なるほど。


「ボクも2人を紹介したい。そろそろ帰ってくると思うよ」

「ちょっと緊張します」

「大丈夫だよ。母さんに比べると100倍常識のある獣人だからね」

「ミーナさんも非常識な感じはしなかったですよ?」

「凄く普通の人だよね!」

「………」


 もしかして…ボクの感覚がおかしいのか…?実家に着くと母さんが出迎えてくれた。


「3人ともお帰り♪」

「「「ただいま」」」

「そろそろストレイも帰ってくるよ。ふふっ」


 母さんは、なぜか『見物(みもの)だニャ!』とでも言いそうな顔で笑う。凄く嫌な予感がするけど…なんでだ?


 父さんが帰宅するまであと少し。皆でのんびり会話しながら待って、帰ってきたら夕食を準備する流れに。


「リカントとランに会えた?」

「会えました」

「凄く似てました!」

「逆だけど似てるでしょ!2人は気付いたかな?ランはあぁ見えて露出狂なところがあるからね!」

「えぇっ!?そうなんですか?!」


 反応せずに黙ってお茶をすする。


「見せたいのは裸じゃなくて筋肉なんだけど。私はうんざりするくらい見た。女なのに直ぐ脱ごうとするなんておかしいでしょ!」

「確かに大胆すぎます」

「1歩間違えば露出狂ですね!」


 どの口が言っているんだ…?でも、ボクはツッコまない。


「リカントは、あぁ見えてラン一筋なんだよ。基本チャラいけどいい奴だしね!」

「話しても真面目そうでした」

「ランを怒らせると洒落にならないからね~!この町には止められる人がいないかも!」

「凄く強そうでした!」

「でもね~、リカントには結構デレるんだよ!ニシシ!」

「「へぇ~!」」


 個人情報がダダ漏れだ。大事なことは口止めしとかないと。


「ストレイ遅いね~。まだかなぁ~?」


 待ちくたびれた声に反応するように、玄関のドアが開いた音がする。母さんは耳をピンと立てて玄関に向かう。


「ストレイ!おかえり♪」

「む…。ただいま…」

 

 ボクらも、父さんを出迎えようとゆっくり玄関に向かう。


「父さん、おか……えぇっ!」


 まさかの…両親がキスをしている場面に出くわす。あまりの衝撃にフラついた。


「「ウォルトさん?!大丈夫ですか?!」」


 声に反応して目を開けた父さんは、ボクらの存在に気付くと顔を赤く染めてフラつく。そして、母さんが勝ち誇ったように笑った。


 男ならこれくらいやりなさいよ!と言わんばかりに。




「父さん…。久しぶりだね…」

「ん…」


 なんとか落ち着きを取り戻して、父さんにお茶を淹れる。いつもと違って互いに余所余所しい。並んで座るボクらに向かって、事の元凶が声を上げた。


「アンタ達はなんなの!?親子なのに、付き合いたてのカップルみたいに緊張しちゃってさ!」

「なんでもないよ」

「別に…」

「じゃあ、なんでそんなにカチカチなのよ!」


「母さんのせいだろ!」と、声を大にして言いたいけど、父さんも片棒を担いでる。身勝手な三毛猫母さんは「じゃあ、ストレイも共犯だ!」と騒ぎ立てるだろう。それはさすがに可哀想だ。


 確かにおかしなことはなにもしてない。ただ夫婦仲がいいだけのこと。頭では理解してるんだけど、ここ数年で最も衝撃的な光景だった。

 この間は気配を察してばあちゃんに会いにいったけど、今日は完全に頭から抜け落ちてた。まさかウイカやアニカの前でも堂々とやるなんて。昔はしてなかったような気がするけど、ボクが気付いてなかっただけなのか?


「ストレイ!息子が帰ってきて嬉しくないの?!」

「そんなことはない…」


 息子だからわかる。誰かさんと違って父さんは照れ屋なんだ。何十年も一緒にいて知らないはずがない。あえて無視してるのか?


「ストレイさん、初めまして。ウイカといいます」

「初めまして!私はアニカです!」

「私達は姉妹でウォルトさんの友達です」

「今日はフクーベからトゥミエに連れてきてもらいました!」


 ウイカ達がいつもと変わらない様子で自己紹介してくれて、雰囲気が一気に明るくなる。空気を読むってこういうことかな。


「俺は…ストレイ…。ウォルトの…父だ…。よろしく…」


 父さんが微笑むとウイカ達がフラっとする。どうしたんだろう?


「ミーナさん…。予想以上に破壊力が…」

「これは…いかんですね…!」

「でしょ!2人はよく似てるからね!」


 コソコソ話してる女性陣。丸聞こえだけど。似てるってなんだ?父さんも小首を傾げてる。ボクらは親子だし、同じく猫顔だから似てると思う。体型と毛色が違うだけで。サバトじいちゃんも猫顔だった。


「ウォルト!晩ご飯お願い!食べながらゆっくり話そう!」

「わかった。父さんは食べれる?」

「大丈夫だ…」

「「私達も手伝います!」」

「今日は大丈夫だよ。ゆっくり話してて」


 調理のために台所に向かう。



 ★



 お姉ちゃんと私は、ストレイさんにまずお詫びする。


「急に訪ねて来てすみません!」

「お邪魔じゃなかったですか?」

「2人に会えて…嬉しい…」


 ストレイさんは表情も口調もとても優しい。やっぱりウォルトさんのお父さんだ!大っきくてふわふわしてる。


「2人はウォルトに魔法を習ってるんだってさ!」

「そうか…」


 ウォルトさんと私達の関係について説明すると、優しい表情で耳を傾けてくれた。


「という感じで」

「めちゃくちゃお世話になってるんです!」

「ウォルトに…お世話されておくといい…」

「はい!お世話されます!」


『元気だニャ…』とか言いそうに微笑んでくれる。めっちゃいい人の雰囲気出てるなぁ。


「ところで、なんで帰ってくるの遅かったの?」

「帰り道で…獣人を…助けてた…。かなり殴られて…倒れてた…」

「へぇ~。ケンカなんて珍しくないけど、知ってる獣人?」

「若い…馬と鹿だったが…知らない…」


 お姉ちゃんと顔を見合わせて申し訳ない表情を浮かべる。殴ったことに後悔はないけど、ストレイさんに迷惑をかけてしまった…。今度からは治癒院の前に捨て置くことにしよう!


 急にミーナさんの耳がピン!と立つ。


「そうだ!ウイカもアニカも猫吸いしてみる?ストレイのモフモフは気持ちいいよ~!」

「おい…ミーナ…」

  

 私達はニンマリ笑う。


「気持ちだけ頂きます」

「ストレイさんにもミーナさんにも悪いですし!」


 私達はモフモフ好きだけど、モフりたいのはウォルトさんだから!それに、ミーナさんに申し訳ない。私がウォルトさんの番だったとして、他の人にモフられたら嫌だから!


「そっか~!さすがだね!」


 ミーナさんがモフり始めると、ストレイさんは『困ったニャ…』と言わんばかりの顔をしてる。その表情を目にした私達は、心の中で涎を垂らした。


 …すっごい似てるし、決して浮気ではない!お姉ちゃんも同意するはず!

 

「お待たせ。晩ご飯できたよ」

「待ってました!さあ、皆で食べよ~!」


 並べ終えて皆で頂く。


「んん~!美味しいねっ!」

「美味いな…」

「「美味しいです!」」

「口に合ってよかった。甘味も準備してるよ」

「食べるぅ~!」

「母さんにはないよ」

「にゃにおぅ!?」

「噓だよ。ちゃんと母さんの分もある」

「もしなかったら、ランに来てもらって脱いでもらうところだったよ」

「ゴメン!ボクが悪かった!」

「「ふふっ!」」


 ウォルトさんが冗句を言うのは珍しい。家族には軽口を叩くんだなぁ。いつか私達にも言ってくれると嬉しい。



 ★



 ウイカとアニカは優しいな。


 ボクと母さんのつまらない会話でも楽しそうに笑ってくれる。


「ゴメンね。下らない会話を聞かせて」

「下らなくないでしょうが!」

「凄く楽しいです」

「ウォルトさんの意外な一面を見たような気がします!」

「そうかな?」

「それにしても、アンタはストレイより料理上手くなったね」


 父さんもコクリと頷く。


「そんなことない。父さんはボクの料理の師匠だ。まだまだ修行して追いつかないと」

「アンタはいつもそれだね。師匠とかばっか」

「本当だからね。いろんなことで師匠に恵まれてる」

「料理はストレイ?」

「そうだね。ビスコさんっていう凄い料理人もいる。狩りや釣り、精錬や織物にも師匠がいるんだ」

「へぇ~。アタシは?」

「え?」

「アタシはウォルトのなんの師匠?」


 母さんがボクの師匠…?


「なんの師匠でもないけど」

「そんなワケないでしょ!15年も一緒に暮らしてたんだから、なにかあるでしょ!」


 いきなり難解な問題を突きつけられたぞ…。『ニャんだろう…』と悩む白猫と『まずいニャ…』と内心動揺する茶猫。そして『ニャにかあるでしょ♪』と期待に胸を膨らませる三毛猫。


 じっくり悩んだ末に弾き出した答えは…。



「やってはいけないことを身を以て教えてくれる師匠」


『だニャ!』と言わんばかりに笑ったけど、脳天に拳骨が落とされた。薄い舌をおもいきり嚙む。


「いててっ…」

「失礼なこと言うな!バカ息子!」


 食事中なのにコミカルに怒る。安定の動き。


「ゴメンって言いたいけど、他には健康の師匠くらいしか思い付かないよ」

「あるじゃない!なんでそう言わないのよ!」


 健康は、教わるとかじゃなくて遺伝だからなんだけど…。


「それはそうと、ウイカ達は泊まっていく?」

「いえ。ゆっくり休んだので明日からは冒険しようかと思ってます」

「今度ゆっくり泊まりに来てもいいですか!」

「もちろん!アンタ達はもう私の娘みたいなものだからね!」


 大切な友人にそう言ってくれるのは嬉しいけれど。


「距離を詰めるの早すぎない?」

「黙らっしゃい!アタシに言わせれば、アンタはボケッとしてるからダメなんだよ!」

「ちょっとなに言ってるかわからない。ボクのなにがダメなんだ?」

「アンタにはハッキリ言わないといけないみたいね…。鈍いのも大概にしなさい!痛い目をみるよ!」


 人の心の機微には疎いけど、他になにが鈍いっていうんだ?


「母さんには言われたくないなぁ」

「うるさい!だったらアンタは私に似たんだ!」

「そうかもしれないけど、そんなに怒らなくてもいいのに」

「怒らないと話を聞かない分からず屋だからだよ!もう怒られることもないでしょうが!」

「そうでもないよ。しょっちゅう怒られてる」

 

 ボクはいろんな人に説教される。マイペースな頑固猫だという自覚があるから有り難い。

 

「はぁ…。とにかく周りをよく見なさい。人が離れていくよ」


 ランさんと同じことを口にする。


「母さんがまともなことを言うなんて…」

「言わせておけば……もう許さん!ウイカ、アニカ!ウォルトはね、昔はおねしょばっかりしてて…」

「わあぁぁっ!いきなりなにを言い出すんだっ!?」


 焦って止めようとするけど、母さんは止まらない。


「雷も怖がって、鳴ろうものならすかさず私のベッドに潜り込ん…もごもご…」

「ボクが悪かった!謝るから!」


 慌てて口を押さえる。


「…ぶはっ!とにかくちゃんとしなさい!さーちゃんもアニカもウイカもチャチャも同じように大事にしなさぁ~い!」

「言われなくてもわかってる!皆、大切な人なんだ!」

「大切な人の中でも特に大事にしろ!昔の恥ずかしいことを全部バラすぞっ!」

「わかったって!」

「言質とったからね!忘れなさんなよ!」


 ギャーギャー騒ぐ母さんを宥めながら、ウイカとアニカをチラッと見れば、なぜか満面の笑みを浮かべている。


 


「お世話になりました」

「また来ます!」

「いつでもいいよ!ウォルトは置いてきてもいいから!」

「絶対ボクも来る。なにを言われるかわかったモノじゃない。じゃあ、父さん、母さんありがとう」

「いつでも…帰ってこい…」


 歩き出してすぐにお詫びする。


「騒がしいのに巻き込んじゃってゴメンね」

「凄く楽しかったです」

「最高の誕生日だったよね!」

「そう言ってもらえると助かるよ。帰るのが遅くなったけど」

「遅くなって問題ありますか?」

「2人の誕生日を祝いたい人は他にもいるのに、ボクが独占してしまったから」

「気にしないで下さい。嬉しかったです」

「来たのは私達の希望ですから!」


 今年は2人の優しさに甘えよう。町の外に向かいながら一言断りを入れて、ハルケ先生達に挨拶だけと診療所に寄ってみると、タイミングよくハルケ先生が出てきた。心なしかゲッソリしてる。


「おっ…。ウォルトか…」

「先生。フクーベに戻ります」

「そうか。ミシャから聞いたよ…。アイツを治療してくれてありがとう。お前は…凄い男になったんだな」


 ハルケ先生は嬉しそうに笑った。胸が温かくなる。


「魔法が使えるだけです。治癒師じゃないので、完璧に治せたとは言い切れません。でも、ミシャさんになにかあれば可能な限りまた治療します。今度は薬も併用して。いつでも呼んで下さい」

「その時は頼む」


 いろんな魔法を習得した今だから治療できたと思う。もし、ミシャさんの症状が再発したとしても、直ぐに治療できるように治癒魔法の修練を続けよう。


 …と、ミシャさんがドアの隙間から顔を出した。先生とは対照的に肌が艶々してる。


「あっ!ウォルト、帰るの?」

「はい。また来ます」

「気をつけて帰ってね!ハルケ!早く!」

「あ、あぁ…」

 

 腕を引っぱられて先生は中に消えた。全身は見えなかったけど、明らかにミシャさんは服を着てなかったな…。とりあえず見なかったことにしよう。

 

 トゥミエの外に出て一応確認してみる。


「帰りもボクが運ぼうか?」

「「お願いします♪」」


 …よし。とにかく無心だ。男たるものジタバタしてはいけない。今度は抵抗することなく姉妹の身体を密着させる。煩悩は気合いで抑えこむ。


「ウォルトさん。もうハグは大丈夫です」

「かなり落ち着いたと思います!」

「そう?じゃあ、一気に行くよ」


 帰路は駆けながら会話する。少し耐性が付いたのか、若干動揺も軽くなった。


「ウォルトさん。この体勢ドキドキしますか?」

「する。というか、しっぱなしだよ」

「そうですか!実は私達もですよ!」

「そうなの?!やめようか?!」


 それなら他の方法を考える。


「「ダメです」」

「そっか。でも嬉しいよ」

「なにがですか?」

「ボクは男だって認識されてたんだね。てっきり猫の置物くらいに思われてるかと」


 2人がドキドキするということは、恥ずかしいということ。


「「あはははは!」」

「なにか変なこと言った?」

「いえ」

「凄くウォルトさんらしいです!」



 抱きつく力を強めた姉妹は、最高に楽しい誕生日を過ごした帰路でまた幸せを噛み締めた。

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