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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
336/706

336 これは正当な理由

 リカントさんのお宅で、ウイカとアニカは少々辟易していた。ウイカは同盟の食事会中にサマラから聞いたことを思い出す。


「うちのお父さんはねぇ~、いかにも獣人の男って感じだよ」

「乱暴なんですか?」

「そこは獣人っぽくない。優しくてウォルトと同じタイプだね」

「じゃあ、どう獣人っぽいんですか?」

「一言で言うならチャラい!」

「チャラい?」

「女にだらしないの。お母さんが怖いからちょうどいいんだけど」

「恐妻家なんですね」

「そう。なんであんなにチャラいのか。マードックの身持ちが固いのは、お父さんのせいだと思う。あぁなりなくないっていう」


 …なんて言ってたっけ。サマラさんの言葉通り、リカントさんは私達の容姿を褒めたり自慢話をしてくる。

 若かりし頃の武勇伝を語ったりして、少しでも褒めると凄く嬉しそう。本音を言えば私やアニカが苦手とするタイプの男性。サマラさんの父親でなければ、とっくに話を切り上げて脱出してる。

 ただ、さすがに娘の友達だからか口説くようなことせずとも、ひたすらに己のチャラさをさらけ出す。確かに女好きと云われる獣人っぽい。


「アニカもウイカも恋人がいないなんて、世の男達はなにやってるんだ?」

「私達には好きな人がいるので」

「そうか。ところで、サマラはモテるんじゃないか?親バカかもしれんが、あの子は美人だろ」

「モテます!でも、恋人はいないみたいです!」

「いい男を見つければいいがな。ウォルトのような」


 え…?


 アニカと顔を見合わせた。ウォルトさんのことを嫌ってるんじゃなかったの?


「ウォルトさんみたいな…ですか?」

「あぁ。ウォルトは獣人らしくない。だが、賢くて優しいだろう?」

「「はい」」

「サマラは性格が獣人すぎて普通の獣人とは上手くいかないのが目に見えてる。人間が相手なら話は別と思うが」


 冷静な分析だと思う。


「ウォルトさんが恋人になっても文句はないんですか?」

「小さな頃は反対だったな。サマラは男を見る目がないと思った。アイツは、限りなく弱くてサマラを守れるような男じゃなかった。だが、今は違う」

「なぜですか?」

「普通の獣人にはできないことができる。お前達は…アイツが薬を作れることを知ってるか?」


 揃ってコクリと頷く。なぜリカントさんが知ってるんだろう?


「そうか…。少し前に、この町で伝染病が流行った。獣人だけが罹るヤツだ。何日も動けないくらい苦しくてな。町の獣人が全員だ」

「どうなったんですか?」

「ある日、突然薬が出回った。飲めばあっという間に治る凄い薬が。しかも、タダでもらってな」

「その薬をウォルトさんが作ったんですか?」

「あぁ。ランがミーナから教えてもらったらしい。だが俺は信じなかった。ハルケを問いただして、苦笑いではぐらかされたから確信した」


 リカントさんも、ウォルトさんのように匂いで噓を見破れるとかあるのかも。


「そんなことがあったんですね」

「ウォルトは…力は弱いが人を守れる獣人だ。単純な話だが見直した。アイツはそんなこと思われたくもないだろう。子供のアイツに冷たくあたったことを忘れていないはず。そんな奴も治すような薬を……普通の獣人は作ったりしない」


 苦笑するリカントさんを見て、確かにウォルトさんっぽいと思った。かなりチャラいけれど思慮深いところがある。


「サマラは力が強いだろう?」

「「はい」」

「ランに似たんだ。だから、サマラを守るような男じゃなくていい。あの子を笑顔にして、幸せを与えるような男がいてくれると安心できる」

「私達もその意見には賛成です」

「リカントさんみたいに優しい人がいいですね!」

「そうか!やっぱりそう思うか!」


 その後は、気をよくしたリカントさんの自慢話を延々と聞かされ、さすがにお腹いっぱいになった私達はウォルトさんを待たずに探しに行くことにした。





「サマラさんの言ってた通りの人だったね」

「イケメン獣人だけど自慢話が長い!」

「ランさんとウォルトさんは仲良く話してるかな?」

「ケンカにはなってないと思うけど」


 会話しながらトゥミエを散策する。食材を買いに行ったと思うけど、店がどこなのか知らない。初めて訪れた町を楽しく見回っていると、人気のない通りで声をかけられた。


「おい!そこの女ども!」


 この声の大きさと横柄さは獣人だ。フクーベでも何度か経験があるけれど、獣人の男はなぜ偉そうなのかといつも思ってる。慣れているので、とりあえず無視しよう。


「コラァ!無視すんな!」


 男2人が前に回り込んできた。断言できないけど、おそらく鹿と馬の獣人。


「なにか用ですか?」

「お前ら、見ねぇ顔だな。俺らと遊ばねぇか?」

「結構です」


 氷の微笑で華麗にスルーできたと思ったけど、しつこく絡んでくる。


「つれねぇな。人間のションベン臭ぇガキが、声かけてもらって光栄に思えや」

「光栄です。満足ですか?」

「テメェ…。女のくせに、あんまイラつかせんじゃ……ん?」


 なにかに気付いた風。


「なんですか?」

「お前ら…さっき白猫と一緒にいた奴らか?」

「白猫って、ウォルトさんのことですか?」

「ハハッ!お前らみてぇな人間のガキを騙してんのか。あのクソ猫は!」


 眉間に皺が寄る。クソ猫…?


「どういう意味ですか?」

「お前らは騙されてんぞ?雑魚ちゃんによ」

「雑魚…?」

「ガキは知らねぇだろうが、獣人っつうのは強ぇ奴が偉いんだよ。アイツは人間よりは強ぇだろうが、獣人じゃ底辺も底辺だ。俺らもガキの頃は暇潰しによくボコってたなぁ。どっかで上手く騙されて簡単にヤられちまったんかぁ。可哀想になぁ」

「悲惨だな!モノを知らねぇっつうのは罪だぜ!クククッ!」


 コイツらは……なにを言ってるの…?


「やられてませんけど」

「そうかよ。じゃあ…ホンモノの獣人を味あわせてやるから黙って付いてこいや!」


 嘲笑する獣人を睨みつける。コイツらは過去にウォルトさんを痛めつけた奴らだ…。

 許せない……。でも…手を出したらウォルトさんが悲しむ。震える肩にポンと手が置かれた。


「お姉ちゃん、相手にしちゃダメだよ!コイツらはバカなんだよ!人をバカにすることしかできない悲しい奴ら。だって馬と鹿だからね!」


 獣人は顔色を変える。


「テメェェェ!今、なんつった!?」


 アニカは私の前に出る。


「耳のいい獣人のくせに聞こえなかったの?それとも私の冗談が難しすぎた?もう一度言ってあげるよ。馬と鹿は東洋じゃ合わせてバカっていうんでしょ?愉快なコンビだね」

「クソガキがぁっ…!!噛み殺してやる!」


 馬の獣人が殴りかかってきた。アニカは『身体強化』で拳を躱すと、鳩尾に拳を打ち込む。


「おっらぁぁっ!」

「ゴフッ…!くっ…クソがぁぁ!」


 馬の獣人の身体がくの字に折れ曲がる。


「おらおらおらおらぁ!」

「ガハァァァ…!!」


 顔が下がったところに、鬼の形相で連打を浴びせる。馬の獣人は反撃できず崩れ落ちた。


「クッソアマァァ…!なにしてっか、わかってんのか!コラァァ!」

「うらぁ!」

「ガハァッ…!!テんメェ…!」


 アニカに襲いかかろうとした鹿の獣人を私が横から蹴り飛ばす。


「まとめて…ぶち殺してやる!」


 目を吊り上げて襲いかかってきたけど、速さも怖さもない。力が強いから掴まれるのだけを警戒する。拳を躱して膝を足裏で踏みつけるように蹴った。


「砕けろっ!」

「グァァァッ…!」


 膝がグチャッ!と嫌な音を立てて倒れ込んだ。苦悶の表情を浮かべる獣人を、黒い瞳で見下ろす。


「テメェェェ…!タダで澄むと思うなよ!白猫ごとぶち殺してやる!」

「メーメーうるさい。鹿じゃなくて山羊なの?」

「こんの……ガキャァァ!二度と口がきけねぇようにしてやらぁ!」

「弱い獣人ほどよく吠えるらしいね。知ってるよ?」


 この状況で威嚇するような言葉を吐く獣人に呆れる。どの口が言っているのか。


「アニカ。教えてくれてありがとう」

「どういたしまして!」

「コレは…私怨じゃないもんね」

「そう!絡まれたのは私達で、殴られそうになったから正当防衛で反撃しただけ!そして、コイツらは獣人。だから、獣人のやり方でいいんだよ!」


 私達は被害者だ。反撃するのに過去のウォルトさんへの所業は関係ない。教えてくれたアニカに感謝。ウォルトさんは軽視されただけ。ただし…それが一番許し難い。


「確か、獣人は徹底的にやるのが普通なんだよね?」

「そうだよ」

「ウォルトさんを殺すって言った」

「絶対無理だけど…許せない!」

「なにをゴチャゴチャ言ってんだ!コラァ!」

「言ってるのは私達じゃないよね?」

「勘違いも甚だしいよ!手加減してあげてることに気づいてないのもね!」


 コイツらは、私達を……女を舐めてる。脅せば言うことを聞く。力でどうにでもできると。毎日のように身体を鍛えて、魔物と闘っている私達を…だ。不愉快極まりない。やれるものならやってみろ。


 私とアニカは、起き上がった獣人に向かって駆け出した。



 ★



 ランとウォルトは、買い物を終えて家路についていた。


「「ウォルトさぁ~ん!」」


 声のした方に目をやると、アニカとウイカが遠くから笑顔で駆けてくる。


「モテるな。あの子らはわざわざ探しに来たんだろ」

「そんなんじゃないですよ」

「けっ!アタシは帰るからアンタも家に帰んな」

「お疲れさまでした」

「また来いや。今度こそ負けたら脱いでやるから楽しみにしとけ。ガハハハ!」

「大丈夫です」

「なにが?」


 脱ぎたがりのランさんと別れて、ウイカ達と合流する。


「探しに来てくれたの?ありがとう」

「私達、ウォルトさんに伝えなきゃいけないことがあって」

「どうしたの?…ん?」


 2人から…血の匂いがする…。


「どこか怪我したの…?大丈夫?」

「怪我はしてないです。向こうで馬と鹿の獣人に絡まれて、付いていくのを拒否したら口喧嘩になったんです。殴りかかってきたから撃退したんですけど」

「えぇっ!?大丈夫だった?!」


 まさかそんなことが起こってたなんて。


「私達は平気なんですけど、獣人流にやってしまったので」


 サマラと交流がある2人は知っている。獣人流ということは、かなり痛めつけたんだろう。それで血の匂いがするのか…。


「相手は大丈夫そう?」

「命に別状はないです」

「カバロとケルスっていう名前みたいでした!」


 絡んだのはアイツらか…。例に漏れない女好きだから変なことをされなくて本当によかった。シルバが相手ならわからないけど、アニカ達なら油断しない限りアイツらに負けることはない。

 とりあえず、昔からの知り合いだということは黙っておこう。バレたら黒い目になりそうだ。それだけは避けたい。せっかくの誕生日に気分を害してほしくない。もうしたかもしれないけど。


「もしかすると、ウォルトさんやミーナさんに迷惑がかかるかもと思って」

「やり返しただけなんですけど、逆恨みされるといけないので!」

「大丈夫だよ。そんなことをしたらボクが徹底的にやる。君達が無事ならそれでいい。母さんにも言っておくから」

「怖かったから、あとでハグしてもらっていいですか?」

「私もお願いします!」

「落ち着くまでいくらでもするよ」



 ★



 私とアニカは、過去にウォルトさんを傷付け自分達に害をなそうとする獣人を殴り倒した。アイツらは口ほどにもなくて、雑魚という言葉をそっくりそのまま返した。

 尊敬するウォルトさんを、バカにしたり傷付ける輩は許せない。自分がバカにされる何倍も腹が立つ。

 自分勝手に復讐したら悲しませるのは知ってる。でも、正当な理由であれば殴り倒しても納得してくれるはず。だってウォルトさんは獣人だから。

 こちらからは仕掛けたりしない。それでも言われたら言い返すし、やられたらやり返す。争ったりしても今日のようにちゃんと伝えよう。嘘を吐かない師匠に対する私達の誠意。

 

 ハグについてはちょっと噓だけど、おまけってことで。

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