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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
332/706

332 行ってみたかったんです!

 アニカの誕生日を迎えた。


 ウォルトが起床すると、ウイカとアニカの頭が両胸の上に載っていた。

 顔が近くて髪のいい匂いがする。アニカ達といても大抵のことでは動揺しなくなってきたけど、こんなことでいいんだろうか?

 アーネスさんとウィーさんに対して申し訳なく思いながら嫌ではない自分がいる。2人は友人だけど、妹がいたらこんな感じかな。


 姉妹の柔らかい髪を指で梳いて、優しく語りかける。


「もう朝だよ」

「ん…。うぅん…。むにゃ…」

「う~ん…。すぅ…すぅ…」

「仕方ないお嬢様達ですね。もう少しお休み下さい」


 顔を逸らして、なかなか起きない姉妹の頭を優しく撫で続ける。実は起きていることに気付かずに。



 ★


 

「ゆっくり眠れてスッキリです」

「朝食からウォルトさんの料理を食べられるなんて幸せだね!」

「お代わりもあるよ」


 仲良く朝食をとって、本日の予定について話し合う。


「今日はなにかやりたいことあるかな?」

「私は3人でクエストに行きたいです」

「いいね!もらった魔装備の使い方も教えてもらえるし!」

「ボクはいいけど、それでいいの?」

「「はい!」」


 誕生日のアニカは思う。


 本当なら「街でデートしたいです!」と言いたい!…けど、ウォルトさんがフクーベにいい思い出がないことを私もお姉ちゃんも知ってる。

 たまに足を運ぶようになった今でも用がない場所には行こうとしないし、用件が終わると直ぐに帰っちゃう。自分からココに泊まると言ってくれたのも凄いことだ。

 いくら誕生日とはいえ、我が儘で気を使わせるくらいなら人目に付かない場所でゆっくり楽しく過ごしたい!


「ボクに気を使わなくていいよ。フクーベでやりたいことでもいいし、どこにでも付き合うから」

「気を使ってるつもりはないです」

「そう言ってもらえるなら、行きたいところがあります!お姉ちゃんと行ってみたいって話したことがあるんですけど!」

「えっ?どこ?」


 お姉ちゃんに耳打ちすると笑顔になる。


「ねっ♪」

「うん。行ってみたい。ウォルトさんがよければ」

「ちなみにどこ?」





 外出の準備を整えると、家を出てウォルトさんが合鍵で施錠する。


「オーレンから合鍵をもらったんですね」

「渡すのが遅すぎたくらいです!いつでも来て下さいね!」

「ありがとう」


 並んで目的地へと歩き出す。


「本当にいいの?」

「はい!」

「是非行きたいです!」


 クエストを取り止めた私達は、軽装に着替えて足取りも軽い。フクーベの街を出て、森に向かってしばらく歩いたところでウォルトさんが提案してくれる。


「結構遠いから、ボクが2人を運んで駆けようか?人運びみたいに」

「トレーニングを兼ねて走りたいです」

「そうだね!そこまで迷惑をかけるワケにはいかないです!」


 ウォルトさんに重いと思われたくないから、丁重にお断りする。最近食べ過ぎてるから~!


「そっか。2人とも凄いね」

「ちなみに、私達を運ぶってどうやるんですか?1人ならおんぶでしょうけど」

「ちょっと窮屈だと思うけど、協力してくれる?」


 ウォルトさんの言う通りに準備してみた。


「この状態で駆けるつもりだったんだ」

「アニカ…」

「うん…」


 私はウォルトさんにおんぶされて、お姉ちゃんは前から上半身に抱きついてる。姉妹でウォルトさんを挟み込む態勢。背中からお尻の辺りまでを『捕縛』の網でしっかり包み込んでくれて、赤ちゃんのだっこ紐のように安定してる。前後から首に手をかけるように抱きついてるけど、手を離しても問題ない。


 けど、コレは…。


「近すぎて恥ずかしいよね。実際やってみて思った。『捕縛』を解除するよ」

「あの…ウォルトさん!このまま移動をお願いしても大丈夫なんですか!?」

「私達、重くないですか?」

「全然だよ。2人でも軽いからほとんど負荷にならない。非力なボクでも、マードックくらい体重がないと重いと思わないからね」


 お姉ちゃんは私に目で合図してきた。長年の付き合い、そして姉妹だから思考は丸わかり!そして大賛成!


「このまま行きたいです!」

「お願いできますか?」

「構わないよ。ボクが言い出したことだし」


 ふっふっふっ…!ウォルトさんは賢い人だ。でも、考えが甘い!お姉ちゃんと目で会話してお互い頷く。


「じゃあ、お願いします。あと、走りにくいと思うのでもっと私達の身体を網で密着させて下さい」

「ギュギュギュッ!とやっちゃって下さい!」

「えぇ…?!それは……どうかな?このままでも駆けれるし、特に問題ないよ」


 歯切れが悪いウォルトさん。私達はなぜなのかわかってる。だって当たるもんね!


「今日はアニカの誕生日ですよ?やってほしがってます」

「そうなんです!よろしくお願いします♪」

「う、う~ん…」


 ウォルトさんは少しずつ網を縮める。


「このくらいでいいよね」

「まだかなり隙間が空いてますね。安定感に欠けます」

「もっとです!まだまだいけます!」


 さらにちょっとだけ縮める。魔法操作が繊細すぎて逆に凄い。こんな微妙な操作は私には無理。さすがは師匠と言わざるを得ない。


「このくらいが限界だね」


 もう無理だとアピールしてるつもりでしょうが……そんなワケないでしょう!


「アニカ……言っちゃって」

「お任せあれ!こんな状態では、身体が揺れて走りにくいわ!執事ならば私がいいと言うまで縮めなさいっ!オホホホ!」

「かしこまりました…」


 お嬢様というより我が儘貴婦人みたいな言い回しになったのに、なんだかんだ言われた通りにしてくれる。優しくて大好きだ!


「このくらいでしょうか?お嬢様」

「もっとよ!」

「では…このくらいでは…?」

「もっともっとぉ~!全然足りないわぁ~!」


 遂にウォルトさんの身体に当たった。なにがとは言わないけど!むしろ私達が当てにいってると言っても過言ではない!

 普段ハグしてるときは多少遠慮してるけど、今日は誕生日でめでたいからよしとします!

 サマラさんとチャチャに負けてられないからね!2人は既に当てたことがあると言ってたから!追いつけ追い越せ!


 後ろから見ても顔が真っ赤に染まってる。なんせ攻撃力が2倍だ。ウォルトさんの照れる顔はめちゃくちゃ可愛くて、私達の大好物。前から見れるお姉ちゃんが羨ましい!


「お嬢様…。もう本当に限界でございまして……」


 えぇい!往生際の悪い執事だっ!


「もちろんダメよ!ウイカお姉様!」

「わかってるわ!アニカ!」


 ウォルトさんにギュギュギュッ!と前後から密着する。


「わぁぁぁ!#☆@*△!」

「このまま『捕縛』で固定しなさいっ!反論は一切認めない!」

「『頑固』の使用も禁止よ!オホホホッ!」


 

 


 目的地に辿り着いたウォルトさんは、見たことないくらい疲れてる。道中、私とお姉ちゃんは前後を交替して幸せを噛み締めながら運んでもらった。

 ウォルトさんの頭を挟むように前後から首に抱きついて楽しく会話しながら来た。


「フゥ~…フゥゥッ…」

「ウォルトさん、お疲れさまでした」

「爽快で最高でした!めっちゃ速かったです!」


 もの凄い速さだった。多分だけどカネルラにウォルトさんより走るのが速い人はいない。魔法込みでの話だけど。


「多分過去最速だったと思う。『身体強化』も付与しっぱなしで、普段なら2時間以上かかるけど半分以下の時間で到着したからね」


 フクーベからココまで1時間かかってない。驚異的な速さだ。


「全然スピードが落ちなかったです」

「魔法で体力を回復してたし、心を無にした。アニカとウイカのおかげで新たな境地に足を踏み入れたような気がするよ」

「「どういたしまして!」」

「じゃあ行こうか」

「楽しみです!」


 私達がやってきたのは、ウォルトさんの故郷であるトゥミエの町。白猫同盟の長女サマラさんの故郷でもある。一度は行ってみたいと姉妹で話していた。


「トゥミエに入る前に言っておきたいことがあるんだ」

「なんですか?」

「ボクのせいで獣人に絡まれたりするかもしれない。でも、なにもさせないから安心してほしい」


 そうだった…。この町は、故郷とはいえ「ウォルトに思い出は少ないと思う」ってサマラさんから聞いている。テンションだけで連れてきてもらって、猛烈に反省した私達の気持ちを察したのか、ウォルトさんは微笑む。


「ボクのことは気にしなくていい。いい思い出はないけど、故郷だからいつまでも避けてられない。それに、2人と来れて嬉しいんだ」

「嬉しい…ですか?」

「ボクはクローセで色んな人と交流できて嬉しかった。2人をボクの家族に紹介したい」

「そう言ってもらえるなら…存分に楽しませてもらいます!」


 トゥミエの町に入って、まずウォルトさんの実家を目指す。


「先に謝っておくけど、実家では迷惑をかけるかもしれない。その時はゴメンね」

「実家になにかあるんですか?」


 私とお姉ちゃんが突然訪ねて迷惑をかけるかもしれないけど、かけられはしないような。


「ボクの母さんは思い込みが激しいんだ。2人を…恋人と勘違いする姿が目に浮かぶ…」


 そんなのどんと来いだ!


「全然大丈夫です」

「その辺りの対処は私達に任せてください!上手くやります!」


 なんの問題もない!むしろアピールしておこうっと!


「ありがとう。嫌だったら直ぐに言ってね。ボクが止めるから」


 そんなこんなでウォルトさんの実家に辿り着いた。外観は大きくなく小さくもなく普通の家。ウォルトさんが住んでたと思うだけで感慨深い。


「多分母さんはいると思う」


 ドアをノックすると、中から「はぁい!」と女性の声が聞こえた。きっと母親のミーナさん。パタパタと近づく足音がして、私達はちょっと緊張する。


「誰~?…って、ウォルト!」


 ドアが開いて三毛猫の獣人が顔を出した。


「母さん。ただいま」

「はいよ、おかえり……って、女の子がいる!?誰っ?!」


 私達に気付いて目を丸くしたミーナさんは、サマラさんやチャチャと同じく顔はほぼ人間で、ウォルトさんとは似てない。


 そして、凄く若くて可愛い!まずはしっかり挨拶から!


「初めまして。ウイカといいます」

「初めまして。アニカといいます!」

「2人は姉妹でボクの友達なんだ。母さんに紹介したくて」


 ミーナさんはプルプル震えだす。


「私に……女の子を紹介……。こんのっ…バカ息子っ!」

「ぐふぅっ…!」

「「えぇっ!?」」


 ミーナさんはウォルトさんの腹に突然パンチを繰り出した。完全に油断してたのか、ウォルトさんは鳩尾にまともに受けて息ができてない。逆にミーナさんの鼻息は荒い。


「女の子を連れてくるなら準備があるんだから、前もって言っておきなさいよっ!」


 母は憤慨、息子は悶絶してる。ウォルトさんが殴られた姿を初めて見た。手合わせしても一度もクリーンヒットさせたことがない。


「ウォルトさん、大丈夫ですか?」

「『治癒』かけますよ!」

「ありがとう…大丈夫だよ…。母さん、いきなり殴っちゃダメだよ。2人も驚くよ」


 ハッ!として、ミーナさんは私達を見る。


「ゴメンね!驚かせるつもりはなかったの!いつもはこんなことしないから!」

「大丈夫です」

「ミーナさんは可愛いのに強いんですね!」

「か、可愛いっ?!私がっ?!」


 ミーナさんは口を開けたまま固まって放心状態。


「ミーナさん…?」

「大丈夫ですか…?」

「息子のボクにもどういう感情か見当がつかない。唯一わかるのは、アホ面の三毛猫だってことだけだね」


 口が悪いウォルトさんは珍しい!仲のいい親子だから言っちゃうんだろうな~。


「とりあえず中に入ろう。先ずは説明しないと母さんは混乱してる」

「それにしても、ミーナさんは凄く可愛い方ですね」

「凄く若いです!ウォルトさんのお母さんには見えなくてお姉さんみたいです!」


 お世辞じゃない。美人というより可愛い系で凄く若く見える。ミーナさんの耳が激しく動いたかと思うと、目を輝かせて私達の手を取った。


「ウイカとアニカね!」

「はい」

「そうです!」

「よく来てくれたね!私は大歓迎!中に入ってゆっくり話そう♪息子よ!お茶淹れて!」

「「よろしくお願いします♪」」


 ミーナさんは、私達を居間に連れて行ってくれる。


「はぁ…。2人に迷惑かけないといいけど…」


 ウォルトさんはゆっくり台所に向かった。

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