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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
33/706

33 怪我の功名?

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 雨が降り止まない昼下がり。


 ウォルトは軽く昼食を終えると、今日は住み家に籠もって研究三昧と考えていた。


 研究といっても、なにかの真理に迫るとか魔改造を極めるといった大層なモノではなく、主に魔法の改良と新たな薬の開発。研究というより考案といったほうが正しいかもしれない。

 机に向かって今日は魔法を改良しようと意気込んでいたら、玄関のドアがノックされる。こんな雨の日に誰だろう?


 玄関に向かいドアを開けるとアニカが立っていた。傘もささずに来たのかずぶ濡れ。


「いらっしゃい。中に入って」

「ウォルトさん…。こんにちは…。突然ごめんなさい。…私……冒険者をやめるかもしれません…」


 突然の告白に思わず表情が険しくなる。


「話はあとにしよう。とにかく中に入って」

「お邪魔します…」


 このままでは身体が冷えて熱を出してしまいかねない。


「こんな服しかないけど着替えて。浴巾(タオル)が足りなかったら呼んでくれたら持っていくよ」

「ありがとうございます…」


 アニカ達がいつも使っている部屋で着替えてもらいながら、その間に温かいお茶を淹れる。

 渡せる服は、ボクが寝間着代わりにしている貫頭衣しかない。年頃の女性に申し訳ないけど、他に持ってないので我慢してもらおう。



 しばらくして、アニカが部屋から出てきた。なんの気なしに目をやると、驚きで丸い目がさらに丸くなる。

 アニカは渡した貫頭衣を着てくれてるけど、明らかにサイズが大き過ぎる。胸元ががっつり開いて、丈が中途半端な長さのワンピースみたいだ。太腿から下の生足が露わになってしまっている。ほんのり頬を赤く染めて恥ずかしそう。


 ダメだ!判断を誤った!


 直ぐに目を逸らす。あられもない姿に着替えさせた挙げ句、見てしまってホントに申し訳ない!どうにかしなきゃ!


 考えを巡らせる内にあることを閃いた。


「サイズが合わない服を渡してゴメン!ちょっと思いついたことがあるから濡れた服を持ってきてくれないか?」


 お願いすると意外な答えが返ってきた。


「乾くまでこの服のままでいいんですけど」


 ちょっと声が元気になってるような…。気のせいかな?


「よくないよ!肌の露出が多すぎる!いや、ボクのせいなんだけど…。大きな声を出してゴメン」

「ウォルトさんが動揺してるなんて…。珍しいですね♪」

「いいから早く持ってきて」


 耳がいいから呟いても丸聞こえだ。なぜ機嫌がよさそうなのか。


「このままでいいのに…」


 アニカは渋々といった口調で濡れた服を持ってきてくれた。出来る限り見ないようにしながら受け取ると、部屋干し用のロープに服を引っ掛ける。


「今日試そうとしてた魔法を使ういい機会だ」

「新しい魔法を試すんですか?」

「新しくはないけど、魔法の改良をしてみようと思って」

「魔法を改良!?そんなことできるんですか?」

「改良だから大きく変化するワケじゃないよ。ちょっと便利になるくらいかな」

「へぇ~!近くで見ていいですか!?」


 アニカがすぐ隣に来て、思いがけず開いた胸元が視界に入る。断じて見ようとしたワケじゃない。目をギュッと瞑った。


 顔が熱い…。真っ赤に染まってるのが自分でもわかる。



 ★



 ウォルトの反応は目ざといアニカに気付かれていた。


 ウォルトさんが真っ赤になってる!めっちゃ可愛い!ちょっと恥ずかしいけど怪我の功名!

 初めて照れた表情を見れたことで、さっきまで落ち込んでいたことすらすっかり忘れて、小悪魔全開の笑顔で次の行動を待つ。


 少し経って落ち着きを取り戻したウォルトさんは、私を見ないようにしながら説明を始めた。

 ホントに真面目な獣人だなぁ。相手がウォルトさんだから堂々とこんな格好をしてると言っても過言じゃない。貫頭衣を渡されたときはちょっと心配だったけど、まさかこんな意外な一面が見れるなんて!


「魔法には生活魔法や戦闘魔法があるのは知ってるよね?」

「はい。あと補助魔法や付与魔法なんかもそうですよね」


 グイッ!と無理やりウォルトさんの視界に入ろうとしたけど、見ないように身体の角度を変えられてしまった。


 むぅ…。素早い…。けど、今は女性らしさをアピールするチャンス!逃してなるものか!


「その通りだね。今から戦闘魔法を組み合わせて生活魔法として使えないか試してみようと思う」

「そんなこと可能なんですか?」

「わからないから試してみるんだ。服は傷まないように魔力を調整するから心配しなくていいよ。じゃあ、やってみる」


 集中したウォルトさんは、右手に炎を、左手には渦巻く風を発現させた。


 コレって…魔法の多重発動じゃないの…?


 2つ以上の魔法を同時に発動するのは不可能だって云われてるはず…。でも、ウォルトさんは容易くやってのけた。

 混乱しながら見ていると、そのまま両手をゆっくりと重ね合わせるようにして干した服をめがけて解き放つ。すると、温かい風が優しく吹き抜けて服が前後に揺れると同時に水蒸気が立ち昇った。


「成功したと思う。服に触れてみて」


 濡れてびちょびちょだったはずの服に触れて驚く。


「ほとんど乾いてます!凄い!」

「魔法の配分を少し間違えたね。微調整したら次は大丈夫だと思う。この魔法は、名付けるなら『速乾(カーク)』ってとこかな。とっくに誰か使ってるだろうけど」


 言葉通りウォルトさんが再度魔法を放つと完全に乾いてしまった。


「乾いたから着替えていいよ」


 相変わらず視線を外したまま着替えを促してくる。『早く着ニャいと!』って言いそうな顔をしてるけど……そういうワケにはいかないんです…!まだまだ足りてないので♪


「このままでいいんですけど」


 もっとウォルトさんの照れる表情を見たい!だから拒否気味に告げてみた。


「ダメだよ!ただでさえ、さっきまでずぶ濡れだったんだから!熱が出るよ!」


 ウォルトさんは珍しく強い言葉を発する。優しさから言ってくれてるのがわかるし、おそらく半分は困ってる。残念だけど…。


「じゃあ着替えてきます!!」



 ★



 アニカは頰を膨らませたまま不機嫌そうに部屋に戻った。部屋に入ったのを確認して胸をなで下ろすウォルト。


 ボクを信用してくれてるんだろうけど、アニカはちょっと無防備すぎるな。今度オーレンに頼んで注意してもらおう。着替えて戻ってきたアニカと淹れ直したお茶を飲む。


「先に話を聞かなきゃいけなかったのに、後になってゴメンね」

「いえ!いいんです!珍しいモノが見れました!」

「冒険者をやめるかもしれないって言ったのはなぜだい?」

「それは…この間教えてもらった魔力の調整が上手くならなくて、行き詰まっちゃって…。私には魔法の才能がないんじゃないかって…」

「なるほど」


 アニカは間違いなく才能豊かな魔法使い。教えているからこそ理解してる。ボクとは比べものにならない可能性を秘めているけど、それでも行き詰まることがあるのも理解できる。

 魔法の修練では、いかに壁を乗り越えられるかが重要だとボクは思っていて、どう助言すればいいか悩んでいると…。


「でも、もういいんです」

「え…?」

「さっきのウォルトさんの魔法を見て思ったんです。いろんなことを試して失敗しても次こそは!って気持ちが大事なんだって」

「そうだね」


 何度でも乗り越える努力が重要。


「教えてもらうだけじゃなくて、自分で考えて悩んで身につけなきゃいけないんです!やる気出ました!ありがとうございます!」

「その意気だよ」

「なにも言ってないのに、問題解決しちゃうウォルトさんは凄いです♪」

「完全にたまたまだけど」

「あと、ウォルトさんにお願いがあります!」

「なんだい?」

「今日は雨がやみそうにないし、傘も持たずに来たんで泊まってもいいですか?」

「構わないよ。食材も充分あるしね」



 ★



 よっし!


 お泊まりの許可が出て私は心の中でガッツポーズを決めた。邪魔者(オーレン)がいない初めてのお泊まりだ!寝る前は懲りずにまた貫頭衣も着ちゃったりして…。ふふっ!

 

 …と、玄関からノックの音が聞こえた。


「誰だろう?」

「私が行きます!」

 

 ウォルトさんの知人なら是非挨拶しておきたい。恋人に間違えられちゃったりして!


「はぁい!」


 ドアを開けると、傘をさした笑顔の邪魔者(オーレン)が立っていた。


「いつの間にかいなくなったと思ったら、お前も来てたのか。いやぁ、剣術でちょっと行き詰まってさぁ~。雨で稽古もできないし、助言もらいにきたんだよ。ウォルトさんは?」


 私は優雅に笑う。


「家、間違えてますよ?」


 素早くドアを閉めて鍵をかけた。


「開けろっ!!おいアニカ!開けろって!ふざけんな!おいっ!」


 バカ兄貴分め…!ふたりっきりでゆっくり過ごせると喜んだばかりなのに……邪魔されてなるものか!!


 オーレンがドアを叩きながら騒ぐので、聞きつけたウォルトさんが玄関に来た。


「オーレンの声が聞こえたけど、どうかした?」


 耳がよすぎて、やっぱりバレてた~。


「オーレンに擬態した妖怪雨降らしが現れて、侵入されそうになってます!なんとか防ぎました!!」

「えぇっ!?」


 そんな嘘が通用するはずもなく、オーレンは招き入れられてウォルトさんの提案で一緒に泊まっていくことになった。


 …タイミングが悪すぎる!嫌がらせとしか思えない!


「ウォルトさん…。俺…凄く怖いんですけど…」

「そうだね…。アニカは怒ってるっぽいけどなんでかな…?」


 私はしばらくオーレンを睨み続けた。




 次の日。


 どうやらウォルトさんから聞いたらしく、オーレンが帰路の途中で貫頭衣の一件をニヤニヤしながら注意してきたので、ボコボコに殴って森に捨て置いた。

読んで頂きありがとうございます。

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