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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
324/707

324 勘違いじゃなくて…別問題

「見られるの嫌だったろう!俺が好奇心で訊いたばっかりに!」


 どうにか正気を取り戻したスザクさんはボクに平謝り。油断すると土下座しかねない勢い。ちょっと悪ふざけした自覚があるので、「変なモノを見せてすみません…」と同じく頭を下げた。正直心苦しい。


 その後、スザクさんは「知り合いに挨拶してくる」と申し訳なさげに席を外し、すったもんだしている内に魔法武闘会の準々決勝が始まった。


 ボクは仕合を食い入るように見つめる。どの魔導師も本当に素晴らしい魔法を放つ。舞台に上がるのは、確かにデルロッチさんと同等以上の技量を備えた魔導師ばかり。魔法武闘会の名に恥じない名勝負。


「マードック…」

「なんだよ?」


 通路の出口付近で闘いを見つめながら話し掛けると、退屈そうに通路の端に寝転ぶマードックが答えた。


「最高に楽しい。今日誘ってくれてありがとう。観れたのはお前のおかげだ」

「…けっ!まだ仕合は終わってねぇぞ」

「わかってる。絶対に勝たせる」

「お前が勝たせるワケじゃねぇだろ!俺らで勝つんだろうが!勘違いすんじゃねぇ!」

「あぁ。そうだな。3人で勝とう」


 やがてデルロッチさんの出番を迎えた。放つ魔法を観察する内に、あることに気付く。まさか…コレが原因でマードックやエッゾさんは獣人を嫌ってると言ってるんじゃ?


 そんな疑念が浮かんだとき、スザクさんが戻ってきたので確認してみる。


「いい勝負してるか?」

「デルロッチさんが対戦してます。スザクさん…」

「どうした?」

「もしかして…マードック達がデルロッチさんを嫌ってるのは、獣人が嫌がるような魔法を得意とするからですか?」


 スザクさんは感心したような表情を浮かべた。


「仕合を見ただけでわかるのか。アイツは炎系だったり能力低下の魔法を得意とする。獣人からすると相性が悪い。でも、単なる偶然なんだよ」

「デルロッチさんは素晴らしい魔導師です。全ての魔法が万遍なく磨き上げられてます。その中でも、その特性が得意だから威力が高いというだけで」

「その通りだ。デルロッチは「獣人が嫌いじゃないと理解してもらえない」と言ってた。誰かが言い出した噂だったんだろうけど、見事に合致したんだよなぁ」


 でも、きっとそれだけじゃない。おそらくだけど…。


「もしかして…デルロッチさんは細かい性格か理詰め思考の持ち主ですか?」

「ははは!よくわかるなぁ」

「そうでなければ、あれほど万遍なく魔法を磨けないです。ただ、その性格だと…」

「獣人とは合わないと言いたいんだろ。大正解だ。話してもそんな感じだから余計嫌われる。もうどうしようもないんだよ」


 ボクは獣人だからわかる。デルロッチさんはほとんどの獣人にとって天敵。永遠に交わることのない平行線。


「親しくなろうと努力したことはあるらしい。でも、話しても通じなくて関係が余計悪化したんだと。だから諦めてる節もあるんだ」

「仕方ないことです」

「結局のところ、デルロッチも獣人は嫌いじゃないけど大の苦手でね。要するに水と油ってヤツかな」


 ハッキリ言ってしまった。この問題は凍結しておこう。ボクはデルロッチさんを知らないし、首を突っ込んでもろくなことにならない。



 ★



 ウォルトが仕合に集中している横で、スザクは真剣に推察する。


 猫面の魔導師サバトは、疑う余地もない優秀な魔導師。普通の魔導師なら、デルロッチの魔法を見ただけで細かいところに気付くワケないことくらいわかる。

 どんな理由か知らないが、顔面を焼かれてもなお人に優しく生きている男。暑いのに手袋をしてるのは腕の火傷を隠すためだろう。面が猫なのは…動物好きか?

 この優しい魔導師は、人に不快な思いをさせたくないと顔を隠して健気に生きているんだ。おそらく修練中に大火傷を負って、人前に出ることが叶わない不遇の魔導師。


 だが、俺は色眼鏡で見たりしない。サバトはいい魔導師だ。誰にも名を知られなくとも、その気があるなら【四門】に加入させて一緒に冒険したい。

 大会が終わったあとに誘ってみよう。メンバーの説得は問題ない。アイツらも反対するようなことはないはずだ。埋もれさせるには余りにもったいない才能。ココで知り合ったのもなにかの縁。


 意外に熱い男スザクは、とんでもない勘違いを胸に抱えて笑みを浮かべていた。



 ★



 準々決勝が終わり小休止に入った。固唾を呑んで仕合を見守ったウォルトも一息つくことに。



 なにも食べてないからお腹が空いてきたけど、猫面であまり出歩くと注目の的になりそうだからやめておこう。

 

「ほい。飯も食えなくて腹減ったろ?王都の軽食だけど、どうだい?」


 いつの間に買ってきたのか、スザクさんが軽食と飲み物を差し出してくれた。気遣いのできる人だなぁ。ボクとは大違いだ。


「ありがとうございます。代金を…」

「治療の礼に驕らせてくれ。ちょっとでも気が済むから」

「そういうことなら…有難く頂きます」


 お面を少しだけめくり上げて食べる。なんとかなるもんだな。


 カンノンビラの肉団子のように、串に野菜と肉が交互に刺さってタレを付けて焼かれた料理。初めて食べるけど美味しい。塩で味付けしても美味しそうだ。帰ったら挑戦してみよう。


「デルロッチは負けたなぁ」

「はい」


 デルロッチさんは残念ながら敗退してしまった。けれど最後まで緊迫した好勝負だった。


「なにが勝敗を分けたと思う?」

「魔法の相性です。デルロッチさんが得意とする炎系と、相手の得意とする水、氷系は相反する属性で技量の差がありました。他の魔法ではデルロッチさんの技量が上なのに、攻撃の主となる魔法で押し込まれて最後まで上手くカバーできなかった」

「サバトなら勝てたかい?」

「ただの魔法使いが魔導師に勝てるはずがありません」

「ははは!そうか。ちなみに、サバトの予想では優勝しそうな魔導師は誰?」

「ユルテロ代表のスメルズさんです」

「ナッシュじゃないのか?王都最強の呼び声高いが。スメルズは俺より年上で地味な魔導師に見えるよ」

「魔力操作、魔力量、詠唱技術が頭1つ抜けてます。魔法の威力と多彩さなら王都のナッシュさんですが、魔導師としての技量と総合力はスメルズさんが上です。さっきの仕合でも全く本気を見せてない。あの人は凄い魔導師です」


 今大会の参加者で最年長かもしれないスメルズさんは、まだ実力を隠している。間違いない。


「ナッシュの魔法は派手だが、それだけということかい?」

「威力も詠唱も本当に凄いです。でも、魔法戦はそれだけでは勝てません。スメルズさんはより実戦向きの魔導師だと思います。あくまで予想ですが」

「いやぁ。人の予想を聞くのは面白いなぁ。魔導師にまったく詳しくないからね」

「そろそろ準決勝が始まります。観ていいですか?」

「もちろん。邪魔はしないよ」


 準決勝も白熱の魔法戦が繰り広げられた。結果、決勝の組み合わせは王都代表のナッシュさんと、ユルテロ代表のスメルズさんの対戦に決まった。



 ★



 ところ変わって王族の観覧席では。


 むっふぅ~!ついに来たっ!待ちくたびれたよぉ~!


 チーム戦の決勝を目前に控え、リスティアが小さな鼻を膨らませていた。


 今年の武闘会は過去最高に盛り上がってる。本当に名勝負ばかりで退屈なんかしている暇がないくらい凄い。

 でも…私はこの時を待ってた!親友の…ウォルトの勇姿をこの目に焼き付けないと!「チーム戦を実施してはどうだ?」と提案してくれたお父様には感謝しなくちゃ!


 朝からずっと姿を探してるけど、人目に付かないところにいるみたいで、全然見つからない。ちょっとくらい顔を見せてくれてもいいのにね!でも、そんな控え目なとこも親友らしい♪ウォルトに限って予選で負けてる可能性は限りなく低い。魔法武闘会を観るタメに会場のどこかにいるはず!


「リスティア、どうした?嬉しそうだな」

「内緒!そして、お父様ありがとう!」

「なにがだ?」


 最初で最後になるかもしれないウォルトの晴れ舞台を用意してくれて!

 


 ★



 遂にチーム戦決勝の時間を迎えた。ボクらも動き出す。


「やっと出番かよ。長かったぜ」

「寝過ぎたな」

「緊張するなぁ…」

「俺らは所詮オマケだ。気にすんな」

「相手をただ叩き斬るだけだ。簡単だろう」

「そういうことじゃないです」


 こんな大勢の前でなにかをしたことがない。それが緊張の原因。


「只今よりチーム戦の決勝を行う!両チーム入場!」

「っしゃぁ!行くぜ!」


 ボクらの入場に合わせて場内は歓声に包まれる。地鳴りのようで凄い声量。通路にいたときとはまるで違う。面を被っていても耳が痛い。観客の驚いたような声も届く。


「お父さん!猫がいる~!」

「白猫の被り物?なんだありゃ?」

「他の2人が獣人だから合わせてるんじゃない。チームの統一感があっていいよね」


 やっぱり目立つんだな…。自分の考えたこととはいえ恥ずかしい。ふと、歩きながら一際豪華な席が目に入る。通路からは見えなかった場所。


 ……えっ!?リスティア?


 王族が並んで座っている。国王陛下を始め、王妃ルイーナ様達も勢揃い。武闘会は王族も観覧するのだと初めて知った。


 リスティアがジッとこっちを見ているような…。もしかして気付いてる?まさかね。


 …ん?


 リスティアは小さな紙を胸の前で広げた。かなり小さく書かれているけれど、ボクには文字がハッキリ見える。


『ウォルト 頑張って』


 嬉しさに思わず笑みがこぼれた。王族の立場上、特定の者を応援なんてできないはずなのに。1点に魔力を指向した『念話』を飛ばす。


『ありがとうリスティア。綺麗な字だね』


 リスティアはキョロキョロしてる。ちゃんと声が届いたみたいだ。小さく手を振ってみよう。興奮して鼻が膨らんでる。可愛いな。


 気が楽になったよ。ありがとうリスティア。


 石畳に上がったボクらの眼前には、決勝の対戦相手である3人がいる。リザードマンの剣士と、熊の獣人の戦士。そして…エルフの魔導師で全員が男性。


「コイツら、ちっとは強ぇな」

「あぁ。早くヤりたい」


 決勝の相手もボクの予想通り。【人間皆無(ヒトデナシ)】と名乗る3人は、予選の段階から優勝候補筆頭だった。

 個々の能力が高いのは言うまでもなく、連携の素晴らしさも群を抜いていた。闘いぶりには僅かな姑息さもなく、見事な勝ちっぷりで清々しさすら感じた。

 高ランク冒険者パーティー、もしくはその道の達人の集合体だと推測しているけどどうだろう。


 …と、エルフの魔導師が口を開いた。


「猫仮面さん」


 マードックとエッゾさんはボクを見る。そりゃそうか。ボクしかいない。


「なんでしょう?」

「俺は負けない」

「いい勝負がしたいです」

「余裕綽々だな」

「余裕なんてありません」


 いつだって余裕はない。特に今は。リスティアのおかげで心が軽くなったから平常心を保っているけど、それまで完全に雰囲気に飲まれてた。マードックとエッゾさんの胆力は純粋に凄いと思う。


「お前なぁ。ぶっ倒してやるぜ!くらい言えよ」

「血の雨を降らせてやる…とかな。ククッ!」

「大きな口を叩いても、できないことはできないですから」


 そんなことを軽々しく言える相手じゃないことはわかってる。このエルフは凄い魔導師だ。予選でもさっきの準決勝でも力を隠して闘っていた。おそらく半分の力も見せていない。

 魔法武闘会に出場していれば間違いなく優勝していたと断言できる。スメルズさんやナッシュさんよりも技量は遙かに上。なぜチーム戦に出場しているのか知らないけど。


 リザードマンと熊の獣人が笑う。


「カカカッ!不思議と嫌味のない男。好感が持てる」

「ゆるゆるだな!お前の相手にはちょうどいいんじゃねぇのか?」

「簡単に言ってくれる。あの男は只者じゃない」

「不明。まったく感じん」

「だな。けど、お前の勘は信じるぜ」

「勘なんかじゃない。お前ら…負けるなよ」

「毛頭なし」

「誰に言ってんだ、アホエルフがよ。…っと、そろそろか」


 銅鑼を打ち鳴らす為の鉄槌が振り上げられる。


「それでは!決勝………始めっ!」


 大歓声の中、闘いの火蓋は切られた。

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