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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
318/706

318 伝えたいことがあるんです

 ウォルトさんからスケさんの事情を聞いたオーレンは、フクーベに戻ったあとミーリャから話を訊くため食事に誘った。


 フクーベのレストラン【銀の椅子(フリークショウ)】には、ミーリャと…俺だけいる。アニカやウイカのほうが話しやすいと思ったけど、「デカい口を叩いたくせに、組手で負けた罰として1人で行ってこい!」と姉妹に命じられた。

 2対1なんだから当たり前だと思いながらも、厳しい口調には裏があるような気がした。なんなのかわからないけど、とりあえず素直に従ったワケで。


「オーレンさん。どうかしましたか?」


 気付くとミーリャに顔を覗き込まれていた。


「なんでもない。それよりゴメンな。急に呼び出して」

「全然です。誘ってくれて嬉しいです」


 くっ…!笑顔が眩しいっ!いかんいかん…。勘違いしてしまいそうだ。出会ったときは気付かなかったけどミーリャは可愛い。気持ち悪い先輩だと思われないようにしないと。


「好きなの頼んでいいから。今日は驕るよ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えます」

 

 最近では、ロックと少しずつクエストをこなしてるみたいだけど、まだ金銭的な余裕はないはず。俺達もそうだった。こんな時くらい出してやりたい。


 決して下心はない!…はず。注文を終えて、料理を待つ間に話を訊いてみる。


「今日は、ミーリャのことを知りたくて食事に誘ったんだ」

「そうなんですか?!嬉しいです!」


 笑顔が…眩しい!ふぅ…ふぅ…。落ち着け、俺っ…!


「ミーリャの出身はどこなんだ?」

「【スイシュセンドウ】っていう町です。知ってますか?」

「知らない。俺は村の出身だから地理に詳しくなくて」

「私の住んでた町も小さいです。静かな田舎ですよ」

「家族は今も住んでるのか?」

「はい」

「両親も?」

「父は冒険者だったんですけど、行方知れずで。もう亡くなってるかもしれないです」

「…ゴメン。言いたくなかったよな」


 知っていたとはいえ、申し訳なさが拭えない。口に出したくなかったかもしれないのに。


「大丈夫です。そんなの私だけじゃないですし、冒険者をやってたらそうなるのも普通だってことを身を以て学びましたから!」


 ミーリャの苦笑いも当然。初クエストで危ない目に遭ったんだから。冒険者はいつ命を落としてもおかしくない。俺も忘れずに教訓としてるけどミーリャ達と変わりない。


「もしかして、父親を探すタメに冒険者になったとか…?」

「それもなくはないです。でも、父親の記憶はほとんどないので、大きな理由じゃないです。ただ憧れてなりたかったからですね」

「…もし生きてたら会いたいか?」

「会いたいですね。伝えたいことがあるんで」

「もし、昔のような父親じゃなくても?」

「はい」


 とりあえずミーリャの意志は確認できた。ちょうど料理が運ばれてきたし、あとは食事を楽しもう。


「オーレンさんのことも教えて下さい」

「俺のこと?面白くないけど」

「面白くなくてもいいです」


 ミーリャは優しいなぁ。ウチにいるアホ姉妹とは大違いだ。ウイカも昔は可愛かったのに、かなり逞しくなって悪い意味で今やアニカと遜色ない。姉妹だから当然と言えば当然だけど。


 俺とミーリャは、少しだけ甘い雰囲気を醸し出しながら食事を楽しんだ。でも、勘違いはしないぞ!



 ★



 オーレンからミーリャの意志を聞いたウォルトは、修練場に向かってスケさんを呼び出した。他の骨達も見守る中で口を開く。


「ミーリャさんは、スケさんに伝えたいことがあるみたいです」

『……そうか』

「昔のままでなくても構わないと」

『……そうか』

「余計なお世話かもしれませんが、会って話してみませんか?」

『……』


 やっぱり黙って俯くばかり。ホントに会いたくないのかな。


『おい、スケよ。お前ぇもいい加減煮え切らねぇな!いい大人が見てらんねぇ!』


 骨の最年長スケ蔵さんがもの申す。古い職人っぽい喋りが特徴的。


『いっぺん黙って会ってみろや。死んじまって、本当なら娘っ子には二度と会えなかったんだぞ?会うのは諦めてたんだろうが、こんな機会はねぇだろ?』

『…だが、こんな姿で…』


 やはり、スケルトンのようになってしまったことを気にしていたんだな。


『化け物扱いされるってか。そんなこたぁねぇだろ。俺らをよく知ってるウォルトがいる。事前に話を通してもらって『信じない』だとか『そんなの嫌だ』っつうんなら会うな。会う価値もねぇ。こっちから願い下げだ』

『…そんな娘じゃない』

『だったらドーンと構えてろ!お前ぇは親父だろうが!デケぇのは図体だけか?!』

『………』

『スケよ…。後悔だけはすんなよ。あん時、あぁしとけばよかったとか、なんで会わなかったんだとかな…。ビビってたらなにもできやしねぇぞ』

『…スケ蔵さんの言う通りかもしれんが』


 話を聞いていて1つ思いついた。


「この中に、スケさんの生前の姿を知ってる人っているんですか?」

『俺は知ってるぞ』

『俺も』

『私も知ってる』


 これだけいればイケそうな気がする。


「じゃあ、スケさんの姿を生前に戻しましょう」

『『『はぁ?』』』

「スケさんは、元の姿に戻れたらミーリャさんに会ってもいいですか?」

『そうだな…。それなら…』


 知ってる人達からスケさんの風貌に関する情報を集める。そしてスケさんの前に立った。


「今から魔法を使います。いいですか?」

『…かまわんが』


『変化』


 スケさんの姿が、一瞬で人間に変化する。皆から聞いた姿を想像して投影した。


『こんな魔法があるのか…』


 スケさんは自分の身体を隅々まで観察してる。鏡がないので『氷結』で姿が映る氷の壁を作った。


『お前も段々とあの変人の域に足を突っ込んできたなぁ』

『まぁ、ウォルトにはアイツより凄くなってもらわないとね』

『てぇしたもんだ』


 そんなことないし、師匠を越えるのはまず無理だ。


「それより、スケさんの姿はどうでしょう?」

『似てるけど、もうちょっと唇が厚かったぞ』

『鼻はもう少し低かったね』

『目は少し寄ってた。あと顎にヒゲだな』


 細かく修正して、スケさんの『変化』は完成した。あえて歳を重ねた風貌にするのも忘れずに。


『ソックリだ』

『かなりいい感じね。バレないと思う』

『けどよ、身体がデカいのはどうしようもねぇぞ』


 スケさんは、なぜか身体が一際大きい。明らかに元人間の骨のサイズじゃない。

 オークのような大型の魔物の骨みたいだけど、生前も決して大柄じゃなかったらしくて本人もなぜなのかわかってない。

 ボクの予想では師匠の気まぐれ。1番しっかりしているスケさんを一目で判別できるようにしたんじゃないだろうか。


「モノなら魔法で縮められるんですけど」

『軽く試してみたら。骨だから多分痛くないよ』

「スケさん。いいですか?異常があれば直ぐ元に戻せます」

『やってくれ』


『圧縮』をかけると、スケさんは微かに縮んだ。


「どうでしょう?」

『続けてやってくれ』


 異常を感じないみたいだから、スケさんを皆の知る元のサイズまで縮める。


「どうですか?」

『完璧だな』

『見た目は生きてた頃のスケさんそのものね。本人的にはどうなの?』

『信じられん…』

「ミーリャさんに会えそうですか?」

『あぁ』


 スケさんが会う準備はできた。あとは…どうやって再会してもらおうか。


『ウォルト。手間をかけて済まないが、アニカに頼んでミーリャをココに連れてきてくれないか?』

「いいんですか?ボクの住み家でもいいですよ」

『いや。ココがいい』



 ★



「緊張します…」

「俺もです…」

「大丈夫だよ。なにかあっても私達がフォローする」

「俺達が絶対に助ける。だから心配しなくていい」

「任せなさい!」


 先輩冒険者【森の白猫】の3人に、ミーリャとロックを加えた5人で、洞窟の奥へと歩を進める。


 ミーリャが来るのは二度目。この洞窟は、スケルトンが出現して初級冒険者にとっては戦闘経験を積むのにいい環境だとオーレンさん達に教わった。

 それならばとロックと経験を積むために「行きます!」と気合いを入れてやってきた。この間来たときスケルトンは現れなかったけど、今日は出現するかな?魔物を撃退しながら到着しても、やっぱり誰もいない。


「やっぱりいませんね」

「待てばわかるよ!」


 アニカさんの言葉に反応したかのように、大きなスケルトンが地中から姿を現す。


『グラァァァァッ!』


 咆哮するスケルトン。見たこともない大きさ。


「ミーリャ!言われた通りだ!くるぞ!」

「行くよ!」

 

 駆け出してスケルトンと激突する。武器は持ってないけど、大きな体躯で攻撃を仕掛けてくるスケルトンに、怯みそうになるけど勇気を持って立ち向かう。ただ、剣で斬りつけても魔法の直撃を受けてもスケルトンはびくともしない。


「こんのぉ…!かったい!」

「魔法もあまり効いてない!どうする?!」

「私が行く!ロックは見てて!」


 まずは突破口を探らなきゃ!果敢に攻撃を仕掛ける。剣が当たっても硬い骨に弾かれて、ダメージを与えられない。それでも動き続ける。


「くっ…!まだだよ!…わっ!」

「ミーリャ!?」


 諦めず連続攻撃を仕掛けたけど、足を滑らせて転んでしまった。スケルトンが空洞の目で私を見下ろしていた。


 もうダメだ!…と、そう思ったのに優しくスケルトンに抱え起こされる。混乱している私とロックに、スケルトンが語りかけた。


『ミーリャ…。ロック…。2人とも大きくなったな…』

「「え…?」」


 私達の名を呼んだスケルトンが、淡く体を輝かせて姿を変える。


『久しぶりだな…』


 人間の姿で話し掛けてきたのは……お父さんだ。記憶は曖昧だけど間違いない。


「お父さん…」

「えっ?!シュケルおじさん?!」

『元気だったか?驚かせてすまなかった』

「スケルトンがお父さんに…?なんで…?」

『今から説明する。…聞いてくれるか?』


 コクリと頷いた私達に、お父さんは事情を説明してくれる。もう何年も前に冒険中に魔物にやられて、既にこの世に生はないこと。今の姿は仮の姿で、この場所で骨の姿で生き永らえていること。そして、私を見かけて驚いたことを。


「そっかぁ。直ぐに声掛けてくれたらよかったのに」

『大きなスケルトンがいきなり地中から現れたら驚くだろう?だから、わざわざアニカに頼んで連れてきてもらった。こうして伝えたのは俺の発案だ』

「そっか。アニカさんとは知り合いなんだね」

『アニカは友人の友人だ』


 アニカさんを見ると、手を合わせて『ゴメンね!』と謝ってる。仕草が可笑しくて、ふふっ!と笑ってしまった。

 オーレンさんに父さんのことを聞かれたのも、こういうことだったんだね。ちょっとだけ残念。


「驚いたけど、話せて嬉しいよ」

『俺もだ。大きくなったな…。まさかロックと一緒に冒険者になるとは思わなかった』

「お父さんに似たのかもね」

『俺に似なくてよかったんだが…いい剣筋だった。ロックの魔法にも驚いたぞ。ダーシーは元気にしてるのか?』

「師匠は相変わらず元気だよ。おじさんが生きてるって教えたらきっと喜ぶ」

『言わなくていい。アイツに知られたら、気味悪がられて魔法で火葬されそうだ』

「あはははっ!確かに!」


 初めてお父さんとちゃんと話した気がする。いなくなったとき、まだ5歳くらいだったから覚えてないもんね。


「ところで、お父さんに会ったら伝えたかったことがあるの」

『大体予想はついてる』

「だよね。お母さんがね「生きてたらぶっ殺す!」てさ」

『…ふっ。相変わらずめちゃくちゃだな』

「だね。でも、お父さんの帰りを待ってるよ」

『そうなのか…』

「今度一緒に帰らない?」

『アイツには苦労と心配ばかりかけてしまったから、そうしたいのはやまやまなんだが…』

「骨になったのを気にしてるの?お母さんは細かいことは気にしないよ。お父さんならわかるでしょ?」

『むぅ…』

「お母さんは普通の人じゃないからね」

『そうだな…。今度、会うときまでに考えておく』



 ★



「また来るね!」

『あぁ。いつでも来い。ただし、気を付けてな』


 親子の再会をこっそり見守っていたウォルト。


 ミーリャさんは笑って、オーレン達とともに帰っていく。見送ったあと骨の仲間達が姿を現す。『隠蔽』で姿を隠していたボクも魔法を解除した。


『スケさん…。話せてよかったね…』

『けっ…!だからさっさと会えっつったんだ!バカスケが…!』

『いい子じゃねぇか…。年取ると涙もろくっていけねぇや…!』


 全員が涙を流している…風だけど、目がないのであくまで雰囲気だけ。でも、気持ちは伝わる。


『皆の言う通りだった…。ウォルトもありがとう…』

「里帰りするならボクも付いていきます。いつでも言って下さい」

『その時は頼む』

『ところで、お前の嫁さんは怖いのか?いくらなんでもぶっ殺すってのは物騒だろ』

『ずっと顔も見せてない。生きてると知られたら半殺しにされるだろうな。嫁は俺より強い』

『マジか!?』

『帰ったら骨の5、6本は折られるが致し方ない。ウォルトに治してもらう』

「任せて下さい」

『ウォルトは強いんだから、治す前に止めなさい!』


 皆で笑った後は…。


『さて…。ウォルト、修練するか』

『そうね。久しぶりにね♪』

『俺らはお前が驚くような技を編み出したからな…。シビれさせてやるぜ!』

「それは楽しみです」


 手合わせを始めて直ぐに皆の新技が披露された。


『グオォォッ…!』

「威圧感が凄い…」


 スケさん達は、全員合体して巨大スケルトンになる術を身に着けていた。軽くボクの倍以上はある大きさ。重圧が半端じゃない…けど。


『ちょっと!そっちじゃないってば!』

『うるせぇ!コッチが先だ!』

『ええい!騒がしいわ!動けんぞ!』

『やれやれ…』


 仲間割れを起こして上手く動けてない。どうやら意思統一が難しいみたいだ。


 軽く魔力弾を撃ち込むと、弾け飛ぶように全員が分離して目を回した。改良する必要はあるけど、この状態で機敏に動かれたら驚異なのは間違いない。


 次の修練が楽しみだなぁ。

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