31 ウォルトに聞いてみた
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
夕食の後にお茶を飲みながらまったりしていたら、オーレンが思い立ったように口を開く。
俺が前々から思ってたことを訊いてみたくなった。
「ウォルトさん自身のことを詳しく訊いたことなかったんですけど、教えてもらっていいですか?」
「面白くないと思うけど、いいの?」
「もちろんです」
『オーレンにしては珍しくいいこと言う!』ってアニカの顔に書いてる。失礼な奴だ。
「ウォルトさんは何歳ですか?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「そういえば聞いたことないかも!」
年齢を訊くタイミングが無かった。多分若いと思っていただけ。
「てっきり言ったと思ってた。ボクは21歳だよ」
「若っ!…ってすいません。決して老けてるとかじゃなくて」
「気にしなくていいよ。人間は獣人の年齢を見分けられないって云われてるからね」
確かに。俺には獣人が同じような年齢に見える。簡単に言うと皆が若く見える。皺やシミ、白髪のように年齢を感じさせる特徴が表に出てないから。さらに言えば、人間に近い顔の者を除くと同じ種族は顔も大体同じに見える。
「兄弟はいるんですか?」
「いないよ」
「両親は息災ですか?」
「うん。この間も会ってきた。2人は?」
「どっちも健在です。それと、俺には弟が、アニカには姉ちゃんがいます」
「兄弟ってどんな感じなんだい?」
「うちのお姉ちゃんは優しいから大好きです!近くにいないと寂しいです!」
「うちは喧嘩しかしないから、俺が出て行って清々してるだろうな」
「兄弟でも色々あるんだね」
次はなにを訊こうか考えていると、アニカが思いきって尋ねる。
「ウォルトさんって…恋人とかいるんですか?!」
「いないよ」
よし!と小さく拳を握るアニカ。とりあえず望み有りでよかったな。いつ来ても1人なのと、森に住んでるのにいないだろうと思ってた。
「逆に訊くけど、オーレンとアニカは恋人同士だよね?」
ウォルトさんの質問に腰が砕けそうになった。アニカは砕けてる…。同じ田舎の村で育って、仲はいいけど昔から恋愛感情はない。本当に妹みたいな存在。
「違いますよ。こんな食いしん坊は恋人になんかできないです」
笑い飛ばすとアニカの眉間に皺が寄る。
「はぁっ?!こっちの台詞なんですけど!アンタみたいなガサツ王は絶対お断りだし!そもそも、オーレンは私のお姉ちゃんのことが好きだったんですよ!見事にフラれたけど!」
「お前ぇぇっ!人の古傷をほじくり返しやがって!いくらウォルトさんに惚れて…」
「あぁぁぁああ~っ!!」
「ぐはぁっ…!!」
アニカが繰り出した右ストレートが顔面に炸裂して、椅子から転げ落ちる。
「なに言おうとしてんのよ!アホオーレン!」
「いってぇな!!殴らなくてもいいだろっ!」
「ふ、2人とも落ち着いて…」
突然始まったケンカに、ワケもわからずおろおろするウォルトさん。悪いと思った俺達は大人しくして話を続ける。
「オーレン、大丈夫かい…?『治癒』かけようか?」
「いえ。お構いなく」
頰が腫れ上がって口も数字の3みたいになってる。じんじんしてめっちゃ痛い。そんな状況でも構わず口を開いた。
「ウォルトさんは、マードックさんのことを知ってるみたいですけどなんでですか?」
「マードックは幼馴染みだよ。同郷で同い年なんだ。この間、住み家にも来た」
「「えぇぇ~!」」
俺達は盛大に驚く。
「そんなに驚く?まぁ、アイツは筋骨隆々で若く見えるからね」
ウォルトさんはお茶をすすりながら微笑むけど、俺達が驚いたのはそこじゃない。
あの、ギルドでも威圧感丸出しで、目を合わせようものなら噛みついてきそうな狂戦士みたいなAランクの獣人戦士と、優しさSランクのお茶好き獣人が友達とは思いもよらなかった。
まてよ…。最近フクーベで噂になってる『あること』を思い出す。それは、マードックさんが獣人とタイマンを張って負けたらしい…というもの。
けど、フクーベには1対1でマードックさんに勝てるような獣人はいないと云われてる。だから、単なる悪い噂だとされてるけど…。
「ウォルトさん…。最近マードックさんとなにかありましたか?」
「なにかって?」
「揉めるようなことです」
「揉めてはいないけど、ちょっとした賭けみたいなことはしたよ」
「賭けですか?ウォルトさんが勝ったんですか?」
「引き分けかな。マードックがどう思ったかはわからないけど」
なるほど。賭けか…。ウォルトさんが嘘を吐くとは思えない。賭けで引き分けた事実がいつの間にか負けたことになって、回り回って面白がった誰かがタイマンでってことにしたんだな。
「友人のウォルトさんに訊くのもどうかと思うんですけど、マードックさんを殴って倒せる獣人っているんでしょうか?」
「世界は広いし、いるにはいると思うけどボクは知らないなぁ。昔、もの凄く強い獣人がフクーベにいたけど旅に出たらしいし」
「じゃあ、ウォルトさんが知ってる獣人ではマードックさんが一番強いんですか?」
「それはどうかな?」
「「え?」」
「殴り合いならマードックかもしれないけど、強い獣人は他にも知ってるよ」
「そうなんですか?!あの人に勝てるかもって人が…」
「それぞれ違う強さがあって面白い。冒険者を続けてたらその内出会うと思う」
「楽しみです」
「あっ!ウォルトさんって、なんでモノクル付けてるんですか!?目が悪いとか?!」
「目は悪くないよ。元々ボクの持ち物じゃないんだけど、憧れてる人が付けてたから真似してるんだ。ちなみに、レンズじゃなくてガラスだよ」
「へぇ~。もしかして、たまに聞くウォルトさんの魔法の師匠ですか?」
「そう。この家の持ち主でもある」
ウォルトさんに魔法の師匠がいるのは知ってる。もの凄い魔法使いらしい。詳しく聞かなくてもわかるけど。
「その…お師匠さんは?」
少し躊躇いがちに尋ねてみた。もし亡くなったりしてたら口にしたくないはず。
「ある日突然いなくなったんだ。多分死んだりはしてない。いつ帰って来るんだろう?」
ウォルトさんは首を傾げる。心配してる風じゃないから、訊いてもいいことだったかな。
「他にも聞きたいことがある?」
「大丈夫です!いろいろ教えてもらってスッキリしました。今後も教えて下さい」
「いいよ。じゃあ、ボクからも訊いていいかな?」
「なんでしょうか?」
「2人は昔から冒険者になりたかったことは知ってるけど、そこから先…最終的にこうなりたいとか目標がある?」
「「それは…」」
俺達は言葉に詰まる。
小さな頃から冒険者になりたかったのは間違いない。実際に村を飛び出して今は冒険者になった。
でも、冒険者になってなにをしたいのか?どうしたいのか?そこに確かな意思がない。
今の生活は凄く楽しい。冒険もクエストも楽しくて充実してる。けど、最後はどうしたい?どうなりたい?自分達でもわからなかった。
「大事なことだと思ったから訊いたんだ。急がなくていいけど、考えておいたほうがいい。きっと迷ったときの拠り所になるんじゃないかな」
「そうですね」
「私達はどんな冒険者になりたいのか…」
真剣な顔でずっと考え込む俺達に、ウォルトさんはずっと微笑みかけてくれていた。
読んで頂きありがとうございます。