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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
305/706

305 幸せは本人次第

 織物にハマってしまい、ファムの教えもあって様々な生地を織りに織りまくったウォルトは使い道がないか考えていた。


 ベットのシーツに使ってみたり、自分の貫頭衣を新調してみたけど、まだかなり余ってる。

 アソコに持っていけば、もしかしたら使ってもらえるかもしれないな。綺麗に畳んだ生地を『圧縮』してリュックに詰め込み、お腹を満たしてから出発した。



 駆けてきたのはタオの集落。訪ねるのは数ヶ月ぶりだ。ばあちゃんは元気かな?家に向かう途中で子供達に会う。元気に外で遊んでる。


「久しぶりだね」

「うぉるとだ!」

「ひさしぶり~!」

「もふもふぅ~!」


 全速力でしがみついてくる。元気そうでよかった。やっぱり子供は可愛い。顔までよじ昇られるのもすっかり慣れてしまった。どうやらモフモフが好きみたいで嬉しい限り。


「きょうはどうしたの~?」

「たおにすむの?」

「もうかえさない!」

「今日はボクが作った生地を持ってきたんだよ。皆の服に使ってもらえないかと思ってね。アイヤばあちゃんはいる?」

「あいやはすもう!」

「あるくすとすもうしてる!」

「まいにちやってる!みるのあきた!」

「あははは。熊の獣人は相撲好きだからね。じゃあ、土俵に行こうか」

「「「みんなでいこう!」」」


 子供達をしがみつかせたまま土俵に向かうと、里の住民が集まって相撲を観戦していた。


「はぁ…はぁ…。生意気にやるねぇ!」

「ぜぇ…ぜぇ…。お前はいつ死んでもいいぜ!ババアが!」

「毛が硬いくせに偉そうに言うんじゃないよ!」

「うるせぇ!それを言うんじゃねぇ!」

「「「わははははっ!もっとやれ!」」」


 大きな熊の獣人が土俵の中央でがっぷり4つに組んでる。凄い迫力だ。どっちも応援しよう。


「ばあちゃん!アルクスさん!頑張って!」


 2人は顔を向けた。


「ウォルトじゃないか!ふんぬらぁっ!」

「うおぉわぁっ!?ぐふっ…!」


 おもいきり顔から地面に叩きつけられたアルクスさんは、目を回してのびてしまった。ばあちゃんは土俵から飛び降りて全速力で向かってくる。


 急いで子供達を肩より上に登らせて、一瞬の『筋力強化』でぶちかましを受け止めると軽く身体3つ分は後ろにズレた。相変わらず凄い馬力だ。熊だけど。


「久しぶりじゃないか!よく来たねぇ!」

「元気そうでよかったよ」

「今の見たか。あの身体でアイヤのぶちかましを止めたぞ」

「ウォルトもあぁ見えて熊の血が入ってるからな。先が楽しみだな」


 そうじゃないけど、ボクがばあちゃんを止めきれるなんて誰も思わないから、皆の反応は正しい。


「ばあちゃんに使ってもらいたいモノを持ってきたんだ」

「そうかい!とりあえず家に帰るよ!」

「その前にアルクスさんを起こそうか」

「ほっときな!死にゃしないよ!貧弱な弟を持つと慣れちまうのさ!ははっ!」


 なぜボクの周りにいる獣人の女性はこんなに逞しいのか。サマラもマードックに対して同じようなことを言ってたな。


「ばあちゃんはアルクスさんにも勝てるんだね」

「負けるのは10回に1回くらいかね。アイツとは年季と根性が違うんだよ」


 家に辿り着くと子供達はまだ外で遊ぶらしい。


「暗くなる前には帰ってきなっ!ウォルトの飯が食えなくなるよ!」

「はぁ~い!」

「さて、アンタはなにを持ってきたんだい?」

「コレなんだけど、里で使えないかと思って」


 持ってきた生地の魔法を解除して、大きくして見せる。


「今のも魔法かい?たまげるね。それにしても立派な生地じゃないか。こんなに沢山どうしたんだい?」

「ボクが織ったんだけど、作り過ぎて使い道がないんだ」

「アンタは遂に布まで織るのようになっちまったのかい」

「たまたまだよ。ちょっと前に織り機をもらってハマったんだ。使えないかな?」

「くれるなら有難く使わせてもらうよ。いくらあっても困るもんじゃない。他のジジババにも分けるさ。とりあえずゆっくりしな」

「じゃあ、お茶淹れてくるよ」

「人の話を聞かない困った孫だよ」


 持参した花茶を淹れて差し出すと喜んでくれた。気に入ってくれたみたいだから置いていこう。ばあちゃんの好きな蜂蜜を砂糖代わりに入れてみた。


「最近、なにか困ってない?」

「全然さ。食べ物にも困ってなけりゃ、アルクスの仲間もよく働くからねぇ」


 アルクスさん達と里の住人は上手くやれているらしい。ばあちゃんは、毎食子供達のご飯も作ってるみたいだ。いろんな家にお呼ばれしては泊まって可愛がられてるらしい。


「強いていえば、相撲のとり過ぎでちょっと腰が痛いかね」

「張り切りすぎだよ。ちょっとうつ伏せになって」


 ばあちゃんの腰に手を添えて『治癒』を使う。


「気持ちいいねぇ…。アンタは凄いよ」

「大袈裟だよ。魔法を使える人なら誰でもできる」

「やっぱりサバトに似てるねぇ」

「そうかな?父さんの方が似てない?」

「ストレイも似てる。でも、アンタの方が似てる」

「そう?」

「そうさ。アンタを見ると、サバトを思い出して心が温かくなるんだよ」

「ばあちゃんはホントにじいちゃんが好きだね」

「まぁね。たまには化けてでも出てこないかと思ってるのに、夢にも出てこないんだよ!冷たいねぇ!」

 

 ばあちゃんは豪快に笑うけど、じいちゃんの話をするときは少し寂しい匂いをさせる。


「じいちゃんも、いつも会いに来るってワケにはいかないさ」

「あたしゃ姿を見れるだけで満足なんだけどねぇ」

「そうか…。ばあちゃん…」

「ん?なんだいぃ…!?サバトッ!?」


 顔を向けると、ばあちゃんの最愛の夫サバトじいちゃんの姿…に変装したボクがいる。優しげに微笑んでいるように見えるかな。


「じいちゃんの姿だけなら見せてあげられる。魔法なんだけど」

「ビックリたまげたよ…。まるっきりサバトじゃないか…」


 起き上がったばあちゃんは、ボクをギュッと抱きしめた。微かに震えるばあちゃんを抱きしめ返す。しばらくそのまま動かなかったけど、ふぅ…と息を吐いて離れた。


「ウォルト、ありがとうよ…」

「余計なことをしてないかな?」


 ずっと会いたがってたじいちゃんの姿を見せて、心にどんな変化が起こるか予想できない。本当はやらない方がいいと思えたけど…見せてあげたかった。


「なんであれサバトに会えて最高さ!」

「上手く変装できてる?自分じゃ見えないから」

「瓜二つだよ。それより行動が似てる。よくこうやって抱きしめてくれたもんさ」

「そうなのか」


 ちょっと意外だ。ばあちゃんが、ボクの前でデレてるところは見たことなかったから。あと、母さんと一緒で家族に対する照れはないんだな。


「気を使わせて悪いと思うけどねぇ、やっぱりアンタを見てるとサバトを思い出す」

「ボクは気を使ってないし、じいちゃんも想ってもらえて喜んでるさ」

「どうかねぇ?サバトは嫌かもしれない」

「それはない。じいちゃんはばあちゃんのことが大好きだった。ボクは知ってる」


 じいちゃんは、ばあちゃんといるとき優しい匂いをさせてた。母さんといるときの父さんも同じような匂いをさせる。上手く言えないけど、きっと慕情だ。


「そうかい…。ウォルト…」

「なに?」

「アタシは早くサバトのとこに行きたくなっちまったよ。あはははっ!」

「ダメだよ。早く逝ってもじいちゃんは喜ばない。ばあちゃんに長生きしてほしいって言ってたからね」


 嘘じゃなく本当に言っていた。


「お見舞いに来たときボクに言ってくれたんだ」

「なんて言ったんだい?」


 冗談のように「アイヤが後を追うなんて言いだしたら、ウォルトから言ってやってくれ」と微笑んで言われたこと。じいちゃんの姿で見つめながら伝える。


「どっちが先に逝っても、残された方は精一杯生きて沢山の土産話を持っていくって約束したろ?約束を破ったらもう会わないぞ」


 ばあちゃんは驚いた顔をして直ぐに微笑んだ。


「昔の約束を覚えてるなんてねぇ…。まったく困った旦那だよ」

「ばあちゃんは長生きしなきゃいけないんだ。ちなみに、じいちゃんからあと一言ある」

「まだあるのかい」


 優しいじいちゃんらしい一言。


「駆けなくていい。ゆっくり歩いてくればいいんだ。ずっと待ってるから心配するな」


 そう言ってじいちゃんは微笑んだ。


「…そんなこと言われたら余計会いたくなるんだよ!バカな旦那だねぇ!…あたしゃ決めたよ!」

「なにを?」

「せめて曾孫を見るまでは死なない!あの世に山ほど土産話を持っていかなきゃならないからねぇ!」

「…やめた方がいいんじゃないかな?」


 母さんに兄弟はいない。つまり、ばあちゃんの孫はボクだけだ。…ということは、ボクに子供ができないとばあちゃんは死ねない。


「死んでほしけりゃ頑張りな!あははははっ!」

「死んでほしくないからずっと1人でいるよ」

「そうはいかないよ!アンタがずっと1人だとあたしゃ死んじまうからね!」

「矛盾してるって。難しいこと言うなぁ」






 里の皆から夕食に鍋を作ってほしいと言われて、材料を採ってきて準備する。大人数の食事は作り甲斐があって楽しい。準備を終えると、直ぐに大宴会は始まった。


「おいし~い!」

「ホントだねぇ」

「やっぱりウォルトの飯は美味いな!」

「うぉると、すき!」

「ありがとう。どんどん食べてね」


 皆が笑顔で食べてくれる。久しぶりに会うけど元気そうでよかった。ふん投げられたアルクスさんも顔に擦り傷を負っただけ。盛り上がる中、酒を片手にのそりとボクの隣に来て呟く。


「おい、ウォルト。ちっと来てくれ」

「はい」


 人目につかない場所に移動する。


「相撲のとり過ぎで背中の古傷が痛ぇ。診てくれねぇか」


 小声でそんなことを言う。ばあちゃんからボクの魔法のことを聞いたのか。獣人なのに信じてくれるんだな。


「任せて下さい」


 座ったままそっと腰に手を当てて『治癒』を使うと楽になったみたいだ。


「助かるぜ。なんであのババアからお前みてぇに優しい奴が生まれたのか不思議だ」

「ばあちゃんは優しいですよ」


 ボクを生んだのは母さんだけど。


「そう思うのは、お前がアイヤに気に入られてるからだぞ。昔から気に入らねぇ奴に容赦しねぇ」

「そんなことないと思いますよ」


 グイッと酒を飲んでアルクスさんは続ける。


「アイツの旦那もよほどいい奴だったんだろうよ。お前は知らねぇだろうけど、滅多に会わねぇから言っとく」

「なんですか?」

「俺の身内が…アイヤに惚れちまってな」

「えっ!?そうなんですか?」

「どこがいいんだか全然わかんねぇけど、優しくて美人に見えるんだとよ」

「よくわかります」

「わかんのかよ…」


 見た目は若いし、優しくて面倒見もいいからそう思う人がいても全然不思議じゃない。タオの里には若い女性も少なくて、ばあちゃんが1番若く見える。


「アイツは死んだ旦那にしか興味がねぇ。どうもならねぇだろうけど、一応言っとこうと思ってな」

「そうかもしれないですね」

「…弟としちゃあ、また番っていいんじゃねぇかと思う。1人で死んでもらいたくはねぇ」


 恥ずかしそうに酒を呷ったアルクスさんの気持ちも理解できる。姉弟だし、やっぱり優しい獣人だ。

 そうなったとしたら気持ちは複雑だけど、ばあちゃんが新しく番うとしても反対する理由はない。 


「ばあちゃんが好きなように生きてくれたらそれでいいです。ずっと1人だとしてもボクが看取ります。絶対とは言えないですけど」

「誰だって言えねぇよ。なら、大丈夫だな。俺が先に逝ったら頼むわ」

「縁起でもないこと言わないで下さい」


 ふとばあちゃんに目をやると、アルクスさんの仲間の1人を思いきりぶん投げたところだった。笑いが起こってる。


「まだまだ青いねぇ。そんなんで男が務まるか。もっと鍛えな!」

「いたたた!あだぁ~!」


 もしかすると、ばあちゃんのことが好きな男の人かもしれない。人間が相撲で勝つのは難しいと思うけど、周りの住人達もばあちゃんも楽しそうにしてる。


 先のことは誰にもわからない。どうなったとしても、ばあちゃんが幸せになることを願ってる。

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