30 剣術と魔法
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
次の日も冒険が休みのオーレンとアニカは、ウォルトと修練に励んでいた。
休憩していたとき、アニカは魔法について訊きたかったことを思い出す。
「ウォルトさん。昨日オーレンの足だけ凍らせた魔法ってどうやるんですか?」
「『氷結』の変化だよ。前に小さい『炎』を見せたのと理屈は同じなんだけど、聞くだけじゃわかりにくいだろうからやってみせようか」
「お願いします!」
ウォルトさんは指先に『炎』を発現する。炎はゆっくり膨れ上がり、やがて私が操る『火炎』の大きさまで到達して、そこで気付いた。
「それって、もしかして…」
「さすがだね。最初の小さな炎から既に『火炎』なんだ」
また炎が小さくなっていく。
「今のは『火炎』の魔力を凝縮するように操作してる。この場合、気をつけないといけないのは…」
炎を近くの岩に向かってポイッ!と投げた。岩が一瞬にして燃え上がり熱風が吹き抜ける。
「見た目は小さくても威力は変わらないってこと」
「凄いです!」
仮に今の魔法を魔物が放ったとしたら、油断して避けずに大炎上していた自信がある。
「ボクがオーレンにかけた『氷結』は違う。部位を限定するのに加えて、威力も減少するよう調整したんだ」
再び指先に小さな火を灯して岩に向かって投げると、今度はジュッと音を立てて直ぐに消えた。
「今のも『火炎』なんだけど、威力をかなり抑えてある。魔力の制御ができると消費する魔力を抑えることも可能だし、他にも利点がある。見てもらった方が早いかな。ちょっと2人で並んでもらっていいかい?」
指示された通りオーレンと寄り添うように立つ。
「あんまりこっち寄らないでよ!視線がいやらしい!」
「そんなワケあるかぁ!お前こそ近寄るなよ!」
私達の下らない小競り合いにウォルトさんは苦笑い。
「じゃあ、今から魔法を使うよ。そこから絶対に動かないで」
「「はい!」」
ドキドキしながら待っていると、私達を囲むように巨大な火柱が上がった。視界が全て炎に包まれる。
「うぉわぁぁっ!!」
「きゃあぁぁっ!!」
直ぐに炎は消えてウォルトさんが近づいてくる。
「今のは魔力を操作して『火炎』の形を変化させたんだ。魔力制御を覚えると格段に魔法の幅が広がるよ」
「どうやるのか教えてもらえますか?」
ウォルトさんは、『おかしいニャ?』とか言いそうな顔で首を傾げる。
「アニカはもうできるよ」
「へ?」
「昨日『水撃』を消滅させたよね。ボクはアニカの『火炎』よりほんの少し威力の高い『水撃』を放った。消滅させたのは、『火炎』の魔力を操作して増幅できたからなんだ。今のアニカならある程度制御できるはずだよ」
笑顔でそんなことを言われても、実感が全くない。戸惑っていると魔力制御のコツを丁寧に教えてくれた。
重要なのは、発現させたい魔法を強くイメージすることと操る魔力を直結させること。一度成功すると頭じゃなくて身体が覚えるらしい…けどホントかな?
半信半疑で小さな『火炎』をイメージしながら詠唱してみると、本当にいつもより一回り小さい『火炎』が発現した。詠唱した自分が誰より驚いてる。
「本当にできました…」
ウォルトさんは納得の表情。
「どこまで使いこなせるかは自分次第だよ」
魔力をどこまで制御できるかは修練次第だと、優しくも厳しい言葉で励まされて俄然やる気が湧き上がる。
ウォルトさんには驚かされてばかり。そして、沢山の知識や技術を教わっているのに1つもお返しができない。せめて教えてもらったことは身につけて、いつか恩返しがしたい。そう決意する。
私の横で黙っていたオーレンが訊く。
「魔法戦で俺が役に立てることはないんでしょうか?」
「もちろんあるよ。魔法を操る魔物もいる。ちょっと剣を借りていいかな?」
「どうぞ」
預けた剣がうっすら魔力を纏う。落ち着いたところで剣を返された。
「魔法を放つからその剣で斬ってほしい」
「は…?」
「じゃあ、いくよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
少し離れた場所からオーレンに向けて『炎』が放たれる。かなり小さな炎がゆっくり飛んでる。凄く繊細な魔法操作だ。
「ハァッ!」
オーレンが剣で炎を斬ると真っ二つに分かれて消滅した。
「今のは付与魔法の効果なんだ。魔法を物理的な攻撃で破壊できるようにした。付与魔法には色々な種類がある。アニカに付与してもらったとしても、使いこなせるかはオーレン次第だよ」
しばらく思考が追いつかなかったけど、我に返ったオーレンが「アニカ!俺もめっちゃ強くなれるぞ!」と息巻く。「私ももっと修練する!一緒に強くなろう!」と同調した。
興奮して騒いでいると、ウォルトさんが真剣な表情で口を開いた。
「勘違いしてほしくないから言っておくよ」
いつになく真剣な口調。一瞬にして空気がひりついた。はしゃいでいた私達は口を噤んで静かに次の言葉を待つ。
「ボクの勝手な希望だけど、2人には昔からの夢だった冒険を楽しんでほしい。だから冒険に役立ちそうなことを伝えてる」
「有り難いです!」
「もし、ただ強くなりたいとか力を誇示するような冒険者になりたいなら、教えられることはなにもない。ココには来なくていいしボクのことも忘れてほしい。ボクも……君達のことを忘れる。いいかな?」
少しだけ寂しそうに告げる。そんなウォルトさんに向かって私達は力強く頷いた。
思い出したから。住み家から見える墓標が並ぶ光景を。この森で冒険者になったことを後悔しながら逝ってしまった先輩達の存在を。そんな者達を看取って、手厚く葬っているウォルトさんの言葉は重い。
冒険はいつでも死と隣り合わせだと知っているから、未熟な私達に命を守る術を授けてくれている。浮かれかけていた自分達を悔いた。
「ありがとう」
ウォルトさんは続ける。
「偉そうなことを言ったけど…君達が素直でなんでも吸収してくれるから、教えなくていいことも教えてしまうボクがダメなんだけど…」
力なく笑うウォルトさんにつられて私達も笑った。
「ウォルトさん!私は決めました!」
「なにを?」
「いつか…私達がウォルトさんが安心できるような冒険者になったら、一緒に冒険しましょう!その時は楽しい冒険の思い出を約束します!」
「いいな!ウォルトさんに教えてもらったことを生かして皆で楽しい冒険だ!」
オーレンも賛同した…けど。
「乗っかってくるな!この盗っ人オーレン!アンタを連れて行くとは言ってないからね!」
「ふざけんな!誰が盗っ人だ!俺も同じこと考えてたんだよ!お前こそ置いていくからな!」
「なんだとぉ~!?」
「なんだよ!」
さも近い未来のように騒ぐ私達を見ながら、目を細めるウォルトさんの姿があった。
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