29 修練の成果
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
ここ数日の間に様々な出来事が起こった。
目まぐるしい日々に少しだけ疲れたウォルトは、住み家にいてもボーッとしていることが多い。そんな中、久しぶりにオーレンとアニカが訪ねてきてくれた。
「ウォルトさん!こんにちは!」
玄関のドアを開けると、いつも気持ちいい挨拶をしてくれる。いつもと変わらない笑顔にホッとした。
「久しぶりだね」
笑顔で出迎える。住み家に招き入れてお茶を淹れて差し出した。
「はぁ…。ウォルトさんのお茶は美味しい…。そうだ!私、『治癒』が使えるようになりました!」
「凄いなぁ。こんなに早く覚えるなんて」
「えへへ!まだ全然回復力弱いんですけど…ウォルトさんのおかげです!」
「大袈裟だよ。ボクは基礎しか教えてない。修練すれば回復効果が伸びていくからね」
以前、なにか修得したい魔法がないかアニカに聞いたところ、冒険には欠かせない『治癒』を覚えたいと言っていたので基礎だけ教えていた。
手応えを掴んだのを確認して、「あとは自分で修練あるのみ」と伝えた。治癒魔法は詠唱するればするほど上達する。
それだけで修得したということは、努力も当然だけど魔法の才が人並み外れているということ。本当に凄い才能の持ち主だと思う。
「俺も剣術上達したと思います。ゴブリンやフォレストウルフなら一撃で両断できるようになりました」
「凄いなぁ。かなり稽古を積んだね」
オーレンは自己流の剣術で魔物に挑んでいたけど、最近では他の冒険者と積極的に交流して剣術を磨いているらしい。向上心の塊だ。
「それで…お願いがあるんですけど」
急にかしこまった様子の2人。
「なんだい?」
「俺達と同時に手合わせしてもらえませんか?」
「同時に?」
「はい!修練の成果も見てもらいたいですし、もしよかったら連携とかで気付いたことを教えて貰いたいです!」
「そういうことならいいよ。ボクの意見でよければ」
「「お願いします!」」
2人はなぜかボクを慕ってくれる。少しでも力になれるなら嬉しい。師匠もこんな気持ちだったのかな?
「早速やってみる?」
「「はい!お願いします」」
「表に出ようか」
外に出ていつもの更地で対峙する。オーレンはボクが修練用に作った木刀を手に準備万端。
「行きます」
「いつでもいいよ」
まずは、先制攻撃で少し離れたアニカが詠唱した。
『火炎』
翳した両手から大きな炎が発現する。詠唱までの動作もかなりスムーズで、威力も増して修練の成果が見て取れる。そこら辺の魔物なら命中すれば一発で討伐できるであろう威力だ。
魔法を軽やかに躱すと、オーレンが剣を構えて突進してきた。魔法は囮…?いや…。もし当たればその時は追撃か。いい連携だと思う。
「オラァァ!!」
接近して袈裟斬りを繰り出してくる。攻撃の予備動作も無駄がなく、以前とは斬撃の速さも比べものにならない。成長に目を見張る。ひらりと躱して距離をとった。
「もうちょっと動揺してもらえると思ったんですけど…」
苦笑してるけど、余裕で躱してるワケじゃない。
「驚いてるよ。この短期間で腕を上げてるね」
★
ウォルトさんは『驚いたニャ!』とか言いそうな顔で本気で感心してる……んだけど、俺もアニカも苦笑いしかできない。
今の連携は、この辺りの魔物相手ならほぼ通用する必勝パターンに仕上がってた。軽々といなされた上に感心されてる。
薄々気付いてたけど、ウォルトさんはかなり強い。街の冒険者でいえば恐らく上位クラス。
そんな実力者を相手に、自分達が今できることの全てをぶつけてどこまで通用するのか知りたいと思っていた。
ところが…。
「次はボクの番だね」
ウォルトさんが右手を翳す。マズイ!と感じてもなにが来るのか予想できない。
『氷結』
俺の両足がくるぶしの高さくらいまで凍り付いた。地面に根が張ったように動けない。
「足がっ…!」
次の瞬間、ウォルトさんは膝を曲げて力を溜めると一瞬で間合いを詰めてきた。
「はやっ…!」
繰り出された拳を辛うじて木剣でガードするも腕が痺れる。なんとか押し返して斬りつけようとしても、足が動かせないから力が入らない。当然軽く躱されてしまう。
その後、しばらく接近戦での撃ち合いになった。
「ぐぅっ…!」
かなり手加減されている拳でも一撃が重い。最初は手数も出たけど、次第に防戦一方になる。手数が半端じゃない。
『火…』
距離をとっているアニカは、魔法で援護しようと詠唱する素振りを見せる。でも、俺とウォルトさんの距離が近すぎていざというとき躱せないから『火炎』は使えない。
まだピンポイントにウォルトさんだけを狙えるほど上手く魔法を操れないのは知ってる。
「はぁ…はぁ…。参りました」
結局、体力が切れたところで俺は降参した。ウォルトさんはアニカに向き直る。
「アニカ。全力でボクに『火炎』をぶつけてくれないか?」
意味のない挑発をするような人じゃないことは知ってる。なにか意味があるんだな。
「わかりました!全力でいきます!」
頷いたアニカは、精神を集中して全力で放った。
『火炎』
ほぼ同時にウォルトさんも詠唱する。
『水撃』
翳した右手から水がうねり出ると、『火炎』と衝突して蒸発を始めた。
「『水撃』に負けないように魔力を放出し続けるんだ」
「はいっ!ぐっ…!くぅっ…」
炎の勢いが増してもまだ劣勢。このままでは押し切られてしまいそうだ。
「炎を巨大化させるようなイメージを膨らませて、魔力を放出してみよう」
「ぐっ、う…ぁ…ぁぁぁああっ!!」
『火炎』は激しく燃え上がり、『水撃』を蒸発させながらウォルトさんに襲いかかる。
「アニカは本当に凄い。『風流』」
竜巻のような突風がウォルトさんの身体を包み、巻き付かれた『火炎』は空へと上昇しながら霧散してしまった。
「はぁ…はぁ…」
全ての魔力を使い果たしたアニカがその場にへたり込んで、今回の手合わせは終了。
「2人ともお疲れ様」
「ありがとうございました」
「ふぅ~!やりきった!もう魔力は1滴も残ってないです!」
ウォルトさんは、俺の足に絡みついた『氷結』を解除して『治癒』をかけると、アニカに魔力を譲渡して家に招き入れた。
住み家でお茶を飲みながら、手合わせの反省会をすることに。
「かなり腕を上げてるし、上手く連携もとれてると思う。見違えたよ」
笑顔のウォルトさんに褒められて純粋に嬉しい。負けたけどやれることはやった。
「ありがとうございます!でも、まだまだです!」
「次はもっと上手くやります!俺達の悪いところを教えて下さい!」
「その向上心があれば大丈夫。ボクから言うことはなにもないよ」
「「え…?」」
「どうかした?」
「俺の剣はもっとこうしたほうがいいとか…」
「う~ん…。特にないかな」
「「えぇぇぇ~!」」
「初心を忘れず修練すれば自然に強くなるよ。ボクなんかあっという間に追い抜かれる」
あり得ないことを口にして、微笑みながらお茶をすすってる。『お茶うミャ~!』とか言いそうな顔をして…。
ウォルトさんと付き合ってみてわかったことがある。噓を吐かない人だ。全て本気で言ってるということ。
そして、自己評価が異常に低い。実力の底はしれないけど、冒険者で例えるなら上位ランクはありそうな強さなのに、本人は強いなんて微塵も思っていない。
そもそも、獣人の底辺と言っている身体能力も俺達に比べれば遙かに優れているし、それに加えて多彩な魔法を操るのは反則級。なのに、本人は至って普通に「ボクは弱い」と言ってのける。
アニカと一緒に田舎から出てきてはや数ヶ月。冒険や街での生活を送る中で気付いた。
巷は粗暴な言動や力自慢ばかりする獣人で溢れてる。獣人の…特に男は大半がそうだと実感してる。
ウォルトさんはなかなか出会えない心優しい獣人。態度も柔らかくて、強いのに力をひけらかすこともない。森で静かに暮らして誰とも闘いたくなんかない。
そんな獣人がいてもいいけど…。
「今回の手合わせで学んだことがある?」
ウォルトさんの言葉に揃って頷く。
「そんな君達だからボクが偉そうに教えることはなにもない。自分で気付くからね。でも、疑問があったら答えるし、手合わせは何度でも付き合うよ」
それだけで嬉しい。思わず笑みがこぼれる。ウォルトさんは美味しそうにお茶をすすった。
「これからもよろしくお願いします!俺はもっと強くなって…マードックさんみたいな戦士になりたいんです!」
ちょっと興奮して目標を口走ったら、ウォルトさんは「ゴフッ!」とお茶を吹き出して狼狽える。焦ってる姿を初めて見た。
「ごほっ…!ごほっ…!!マードックって…狼の獣人の…?」
「知ってるんですか?」
「うん…。ごほっ…」
「怖くて近寄りがたいんですけど、男らしくて逞しくて強い冒険者です!俺は剣士なんでちょっと違うけど憧れてます!」
「そうなんだね。きっとオーレンのほうが強くなれるよ」
マードックさんを知ってて言ってくれたってことは、噓やお世辞じゃない。やる気が出まくる!
「私の目標はウォルトさんです!」
「アニカはボクなんて直ぐに追い抜くよ」
「えぇ~?ダメですか?私にとっては凄い魔法使いです!」
「ありがとう」
アニカはウォルトさんにアピールを始めたな。この先、俺達の関係がどう変化していくのかわからないけど、ウォルトさんと付き合っていきたいのは確かだ。
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