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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
283/716

283 姉の優しさ

 無事に大型の魔物を討伐して、皆に『治癒』をかけながら闘いを振り返る。


「いやぁ~、全員無事だったね!」

「サマラさんの作戦通りに上手くいきました。雷の魔石なんてよく持ってましたね」

「ちょっと前にウォルトからもらったんだよね!念のため持ってきててよかった!」

「チャチャの矢に付けて口の中を射抜く発想はなかったです!」

「1個しかなかったから、確実に当てるならチャチャの矢が間違いないよ。口の中に打ち込まれたら魔物も防げないと思って」

「緊張しました。でも、標的が大きかったんで」


 用意周到なサマラさんと期待に応える凄腕狩人のチャチャ。私達が魔法を直撃させられたのは動きを止めてくれた2人のおかげ。


「この腕輪は凄い魔道具です!自分が1番驚きました!まさかあんなに威力が上がるなんて!」


 アニカの腕にはサマラさん愛用の腕輪が嵌められてる。作戦前に貸してくれた。


「ウォルトに貰った魔力が増幅できる魔道具だよ。私が持ってても宝の持ち腐れなんだけどね。ホントはウイカやアニカが使った方がいいけど」

「それはサマラさんの宝物です」

「私達は魔道具に頼らない魔導師を目指してるんで!いざとなったら作ってもらいますけど!」

「2人はビルド・フィタを貰ってるよね。チャチャもなにか貰ってたりする?」

「はい。結構前に貰ったんですけど…」


 チャチャは襟元から服の中に手を入れて、首飾りを見せてくれた。綺麗に編まれた組紐の先に付いているのは、小指の先くらいの小さな袋。開けると加工された魔石が入ってる。


「狩りで怪我したとき、傷に当てると綺麗に回復します。使ったら直ぐ魔力を込めてくれるし、回復薬なんかより断然効果が高くて。私は出会って直ぐ魔物に殺されかけたところを助けてもらったから、今でも心配してくれてて…」

「優しいよね!」

「やることが自然で憎いです!あげるモノに心が込もってる!素敵猫だ!」

「言いだしたらキリがないですね」

「これ以上はウォルトに会いたくなるからダメだ!素材探しを続けよう!」


 1つ提案しても大丈夫かな。


「その前に、この魔物から素材を採っていいですか?」

「よさげな素材があるの?」

「ギルドで鑑定してもらえばどんな魔物かわかると思って。特性なんかも今後の冒険のために知りた」

「それは大事だね」


 4人で協力して魔物を解体する。大型の魔物ほど消滅までに時間があるのが通例とはいえ、急いで素材を採取する。

 私とチャチャが指示を出して、解体は順調に終わった。鱗、爪、牙、皮や鰭まで剥ぎ取ってサマラさんのリュックに入れる。「力仕事は任せなさい!運ぶのは得意!」という言葉に甘えさせてもらおう。


 まだ『圧縮』の魔石に魔力が残っていたので、素材を布にくるんで使ってみたら上手く圧縮して収納できた。またウォルトさんのおかげ。


「このくらいなら楽勝♪行こうか!」


 私にとってはかなり重いけど、サマラさんは満面の笑み。本当に凄い。その後は大型の魔物に遭遇することなく10階層まで進むと、目当ての素材は直ぐに見つかった。地面のあちこちに無造作に散らばってる。


「多分、コレがアンバーグリスです」

「へぇ~。ちょっと臭うね。チャチャ」

「はい。独特の匂いです」


 やっぱり獣人の嗅覚は鋭いんだなぁ。私はほぼ匂わない。


「どんな匂いですか?」

「生臭いよ」

「釣ってしばらく放置した魚みたいですね」

「特徴も聞いた通りです。コレは私のリュックに入れますね。ほとんど匂わないので」

 

 状態のいいモノを選び、布に包んで丁寧にリュックに入れる。


「ウォルトが欲しがるような素材なら、ギルドで引き取ってもらえるんじゃない?」

「少し余分に採っていきましょうか」

「お姉ちゃん!私も持つよ!もし売れたらそのお金で皆でご飯を食べに行こう!」

「ふふっ。アニカさんはお弁当じゃ足りなかったんですね。兄ちゃんに「食いしん坊がいる」って言っておくべきでした」

「ち、違うし!太るとだらしなく思われるかもだし!皆と一緒に食事行きたいだけだよ!」


 揶揄うようなチャチャの台詞にアニカは焦ってるけど、今さらだと思う。


「兄ちゃんはふくよかな女性が好きなんですよ」

「ホントに!?」

「多分」

「適当じゃん!こら!」


 サマラさんがこっそり私に耳打ちしてくる。


「実は事実だったりするんだよね。ウォルトは言わないけど」

「へぇ~。知らなかったです」


 また1つウォルトさんのことを知れて嬉しい。頑張って太ってみようかな。


「素材も手に入ったし、これ以上進む必要もないね。戻ろっか!」

「そうしましょう」


 怪我人を出すこともなく、帰りはスムーズにダンジョンを脱出してフクーベへの帰路につく。




 街に戻ってからはギルドに直行する。中に入る前に人気のない路地裏で『圧縮』を魔石で解除して素材を元の大きさに戻した。


「私は外で待ってるよ。マードックの身内だから知ってる人がいたら面倒くさい」

「私も冒険者じゃないのでサマラさんと待ってます」

「わかりました。ちょっと時間かかるかもですけど」


 サマラさんとチャチャを残して、私とアニカでギルドに入る。


「採ってきた素材…ものすごく重いね…!」

「2人でも重い…。よくリュックが破れなかったね」


 サマラさんに負けないよう身体を鍛えないと。受付にはエミリーさんがいて報告する。


「お疲れさま。クエスト終わり?」

「この間教えてもらった素材を採りにいったんですけど」

「途中で知らない魔物を倒したので、素材を鑑定してどんな魔物か教えてほしいです!」

「素材を見せてもらっていい?」


 抱え上げて受付のテーブルにドン!と載せる。


「アンバーグリスって、コレで合ってますか?その他が倒した魔物の部位です」

「アンバーグリスは間違いないけど、他の素材は私じゃわからないね。ちょっと待ってて」


 エミリーさんは奥へと向かう。しばらくすると、ベテラン鑑定士のロイドさんと一緒に戻ってきた。

 カネルラだけでなく、世界中の魔物に詳しい博識な初老の男性。私達【森の白猫】はかなりお世話になってて面識もある。


「ロイドさん。お願いします。私じゃなんの魔物かわからなくて」

「ふむ。どれどれ…」


 胸ポケットから丸眼鏡を取り出して装着すると、鱗を手に取って見つめてる。


「珍しいな。久しぶりに見る」

「ロイドさんでも珍しいんですか?」


 初めて言われたかも。


「お前達は忘却の海原に行ったんだな。この魔物はケートゥスだ。爬虫類と魚の中間みたいな見た目で、大型だったろう?」

「はい」


 ケートゥスについて詳しく生態を教えてくれた。やっぱり雷系を苦手とする水の魔物みたい。

 冒険者を追い詰めてくるタイプの魔物じゃないみたいで、交戦を避けて逃走すれば遭遇してもさほど致死率は高くないらしい。


「中々出現しない魔物だ。素材は高値で買い取るがどうする?」

「加工した用途とか教えてもらえますか?それ次第で幾つかとっておきたいです」

「もちろんだ。まずは牙だが…」


 ロイドさんの説明を受けて、幾つかの素材は売らずに引き取って残りを売却した。お礼を告げて待たせている2人の元へ向かう。




 ギルドを出ると、実に不機嫌そうなサマラさんとチャチャがいた。


「どうしたんですか?」

「待ってる間のナンパがウザくてね…」

「サマラさんはわかりますけど、私なんかまだ子供なのに声掛けてきて…」


 サマラさんは言わずもがな、チャチャも文句なく可愛いのに成人してないからなのか自己評価が低い。

 もうすぐ成人するので女性らしさが増すと私達は予想してる。伸び代はチャチャが1番ありそう。


「素材を結構高値で買い取ってもらったので、皆で配分したいんですけど」

「私はいらないから3人で分けていいよ」


 サマラさんはウォルトさんのようなことを言いだす。さすが幼馴染み。


「ダメです!こういうのはちゃんとしないと貸し借りと一緒ですから!」

「じゃあ、皆でお腹いっぱいご飯を食べて、余ったら分けるってのいうのはどう?」

「「「賛成!」」」


 というわけで、ウォルトさん並に料理が美味しい【注文の多い料理店】に向かうことに。運良く席が空いていたので、アニカが満足するまで料理を注文する。


「美味しい~!まだまだイケますよ!」

「遠慮なく食べな~。いい食べっぷりだね~」

「アニカさんは瘦せてるのが信じられないです」

「食べても動いてるからね!」


 私も大食いな方だけど、アニカの食欲には負ける。給仕の女性が「こんなに食べる女の人…初めて見た…」と呟いたのが聞こえたことは内緒にしておこう。


 アニカが満足して一段落。


「お腹いっぱい!」

「なってないとおかしいです」


 落ち着いたところで素材を売った報酬を均等に配分する。私とアニカは幾つか素材を手元に残したので、自分達の取り分から差し引いた。


「こんなに貰っていいんですか!?狩りの売上の何倍もありますよ?!」


 受け取ったチャチャは驚いてる。


「珍しい魔物だったみたい。ギルドが高値で買い取ってくれたの。私達も驚いた」

「そうなんですね…。あの……サマラさんにお願いがあって…」

「どしたの?」


 チャチャのお願いは私達も共感できること。気持ちがわかりすぎるし、むしろ気付かせてくれてありがとうと言いたい。私達も同調してお願いすると、「私に任せなさい!」とサマラさんは笑顔で胸を叩いた。


 やるべきことをやってから、本日最後の目的地へと向かおう。誕生日を祝う計画を立てたときから決めていたこと。



 ★


 

 初のダンジョン攻略を終えてチャチャは思う。


 今日はいい経験ができた。ダルジョンは緊張の連続だったけど、狩りでは味わえない充実感があった。皆で協力して目的を成し遂げるのは楽しい。このメンバーだからだと思うけど。

 

「よぉし!行こっか!」

「そうしましょう」

「行きましょう!」

「どこに行くんですか?」


 私はなにも聞いてない。まだなにかあるのかな?


「チャチャの家だよ」

「えっ!?なんで?!」


 嫌とかじゃないけど意味がわからない。


「姉として許可をもらいにいかなきゃね!」

「私達はチャチャのお姉ちゃんだから」

「許可…?」


 説明なしでとりあえずダイホウへ向かう。家に到着すると、サマラさんが真っ先に家に入る。


「ちょっ……サマラさん?」

「ごめんくださぁ~い!」


 声に反応して奥から顔を出したのは父さんと母さん。少し遅れてカズ達も出てきた。


「誰だ?」

「あら。綺麗な娘さんね」

「フクーベから来たサマラです。チャチャの友達で、ダイゴさんとナナさんにお願いがあって」

「俺達に?」

「なにかしら?」

「10日後にフクーベで私の誕生日会をやるんだけど、その日チャチャを家に泊まらせる許可をもらいに来たんです!」


 えっ…?10日後…?


 ウイカさんとアニカも前に出る。

 

「ウイカと言います。私達3人とチャチャの4人で祝いたいと思ってます。チャチャは狩りの仕事と門限があるので、お2人に話して許可を頂こうと思ったんです」

「私はアニカです!ちゃんと責任もって無事に帰宅させます!だからお願いします!」


 …言葉が出ない。兄ちゃんの誕生日に…1人だけ泊まれない私のタメに、わざわざ皆で許可を貰いにきてくれたんだ…。気持ちが嬉しくて…泣きそう…。


「そんなことを言うためにわざわざ遠くまで来たのか。そういうことなら泊まっても構わないぞ」

「私もよ。チャチャと仲良くしてくれてありがとう」

「やった!ありがとう!」

「ダイゴさん。優しいですね」

「信用してもらえて嬉しいです!」


 お姉ちゃん達が父さんを取り囲む。


「い、いや…。大したことじゃな……いってぇ~!」

「鼻の下、伸びてるわよ…」


 母さんにお尻をつねられたけど、父さんの気持ちもわかる。お姉ちゃんズはタイプの違う美女揃いだからね。


「それと、カズ、ニイヤ、サンはよかったら今から私達と外で遊ばない?」

「いいの?!」

「遊びたいぞ!」

「ねぇちゃんたちは、やさしくてびじん!」


 ウイカさんの誘いに弟達は満面の笑み。


「褒めてくれてありがと!皆と遊びたかったんだよ!私はなにしても強いからね!かかってきなさい!」

「アニカ姉ちゃんって呼んでもいいよ!」

「私もだよ。いこっか」


 カズ達の手を引いて表に出ていく。


「チャチャ。初めて会ったけどいい友達ばかりじゃないか」

「優しい子達ね。いつでも遊びにきてって言っておいて」

「3人とも優しいお姉ちゃんなんだ。私もカズ達と遊んでくるね」

「あぁ。いってこい」

「気を付けてね」


 笑顔で皆の後を追った。

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