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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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273 空に咲く花

 ドワーフの友人たちに呼び出されたウォルトは、いつもの工房に向かっていた。


 新たなことに挑戦するらしく、ボクにも意見を聞きたいとのこと。新たな挑戦への興味と、自分にできることなら協力したいので喜んで馳せ参じた次第。工房に辿り着くと、既に職人達が集まって輪を作っていた。


「お疲れ様です」


 挨拶に反応したコンゴウさん達は一斉に視線を向けてきた。鋭い眼光に思わず仰け反ってしまう。


「よく来たな!待ってたぞ!」

「ウォルトならなんとかなるかもしれん!」

「俺らの頼みの綱だ!」


 コンゴウさん以下数名が、興奮した様子で駆け寄ってきた。


「一体どうしたんですか?」

「頼まれたモノを作るのにお前の力が必要なんだ!」

「神様、仏様、ウォルト様だ!」

「落ち着いて話を聞かせて下さい」

「そうだな。まずは説明するぞ」


 ヒゲを触りながら、コンゴウさんが説明を始めた。


「俺らは花火ってのを作ろうとしてる」

「花火って…極東の国で祭りの時なんかに打ち上げられるっていう、アレですか?」


 火薬を加工して空高く打ち出し、花のような形に炸裂させて鑑賞する。それが花火。

 煌びやかな火花と遠くまで響く爆発音が素晴らしくて、式典や祭りで打ち上げられるとなにかの本に書いてあった。


「お前はホント物知りだな。知ってるんなら話は早い」

「なんでまた?」

「まだ先の話だが、王都の式典で打ち上げたいらしい。なんとかならんかと依頼された」

「式典ですか。責任重大ですね」


 オリハルコンの発掘や加工で一躍注目を浴びたコンゴウさん達の元には様々な依頼が舞い込むようになったらしい。腕がいい職人集団だから当然だと思う。


「どうやって作るかはなんとなく想像つくんだがな。ただ、試し打ちができんのよ」

「それでボクに…ですか?」

「とりあえず、コレを見てくれ」


 コンゴウさんの掌には、指の先ほどに小さく丸めた火薬の玉。紙で包んであるけど匂いで判別できる。


「コイツを『魔鋼板』で囲んで火をつけると…」


『強化盾』に似た魔法を箱状に展開すると、中に入れた火薬に導火線を付けて外から火を着ける。シュッ!と火花が走って着火した火薬は魔法の箱の中で炸裂した。綺麗な青色の火花とともに、ドーン!と音が響いてボクは耳をパタンと閉じる。


「綺麗ですね」

「コレを何個も作って、厚紙かなにかで作った大玉に並べて入れたら多分花火ができる。…が、なんせ初めて作るからどんな風に広がるのかが予想できん。試し打ちしようにも作るのに時間がかかりすぎる。期限に間に合わんかもしれん」

「なるほど。作るのが1発ならそれでもいいけど味気ないですね」


 極東の祭りでは連発で打ち上げて、色鮮やかで美しく空に咲く花火を見ると気分が高揚するらしい。


「そういうことだ。どうせなら派手に打ち上げたい。お前の魔法でいい方法はないかと思って意見を聞きたかった。無理ならいい」


 しばらく思案して、ふと思いついた。


「火薬だけなら直ぐに作れますか?」

「もうできとる。あとは大きさと配合。それと並べ方だな」

「じゃあ、ボクに火薬を分けてもらえませんか?できれば色付きの火薬を」

「別にいいぞ。なにか思いついたんだな?」


 コンゴウさんはニヤッと笑う。


「上手くいくかはやってみないとわかりません。でも、是非やってみたいです。あと、他に作ってもらいたいモノがあります」

「いいぞ。言ってみろ」


 詳細を伝えると、コンゴウさん達はふんふんと頷く。この人達なら簡単に作り上げるはず。


「そんなモンならお安い御用だ。いつまでに作ればいい?」

「今から作ってもらっても?」

「いいぞ。お前はなにをするんだ?」

「さっきの火薬玉を作った金型はありますか?それと定規もあれば借りたいです」

「コレでいいか?」


 ドラゴさんが持ってきて受け取る。


「ありがとうございます。早速やってみます」


 ドワーフ達が見守る中、金型を『圧縮』で縮める。


「なんじゃそりゃ!?」

「ほぉ。面白い魔法だ」

「がっはっは!お前はいきなり予想外のことをやる!面白くて仕方ない!」


 皆が感心する中、今からやることを説明する。


「金型を圧縮して縮小版の花火を作ってみようと思います。この工房で打ち上げられるくらいの」

「なるほどな。それで試し打ちして配合や大きさを決める…か。だが、かなり小さくなるぞ?」

「可能だと思います」


 まず、木製の作業台を作ってもらって、花火の『星』と呼ばれる火薬玉を作成していく。小さいので気の遠くなるような細かい作業。様子を見守っていたドワーフ達も思わず唸る。


「器用なもんだな」

「いるだけ邪魔になる。本番用の星ならなんとかなるが、この太い指じゃ今は手伝えん。俺らは頼まれたモノを作るぞ」

「「おう!」」


 器用な女性陣が手伝ってくれて、次々星を作り出す。男性陣は鉄を加工し始めた。


 念のため全員に『強化盾』の膜を纏わせた。さらに、熱に強い『鉄壁』もかけておく。万が一火薬が爆発しても憂いなきよう。互いの身体をコンコンと叩きながら、ドワーフ達は呆れ顔。


「お前は…相変わらずぶっ飛んでるな」

「こんなこと普通できんぞ」

「動きの邪魔にならない防御魔法なんて聞いたこともない。しかも『鉄壁』まで」

「大袈裟ですよ。魔法使いなら誰でもできます」


 いつものやりとりもそこそこに、各々が作業を進める。


 




「よぉし!できたぞ!一丁やってみるか!」

「「「おぅ!」」」


 試作品を作り上げると、コンゴウさんの呼びかけで試し打ちをすることにした。


『強化盾』


 大きな洞窟の天井に届かんばかりの巨大な『強化盾』の箱が出現した。念には念を入れて『魔法障壁』も同時に展開する。ドワーフ達は苦笑するばかりで誰も驚いたりしない。


「コレでいいんだな?」

「注文通りです」


 発現させた箱の中心には地中から鉄パイプが飛び出していて、花火玉が載せられている。コンゴウさん達に作ってもらった鉄パイプは地中に埋められて、『強化盾』の外側まで引かれたあと、反対側の出口も地上に突き出してある。パイプの中には事前に導火線も引き込んでおいた。


『風流』


 パイプの口に手を翳して風を送り込むと、箱の中で花火玉がゆっくり宙に浮かんで上昇する。


「おぉ」

「繊細な操作すぎるな」


 宙に固定するように操作したままお願いする。


「コンゴウさん。着火を」

「任せろ」


 コンゴウさんが魔法で導火線に火を付ける。音を立てながら火花が走り、やがて花火玉に到達すると眩い閃光に爆音を伴って箱一杯に炸裂した。


「「「おぉっ!」」」


 色とりどりの火花が飛び散ったものの、綺麗な円形とはいかず色合いもいまいち。


「まだ改良の余地ありですね」

「そうだな。星の詰め込み方はもっと均等にしたほうが綺麗に広がるとみた」

「震わせたら上手く詰まりそうだぞ」

「数も減らしてもいいかもな。過密すぎる」

「色合いも薄いのと濃いのに分けていいな」


 次々に意見が飛び出す。試し打ちをしたことで問題点が浮き彫りになって、皆が改善に意識を向けることができている。さすがは職人集団ドワーフと感心していたところに、意見を求められたので参加する。


「ボクが思うに、火薬の層を増やせば色も増えると」

「なるほどな。じゃあ…こうすれば…」


 しばらく意見を交換して、それを元に改良を加えるためそれぞれ作業を再開した。全員が作業に没頭して、気付けば夜を迎えた。


「よぉし!飯にするぞ!ウォルト、頼んでいいか?」

「もちろんです」


 女性陣と協力して食事の支度を始める。親交を深めて、いまや女性陣のほうが仲良しだったりする。


「アンタは獣人なのになんでもできるねぇ。毎回たまげるよ」

「そんなことないです。皆さんのほうが凄いです」

「ウチの旦那と違って優しいし。離縁してアンタに養ってもらおうかね。アタシはよく働くよ。どうだい?」

「いいねぇ。アタシもそうしようかね。毎日ご馳走が食べられるよ」


 冗談を飛ばす女性陣に苦笑した。


「こらっ!ウォルト~!人の嫁さんに色目使うな!」

 

 会話が耳に入ったのか、ドラゴさんが激怒する。


「使ってませんし、なにも言ってませんよ?」

「やかましい!いくらお前でも嫁はやらん!そこに直れ!」

「誤解ですって!危ないっ!ちょっと、ドラゴさん!」


 大斧を振り回しながら追いかけてくる。ボクの方が足は速いけど、体力があって素早いので埒があかない。


 まったく…。気分よく調理中だったのに、濡れ衣を着せられた挙げ句、楽しみを邪魔されたことに若干イラッとした。


『拘束』

「なんじゃい?!」


 迫りくるドラゴさんを、魔力の縄で幾重にも捕縛してとりあえず地面に転がす。


「こら~っ!ウォルト…… …ンゴゴゴ…」


 ついでに深く『睡眠』もかけておく。これでよし。


「料理ができるまで大人しく寝てて下さい」


 剛力自慢のドワーフも形なしだな!と、皆は爆笑した。

 




 酒盛りはやらず、食事だけ済ませて作業を再開した。「今は酒なんて飲んでられん!」とコンゴウさん達も持ち場へ。

 ボクはひたすら星を作り続ける。細かい作業が楽しくて仕方ない。火薬の調整や花火玉の外皮作りも順調に進む。


 黙々と作業を続けて、改良した幾つかの花火玉が完成する頃、外は朝を迎えていた。ほぼ不眠不休で作り続けたのに、充実した顔で疲れは見えない。


「じゃあ、いきます」

「おう!」


 箱の中で炸裂した花火玉は、綺麗な円を描き美しい炎の花が咲いた。配合を変えたどの花火玉も同様だった。


「成功ですか?」

「申し分ない。あとは星の比率と火薬の配合、配列を変えれば大なり小なり立派な花が咲かせられる!ガハハ!やったぞ!」

「うおおお!」

「やったぜ!」


 歓喜の声が上がり、輪になって踊るコンゴウさん達を横目にボクはなんとも言えない充実感に満たされていた。やりきれたなぁ。


「打ち上げる装置も作らんといかんな。そっちは俺達で試行錯誤しながらやる。……ウォルト」

「なんですか?」

「お前、ココで働く気はないか?お前はいい職人になれる。言っとくがお前の魔法目当てじゃない。俺らの名声のタメでもない。ただ、お前と一緒に凄いモノを作りたい。お前とモノを作るのは楽しい」


 真剣な表情で勧誘してくれる。


「気持ちは…凄く嬉しいです。でも…今は手伝いだけさせてもらえると有り難いです。もし職人になりたくなったら、その時は是非お世話になりたいです」


 コンゴウさんの気持ちはもの凄く嬉しい。皆で作ることの楽しさを身を以て教えてもらえて感謝しかない。だけど、今はこのままでいたい。自分の1番の目標を達成するまでは。

 まだ魔法の技量が全然足りてない。目標とする師匠のような魔導師に遠く及ばないから。一生なれないかもしれないけど。


「そうか!気が変わったらいつでも歓迎するぞ。どっちにしろお前はもう俺らの仲間だからな!ガハハハ!」


 気にする様子もなく皆がうんうんと頷いてくれる。ドラゴさんが1歩前に出た。


「けどな…うちのカミさんに横恋慕は許さねぇぞ!」

「まぁだ言ってんのか!嫁さんの冗談だろうが!」

「バカも休み休み言え!ウォルトがそんなことするか!アホ!」

「偉そうに言うなら普段から嫁さんを大事にしろ!マヌケ!」

「なんだと!お前ら、どっちの味方なんだ?!」

「「「ウォルトに決まってんだろ!」」」





 住み家に帰る前に、作った星の大きさや花火玉に詰め込んだ星の配置を可能な限り正確に『念写』で魔力紙に写してコンゴウさんに渡した。


「さっきの花火玉の内部です。星の大きさもそれぞれ定規を当てて測ってます。参考になれば」

「なんじゃこりゃ!?」

「信じられん。こんなことができるなら設計図なんか描く必要ないぞ」

「お前の頭の中はどうなってんだ?」

「記憶を写しただけで誰でもできますよ」


 少しでも手助けになればいいな。皆が作った花火が打ち上がるのは見れないけど、きっと満足いくモノを作り上げる。


 コンゴウさん達はボクのモノづくりの師匠だ。

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