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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
266/715

266 気になるなんてもんじゃない

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ある日のこと。


 フクーベのギルド訓練場で、魔法の修練を行っている冒険者がいた。



「私の『反射』はどうでしょうか?操れるようになったと思います」

「はぁ…。ウイカは冒険者になって半年も経たないのよね?」

「まだ3ヶ月くらいです」

「アニカといい、貴女達姉妹はどうなってるの…?かなり上達してるわ」

「ありがとうございます!気になるところがありましたか?」


 隣にいたアニカが首を傾げて聞き返した。


「気になるなんてものじゃないわ」


 溜息を吐いたのは、ギルドの昇級試験官である魔導師のサラ。


 昇級試験でアニカの試験官を務めて以来、なにかと気にかけて交流を深めていた。アニカから姉のウイカを紹介されると、姉妹で魔法の才があることに驚きつつ、心から喜んで2人に期待を寄せている。

 私の見立てでは、姉妹共にカネルラ史上最高の女性魔導師になれる可能性を秘めている。もしかすると、女性に限らない最高の魔導師にすら。自分も目指した高みに登る可能性を持った姉妹と知り合えて嬉しくないワケがない。


「アニカ。なにか気付いた?」

「全然わかんなかった!サラさんだから気付いたことじゃないかな!」

「そうでもないけどね…。魔導師なら誰でも気づくことよ…」


 気になっているのは、姉妹の魔法を操る技量。この子達の才能が稀有なモノであることは言うに及ばない。魔導師としてどこまで成長するのか予想もつかない。

 けれど…いかに才能があろうと成長速度が異常だ。現にちょっと前に教えた『反射』をまだぎこちないながらも使いこなしてる。

 普通の魔導師なら何ヶ月も修練して、やっと習得するような魔法。ほんの数週間で操るなんて通常考えられない。


 おそらく2人の『師匠』が大きく関わってる。姉妹には出身の村に魔法の師匠がいて、冒険者になる前から魔法を学んでいたのは聞いてる。

 ただ、その師匠は基本的に生活魔法しか使えないらしいから、魔法の基礎を教えてくれた程度だと私は思っている。


 問題は…。


「貴女達の…今の魔法の師匠は本当に魔導師じゃないのよね?」

「はい。魔導師じゃないです」

「本人曰く、ただの魔法が使える人らしいです!」


 満面の笑みで答える姉妹。…コレなのよ。


 2人の魔法の師匠は魔導師じゃない。もの凄い難問。まったく理解できない。同じ師匠から魔法を学んでいるらしいけど、師匠は魔導師じゃないと言い張る。

 そんなはずはない…というか、そんなのあり得ない。真面目な発言ならおそらく魔導師の括りを履き違えているのだと思うけど。


 ちなみに、同じくパーティーを組んでいるオーレンという剣士の少年も同一人物から剣を学んでいると聞いた。確かに剣を操る魔導師なんて噂にも聞いたことかない。

 師匠の情報については「絶対に内緒にして下さい」と釘を刺されてる。「サラさんを信用しているので教えた」と真剣な表情で告げられた。

 そこまで言われては口が裂けても他人に言うワケにはいかない……けれど気になってる。正直…気になりまくってる。2人の師匠のことを、もっと知りたいと思ってる。


 魔導師は師匠に恵まれないと上にいけない世界。独学の限界は思いのほか早く訪れる。本人の資質に関係なくそれが現実。

 私の師匠は、魔導師業界に蔓延る男女差別をすることもなく全ての弟子に平等に接するようないわゆる人格者だ。

 自分の知る知識や技能を包み隠さず伝授する懐の深さもある。弟子は皆、慕っていると言い切れる。もう現役を引退して長いけど、未だに尊敬してやまない。私が今の実力を手に入れたのも師匠のおかげ。


 この2人もいい師匠に巡り会えたようで、話に聞くと素晴らしい人物らしい。おかしな魔導師に師事しなかったことは一安心だ。さらに「自分達の師匠より凄い魔導師には、まだ会ったことがない」と口を揃える。

 もちろん冒険者になって経験が浅いので仕方ないことだし、本人達も理解しているけれど、アニカが言うには「私が知ってる中で、師匠の次に凄いと思う魔導師はマルソーさんです」とのこと。


 この発言には驚いた。Aランクパーティーホライズンのマルソーは、現状フクーベの若手で最高の魔導師の1人といっていい。

 ほとんどの冒険者、魔導師に異存はないはずだし私もそう思う。おそらくカネルラの若手魔導師では5本の指に入る実力者。

 それでも、マルソーの魔法を見たことのある2人は「比べモノにならない」と言い切った。至って当然といった風に。決して師匠を持ち上げているようには感じられなかったし、誇張もしてないだろう。そんな性格でないことは付き合って理解しているつもり。であれば、紛れもない事実ということになる。


 要するに…魔導師ならその師匠とやらに会ってみたくなるのが当然だ。名も姿も知らない凄い魔導師に会ってみたすぎる。


「はぁ…」

「どうしたんですか?」

「旦那さんとケンカしたとか?私達でよければ話を聞きますよ?」

「夫婦仲はすこぶる良好よ…。って、そうじゃないわ。ウイカもアニカも、自分達が凄い師匠に魔法を教わってる自覚はあるのよね?」

「「あります」」

「詮索するつもりはないけど、貴女達の師匠が凄い魔法使いだって知ってる人は他にいるの?」

「何人かいると思います」

「私達以外にも冒険者の知り合いがいるので!」

「そうよね。そんなに凄い魔法使いなら知られてないはずないか…。そうだ。最近、師匠は凄い!と思った出来事とかある?」

「凄いと思った…。そうですね…。色々ありますけど」

「最近だと…師匠が『反射』を知らなかったんですよ!」

「それで?」


『反射』を知らないのなら大した魔導師じゃないと思うけど。


「私達が師匠に『反射』を教えたんですけど」

「うん?」

「1回で覚えてすぐ使いこなしてました。しかも、効果的な使い方を教えてくれたんです。だから私達も上達できました」

「さすがだったよね!最初から跳ね返りも正確で!」

「はぁ?弟子に魔法を習うの?その人、本当に師匠?」

「私達は師匠と弟子じゃなくて…」

「師匠と友人なのでいいんです!可愛いんですよ!」


 ちょっと言ってる意味がわからない…。師匠なのに可愛い…?2人が笑顔なので多分そうなんだろう。


「サラさんは私達の師匠に興味があるんですか?」

「そうね。貴方達を見てると一魔導師として会ってみたいと思う」

「きっとその内会えますよ!」

「会わせてはくれないの?」

「えっ?!会ってみたいなら師匠に訊いてみましょうか?!」


 あっけらかんとアニカが答えた。正直、予想外の反応。てっきり誰にも会わない変わり者の魔導師だと思っていたから。


「いいの?」

「師匠は「いろんな魔導師に会ってみたい」って言ってました!私に会うまでは自分の師匠しか魔法使いを知らなかったって言ってたので!」

「嘘でしょ…?」


 そんなはずはない…。同門や他の魔導師と交流して、切磋琢磨しないと魔法力の技量は向上しない。アニカ達の師匠は只者じゃないはずだけど…。


「サラさんは『反射』も教えてくれたので、喜んで会ってくれると思います」

「確かに!」

「ますます人となりがわからなくなったわ」

「あと、前にもお願いしたんですけど、師匠に会っても他の人に言わないと約束してほしいんです」

「約束するわ。絶対に言わない」


 なぜ素性を知られたくないのかしら?魔導師は基本的に名を売りたい者ばかりなのに。かなり変わってると思う。


「あまり期待しないで下さいね」

「師匠に無理強いはしたくないんです!」

「わかってる。できればでいいわ」

「そういえば、サラさんの師匠はどんな方なんですか?」

「私の師匠は元々カネルラの宮廷魔導師で、引退されてから多くの後進を育てた方なの」

「宮廷魔導師!」

「凄い方なんですね!」

「魔法の技量もだけど、人として尊敬できる師匠よ。今でもたまに会いに行くけど昔と変わらず優しいわ」

「そうなんですね」

「もしかして…昔は師匠が好きだったりとか?!」


 やっぱり女性はこういう話が好きよね。


「それはないわ。私が師匠と出会ったときもう50歳を過ぎてた。それに、結婚もされて孫もいたのよ。それ以前に師匠は女性なの」

「なるほど」

「貴女達の師匠も結構年配なの?」


 答えるのを躊躇っている。探るようなことを訊いてしまったと反省した。


「気にしないで。余計なことを聞いてごめんね」

「いえ」

「多分大丈夫なんですけど、聞いたら驚かれると思って!」

「驚く?」

「はい。私達の師匠は…」

「若いです!」

「凄いわね…。若いのに貴女達の師匠なんて」


 噂の師匠が若いなんて…。興味を抑えきれず一歩踏み込んでみる。


「40代かしら?」


 姉妹はフルフルと首を振った。


「まさか、30代なの…?」


 だとしたら確かにあり得ない。あまりに若すぎる。そんな技量を持つ同年代の魔導師に心当たりがない。けれど、姉妹は更に首を振った。


「ひょっとして………20代…とか?」


 コクリと頷いた。


「嘘でしょう!?」


 訓練場に声が響き渡る。ウイカとアニカは苦笑い。


「やっぱり驚きますよね」

「サラさんの気持ちはよくわかります!」

「貴女達の師匠は……何者なの?ただの若作りで嘘を吐いてるんじゃないの?」


 20代だとマルソーと同年代。それなのに比べものにならない魔法を操る者がいるというの?


「そんな噓を吐く人じゃないです」

「実際若いです!」

「そうよね…」

 

 2人が噓を吐く理由がない。皆に隠してるくらいなのだから。信じ難いけど…事実なのだろう。


「師匠を嘘吐き呼ばわりしてごめんなさい。驚いて、つい」

「気持ちはわかります。私達も信じられないくらいですから」

「師匠に魔法を習い始めてからは特にそう思います!」


 ウイカとアニカは、「ねっ」と顔を見合わせて苦笑した。世の中には自分の知らないことが溢れている。2人の師匠もそんな事象の1つだ。

 いつか会ってみたいという私の願いは、直ぐに実現することになる。話を聞いた噂の師匠は、「是非会ってみたい」と言ってくれたらしい。


 今度、日程を決めて会いに行くことになった。一体どんな魔導師なのか。その時を楽しみに待つことに決めた。

読んで頂きありがとうございます。

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