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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
259/716

259 ちゃんと認識してる

 腹ごしらえを終えてカンノンビラの街を散策する。


 サマラはカンノンビラに興味はなかったけれど、楽しそうなウォルトを見て自分も嬉しくなっていた。


「とりあえず、宿だけは決めておきたいねぇ」

「いい宿が空いてるといいね!」

「無理して泊まらなくてもいいんじゃないかな?別に日帰りでも」

「「それはない」」

「そ、そう?」


 ウォルトはわかってない!泊まりがけだから旅行なんだよ!


「私に任せて!いい宿がないか訊いてみよう!」


 道行く人々に聞き込みして情報を仕入れる。ふむふむ…。いい情報をゲットした!


「ちょっと遠いけど、フィガロゆかりの宿があるみたいだよ!」

「そりゃいいね。行ってみようじゃないか」

「ということは…多分アソコかな?」


 ウォルトはボソッと呟く。泊まりたい宿があるなら遠慮しないで言えばいいのに!


 自分の趣味に付き合わせるようで申し訳ないという気持ちと、行ってみたい気持ちがせめぎ合ってるような感じかな。でも、今日は姉さんと私からウォルトへ感謝を伝える旅行。


「アンタへの礼なんだから遠慮なんかしなくていい。行きたいところがあれば遠慮なく言いな」


 さすが姉さんはわかってる!


「う~ん…。ボクの我が儘に付き合ってもらうのも悪いから」

「そうかい。悲しいねぇ。アタイらは他人ってワケか。アンタはいつも「友達だから気にするな」って言うだろ」


 キャロル姉さんはジト目を向けた。


「そんなつもりじゃないけど…」

「なら遠慮するんじゃないよ。アタイらが悲しくなっちまう」

「そうだよ!私達に我が儘言わなくて誰に言うつもりなの!」

「ありがとう…。幾つか行ってみたいところがあるんだ。後で付き合ってくれないか?」

「もちろんさ」

「もちろんだよ!」


 とりあえず、教えてもらった宿に向かう。どうやら町外れに建ってるらしくて、少し歩くと宿が建ち並ぶ区画に辿り着いた。


「たくさん宿があるね!」

「獣人に人気だから宿も儲かるだろうさ」

「それもそっか!」


 獣人にはお盛んな奴も多いからね。それにしても、歩いているだけでニヤついた男達の視線を感じる。

 ウォルトには普通に歩いてるように見えるかな?でも、キャロル姉さんと私は内心もの凄くイラついてる。

 ただ見られているのか、下品な視線を浴びせられているのか直ぐにわかる。今がどっちなのか言うまでもない。


「姉さん、サマラ。この辺りの宿じゃない方がよくないか?」


 気付いてたんだね。匂いでバレてるかな?気を使ってくれるウォルトは優しい…けども、今回はウォルトの希望を叶えたいんだよ。私も姉さんも。


「いいや」

「ココでいいよ」



 ★



 怒りの匂いを嗅ぎ取ったウォルトは苦笑い。


 姉さんとサマラは、見世物でもないのに無駄に視線を集めることを嫌う。昔から変わってない。2人は美人だから男達の気持ちも理解できる。

 ただ、自分達の容姿云々じゃなくて男の視線に嫌悪感を抱いているから、『なんでコイツらに気を使わなきゃならない』という強い意志を感じる。


 ボクがしてあげられることは1つだ。


「いやらしい目で見られたくないよね」

「誰でもいい気分はしないだろ」

「大嫌いだよ!」

「とりあえず見られないようにしようか」

「「はぁ?」」

「ちょっと来てくれる?」

 

 路地裏に引っ込んで、『隠蔽』で2人の姿を消した。


「驚いたね…。こんな魔法もあるのかい…」

「ホントびっくり!なんでもできるね!」

「誰でも使える魔法だよ」


 周りからはボクだけ姿が見えている状態。


「匂いで2人の居場所はわかるから心配いらない。宿までこの状態で行こうか」

「それはそれで~」

「気持ちは複雑だねぇ」

「なんで?」


 話していると、数人の獣人がボクらを追うかのように路地裏に入ってくる。


「おい!さっきの女はどこ行った?」


 話しかけてきたのは先頭に立つ鳥の獣人。鷹の獣人に見えるけど、鳥の種族にはあまり詳しくない。


「先に行きましたよ。彼女達になにか用ですか?」


 淀みなく嘘をついた。コイツらの目的はろくでもないことだと予想できたから。


「ちょっと俺らと遊んでもらおうと思ってな。お前の知り合いだろ?頼んでくれよ」

「断ると言ったら?」

「痛い目を見てもらうかもな」


 ふざけたことをのたまう鳥の獣人。マードック風に言うなら鳥公。思考が明快で非常にわかりやすい。言うことを聞かないなら実力行使。単純明快が売りの獣人の理屈だ。


「だったらお断りします」


 笑顔で告げると、やれやれといった表情を浮かべる男達。


「瘦せっぽちのくせにいい度胸してんな。どうせお前の女じゃないんだろ?貧相な種族(ネコ)のくせに調子乗んな」


 耳がピクリと動く。


「猫が…なんだって…?」


 同じく猫を祖先に持つキャロル姉さんが前に出ようとした…が、隣に立つ見えないサマラが手で制する。ありがとうサマラ。


「お前みたいな貧弱そうな猫に、上等な女が惚れるわきゃねぇ。家族かなんかだろ?」


 当然だと言わんばかりに嘲る。


「確かに2人はボクとは釣り合わない。それと猫になんの関係がある…?」

「はぁ?ただ猫をバカにしてんだよ」

「そうか」


 コイツも獣人なのだから、他の獣人の祖先を馬鹿にする行為がなにを意味するか理解しているはず。だったら容赦しない。


「わからなかったのかぁ?お前はアホだな。変な服に変な眼鏡まで付けてなにがしたい……?!」


 固く拳を握りしめて一気に間合いを詰める。


「ウラァァッ!」

「ガハァァァ…!」


 一瞬の『筋力強化』で顔面に拳を叩き込むと、男は吹き飛んで白目を剥いた。猛禽類特有の立派な嘴はひび割れて潰れる。硬そうな割に見かけ倒しのお飾りか。


「てめぇ…!」


 襲ってきた仲間も一蹴する。蹴り飛ばし殴り倒して気絶させた。


「その程度で人の祖先を舐めるな」


 這いつくばる男達に無表情で話しかけても返事はない。



「ウォルト…。アンタは……」

 

 キャロルの知るウォルトは、素直で優しくて…けれど獣人としては限りなく弱かった。何人もの獣人を殴り倒せるような獣人じゃなかった。



「てい!」

「痛っ!」


 いつの間にか後ろにサマラが立っていて、頭に軽く手刀を落とされる。


「顔が怖いよ!こんな奴ら放っといて早く行こうよ!」

「そうかな?ゴメン」


 明るくサマラに話しかけられて自然といつもの調子に戻れた。

 

「姉さんも行こうよ♪」

「あ、あぁ。行こうか」


 皆で歩き出そうとしたとき、意識を取り戻した鷹の獣人が倒れたまま手を伸ばしボクの足首を掴む。


「待て…。この…クソ…猫ヤロ…」


 さっきのでは足りないか。だったら…。


「しつこいよ!」

「グアァァッ…!」


 ボクより先に見えないサマラが鷹の獣人の後頭部を踏みつけた。頭の毛皮が靴の形にヘコんでる。果物が潰れたような音が響いて、強かに顔を地面に打ちつけた男は痙攣した。


「誰か知らないけど、命拾いしたんだから感謝してよね!私だからこの程度で済んだんだぞ!」


 サマラなりの優しさだったのか。ちょっと過激な気もするけど、確かにボクはもっと痛めつけるつもりだった。

 獣人の祖先をバカにする行為は、『いくとこまでいっても構わない』という意味。暴力が正当化される問答無用の悪意。発端は下らないケンカだったのに、相手の祖先を罵ったせいで命を落とした獣人は多い。

 だから、サマラの指摘はあながち間違いじゃない。相手の種族を嘲ることは獣人同士のケンカで越えてはいけない一線。


「今度こそ行こう!早くしないと宿が埋まっちゃうよ!」

「そうだね」


 路地裏を出て教えてもらった宿に向かう。サマラ達の姿は見えないけどちゃんと付いてきてる。


「すっごく歩きやすい。誰にも見られないって最高」

「気分がいいねぇ」


 小声で話してるけど丸聞こえだ。気分がいいのならそれに越したことはない。

 


 ★



 ウォルトの『隠蔽』により、面倒事に巻き込まれることなく宿の近くまで移動した3人。


 キャロルは人目を気にせず歩いたことを嬉しく思いながら魔法に驚いてもいた。


「ゆっくり歩いたのは久しぶりだった」

「楽だったよね~!」


 建物の陰でウォルトが魔法を解除してくれて宿に向かう。


「アタイは消えたままでよかったけどねぇ」

「お客さんを驚かせたりしてね!」

「さすがにマズいよ」

「冗談、冗談!」


 実際、ウォルトの魔法は大したもんだ。姿を消す魔法なんて聞いたこともない。悪事に使われそうだから庶民は知らないって可能性もあるけど、珍しい魔法じゃないか?


「教えてもらったのはココだね!入ろう!」


 サマラが教えてもらった宿は、外観や内装は古ぼけてるけど綺麗に修繕されて歴史を感じさせる。いい雰囲気だ。

 ウォルトは宿に入るなり落ち着きなく動き回ってる。やっぱりこの宿のことを知ってたんだね。あの様子からすると、フィガロが泊まったことがある宿ってとこか。

 戻ってくる気配のないウォルトはとりあえず放っておいて、サマラと受付に向かう。


「いらっしゃいませ」

「3人泊まりたいんだけど、部屋は空いてるかい?」

「少々お待ちください。本日は……3人部屋でよければ1部屋だけ空きがございますが、いかがなさいますか?」

「私は大丈夫だけど、姉さんは?」

「アンタがよければアタイもいい。泊まらせてもらうよ」

「かしこまりました」

「ウォルトにも聞くべきかな?」


 目を向けるとまだ動き回ってる。まるで落ち着きのない子供だ。


「この宿に泊まらせてやりたいし、選択肢はないさ」

「そうだね!話を聞かない子供に拒否権はなしってことで!」


 支払いを済ませて部屋の鍵を受け取る。


「ウォルト。部屋が取れたから荷物を置きに行くよ。見るのは後にしな」

「わかった!」


 駆け寄ってくるウォルトは嬉しそうだ。サマラはいい仕事してくれたよ。番号の書かれた部屋に移動して室内に入ると、真っ先にウォルトが口を開く。


「あれ…?3人部屋?2人はいいの?」

「こっちの台詞だよ。アンタはいいのかい?」

「ボクは構わないよ」

 

 へぇ。意外だね。てっきり「それはよくない」とか「ボクは野宿でもいい」って言い出すと思ったけど。


「アンタは反対すると思ってた」

「姉さんやサマラと2人きりはよくないけど、3人なら問題ない」

「なんでさ?」

「魔が差さないとは言い切れないからね。3人ならそれもない」

「ウォルトが私達によからぬことをするかもってこと!?」


 驚いたようなサマラの言葉に、ウォルトは微笑みながら頷いた。


「絶対しないつもりだけどね。幻滅されたくないし、今後も付き合っていきたいから」

「アタイらを女として見てたなんて意外だねぇ」


 揶揄うような視線を送ると、ウォルトは苦笑いだ。


「当然だよ。嘘を吐いてもバレるから正直に言うけど、同じ部屋に泊まるだけでもボクには刺激が強すぎるんだ」


 そうかい、そうかい。面白いこと聞いたよ。


「じゃあ、アタイはアンタと添い寝しようか」

「激しく同意!ウォルトを真ん中に寝せよう!反対側は任せて!」

「えぇっ!?なんでそうなるんだ?!さすがにマズいよ!」

「3人ならなにも起こらないんだろう?噓なのかい?」

「そう言ったよね!」

「噓じゃないけど…。ベッドは人数分あるし…。もったいないし…」


 ウォルトは弱気になって呟く。


「そんなもん繋げちまいな!」

「いや!繋げる必要ないよ!ギリ寝れる!」

「うぅ~!どうすればいいんだ?!」


 頭を抱えたウォルトを見て、アタイとサマラは顔を見合わせて笑った。

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