25 母と息子
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
ミーナ母さんは三毛猫の獣人。
毛皮はモフモフしていて可愛い……風にしているけど、ボクの母親だけあって実際はそこそこの年齢。いわゆる40代に差し掛かる。
人間が見ると獣人は年齢不詳らしく、総じて若く見られがちになるから母さんは調子に乗って若作りをしてる。
ただ、獣人同士は正確に推測できるから効果はないのに、母さんは不満に思っているという理不尽。
実際年齢より若く見えることは否定しないけど、驚異的なワケじゃないから精々5歳若く見られたら万々歳。息子としてはいつまで若いつもりなんだ…?という思いもある。激怒されるから言わないけど。
「ところで、ケンカの原因はなに?」
「…浮気された」
「浮気…?父さんが…?」
「他に誰がいるのよ!アタシに愛人がいるとでも思ってんの?」
「そんなこと思ってない」
「結局若い子が好きなの。所詮獣人よね!」
ボクも母さんもだよね…?とりあえず口にするのはやめておく。面倒くさいことになるのが目に見えてるから。
「なにがあったんだ?話してみてよ」
「さすがに…息子にも言えないわ…」
そんなに深刻なのか…。長引きそうだ。
「そうか…。母さんが浮気するならわかるけど、父さんが…」
「本人の前で、さらっととんでもないこと言うね…」
「だってそうだろ。いつも若作りして男に色目を使ってる」
「使ってないわ!人を尻軽猫みたいに言うな!」
「それはさておき、ちゃんと話し合ったの?」
「話し合ったわよ。でも……いつもあぁだからさ…」
「それは、まぁ…同意見だね」
母さんは落ち込んでしまった。こうなったら直接父さんと話すしかない。
「ボクと一緒に家に帰ろう。父さんと話したい」
「ウォルト…」
「仲直りして一緒に暮らしてほしいから。このままじゃボクが帰る家もなくなるし」
「アタシはいい息子をもった」
今日のところは泊まってもらって、明日の早朝から実家に戻ることに決めた。夕食を笑顔でパクパク食べる母さんを見て、本当に落ち込んでいるのか怪しさを感じたけど…。
それにしても…いい息子か…。そんな風に言ってくれるのは父さんと母さんぐらい。今でこそ冗談交じりに話せるようになったけど、小さかった頃……ボクにとって生きることが辛いことでしかなかった時代に、なんとか生きてこれたのは両親の優しさがあったから。
母さんは、いわゆる『普通の獣人』に生んであげられなかったと自分を責めてた。毎日のように苛められ傷ついて帰ってくるボクを慰めて、とにかく愛してくれた。
そんな母さんに苦労をかけまいと、必死に体を鍛えたりして苛められないよう努力したことを覚えてる。結果、思ったほど効果はなかったけれど。
でも、ボクの頑張りは母さんに変化をもたらしたらしい。大きくなってから父さんが教えてくれた。
『前向きに頑張る息子と向き合うのに後ろ向きな母親じゃ駄目だ!』と奮起して、ボクの生きる道を一緒に模索してくれた。
それからは努めて明るく振る舞うようになって、現在の騒がしい母さんに至る。どこかで進む方向を間違った気もするけど…。
勉強するのは得意だったボクを気味悪がらずいろんなことに挑戦させて、獣人という枠にとらわれず活躍してほしいと願ってくれた。
魔法を使えるようになったのも両親のお陰だと感謝してる。世界の常識では獣人が魔法を操れるはずはない。でも、ボクはその常識にとらわれなかった。
だからこそ魔法を習得することができて、マードックのような獣人とも渡り合えたと思ってる。ボクは母さんの息子でよかった。
子供のように口一杯料理を頬張る母さんを優しく見つめて心の中で感謝を告げる。すると、視線に気付いたのか料理を頬張ったまま答えてくれた。
「なに見てんのよ!…もぐもぐ…。ウォルトのご飯が美味しすぎるのがいけないんだからね!…もぐもぐ…。アタシは悪くない!…もぐもぐ…」
いつも通りで落ち着くなぁ。
★
次の日。
仲良く朝食をとったあとボクらは実家に向けて出発した。実家は森の住み家から駆けて2時間程のところにある。親子で野を越え山を越えて辿り着いた。久しぶりの帰省。
母さんはいい歳なのに駆けるのが速い。ボクも得意だけど、母さんに似たんだと思う。
実家に到着してドアの前に立つ。
「さぁ戦場に着いたよ!覚悟はいい?!」
「こっちの台詞だよ」
「よぉし!行くわよ!たのもぉ~!」
「自分の家なんだから普通に入りなよ」
ドアの前で声を上げても中から反応はない。母さんが言うには、今日父さんは休みらしいけど。
「ん?いないのかな?」
「父さんなら知らない人と一緒にいる。裏庭のほうだ」
「早く言いなさいよ!それにしても…アンタの鼻はどうなってんのよ」
「どうって…………!」
「どうしたの?」
無言で駆け出すと母さんが後をついてくる。裏庭に回り、知らない獣人の男と倒れている父さんの姿が見えた。父さんは頭から血を流してる。知らない男は牛の獣人。
知らない男に向かって一目散に駆け出す。『身体強化』を纏って…怒りの表情を浮かべながら。
見知らぬ男はボクに向かって吠えた。
「なんだテメェは?!」
「その人の…息子だ!!」
一気に間合いを詰めると男は拳を構える。間合いに入った瞬間パンチを繰り出してきたけど、軽やかに躱して顔面に膝を叩き込んだ。鼻が潰れた男は倒れ込んで喚き散らす。
「痛ぇっ…!!クソがっ…!テメェ、殺してやる!」
見下ろして告げる。
「無理だな」
「なんだと!舐めてんのかコラァ!」
「今から…お前を殺す」
「な、なんだとテメェ!」
「燃えろ」
男に向かって右手を翳した。
『火炎』
「うわぁっ!!炎がっ…!」
右手に炎を発現させて怯える男に向かって放とうとしたとき…。
「ウォルト……待て…」
父さんが起き上がった。
「ひ、ひぃ~!!」
男はパニックを起こして逃げ出す。追うことはせず炎を消滅させる。両親はボクが魔法を操ることを知っているので驚いたりしない。
「父さん。大丈夫か?」
「あぁ…」
「ストレイ!大丈夫なの!?」
「ん…」
父さんも変わってないな。ストレイ父さんは、モフモフの毛皮とおっとり優しげな表情が柔らかさを醸し出す茶猫の獣人。ボクと同じく顔は猫そのもの。
猫の獣人には珍しく大きくガッチリした体型で、その点は真逆といっていい。ただ、見た目に反して性格は優しくて思慮深い。
そんな父さんの一番の特徴は、とにかく無口なこと。元気でやかましい母さんとは対照的。昔から必要最低限の発言しかしないし、ボクは父さんが声を出して笑ったのを見たことがない。
母さんが「話し合いにならない」と言った理由がコレ。一方的に母さんが話すことになるだけ。
「父さん。さっきの男は誰だ?」
「む…。名前は…知らない…」
「知らない?殴られたのに?」
「ん…」
歯切れの悪い返答をする父さんに、しびれを切らした母さんが声を荒らげる。
「そんなワケないでしょ!『名前は』って言ったわね?じゃあ『誰か』は知ってるのね?!」
「あぁ……」
「とりあえず家に入ってゆっくり話を聞かせてもらう!行きましょ!」
母さんは父さんと連れ立って家に入っていく。ボクはゆっくり後を追った。
実家に入り、父さんに『治癒』を施して久々に3人でテーブルを囲む。口火を切って話し始めたのは母さん。
「今からストレイの隠し事を暴きます。被告はストレイ。検事はアタシで裁判長はウォルト。いいわね!それでは開廷!」
母さんは料理用のおタマでテーブルを2回叩いた。猫人3人による下らない裁判ゴッコが始まる。
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