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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
242/715

242 ちょっとは考えなさい

「え~いっ!」

「やぁ~!」

「とうっ!」


 テラの修練を真剣に見つめるウォルト。



 魔法闘気について説明したのち、テラさんは悪戦苦闘しながら修練している。なかなか闘気を発現するには至らない。致命的ななにかを見逃しているのか…?

 いくら考えてもなにも思い浮かばない。でも、ボクはテラさんの資質を信じる。自分なりのやり方で伝えることに決めた。


「テラさん」

「はい。なんでしょう」

「槍を構えてもらっていいですか?」

「こうですか?」

「はい。少し身体に触れてもいいですか?」

「いくらでもどうぞ♪」

「ありがとうございます。今からテラさんの身体を通して技能を発現させるので、闘気の流れと感覚を掴んでみましょう」

「そんなことができるんですか?!やってみます!」 


 構えたテラさんの後ろに立って、背中に触れる。


「このまま、見様見真似で『螺旋』を繰り出して下さい」

「やってみます!むぅ~!『螺旋』!」


 動作に合わせて闘気を流し込み、技能を発現させる。槍の先から綺麗に闘気が放出された。


「すっごぉ~!できました!気持ちいい!」

「異常はないですか?」

「ないです!絶好調です!」

「今のが技能を発動するまでの闘気の流れです。感じられましたか?」

「はっ…!完全に忘れてました!」

「もう一度やってみましょう」


 何度か試してみると、感覚を掴んだみたいだ。自分で修練したいようなので、テラさんに任せる。


「むぅ~!こうですね!」

「いい感じです。発動までもう少しだと思います」


 補足で助言して繰り返し修練を続けたテラさんは、最終的に薄ら闘気を身に纏うに至った。


「できた……。できましたぁ~!」

「素晴らしいです」


 喜ぶテラさんを見て安堵する。闘気に近いモノを習得できれば、本物もかなり楽に覚えられるはずだ。


「ウォルトさんは凄いです。私は不器用で全然覚えられなかったのに、たった数時間で…」

「テラさんの努力の成果ですよ」

「ダナンさんやアイリスさんも、根気強く教えてくれました。それでも身に付かなくて正直焦ってました。私には才能がないんじゃないか…って」

「ひたむきに努力できることがテラさんの才能だと思います。誰にでもできることじゃない。この先どこまで使いこなせるかは、今後のテラさん次第です」

「はい!次に会うときは…かなり強くなってますから!」

「楽しみにしておきます。あと…正直、宮廷魔導師の判断が気になってます…。…それでも、ボクはテラさんに魔法の才能があると思います。これからも成長できるはずです」

「さっきも言いましたけど、私はウォルトさんを信じます!」


 気付けばもう夕方。晩ご飯を食べるか確認すると「もちろんです!」と笑顔で答えてくれた。その後、王都に戻ると言う。住み家に入って夕食を作る前に聞いてみよう。


「テラさん。調理してる間にお風呂でもどうですか?魔法ですぐ沸かせますけど」

「いいんですか!?かなり汗かいたので入りたいです!」

「わかりました。洗濯しても魔法で直ぐ乾かせるので、必要なら言って下さい」

「大丈夫です。着替えはあります」


 お湯を張ってテラさんを風呂に案内する。このあとの展開に予想はついていた。


「ウォルトさ…」

「覗きませんよ」

「もうっ!なんで食い気味に言うんですか!」

「先を読んでみました。ごゆっくり」

「もう!」


 冗談を一蹴して台所に戻ると、カリーがいた。労うように優しく毛皮を撫でる。


「カリーもお疲れさま」

『やっぱり連れてきて正解だった。ありがとう』


 カリーはふわふわの毛皮を擦り寄せる。今のカリーの首は、実体がないとは思えないほどしっかり存在してる。どういう理屈なのかは気にならない。カリーは魔法を操る凄い騎馬だ。そういうこともある。


『ウォルトに訊きたいの』

『なんだい?』

『宮廷魔導師が優秀だと思ってるでしょう?』

『もちろん。違うのかい?』


 カリーの言葉には含みがあるように感じた。


『大多数の者はそうよ。でも、中にはそうでない者もいる』

『同じ宮廷魔導師でも力量の差はあるよね?』

『そういう意味で言ったんじゃない。テラの話を聞いたでしょう?あの子は魔法の才能がないって言われたらしい』

『聞いたよ。ボクにはなぜなのか理解できないけど』


 宮廷魔導師にはボクとは違う判断基準があるのだろう。それがなんなのかはわかりようもない。


『私が思うに…噓なのよ』

『噓?』


 どういうことだ…?


『その宮廷魔導師は、テラの才能を見抜いていながら嘘を吐いたと思ってる』

『それはないんじゃないか?嘘を吐く理由がないよ』

  

 カリーは「ブルゥ…」と溜息を吐く。


『これから話すことは私の推測になるけどいいかしら?』

『もちろん』

『貴方の見立て通りテラには魔法の才能がある。ウォルトを信用してるし、現にテラは魔力を使った闘気を覚えることができた。つまり、テラを診た宮廷魔導師は嘘を吐いているか、判断できる実力がなかった。このどちらかになる』

『そうだね』

『前者だった場合の問題は、なぜそんなことをしたのか?ということだけど、私の予想だとソイツは単に性格が悪い。もしくはテラに下心がある』

『性格が悪い?どういうことだい?』


 言ってる意味がわからない。


『魔導師はとにかくプライドが高い者が多い。宮廷魔導師ならなおさら。テラの潜在能力を知って、騎士なのに自分達と同様に魔法の才能があると判断した。でも、認めたくない。だから正直に伝えなかったというのが1つ目の予想』

『さすがにないと思うけど…』


 カリーは続ける。


『2つ目は「習得できない」と嘘を吐いて、「それでも覚えたいなら自分がなんとかしてやる」と人の弱みにつけ込んでテラに近づくつもりだった』

『それもないと思うけど』


 カリーは再び溜息を吐いた。


『ウォルト…。ちょっとしゃがんでくれる?』

『こうかい?』


 言われた通りにしゃがむと、カリーは近寄ってカプッ!と頭に噛みついてきた。こめかみに歯が食い込む。


『いたたたたたっ!』

『このお人好し!ちょっとは人を疑いなさい!』

『いてててっ!でも、優秀な魔導師なんだよ?そんなことしないんじゃないか?!』

『優秀なのと性格は別なのよ!このバカチンがっ!』


 直ぐに頭を離してくれて助かる。実体がないはずなのに、もの凄くしっかり嚙まれた。痛かったぁ。


『貴方はいい男よ。優しくて強くて私は大好き』

『ありがとう。嬉しいよ』


 面と向かって言われて『照れるニャ』状態になる。


『今のままでも構わないけれど、もう少し人の悪い部分に目を向けた方がいい。その内、痛い目を見るわよ』

『う~ん…。言ってることはわかるけど…』

『ウォルトは自分に向けられる悪意には敏感でしょう?見ていればわかる』

『そうだと思う』


 昔から多くの悪意を向けられてきた。意識したことはないけど、敏感に感じ取れると思う。


『私が言いたいのは…周囲の人間に悪意が向けられたとき気付いてあげてほしい。貴方の大切な人を守ってほしい。さっき言ったわよね?自分や大切な人に危害を加えるなら、魔物でなくても関係ないって。私もそう思うわ。悪意の形は様々だもの』

『カリー…』


 言われて気付いた。


 偉そうに言ったけど、自分は大丈夫だと思っていた。孤独だった頃はそれでよかったけど、今は友人も増えた。そんな機会があるかもしれない。カリーは…今回テラさんに悪意が向いたと判断して、わざわざココに連れて来てくれた。ボクなら解決できるだろうと思って。カリーは優しく、そして温かい。


『まぁ、偉そうに頼める立場じゃないけど!もう死んでるし!』

『関係ないよ。でも、しつこいようだけどテラさんの件は魔導師でも判断できなかったのかもしれない』

『あくまでそう思っているのね。魔導師の力量の問題だと』

『力量というより、たまたま見抜けなかったとか』

『ウォルトの診断も失敗する?テラのように明らかに秀でた才能に対して』


 カリーもテラさんの才能を感じてるんだな。


『それはない。テラさんのような才能は間違えようがない』

『でしょうね。仮にそうだとしたら、ナイデル達の人選に問題があると言わざるを得ない。貴方の言う通りだとしたら、宮廷魔導師に選ばれる実力じゃない』

『これからなんじゃないか?新人だったとか』

『現時点で戦力にならない奴が王城にいると思ってるの?その程度の力量しかない魔導師が、いざという時リスティアを守れると思う?たとえでも言いたくないけど、貴方より技量が下の魔法使いに彼女の命を任せられる?』

『それは…』

『私は任せない。戦争は甘くないわ』


 …カリーの意見はもっともだ。騎士や宮廷魔導師は、平時から有事に至るまでカネルラ及び王族を守る最後の砦。だからこそ、優秀な人材を集めて日々修練に励んでいるだろう。

 400年前も同様だったはず。彼等の実力をよく知るカリーだからこそ、宮廷魔導師の性格が問題だと言い切ったのかもしれない。

 確かに辻褄は合う。そして可能性が高いのか…。ボクは魔導師を手放しで信用してしまう所があるからカリーからの忠告と受け取ろう。

 よく考えたら、エルフも優秀な魔導師だけど性格が悪かったな。実地に感じたばかりだ。それにしても、国王を呼び捨てにする騎馬の魔法使いは強い。


『この話はもうおしまい。長々と話してゴメンね。頑張ったテラに美味しい料理を食べさせてあげて』

『カリー。1つだけいいかい?』

『なに?』

『出会った頃は君を子供みたいで可愛いって思ってたけど、落ち着いた大人の女性だね。勘違いしてた』

『うっ…!出会ったばかりの頃は、まさかウォルトと話せるなんて思ってなかったからね…。バレたから仕方ないけど、歳をとってもはしゃぎたい時はあるのよ』


 カリーは微笑んで台所をあとにする。少しだけ照れ臭そうに見えた。




 入浴を終えて着替えたテラさんは、食卓に並んだ料理を見て目を輝かせる。


「いただきます!うんまぁ~!うまままままぁ~い!」

「さすがに大袈裟すぎです」


 反応が派手すぎて逆に胡散臭い。


「大袈裟じゃないです!王都でもウォルトさんの料理より美味しい料理を出す店に行ったことないです!」

「ありがとうございます」


 身体を動かして空腹だったんだろうな。空腹は最高の調味料。凄い勢いで食べ終えてしまった。テラさんにはお世話になりまくっている。少しでももてなせて嬉しい。全然返し足りないけど。


「はぁ~!大満足です…」

「それはよかったです」


 笑顔で後片付けに向かう。



 ★



 ウォルトが後片付けをしている隙に、テラは小さな声でカリーに話しかけた。


「ねぇ、カリー」

「ヒヒン?」

「ココに来ると…帰りたくなくなっちゃうね」

「ヒヒン」


 言葉を理解しているかのように、コクリと頷いてくれる。カリーは優しくていい娘だ。


「また連れてきてね」

「ヒヒン♪」


 モフりながら話していると、ウォルトさんが戻ってくる。


「ウォルトさん。暗くなる前に帰ります」

「わかりました。夜は魔物も出やすくなるのでその方がいいですね」

「お世話になりました!」

「王都の近くまで送りましょうか?」

「大丈夫です!カリーもいるので!ねっ?」

「ヒヒン♪」

「そうですか。気をつけて」

「それで…また来てもいいですか?」

「いつでも遊びに来て下さい。待ってます」


 互いに笑顔を見せて、初のお宅訪問を終えた。王都への帰り道は、カリーが気持ちよさそうに全力で駆ける。馬上から話しかけた。


「ねぇ、カリー」

「ヒヒーン?」

「ウォルトさんって、とんでもなく鈍いと思わない?」

「ヒン」

「どうしたらいいのかねぇ…」



 絞り出したようなテラの言葉に、疾走しながらカリーは苦笑した。


 相手は打っても打ってもなかなか響かない鈍い鐘のような獣人。けれど、それがウォルトの魅力。『なるようにしかならないのよ』と思いながら森を駆ける。

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