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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
241/715

241 いざ、初めての実戦

 テラを先導するようにダンジョンを進むウォルト。


 直ぐに魔物と遭遇した。テラさんは冷静に観察していて、動揺している様子はない。


「この魔物はハウンドドッグですね!」

「その通りです。知っているんですね」

「はい!いつ魔物に出会ってもいいように、ある程度の知識は頭に入れてます!」

「さすがです」


 備えあれば憂いなし。敵を知っているのと知らないのでは、倒せる確率も雲泥の差。テラさんはきちんと予習して自分がすべきことを理解している。


「…私が闘います!」

「わかりました」


 前に出たものの、唸りを上げる魔物を前に緊張気味に見える。カリーは少し後ろに控えて『念話』を飛ばしてきた。


『意外ね。防御魔法をかけてあげるかと思ったのに』

『きっとテラさんのタメにならない。経験したいのは緊張感のある戦闘のはず。冷静に闘えば勝てるよ』

『そうね。見守りましょう』


「グルルル…!ガァッ!」

「くっ…!」


 跳びかかってきた魔物を躱して、槍で攻撃を繰り出すけど当たらない。腰が引けてしまっている。


「ガルル…!ガルルァッ…!」

「このっ…!素早い!」


 互いに決定打のない闘いが続く。少しだけ助言しようか。


「テラさ…」

「段々わかってきました!任せて下さい!」


 ボクの言葉を遮って構えをとる。魔物は怯まず、牙を見せながら跳びかかってきた。


「はぁぁっ!」


 間合いに入った一瞬で、大きく開いた魔物の口に深々と槍を突き刺した。声を上げる間もなく絶命した魔物は直ぐに消滅する。


「はぁ…。ふぅ…。なんとか倒せました」

「はい。見事でした」


 緊張感からか疲れが激しい。『精霊の慈悲』でテラさんの疲れを癒やす。傷の回復は遅いけど、体力の回復は『治癒』より効果的。最近学んだばかりの魔法。


「やっぱり魔物と対峙すると怖いです…。あの牙や爪で引き裂かれたら…なんて余計なことを考えちゃいます…」


 テラさんの気持ちはよくわかる。


「普通だと思います。ボクなんて、初めて魔物と闘ったときは頭をガブッ!と嚙まれて血塗れの赤猫になりました。怖さはわかります」

「ぷっ!噓ばっかり!」

「本当です。お尻を嚙まれて、うつ伏せで寝込んだこともあります。まだ『治癒』も使えなくて。辛かったですよ…」

「あははは!そんなウォルトさんを見てみたいです!」


 笑うテラさんを見て、やっぱり笑顔が似合う女性だと思う。いつも冗句を言って和ませてくれる彼女にはボクも軽口を叩きやすい。


「気が楽になりました。先に進みたいんですが」

「行きましょう」


 テラさんは、その後も数匹の魔物と闘いを繰り広げる。最初の戦闘で気持ちが落ち着いたのか、時間をかけながらも危なげなく討伐していく。そんな中で気付いた。


「魔物を倒してもあまり嬉しそうじゃないですね」

「私にとって戦闘の技量を高めてくれる存在ですから!」

「高めてくれる存在…ですか?」

「魔物が襲ってきたり、街で暴れ回っていれば迷わず討伐して民を救うことが騎士の使命だと思います。でも、今はこちらの都合で勝手に闘いを挑んでいるので、魔物からすればいい迷惑だと思います!」

「確かに。いきなり自分の陣地に踏み込まれて斬られたらたまりませんね」

「ですよね!だから、今は魔物にも敬意を払ってます!」


 テラさんの言葉にカリーは溜息をついた。


『はぁ…。こんな調子でこの先大丈夫かしら…。考えが甘いわ』


 ボクにだけ聞こえるように『念話』を飛ばしてくる。高度な魔力の指向だ。


『テラさんらしくていいんじゃないか。魔物だからって討伐すればいいとは思わないよ』

『お人好しね。魔物は危険な存在よ』

『知ってるけど、ボクにとっては魔物も人族も同じなんだ』

『同じ?どういう意味?』

『自分や大切な人に危害を加えるなら、魔物でもそうでなくても関係ない。逆に助けてくれたら相手が魔物でも恩を返したいと思う』

『なるほどね…』


 偏屈な猫人の妙な理屈だと思うけど。


「……ルトさん…。ウォルトさん。どうかしましたか?」


 カリーとの会話に集中していたら、テラさんに名前を呼ばれていた。下から顔を覗き込まれてる。


「すみません。少し考え事をしてました」

「私…心配かけてますか?」

「そんなことないです。心配しているのは怪我だけで、実力を発揮できてると思います」

「私が怪我したら嫌ですか?」

「当然です。傷が残らないよう責任もってボクが治します」

「治さずに責任とってくれてもいいですよ♪」

「綺麗に治します。任せてください」

「ちぇっ…」


 なぜか少しだけ拗ねたような仕草を見せて、テラさんは先へと歩を進める。





「今日はありがとうございました!いい経験ができました!」

「ボクは付いていっただけでなにもしてないです」


 ダンジョンを半分ほど進んだところで、今日の実戦を終えることを提案した。いくら順調に見えても、テラさんにとっては初の実戦。肉体よりも精神的な疲労が大きいことを考慮して。

 少し残念そうだったけど、嫌がる様子もなく意見に頷いてくれた。既に帰路についていて、テラさんはカリーに騎乗して疲れを癒やしている。


「ボクの意見を了承してもらって早く帰るので、よければ住み家に戻ってから『闘気』の修練をしませんか?」

「いいんですか!?やりたいです!」

「…といっても、ボクが操れるのは騎士の闘気とは違うので、もしかすると無駄骨を折ることになるかもしれませんが…」

「いえ!無駄にはなりません!うぅ~!私はやりますよぉ~!」

「住み家に帰ってからですよ。今は静かに身体を休めてください」


 カリーが嘶く。


「ヒヒーン♪」


「住み家まで駆けよう!」と言っているように聞こえた。


「よし。駆けようか」

「ヒン!」


 カリーと森を並走する。テラさんは「はや~い!いけいけぇ~!」と笑顔で応援してくれた。

 


 住み家に到着し、しばらく休憩してから更地での修練に入る。その前にテラさんから報告が。


「少し前に、宮廷魔導師に魔法適性を診断してもらったんです」


 以前、テラさんには魔法の適性があるとボクの意見を伝えていた。


「どうでしたか?」

「それが……魔法の習得は厳しいと言われました」


 ボクの見立てと違ったのか…。


「ボクが間違ってました…。期待させてしまってすみませんでした…」


 適性があると伝えたとき嬉しそうだったのを思い出す。勘違いで申し訳ないことをしてしまった…。


「謝らないでください!ウォルトさんにちゃんと診てもらいたいんです!」

「ボクが…ですか?」


 ボクが適性を診ても結果が変わるとは思えない。宮廷魔導師と言えば、王族お抱えの魔導師集団。カネルラのエリート魔導師揃いだと聞いてる。そんな魔導師が下した診断が覆ると思えない。


「私は宮廷魔導師よりウォルトさんを信頼してます!なので、ウォルトさんが無理だと判断したら諦めがつきます!」


 笑ってくれるテラさん。期待させてしまったのはボク。間違っていたのなら責任をもって伝えて謝罪しなければ。たとえ結果が覆らないとしても。


「わかりました。では、手を貸してもらえますか?」

「どうぞ♪」


 差し出された両手をとって魔力を流してみる。


「あったかいです…」

「えっ?なにか感じますか?」

「はい。右手から左手に向かってなにかが流れ込んでます。凄く温かい…」


 反応に眉をひそめる。明らかに魔力を感じている風だけど…。少し魔力を操作してみる。


「……」

「今、止まりました」

「……」

「また流れ出しました」


 やっぱり明らかに魔力を感じてる。しかも、アニカやウイカほどではないけど少量しか流してないのに。彼女達ほどではないにしても感受性が鋭い。

 次に、テラさんの魔力を確認するため一旦吸収してみると、予想通りというか魔力を保持していた。高い魔法適性を秘めているように感じる。


「どうでしょうか?やっぱりダメですか…?」


 不安げなテラさんの問いに熟考して答える。


「逆です。やはりテラさんには魔法の適性があると思います」

「ホントですか!?やりました!」

「でも、わからないんです…。宮廷魔導師とは判断基準が違うのか、それともボクではわからない問題があるのか…」

「気にしないで下さい!ウォルトさんから教わって習得できたら問題ないですから!」

「そうですね…」


 考えても始まらない。魔導師でもないボクにわかることなんてたかが知れている。自分にできることをやるだけだ。


「では、魔法闘気を修練しましょう」

「お願いします!」



 ★



 テラは内心驚いている。


 ウォルトさんは、自分が操る魔法闘気について丁寧に説明してくれていて、私は黙って聞いてる。

 騎士団の闘気修練の内容とほぼ合致しているうえに、さらに噛み砕いて理解しやすい内容にまとめられてるから。


 騎士団に講師として招かれて、講義しても皆が納得するレベルだと思う。誰にも教わったことのない獣人の発言だと知ったら驚くに違いない。

 唯一違うのは、闘気の源が魔力という前提で話していること。けれど、それ以外はウォルトさんの説明の方が理解しやすい。


 一通り説明を聞き終えると、「槍を貸してもらえますか?」と頼んできた。なにをするんだろう?不思議に思っていると、ウォルトさんはビシッと槍を構える。様になっていて格好いい。


「では、槍でボクの闘気を操ってみます。見ていて下さい」


 そう告げた直後、闘気を纏って左脚を大きく踏み込んだ。


『螺旋』

「うぇぇぇっ?!」


 鋭い刺突とともに、穂先から螺旋状の闘気が発現する。まるで襲い来る龍のよう。


「上手くできたと思います。ダナンさんの『螺旋』には遠く及びませんが」

「はぁ…」


 どう表現していいか言葉が出ない。『螺旋』は、ダナンさんが得意とするクラン槍術の技能。私も含めて槍術を学ぶ騎士達にとって憧れの技能。

 威力はもとよりとにかく格好いい。でも、騎士団には今の威力の『螺旋』を放てる騎士はいない。


「ウォルトさんは、『螺旋』をダナンさんに教えてもらったんですか…?」

「前に闘技絢爛で見ただけです。…やっぱり変でしたか…?騎士の前でお恥ずかしい…。こんな感じだと思ってもらえれば」


 頭を掻いて『やっちまったニャ~』と言いそうな表情を浮かべてる。でも…断言はできないけど、今のは『螺旋』で間違いないし、おそらくダナンさんの『螺旋』より威力も上。やっぱりこの人は規格外の存在。


 困ったような、はたまた照れたようなウォルトさんを見つめながらしばらく開いた口が塞がらなかった。

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