24 遭遇
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
マードック兄妹と別れて、寄り道することなく住み家へと向かうウォルトは、野原を抜けて森に入ると胸一杯に空気を吸い込む。
たっぷり時間をかけて空気を吐き出すとスッキリした。やっぱり森の空気は澄んでいて気持ちいい。全身が喜んでる気がする。
元々獣人は街に住んでなかった。山や森に住んで狩りをして暮らしていた。人間の住む街が発展するとともに、獣人の中にも『街に住んでみたい』という願望を持つ者が現れ、人間にはできない力仕事や身体能力を生かした冒険者になる者が増加していくと、直ぐに市民権を獲得して今では街で生まれて街で死ぬ獣人が当たり前になってしまった。
そうした多種族との交流をよしとしない獣人達は【原始の獣人】と呼ばれ、世界各地の辺境に獣人だけの集落を作って昔ながらの生活を送っているという。マードックは冒険中に【原始の獣人】と遭遇したことがあるらしい。
「見た目は俺らと一緒だがよ、中身は全く別モンだ。獣人って感じはしねぇ」
そんなことを言ってた。同じ獣人とは思えないほど排他的だったらしい。ボクはそんな話を聞いても一度は会ってみたいと思っている。
そんなことを考えつつ森の奥へ歩を進めると、嗅いだことのない、けれど懐かしいような匂いを放つ存在に気付く。
この匂いは……もしかして…。
息を潜め、音を立てぬよう風下から匂いのする方へ慎重に近づく。想像通りなら、匂いの主は警戒心が非常に強く気付かれた時点で終わり。
緊張の糸を切らずに匂いのする方へ少しずつ接近すると、姿を辛うじて判別できる距離に到達した。
そこには…崇拝の対象である猫がいた。それも凜とした黒猫。この森にもいたんだ…。
三角の耳はピンと立って、黒曜石のような瞳に引き締まった胴体。光沢のある黒絨毯のような毛並みは陽の下で見ればどれ程素晴らしいだろう。
猫の獣人の祖先と云われる猫は、今では滅多に見ることのできない存在。昔は多数生息していたらしいけれど、乱獲や流行病など諸説あって個体数は減少する一方。
そんな猫の姿を初めて目にして、不思議な高揚感に包まれる。ヒゲと尻尾はピンと立ちっぱなしで立ち姿に見蕩れる。
黒猫は、しばらく毛繕いしたり顔を洗うような仕草を見せていたけど、なにかに気付いたように身体を起こすと、ふいっと身を翻して姿を消した。
黒猫が姿を消した後、感動の余韻に浸りながら最近の出来事が脳裏をよぎる。
最近のボクは幸運続きだ。予期せず友人ができてサマラとも再会した。初めて祖先と言われる存在も見ることができた。急に環境が変わりすぎてちょっと怖いくらい。
そんな思いにふけっていると、落ちてきた雨が木の葉を叩き始めた。急に降り出した雨に『猫が顔を洗うと雨が降る』という俗説は正しいんだ!と、嬉しさで上機嫌になってしまう。
木々の間をすり抜けるように、ひたすら駆けること数分。無事に住み家に到着した。
ローブに付属するフードのお陰でどうにか濡れずに済んだけど、足元はしっかり濡れてしまったなぁ。
ローブを脱いで雨を払うと、ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に挿して回したところで開いていることに気付く。
合鍵を渡してあるオーレンとアニカが来ているのだろうと思ってドアを開けて中に入ると、懐かしい匂いが鼻に届いた。
脱いだローブを玄関に置いて居間へと歩を進める。部屋に入ると椅子に座って水を飲んでいる獣人がいた。久しぶりに会う。
「珍しいね。そっちから来るなんて」
「たまにはね。どうせいつも暇なんでしょ?」
向かい合う椅子に腰掛けた。
「そうでもないよ」
「またまたぁ~。嘘ばっかり。ウォルトに趣味があるとも思えないし~」
「趣味はないけど、こう見えて意外に忙しいんだ」
「まぁ、アタシには関係ない。今日は泊まっていくからね!」
「ダメだよ」
「え?…なんて?」
「泊まっちゃダメだよ」
「ダメ…?まさか…断るってこと?」
大きく頷く。泊まりに来た理由も予想できる。
「そんな…。ウォルトが反抗期!?」
「そんな歳じゃないよ。どうせケンカして家を出てきたんだろう?」
「当たり…」
「もういい歳なんだからちょっとは落ち着こうよ」
「歳のことは言うな!バカ息子!!」
『相変わらず騒がしい』と思いながら、三毛猫の獣人である母親のミーナ母さんを見る。
いいことがあれば面倒臭いことも起こるよなぁ…と嘆息した。
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