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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
239/715

239 亀の歩み

 動物の森に佇む一軒家のドアをノックするのは、フクーベの若手冒険者オーレン。


 剣と魔法の師匠であり、命の恩人でもある白猫の獣人ウォルトさんが笑顔で迎えてくれた。

 今日はウイカ達と別行動で訪ねてきた。実はたまに内緒で住み家を訪ねてる。バレたら怒られること間違いなしだけど、今のところ問題ない。ウォルトさんにも内緒にしてもらっている。


「おはようございます。1人で来ました」

「いらっしゃい。食事は?」

「まだ余裕があるんで修練してからでいいですか?」

「いいよ。準備するから少し待ってて」


 単独で来たときは、基本的に食事や休憩以外で住み家には入らない。ウォルトさんも理解してくれてるけど毎回訊いてくれる。気遣いが嬉しい。


 先に更地に移動してウォルトさんを待っていると、直ぐに修練用の木剣を手に現れた。


 まずは剣の修練から。


「今日もよろしくお願いします!」

「こちらこそ」

「はぁぁっ!」


 手渡された木剣を構えるなり早速斬りかかる。ウォルトさんは軽く受け止めた。


「また腕を上げてるね」

「まだまだです!シッ!ハッ!」


 カンカンと打ち合う。休みなく攻め続けても、一太刀も浴びせることができない。ことごとく躱されるし防がれる。


 逆に軽い反撃を的確に当てられて、1年前と変わらない。なぜなら、俺が腕を上げると同時にウォルトさんも剣の腕を上げているから。

 全力を見たことがなくて断言できないけど、技量の差は縮まるどころか少しずつ開いている気がする。それでも…剣を届かせたい!


「はぁぁぁっ!おらぁぁぁっ!」


 魔力を纏い斬撃を繰り出す。受け止められたもののウォルトさんは驚いた表情。

 

「『身体強化』を覚えたのか…」

「使えるのはまだ一瞬でコレが精一杯です!やっぱりアイツらには敵いません!」

「そんなことない。まだまだコレからだよ」


 その後も修練を続けて休憩中に尋ねてみる。


「俺の『身体強化』はどうでしたか?」

「驚いたよ。でも、オーレンの闘い方には合ってないかもしれない」

「どういうことですか?」

「『身体強化』を使い分けた方がいいと思う。実際にやって見せようか」

「お願いします!」


 互いに木剣を構えると、「『身体強化』で打ち込むから受け止めてほしい」と言われた。身構えると宣言通りに打ち込んでくる。軽くだろうに受け止めた手が痺れる威力。


「ぐぅっ…!」

「今のがオーレンが纏っていた魔法。もう一撃いくよ」

「はい!」


 ウォルトさんは魔力を纏わず打ち込んできた…かに見えたが、繰り出す一瞬で魔力を纏う。


「うわっ!」


 木剣を握っていられず弾かれた。強く握りしめていたにもかかわらず…だ。


「今のは打ち込む一瞬だけ『筋力強化』を使ったんだ。『身体強化』も筋力は上昇するけど、瞬発力や俊敏性のほうに振れる。速く動き続けるなら『身体強化』、強く打ち込みたいときは『筋力強化』と使い分けた方が効果的だね」

「なるほど…。でも、後であの痛みが来るんですよね?」


 以前苦しんだ記憶が脳裏に蘇る。あの時は辛かった。


「一瞬なら普通の筋肉痛くらいで済むよ。日頃の修練で少しずつ『筋力強化』を使って身体を慣らす鍛え方もある。毎日が筋肉痛になるけど」

「動けるなら問題ないです!『筋力強化』を教えてもらっていいですか?」

「もちろん。『身体強化』を覚えてるから少しコツを掴めばいけるはず」


 次は魔法の修練だ。俺はアニカ達と違って魔力操作が下手なのを自覚してる。ウォルトさんはそんなことを気にする風もなく丁寧に教えてくれる。

 しかも、あらゆる手段を交えて、理解しやすいよう的確に指導してくれる本当に凄い師匠だ。


「なんとなく掴めました!今からやってみます!」

「オーレンならできるよ」



 ★



 集中して魔法の修練を始めたオーレンをウォルトは優しい表情で見つめる。


 ボクが思うオーレンの最も優れた才能は、剣も魔法もひたむきに努力できることだ。魔法の才に恵まれた姉妹とパーティーを組んで、「自分の才能のなさに溜息が出そうです」と愚痴をこぼしたこともある。

 それでも決して腐ることなく、人一倍修練を重ねて魔法も剣も少しずつ上達していく様は心の琴線に触れる。過去の自分と重なって、親近感を覚えると同時に応援したくなる。


 オーレンは気付いてるかもしれないけど、おそらく魔法を操る剣士は冒険者にも多くない。冒険者の中でも特に強者と呼ばれる者達は一芸を極めている者がほとんどだと聞いた。だからこそ、互いの弱点を補い合うようにパーティーを組む。

 フクーベに住んでいた頃にも聞いたことがなかったし、マードックも「知らねぇ。いるかもしれねぇけど会ったことはねぇ」と言ってた。


 ウイカとアニカは、魔法の才に恵まれて魔法に特化した天才だと思う。けれど、剣は全くと言っていいほど扱えない。

 オーレンはどちらも天才じゃないかもしれない。器用貧乏と言われるかもしれないけど、剣と魔法のどちらも扱えることが冒険で役立つ場面は多いはず。その時こそ真価を発揮する。


 それに、冒険者として必要な資質である向上心や頭の回転の速さ、なにより困難に立ち向かう勇気を持っている。

 ボクらの出会いのきっかけになったムーンリングベアに襲われたときも、とにかく勇敢だったとアニカは言ってた。「調子に乗るから本人には言わないで下さい!」と釘を刺されてるけど…。


「弱いなら武器でもなんでも使って強くなれ」というリオンさんの言葉を思い出す。オーレンには自身が操れるモノ全てを使って強く成長してほしい。


 一心不乱に魔法を修練するオーレンを尻目に、食事の準備をするタメに住み家に戻ることにした。



 ★



「美味いです!」

「よかった」


 料理を食べながら体力と魔力を回復させるオーレン。


 ウォルトさんの作る料理は、とにかく美味い。お世辞じゃなく今までの人生で間違いなく1番美味い。お袋の味を除けば断トツ1位だ。

 タダで食べていい料理じゃない。コレを食べられるから修練も頑張れると言っても過言じゃない。


「食べ終わったらいつものお願いしていいですか?」

「いいよ」


 食事を終えると、ウォルトさんは頼まれたことを実行してくれる。頼んだのは俺の魔力量の確認。俺の魔力を一旦吸収して、量の確認を終えると直ぐ体内に戻してくれる。


「前に会ったときより増えてる。修練のとき使った魔力を差し引いても増えてるね」

「やった!ありがとうございます!」

「オーレンの努力の賜物なんだから、お礼はいらないよ」

「修練すればまだ伸びますか?」

「伸びるよ。魔法を操るようになってまだ半年くらいだ。魔力量が頭打ちになるには早すぎる」

「頑張ります!」

「ボクより才能があるから魔力量も直ぐに追い抜かれるだろうね」


『凄いニャ~』とか言いそうな顔だけど、そんなはずない。でも、言っても無駄なんだよな。


「ところで師匠。話は変わりますけど」

「師匠呼びは照れるからやめてくれ。なんだい?」

「姿を消せる魔法なんかあったりしますか?」

「あったらどうするの?」

「覚えて人知れず人助けをしようかと…」

「【男のロマン(のぞき)】に使う気満々だね」

「バレましたか…」

「懲りないね。いずれ後ろから刺されるよ」


 ウォルトさんの言う通りかもしれない。でも、俺は正常な成年男子だ!


「アイツらと暮らしてると、幼なじみとはいえそういう気持ちにもなるときもありますよ!」


 特別な感情がなくても、若い姉妹と1つ屋根の下で暮らしているとそれなりに刺激的な出来事も起こる。ちょっと覗くくらいなら減るもんじゃないしいいんじゃないか…?と思ってる。幼馴染みだし。


「気持ちはわからなくもないよ。でも、オーレンなら恋人もできるんじゃないか?いないのが不思議なくらいだ」

「そうですか?」

「オーレンは優しいし常識もあって話も上手い。容姿も爽やかでハンサムだ」


 若い女性に言われたら凄く嬉しいけど、ウォルトさんに言われて喜んでいいのか…。


「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、モテないんですよ」

「モテるモテない以前に、好きな人がいないんじゃないか?誰でもいいワケじゃないだろう?」

「それはそうなんですけど…。ちなみに、ウォルトさんは恋人とか欲しくないんですか?」


 アニカとウイカがいたら、耳が巨大化しそうなことを代わりに訊いてやろう。教えないけどな!


「う~ん…。性格が人付き合いに向いてないっていう自覚があるから、恋人を作るのは無理な気がするよ」

「欲しいとは思いますか?」

「思わない。今までいたこともないし。いたら楽しいのかも知らない。欲しい理由がないんだ」


 頭をぐるぐる回してる。悩んでいるときに出る癖だ。癖というには動きが派手過ぎるけど。


「ずっと1人でも構わないんですか?」


 回していた頭がピタッと止まる。


「そうなるだろうと思ってる」

「思いがけず大所帯になるかもですけどね」

「なんで?」

「こっちの話です。話はこれくらいにして、次は付与魔法を見てもらっていいですか?」

「いいよ」


 連れ立って外へ出ると、付与魔法を使って愛剣の切れ味を強化してみせた。


「どうでしょうか?」


 剣を受け取って隅々まで観察してる。


「ほぼ習得できてると思う。あとは、こうするともっと効果的だね」


 実演してくれてわかりやすい。


「なるほど。よくわかりました」

「あと、基礎はできてるから応用を覚えるといいね」

「応用ですか?」


 剣を受け取ったウォルトさんは、付与魔法を解除して構える。そして、構えたまま剣に付与魔法を施した。


「構えたまま一瞬で…。凄いです…」

「今のままだと、どうしても付与する間は隙ができる。余裕があるときは確実に付与できるからその方がいい。暇がない場合は、付与が充分じゃなくてもこの方法が実践的だと思う」

「確かにそうですね」

「この場合、少し付与のイメージが違うから教えておこうか」


 その後は、剣を構えたままでの付与を学ぶ。やっぱり発動するには至らないけど、やり方を覚えることはできた。俺はアニカ達とは違う。少しずつだ。


「もう大丈夫です!あとは自分でやります!」

「今日はこのくらいにしておこうか」

「はい!そろそろ帰ります!今日もありがとうございました。それで…走りたいんですけど」

「いいよ。行こうか」


 アニカやウイカに走り負けてからというもの、体力作りにも余念がない。訪ねたときの街から住み家への往復は、全力で走ることにしてる。


 ウォルトさんに言ったら、毎回並走して森の出口まで俺を引っ張って走ってくれる。とにかく優しい師匠。



 ★



 ウォルトは全力で森を疾走するオーレンから少し離れて追従する。


「はぁっ…!はぁっ!」

「まだ速く走れるはずだ!」


 バテてスピードが落ちてきたところで檄を飛ばす。


「う…おらぁぁぁっ…!負けるかぁ~!!」


 様々な修練をこなして疲れ切っているだろうに、歯を食いしばりながら最後まで自分を追い込む精神力はさすがとしか言いようがない。


 オーレンはきっと凄い冒険者になる。ボクにはそう思えて仕方ないんだ。

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