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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
237/715

237 ダイホウを観光するぞ!

 チャチャが宿泊の許可をもらっていた頃。


 ペニーとシーダは言われた通り大人しくチャチャを待っていた……のだが。


「ペニー…。暇だな…」

「しっ…!喋るとチャチャに怒られる」

「そうだったぞ!」


 互いに姿は見えないが、匂いで居場所はわかる。道行く村人達を黙って見つめる2人だったが、結局黙っていられず小声で話し出す。


「人里は見てるだけでも面白いな」

「初めて見るからなんでも新鮮だぞ」

「ココは【村】って言ってたけど、【街】はもっと人が多いらしい」

「いつか行ってみたいぞ」

「チャチャとウォルトに頼んで連れて行ってもらおう」

「消える魔法があればどこでも行けそうだ」


 そんな話をしてみても、チャチャは戻ってこない。シーダは落ち着いていられなくなってきた。


「ペニー。村を見て回ってみないか?」

「勝手に動き回ったらあとでチャチャに怒られる」

「チャチャが戻ってくる前に帰ってくればバレないぞ。黙って見るだけだし、ウォルトの魔法で見えないから人族にもバレない。話が…夜までかかるかもしれないぞ…?」

「……そうだな。ちょっとだけならいいかもしれない…」


 ペニーも暇なので心が動いた。


「よし。行くなら早いほうがいいぞ」

「そうするか」


 ジッとしているのが性に合わない銀狼は、寄り添って歩きだした。立ち並ぶ家や、畑、田んぼを見て回る。銀狼の里では見れないモノばかりで、大したことはなくても新鮮で楽しい。


 川の傍を歩いていると声が聞こえた。


「うわぁ~!たすけてぇ~!」


 目をやると子どもが川で流されている。まだ子供で小さい。


「ペニー!誰か川で流されてる!」

「助けに行くぞ!」


 2人は駆け出して水に飛び込むと、器用に泳いで子供の元へ辿り着く。

 

「よし。間に合った」


 シーダが暴れる子どもの下に潜り、器用に背中に乗せて水面に浮き上がる。川の傍で暮らす銀狼は泳ぎも上手い。


「ぷはっ…!な、なに!?」

「おい!大丈夫か?」

「だ、だれ?だれかいるの?!」

「シーダ。俺達のことは見えてないんだ」

「そうだった!そのままじっとしとけよ!」


 助けた子どもは、背に乗ったままワケもわからず混乱している。シーダはそのまま川岸に泳ぎ着いて子供を陸に上げた。キョトンとする子供に話しかける。


「川で遊ぶときは気を付けろよ。溺れて死ぬぞ」

「だから、俺達が見えてないんだって」

「…おおかみさんなの?」

「ん?俺達が見えてるのか?」

「魔法が解けたのか?」

「ぬれてるから…」


 お互いを見ると、毛皮が濡れて水でできた狼のように見える。


「確かに見えてるな。けど、俺達は狼じゃないんだ」

「銀狼っていうんだぞ」

「ふぇんりる?」

「いつもは森の奥に住んでる」

「チャチャの友達だから怪しくないぞ」


 姿が見えず喋る狼など充分怪しい。


「チャチャねぇちゃんのともだちなの?たすけてくれて、ありがとう」


 女の子はそんなことなど気にも留めず、ペコリと頭を下げた。


「嬉しいな!もっと褒めてもいいんだぞ!」

「気にするな。照れくさいからな」

「ペニーはなにもしてないだろ!手柄を横取りするな!」

「2人で飛び込んだんだから手柄は一緒だ!」

「ずるいぞ!」

「ずるくない!」


 子供に笑みがこぼれた。


「ふふっ!ありがとう。わたしのなまえはるりだよ。にんげんなの」

「ルリは人間か。俺はシーダだぞ」

「俺はペニーだ」

「しーだとぺにーはなにしてたの?」

「村を見て回ってたんだぞ。人里に初めて来たからな」

「悪いことはしないから心配いらない。皆に怖がられないように姿が見えなくなってるけど」

「そうなんだね。たすけてくれたおれいに、わたしがむらをあんないしようか?」

「いいのか?」

「それは助かるぞ!」

「うん。なんにもないけど」


 シーダ達が高速で体を震わせて水滴を飛ばすと、また身体が見えなくなった。


「ルリは、身体が濡れてるけど大丈夫か?」

「だいじょうぶ。すぐかわくから……くしゅん!」

「ちょっと待ってろ」


 ペニーがルリのワンピースを甘噛みしてスポッと脱がせ、シーダの尻尾に乗せる。


「シーダ。振り回してくれ」

「任せろ!」


 勢いよく尻尾を振り回して水気を飛ばす。ルリには服がひとりでに回転してるようにしか見えない。


「すごぉ~い!はや~い!」

「そうか!まだ速くできるぞ!ほら!」

「あはははっ!しーだ、すごい!」


 しばらく振り回すとすっかり服は乾いて、またルリに着せてあげる。


「ありがと!」

「このくらいお安い御用だぞ」

「お礼なんていらないな」

「ペニーはなにもしてないだろ!」

「尻尾にかけたのは俺だから同じだ!」

「ふふっ!けんかはやめよ~よ!」

「「そうだな!」」


 諫められて歩き出す。細かいことを気にしないのがペニー達のいいところ。ルリには匂いが感じられないので、すぐ傍で寄り添って歩くことに。3人は直ぐに打ち解けて友達になった。


「ここはしゅうかいじょだよ!あつまって、はなしあいをするの!」

「「へぇ~!」」

「いどだよ!きれいなみずをのめるの!」

「「へぇ~!!」」


 ルリは村を隅々まで案内してくれて、ペニーとシーダはずっと興奮したまま村の観光を楽しんだ。



「はや~い!ふたりともすごい!!」

「しっかり掴まらないと落ちるぞ!」

「危ないからな!」

「うん!」


 観光の途中では、人に見られない場所でルリを背に乗せて駆けたりじゃれあって時間を忘れて遊んだ。


「ルリ。村を案内してくれてありがとうな!」

「すごく楽しかったぞ!」

「わたしもだよ!またあそぼうね!わたしは、すがたがみえてもこわくないよ!」

「「わかった!」」


 そろそろ帰らねばと気付いて、村の外れで別れを惜しむ3人の元に忍び寄る人影が…。


「ペニー…。シーダ…」


 ギクッ!と2人の動きが止まる。振り返ると仁王立ちのチャチャがいた。



 ★



 チャチャは腹の底が冷えるような声で訊く。


「村中探したよ…。なにしてるの…?待っててって言ったよね…?」

「いや…。その…」

「深いワケが…あるんだぞ…」


 苦しい言い訳を繰り出そうとしてるね…。


「チャチャねぇちゃん!ぺにーとしーだは、わたしをたすけてくれたの!」

「ルリを…?どういうこと…?」


 川で遊んでいたとき、溺れていたところを助けられたことを教えてくれた。その後は、恩返しに村を案内していたことも。


「そうだったんだね」

「そうだ!いいことしたから褒めてもいいんだぞ!」

「俺達は人を助けてたんだ」

「そうだね。ルリを助けてくれたのは嬉しいし、ありがとう」

「「どういたしまして!」」

「でも、私を待ってなかったのは話が別だからね…」

「「えぇ~!?」」


 並んで座らせてしばらく説教した。




 ダイホウを離れて兄ちゃんの住み家に向かう。


「チャチャは厳しいぞ…。俺の母さんより厳しいぞ…」

「ただルリを助けに行って案内してもらっただけなのに…」

「嘘ばっかり。抜け出してたまたま通りがかったんでしょ?」

「「バレたか!」」


 直ぐバレる嘘を吐くのも2人の愛嬌。ウチの弟達とよく似てる。


「でも、ホントにありがとう。ペニーとシーダのおかげでルリは無事だったんだよ」

「流されててほっとけなかったからな」

「ルリはいい奴だ。友達が増えたぞ」


 姿は見えないけど、軽やかな足取りで進んでる。ご機嫌だね。


「今度は街にも行ってみる?」

「いいのか!?」

「行ってみたいぞ!」



 森を抜けて住み家が見える場所に出ると、兄ちゃんが更地で魔法の修練をしていた。激しく動き回りながら見たこともない魔法を詠唱してる。

 次々に飛び出す華麗で激しい魔法の数々。まるで見えない何者かと闘っているみたいだ。咄嗟に木陰に隠れて様子を見つめる。


「あんな魔法を食らったら間違いなく死ぬぞ…。皆が化け物って言ったのがわかる…」

「格好いいな…」

「うん。凄いね」


 魔法に見蕩れてたけど、気配に気付いたのか私達を見て修練をやめた。姿を見せて歩み寄る。


「おかえり。許可はもらえた?」

「もらえたよ。無理も言ってない」

「よかった。ところで、なんでそんなとこに隠れてたの?」

「「「なんとなく」」」


 兄ちゃんはペニー達の『隠蔽』を解除して「ご飯準備してるよ」と微笑んだ。


「「食べるぞ!」」

「私もお腹空いた」


 住み家に入って、仲良く晩ご飯を食べた私達は満腹でまったりする。


「ぐぅ~…!もう食えない!ウォルトの焼いた肉は美味すぎる!」

「とにかく美味いぞ!銀狼の里で食べさせたら太る!」

「間違いないね」


 兄ちゃんの料理に種族は関係ない。なぜなら凄腕料理猫だから。


「お風呂も準備してるからね」

「お風呂ってなんだ?」

「温かいお湯にゆっくり浸かって疲れと体の汚れを落とすの。水浴びじゃなくてお湯浴びみたいな感じかな?」

「入ってみたい!」

「俺も入りたいぞ!」

「じゃあ、ぬるめに沸かそうか」

「チャチャとウォルトも一緒に入ろう」


 ペニーが誘ってくれるけど、私と兄ちゃんはそういうわけにはいかない。


「ボクらは無理なんだ」

「えぇ~!?なんで?」

「銀狼は気にしないかもしれないけど、人間や獣人は男と女で一緒にお風呂に入らないんだ。番や家族なら別だけど」


 ペニー達に教えて、兄ちゃんはお風呂を沸かしに向かう。


「じゃあチャチャだけでも一緒に入ろう!」


 今度はシーダが誘ってくれる。


「いいよ。今日…私を置いてルリと遊んでた疲れをとってあげるよ…」


 ニヤリと笑う。


「ヤバいぞ、ペニー!チャチャが根に持ってる!コレは…アレだぞ!」

「そうだな…。森の伝説……鬼ババアみたいだ!」


 森の伝説が、更に森の伝説を語るの…?


「誰が鬼ババアだって…?全然反省してないね…」

「じょ、冗談だ!」

「か、顔が怖いぞ!」


 兄ちゃんが戻ってくる。


「お風呂沸いたよ」

「ありがとう…。さっ、行くよ…」


 2人を両脇に抱えて引き摺りながら進む。私も獣人だからこのくらいできる。


「「ウォルト~!助けてくれぇ~!」」

「なにが?」


 首を傾げる兄ちゃんを尻目に、なんだかんだ仲良くお風呂に向かう。ペニー達はそのまま、私は服を脱いで浴室に入った。


「お湯は温かいぞ!」

「面白いな!」


 浴槽に前足を突っ込んで温度を確認している。なんか可愛い。


「お湯が汚れるから浸かる前に体を洗わなきゃダメだよ。こっちに来て。洗ってあげるから」

「「頼む!」」


 石鹸を泡立てて順番に身体を洗う。家でも弟たちを洗ってあげてるから手慣れたもの。


「泡がすごいぞ!石鹸っていうのか!」

「いい匂いだな!」

「はい。もういいよ」

「「ありがとう!」」


 泡を流し終えると、ドボンと湯船に飛び込んだ。


「気持ちいい!疲れが取れる気がする!」

「風呂、最高だぞ!」

「あんまり長く浸かると具合が悪くなるから気を付けてね」

「「わかった!」」


 仲良く並んでお湯に浸かっている姿がまた可愛い。


「今日は水浴びしたけど風呂は違うな」

「冷たいのも気持ちいいけど、風呂は違う気持ちよさだぞ!」


 自分の身体も綺麗に洗って、ペニーとシーダに挟まれる形で湯船に浸かる。猿と銀狼で浴槽にぎゅうぎゅう詰め。


「なぁ、チャチャ」

「なに?」

「俺達を村に連れて行ってくれてありがとう。おかげで人間の友達もできた」

「いろんな人族がいた。見てるだけで面白いぞ。ずっと銀狼の里にいたら経験できなかった」

「村でそんなに喜んでたら、街に行ったら驚いて腰を抜かすよ」

「楽しみだぞ!」

「ウォルトも一緒にな」

「そうだね。兄ちゃんにお願いしてみようか」


 その後、満足するまで風呂を堪能して、上がると兄ちゃんが魔法でよく冷やしてくれた水を飲む。


「「水が冷えてて美味い!」」

「ホントだね」


 喉を潤したところで、兄ちゃんが魔法で毛皮を乾かしてくれるらしい。よくわからないけど、私は髪と見えている毛皮の部分だけを頼んだ。


「できたよ」

「楽だ!魔法はすごい!」

「毛皮がフワフワになったぞ!」

「信じられない…」


 髪も毛皮も艶々のさらっさらに仕上がってる…。どういう理屈なの…?この技術だけでもお金を稼げると思う。どの種族でも髪や毛皮を綺麗に保ちたいと思うから。


「ルリにもこの毛皮を見てほしいな!」

「ルリって誰だい?」

「「俺達の友達だ!」」


 ペニー達は今日の出来事について説明する。聞き終えた兄ちゃんは微笑んだ。


「友達ができてよかったね」

「次は姿を見せて会いに行くぞ」

「怖くないって言われたからな」

「だったら『隠蔽』を修練するかい?覚えられるかは、やってみないとわからないけど」

「「やる!」」

「今日は遅いからまた明日ね。ところで、今日は3人で寝るの?」

「俺はみんなで寝たいぞ!」

「俺もだ!」

「私も」

「じゃあ、ベッドを持っていこうか」

「俺とシーダとチャチャが同じベッドで寝る。大丈夫だ!」

「俺はベッドがわからないぞ!」


 ペニーは笑うけど、シーダもペニーもかなり身体が成長してる。1つのベッドでは厳しいんじゃないかなぁ。


「かなり狭いと思うよ」

「大丈夫だぞ!」

「私も無理だと思う」

「なんとかなる!皆で寝たい!」

「そこまで言うならとりあえずやってみよう」

「「やった!」」



 結局、ベッドの広さ以前の問題で「ベッドは暑い!」と言い出したペニー達は床で眠り、私と兄ちゃんがそれぞれベッドで眠った。


 一緒に眠るのが嬉しかったのかペニーとシーダは満足そうな寝顔。おやすみ。

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