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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
235/714

235 陽気なコンビ

 ウォルトは森に潜んでいる。


 息を潜め…音を立てないよう狙いを定めて弦を引き絞る。


 そして…。


「キャン!」


 矢を射ると見事にカーシを仕留めた。


「初めて1発で仕留めた…」


 自分でも驚いた。息絶えた獲物に近寄り紐を使って背負う。自他共に認める狩り下手だけど、チャチャに教えてもらうようになってほんの少しずつ上達してる。

 一発で獲物を仕留められるなんて夢のようだ。今のもカーシが偶然ズレてた照準に飛び込んできて当たっただけ。それでも嬉しい。

 

 常々狩りが上手くなりたいと努力してるけど、狩人のように生計を立てているワケでもないし、自分が食べる分しか必要としないから必要以上に狩りを続ける意味がない。無闇に殺生するつもりもない。獣も獲り過ぎればいなくなってしまう。


 的に当てる修練はずっと続けてるけど、上達は芳しくない。狩りに向いてない自覚はある。面と向かって伝えたことはないけど、駆けながら射抜くチャチャの技術に憧れてる。もの凄く格好よくて、アレが最終目標だと思いながらまだ口に出すには10年早い。とりあえず、今日の成果を素直に喜んで帰路につく。



 住み家に着くと、家の周りを駆け回る友人の姿が。落ち着きなく動き回っている。


「ペニー!シーダ!」


 声に反応した2人は、尻尾を振りながら全力で駆けてくる。


「「ウォルト~!」」

『身体強化』


 受け止めようと試みたけど、勢いを受け止められず尻もちをついてしまう。


「いたたた…」

「久しぶりだな!元気だったか!」

「ペニーと遊びに来たぞ!」


 覆い被さってブンブン尻尾を振り回してる。知らない人が見たら、ボクが襲われてるように見えるかもしれない。


「2人ともまた大きくなったんじゃないか?」

「よく食べて鍛えてるからな!」

「最近、俺もペニーと一緒に鍛えてるんだぞ!」


 寝転んだまま2人の頭を撫でると、目を細めて気持ちよさそう。

 ペニーもシーダも手足を伸ばしたらボクより大きい。銀狼の成長速度は驚異的。どこまで成長するのか。


「チャチャはいないのか?」

「あとで来ると思う。多分遊びに来る日だから」

「そうか!楽しみだな」

「その前にご飯にするかい?」

「いいのか!?」

「駆けてきたから腹減ったぞ!ペニー、アレを渡そう!」

「そうだった!」


 猛ダッシュで住み家の玄関に向かう。立ち上がって後を追うと、玄関には立派な獲物が4匹置かれていた。


「来る途中で狩ってきたんだ。自分達の食べる分を獲ってきた」

「褒めてもいいぞ!褒めた方がいいかもしれないぞ!」


 さすがは銀狼。自慢気な2人の頭を撫でる。


「凄いよ。今日は珍しくボクも狩ったんだ」

「ウォルトも強くなってるんだな!」

「強くなってないと思うけど、狩りは少しずつ上達してる。とりあえずご飯にしようか」

「「頼む!」」


 住み家に入ると、よく冷えた水を用意して飲んでもらう。あとは手際よく獲物を調理する。…と言っても、綺麗に皮を剥いで味付けしてからいい具合に焼くだけ。大人しく伏せの状態で待っていてくれた2人に皿に載せて差し出す。


「いい匂いだぞ!」

「美味そうだ!」

「口に合うといいけど」


 全力で駆けて汗をかいたはず。塩辛さがまろやかなエンコ産の岩塩を効かせた濃いめの味付けにしてみた。


「…うまいっ!相変わらずウォルトの焼いた肉は美味い!」

「なんだ、この肉!?めちゃくちゃ美味いぞ!」


 貪るようにガツガツ食べ進める。 気に入ってくれたようでよかった。お腹が膨れるまで食べた2人は、「もう食べれない!」と仰向けに寝そべった。

 野生の獣は心を許さないと決してお腹を見せないらしい。それだけ信頼してくれてることが嬉しい。お腹を撫でると「くすぐったいぞ!」と笑ってくれた。


「ウォルト。ちょっとだけ寝てもいいか…?」

「食べたら眠くなってきたぞ…」

「構わないよ。床は固くない?」

「大丈夫。気持ちいい…」

「冷たくてちょうどいい感じだぞ…」


 身体を丸めて寄り添って眠る。微笑ましい姿を少しだけ眺めたあと、すぐに片付けに向かった。

 片付けを終えてお茶をすすっていると、玄関がノックされる。ドアを開けると弓を背負ったチャチャが立っていた。


「遊びに来たよ」

「いらっしゃい。静かに入ってくれる?」


 音を立てないように家に入ったチャチャは、居間の床で眠る友達の姿を見つけて小声で話す。


「ペニーとシーダ…。遊びに来たんだね」

「昼ご飯を食べて寝ちゃったんだ。駆けてきて疲れてるはずだから」

「そっか。じゃあ先に修練しよう」

「ボクはいいけど、お腹は?」

「空いてるけど後でいいよ。起こしたくない」

「わかった。外に行こう」



 ★



 修練を始める前に、チャチャはウォルトに伝えておきたいことがあった。


「この間、家に来てくれてありがとう。皆がお礼言ってたよ」

「日頃のお礼を持っていっただけだし、お礼を言われるようなことはしてないよ」

「そう言うと思った。作り置いてくれたご飯も凄く美味しかった。つわり用の料理も助かってる」

「それは嬉しいな」


 料理を褒めるのが1番のお礼だと知ってるけど、感謝の気持ちは伝えておかないと私の気が済まない。そして…おもむろに正面から兄ちゃんに抱きついた。背中に回した手にギュッと力を込める。


「チャチャ!?どうしたの!?」

「…なんでもない」


 兄ちゃんは突然の抱擁に焦ってる。予想通りだ。



 サマラさんに兄ちゃんの過去を聞いてから、次に会ったらこうしようと決めていた。


 温かさを肌で感じたい。そして、ただの自己満足だけど人の温かさを少しでも感じてほしくて。


「あの…チャチャ…。少し離れてくれない?」

「嫌だった…?」

「そんなことない。けど…」

「けど?なに?」

「いや…。その…。当たってて…」

「なにが?」

「……胸が」


 顔を見上げると真っ赤に染まってる。ここぞとばかりに強く抱きつく。


「わぁぁぁっ!チャチャ!当たってるんだって!」

「知らない!」

「えぇっ!?」


 同盟のお姉ちゃん達に少しでも近づくタメにも、この手を離すワケにはいかない!離れる、離れないの攻防を繰り広げていると、元気な声がした。


「チャチャ!遊びに来たのか!」

「久しぶりだぞ!」


 目を覚ましたペニー達が駆けてくる。


「ペニー!シーダ!」


 兄ちゃんから離れて、駆けてくるペニー達に向き直って待ち構える。


「「チャチャ~!!」」

「ちょっと…!わぁぁぁっ…!」


 勢いよく突っ込んでくる2人を私が受け止めきれるワケもなく後ろに倒れたけど…。


『風流』


 魔法で風のクッションを敷いて、ふんわり受け止めてくれた。空中に寝そべっているようで気持ちいい。やっぱり魔法って凄い。多分、兄ちゃんだからできること。


「久しぶりだな!元気だったか!」

「里から休まず駆けてきた!褒めてもいいぞ!」


 尻尾を激しく振りながら笑顔だ。


「元気そうでよかったよ。でもね…」

「「なんだ?」」

「もう身体が大きいんだから、全力で跳びつくのはダメだよ。危ないから」

「俺たちは大丈夫だ。この程度で怪我なんかしない」

「大きくなったのを褒めてもいいんだぞ?」


 悪びれる様子もなく可愛い笑顔を振りまく2人に真顔で告げる。


「…2人とも、そこに座って」


 並んでお座りの体勢になる。『褒めてもらえるのか?』って期待してる表情だけど…そんなワケないでしょ!


 それからしばらく、勢いよく人に跳びかからないよう叱った。



 ★



 説教されている2人の様子を目にしたウォルトは、最近よく正座させられるので他人事に感じられない。


 気持ちがよくわかる。解放されたペニーとシーダは浮かない顔。


「足が痺れて動けない…。魔物に襲われたら逃げられないな…」

「俺もだ…。狩りができない身体になったかもしれないぞ…」

「嘘ばっかり。今の体勢で痺れるワケないじゃん」

「「バレたか!」」


 冗談を飛ばしながら笑顔でじゃれ合っている。結局チャチャと銀狼達は仲良しだ。


「ところで、チャチャは強くなったか?」

「う~ん…。前よりは強くなったと思うけど」

「そうか!じゃあ手合わせしよう!」

「ペニー。手合わせってなんだ?」

「ウォルトやチャチャと勝負するんだ」

「勝負するのか!?面白そうだぞ!」


 シーダが興奮して駆け回る中、ペニーは冷静に話し掛けてきた。


「今から手合わせしたいけど、いいか?」

「いいよ」

「今日はチャチャと手合せしてみたい」

「私と?いいけど、ペニーと勝負…。どうすればいいかなぁ…?」


 できるなら、お互い怪我しないようにしてあげたい。…そうだ。


「ボクに任せて」


 チャチャとペニーにそれぞれ魔法をかける。


「狼吼も攻撃も防げる魔法をかけた。矢を撃っても噛みついても安全だ」

「じゃあ、私はペニーに矢を当てたら勝ちで、ペニーは私に噛みついたら勝ちでどう?」

「それでいい!やるぞぉ~!」


 やる気になった2人の前にシーダが歩いてくる。


「ペニー!先に俺にやらせてくれないか!チャチャと闘ってみたいぞ!」

「急がないから別にいいぞ」

「私もいいよ。シーダも条件はさっきのでいい?聞いてた?」

「聞いてたぞ!それでいい!」


 シーダにも魔法をかけて準備は整った。チャチャとシーダはかなり離れて立つ。


「じゃあ、準備はいいかい?」

「いつでもいいぞ!」

「いいよ」

「それでは…手合わせ始め!」


 シーダがチャチャに向かって一直線に駆け出す。


「こっちからいくぞ!」


 対するチャチャは弓を構えて素早く矢を射った。


「甘いぞ!」


 軽やかにステップを踏んで躱した…かに見えたが、キン!とチャチャの二の矢が見事に命中して付与した魔法に弾かれた。


「私の勝ちだね」

「えええぇっ!?なんでだ!?いつの間に?!」


 シーダはなにが起こったのか理解できないといった表情。


「あははは!チャチャの矢は躱しても油断できないんだ!」

「教えてくれよ!ひどいぞ!」

「油断したシーダが悪い。次は躱せる。でも…次は俺の番だ!」

「うぅぅ…。まだなにもしてないのに…」


 チャチャが優しく微笑んだ。


「シーダ。あとでボクと手合わせしよう。だから落ち込まないで」

「いいのか?!やったぞ!」


 シーダは邪魔にならないようボクの隣に移動して大人しく見守る。


「じゃあチャチャ!俺と勝負だ!」

「ペニーには1回負けてるからね…。今回は負けないよ」


 チャチャとペニーは笑顔で対峙する。

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