23 兄妹ゲンカ
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
マードック兄妹の家に泊まった翌朝。
森の住み家に帰ることを伝えると、「もう少しゆっくりしていけばいいのに…」と肩を落とすサマラはしょんぼりしてる。
子供の頃、一緒に遊んでから家に帰る前とよく見た表情。今でも少女だった頃の面影がある。
「そうしたいけど、いろいろ準備できてないんだ。次はゆっくり会いたい」
「1人で寂しくても泣いちゃダメだよ!」
「ありがとう。仕事頑張って」
「私も森に泊まりに行く!」
「いつでも待ってる」
笑顔で見つめあっていると、黙って見ていたマードックが苦虫をかみ潰したような顔をした。
「さっさと帰れ!お前らを見てると胸糞悪ぃぜ!」
悪態をつくマードックは平常運転。今回サマラに会えたのは間違いなくコイツのおかげ。
「今回は世話になった。また森住み家に来てくれ。美味しい酒と肴を準備しておく」
「安酒じゃねぇだろうな?上等なヤツにしろよ!」
「わかった。バッハさんによろしく」
「てめぇ…!おちょくりやがって…!懲りずにまたやろうってのか?!」
「もうこりごりだ。そろそろ行くよ」
「ウォルト、またね♪」
「うん。また」
見えなくなるまで2人は見送ってくれた。別れるのは寂しくもあるけど、また会えると思えば再会を楽しみにして前向きな気持ちになる。
昨日は二度とフクーベに来ることはないと思っていたのに、そんな気持ちもなくなっていることに気付く。
後ろ髪を引かれながらも、振り返ることなく帰路についた。
★
ウォルトを見送ったマードックはサマラと家に入る。
とりあえず、アイツを連れてきたのは間違っちゃいなかったな。コイツらのしこりも取れたろ。
あん…?サマラがジト目で睨んできやがる。なんだってんだ?
「マードック…」
「んだよ。なんか文句あんのか?」
「さっきウォルトに『また』やんのかって言ったよね…?」
「だからなんだ?」
「まさか…連れてくるタメにウォルトを殴ったの…?」
「おもいっきりぶん殴ってやったぜ。お前は知らねぇだろうがよ、アイツは…」
話している途中で不穏な気配に気付く。
「殴ったんだ…。優しいウォルトを…」
サマラの毛皮がフワリと逆立つ。普段は愛らしい瞳が狼の眼に変化していた。
ちっ…!ヤベぇ。
一瞬で間合いを詰めてきたサマラが、無表情で右拳を顔面に叩きつけてきやがる。
「ちぃ…!」
間一髪ガードしたが壁まで吹っ飛ばされる。壁にぶつかった衝撃で家がギシギシ揺れた。
「…最後まで聞けや」
「うるさいっ!!昔、あれだけ嫌な思いをしたウォルトを殴って無理やりなんて……信じらんない!!」
相当キレてやがるな。厄介だぜ。
コイツは別嬪で通ってんのに、女癖が悪ぃ獣人の男にも襲われたりすることはまずねぇ。なんでかっつうと、俺の妹ってのもあるが単純にコイツが強ぇからだ。
サマラのスピードとパワーは俺とほぼ変わんねぇ。そこら辺の獣人じゃ瞬殺されるレベル。戦闘のテクを学べば冒険者でも上のランクにいけんだろ。
口が裂けても言わねぇけどな。コイツは冒険者に興味の欠片もねぇし、クソ生意気で言うこと聞きやしねぇ。
実力を知ってんのは、よくケンカする俺と過去に返り討ちに遭った野郎共だけ。ティーガや手ぇ出そうとした野郎共は、死ぬ目に遭わされてる。俺もぶん殴るつもりだったのに、同情しちまうくれぇボロ雑巾にされちまってた。
見てくれは弱っちぃくせに、マジで容赦ねぇかんなコイツ。
「話を聞けっつうんだよ。殴られた割に綺麗な顔してたろうが」
「バレないように腹を殴ったんでしょ!やり方がアンタの顔と同じで汚い!」
「んなことするか、ボケェ!」
ついでとばかりにふざけたことぬかしやがって。
「オラァァッ!」
間髪入れずに跳び蹴りを仕掛けてきた。屈んで躱したら、すかさず浴びせ蹴りに変化して頭を狙ってきやがる。
「グウッ…!」
ガードしてもズン!と衝撃が骨に響きやがる。素人のくせにふざけたパワーだ。…コイツの気持ちはわからなくもねぇが、俺も遊びでアイツを殴ったワケじゃねぇ。
……くそっ!言いたくねぇ!
受け止めた足を押し返す。
「お前、アイツに嫌われたくねぇから力を隠してんだろうが」
「はぁ?なに言ってんの?」
「自分がアイツより強ぇと思ってんだろ?しかもバレたくねぇってよ」
「……」
反論がねぇってことは図星か。アイツにゃガキの頃からバレてんのに、知られたくねぇもクソもあるか。隠しても無駄だってんだ。
言いたくねぇけど…今日だけ言ってやらぁ。
「隠さねぇでいいっつってんだ」
「…どういう意味よ?」
「アイツはお前よか強ぇ」
「はぁ…?」
意味わかんねぇってツラしてんな。普通に考えりゃアイツは殴り合いでサマラにゃ勝てっこねぇ。勝てる要素が1つもねぇ。
「お前に会わせてぇからアイツと勝負した。俺が勝ったらお前に会うって約束させてな」
「で…?」
「俺が負けた」
「嘘でしょ!?」
目を見開いて驚いてやがる。俺も負けるとは微塵も思ってなかった。
「嘘でも…誰かに負けたって言うと思うか?」
思い出したくねぇし、口に出したくもねぇ。俺は、たとえ嘘でも「負けた」なんてぜってぇ口にしねぇ。
「…本当にウォルトに負けたの?」
「うるせぇな!何遍も言わせんじゃねぇよ!!」
顔に書いてやがる。
『獣人と思えないくらい優しいウォルトが、どうやったらとんでもなく乱暴なゴリラみたいな野蛮な男と闘って勝てるの…?』
…ってとこか。クソ失礼な奴だぜ。
「ウォルトは……勝ったのに私に会いに来てくれたってこと…?」
「そういうこった」
「なんで…?」
「お前に会いたくなったんだとよ!俺に言わせんじゃねぇ!気持ち悪ぃ!!」
声を張り上げた瞬間、視界からサマラが消える。一瞬で目の前に現れて、死角からアッパーを繰り出してきた。
「んだとっ…!」
「てぇ~い!」
拳を顎に食らって大の字に倒れる。コイツの動きが見えなかった。
「やめてよ~!照れるじゃん!」
赤らんだ頬を両手で包んで、身をクネらせてやがる。顔がこれでもか!ってくらいだらしねぇ…。気持ち悪ぃ…。
「ねぇ」
「…なんだよ」
朦朧として大の字になったまま聞き返す。クソが…。相当効いたぜ…。
「私はウォルトに惚れ直した。…そうだ!次に会うときは可愛いポニーテールにしてみよう!似合うと思う?」
「…知らねぇよ!!馬の獣人にでも聞けやっ!」
赤く頬を染める妹と、切り替えの早さとバカみたいな強さに呆れる兄。やがて、マードックが堪えきれず意識を手放して兄妹ゲンカは終わった。
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