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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
228/715

228 昔取った杵柄ってヤツ

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトは手を翳すのをやめてフォルランに告げる。


「キャミィさん。フォルランさんの腕輪を外してもいいですか?」

「腕輪は外せないわ。数種類の魔力を絡めて兄さんが取れないようにしてる。何人か協力しないと無理よ」

「道理で!どうやっても取れないはずだ!なんでそんなことしたんだよ!?」

「兄さんが街で暴走して迷惑かけないようによ!着けるときちゃんと説明したし!」

「すまん!覚えてない!」


 キャミィさんは初めて会ったときと大分イメージが変わった。本来の姿はきっと今なんだろう。

 腕輪を見つめると薄ら魔力を帯びていて、肌に吸い付くように密着してる。どうやら『同化接着』に似たエルフ魔法。


「取れるなら取っても?」

「構わないわ」

「ウォルト、頼む!」


 腕輪に触れるとエルフの魔力を感じる。なるほど…。こういう術式なのか。タメになる。


「取れました」

「「えぇっ!」」


 腕から腕輪を外す。幾つ魔力が絡んでいようと、丁寧に相殺して無効化すれば外すのは難しくない。


「魔法を使えそうですか?」

「はっ…!ちょっと待ってくれ。むぅ~!!」


 手を翳して力を込めても魔力に動きがない。


「ダメだっ!全く覚えてない!どうやるんだったっけ?」

「フォルランさん…」


 ごにょごにょと耳打ちする。キャミィさんは首を傾げてるけど、怒られそうだから聞こえないように…。


「なるほどなっ!思い出したっ!『鷲の風切(イーファ)』」


 翳した手からそよ風が吹く。


「さすがです」

「あの頃の記憶が少し蘇ったよ!この魔法でシフォン達の下着を覗いて…」 

「やめい!」

「いでっ!」


 妹に尻を蹴られる兄。


「ウォルトも…余計なことを言わないように」

「はい…。すみません…」


 やっぱり怒られてしまったけど、確認できたから伝えたいことがある。




「そんなことが可能なの…?」


 ボクの話を聞いたキャミィさんは怪訝な顔をした。


「さっき確認しました。あとはフォルランさん次第です。ずっと魔法を使ってなかったので発動させるのは大変だと思いますが」

「是非やりたい!任せてくれ!」


 いい笑顔のフォルランさん。前向きなところは長所だろうけど…。


「仮に上手くいっても、皆の反応は予想できません。もしかすると無駄骨を折ることになるかもしれない。それでもやりますか?」

「やりたい。俺はさ…キャミィが言うように元々エルフの中でダントツにバカなんだ。能天気に生きてきたんだよ。全然エルフらしくないけど…やったことの尻拭いくらいやらなくちゃ」

「いいんじゃないですか」

「えっ?」

「ボクは、獣人なのに力が弱くて、小さな頃から周りに「お前なんか獣人じゃない」と言われてきました。でも、ある友達が言ってくれたんです。「いろんな獣人がいて当たり前だ」って」


 あの時のアニカの言葉は今でもボクの胸を温めてくれる。存在を肯定してもらえて嬉しかった。


「…そうか」

「今ではそう思ってます。だから、フォルランさんのようなエルフがいるのも普通だと思います。それに、迷惑をかけたことを謝罪したいと思っているなら手伝いたいです」

「ウォルトは…優しいな」

「ボクは優しくないです。気が済むようにやりたいだけで。さっそく今から修練しましょう」

「よろしく頼むよ!」

「兄さんには無理だと思うわ」

「やってみなければわかりません。特に魔法は」


 フォルランさんとの修練が始まった。手取り足取り細かく教えていく。黙って見守ってくれるキャミィさんは、久しぶりに兄の真剣な表情を目にしたに違いない。


「今の感じです!」

「なんとなくわかった!次はもっと上手くやれるぞ!」

「……」

「さっきと全く同じです!上手くなってません!」

「すまん!次!次っ!」

「………」


 修練はしばらく続いた。



 ー 2時間後 ー



「はぁっ…はぁっ…。なんとかできた……」


 フォルランさんは、ボクが教えた魔法を詠唱できるようになった。


「素晴らしいです。フォルランさんは魔法の才能に溢れてます」

「やっぱり俺もエルフだったってことだな!」


 嬉しそうに笑う。


「初めからそうですよ」

「兄さん。皆に見てもらいましょう。どんな反応をされるかわからないけれど」

「そうしよう!俺は…どうなっても後悔しない!」



 ★



 皆に声をかけるタメに戻ってきたキャミィ。


「父さん…。父さん…」

「ん…」


 何度か呼びかけると目を覚ました。ビンタされたくらいで大の大人が大袈裟に気絶していることがおかしい。打たれた頬は魔法で回復しておいた。起き上がると長い足で胡座をかいて私を見る。


「キャミィか…。獣人は…?」

「まだ里にいるわ。そんなことより、父さんにお願いしたいことがあるの」

「いきなりなんだ?」

「里の皆を集めてほしい。来たくない者は来なくても構わない」

「なにをする気だ?」

「兄さんの……贖いよ」

「贖いだと…?」


 コクリと頷いて続ける。


「兄さんが、自分が焦がした神木を治療するのよ」

「お前は…なにを言っているかわかっているのか?」

「もちろんよ。信じられないでしょうけど協力してほしい」


 真剣な眼差しを向ける。冗談の類でないことを理解できるように。


「話を聞かせてもらおう」

「わかったわ」


 詳しく事情を説明する。父さんは険しい顔で耳を傾けてくれた。


「そんなことが…本当に可能だというのか?」

「できたわ。この目で見た」


 思案したあと父さんは重い口を開く。


「考えたのは…あの獣人だと言ったな?」

「そうよ」

「ならば認められん」

「なぜ?」

「我々エルフが治療できなかった神木を、獣人の力を借りて治療したなど、末代までの恥…ぶべぇっ!」


 怒りの右ストレートを顔面に炸裂させた。拳から煙が上がる。


「…もう頼まない。父さんにとっては、神木を治療することよりも誇りが大切なのね。本当に下らない。見損なった」


 身を翻して家を出て行く。再び神木に向かいながら仲間達の家に立ち寄って声をかけるけれど、鼻で笑って相手にしてくれない。


 そんな中…。


「いいぞ。見にいく」


 ウォルトと闘いを終えたばかりのフラウは見に来ると言ってくれた。


「意外ね。他の皆は『世迷い言を』って顔していたのに」

「あの獣人が1枚嚙んでるんだろ?……多分、俺にしかわからない」

「なにが?」

「あの獣人の力だ。認めたくないが…アイツは化け物だ。冷静に分析すると、どう考えても俺とは桁が違う魔法使いとしか考えられない」


 気付いていたのね。間近で感じたからこそなのかもしれないけれど。


「やっぱり貴方は優秀ね。ウォルトも貴方の魔法は素晴らしかったと言ってたわ」

「ムカつく奴だ!心にもないことを…。アイツがどれ程の者なのか知らないと悔しくもなれない。知れるかもしれないのなら行くしかないだろう」

「片鱗が見れるかもしれないわ。行きましょう」

「あぁ」


 私とフラウは神木の元へ向かう。すると、数人のエルフが離れて付いてきた。口では興味ないと言ってもやはり気になるのだろう。あえてなにも言わず歩を進める。

 しばらくして神木に辿り着くと、待ちきれないといった風の兄さんがいた。隣には、優しい表情を浮かべたウォルトが立っている。


「連れてきたわよ。全員は無理だったけれど」

「来てくれただけで有り難い!」


 兄さんは、来てくれたエルフ達に向かって告げた。


「神木を傷付けてすまなかった!今さらだけど、俺がなんとか治療する!」


 皆はふっ…と鼻で笑う。できっこないと思っているのが丸わかりだ。私もそう思っていた。

 過去、何人ものエルフが威信にかけて神木を治療しようとあらゆる手を尽くして挑んだけれど、ついぞ元に戻すことは叶わなかった。

 ウークの超問題児フォルラン兄さんが治療できるとは到底思えない…でしょうね。


「フォルラン。お前が神木を傷付けたのは許されざることだった。今さらなにをしようと取り戻せない」


 フラウの言う通り。犯した罪は、たとえ許されたとしても消えることはない。


「言いたいことはわかる。けど……俺はバカだけど自分のしでかしたことの責任をとりたい。ただの自己満足だ!」


 兄さんの言葉を受けて、フラウはチラッとウォルトを見た。白猫の獣人は、気にする素振りもなく兄さんを見つめている。


「じゃあ、さっそく始める!ウォルト、頼むよ!」

「はい」


 歩み寄ったウォルトは、兄さんの両手をとると目を閉じて集中を始めた。 


「くぅ~っ!コレコレぇ~!」

「なんだ…?アイツらはなにをしてる?」

「見ていればわかるわ」


 変な声を上げる兄さんと、手を取って静かに佇む獣人は対照的。フラウは様子を観察しているけれど、ウォルトがなにをしているのか理解できていないでしょうね。


 それが普通よ。私もわからなかった。そんな発想すらなかったの。


「終わりました」

「ありがとう!よし!やるぞ!」

「はい。必ずできます」


 微笑んで手を離すと、兄さんは神木に歩み寄り手を添える。ゆっくり目を閉じて詠唱した。


精霊の慈悲(エヴァン)


 兄さんの掌が淡い光を放つ。


「…うそだろ?!」

「そんなバカな!?」

「あり得ないわ!」


 黒く焼け焦げていた神木の幹は、掌から波紋が広がるようにほんの少しずつ姿を変えて、元の色を取り戻していく。


「くぅ…!ぐぅぅぅぅっ…!」


 治療が始まって数分。兄さんは歯を食いしばって絶え間なく魔力を注ぎ込む。治療痕が広がり、神木の焼け痕は残すところあと僅か。けれど、兄さんの魔力も残量に余裕はない。


 ウォルトが声を上げた。


「フォルランさん!」

「大丈夫だっ…!まだイケる…!あと、少しなんだっ…!」


 必死の形相で魔力を注ぎ続ける。


「うぉぉぉっ!」



 やがて……神木は元の姿を取り戻した。


 魔力を使い果たした兄さんは膝をつく。様子を見ていた仲間達も信じられないモノでも見たように言葉もなくただ立ち尽くす。

 並んで治療を眺めていたフラウは言葉が出ない様子。けれど、直ぐに我に返って訊いた。


「アイツは一体何者だ!?フォルランになにをした?!」

「…私達にはできなかったことよ」


 ウォルトの力の片鱗を見に来たはずなのに、ますます混乱しているのが見てとれる。見渡すといつの間にか来ていた父さんも離れた場所から神木を見つめていた。


 そんな中、私は兄さんに歩み寄る。


「兄さん。お疲れさま」

「もっと格好よくキメたかったけどな!けど、やりきったぞ!」

「えぇ。大したモノだわ。お世辞じゃない」


 綺麗な姿を取り戻した神木を見つめる。その身を灼かれてもなお根を張って里に凜と立ち続けてきた不思議な大木。

 風に揺れる枝葉は心なしかさっきより生気を増したように見える。


「なぁ、キャミィ…」

「なに?」

「ウォルトは凄い魔法使いだよなぁ…」

「そうね…。私達にできないことも簡単に成し遂げてしまった」

「なぁ、ウォルト!君のおかげで俺でもやれたん……だ……」


 兄さんが振り向いたときウォルトの姿はなかった。

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