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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
225/714

225 エルフの傲慢

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 駆けるように木を登って、住み家に入ったルイス。フォルランとウォルトも後を追う。


「入れ」


 促されて住み家に入ると、中にいる女性のエルフと目が合う。


 まだ幼さの残る少女のエルフで、チャチャとリスティアの間くらいの年齢に見えるけれど、ボクより遙かに年上だろう。


「フォルラン兄さん。久しぶりね」

「久しぶりだな。キャミィ」


 フォルランさんを兄と呼んだキャミィというエルフの少女は、やはりというべきか金髪碧眼の美少女。エルフは例外なく容姿端麗なんだろうか。

 キャミィさんはボクを見て震え出す。さっきの女性エルフと同様で警戒されているのかもしれない。


「…隣の獣人は?」

「ウォルトは俺の友人だよ。知り合ったばかりだけど里に来るのを手伝ってくれたんだ」

「そう…」


 キャミィさんはボクに向き直った。


「私はキャミィ。フォルランの妹よ」


 今までのエルフと違って自己紹介された。ならばちゃんと返すのが礼儀だ。冷静に名乗ろう。できるだけ怖がらせないよう丁寧さを心掛けて。


「初めまして。ボクはウォルトといいます。見ての通り猫の獣人です」

「猫…」

「なにか?」

「…なんでもないわ」

「ウォルトと言ったか?とりあえず座るがいい」


 ルイス…さんに初めて名を呼ばれて、また少し冷静さを取り戻す。座ってしばらくすると、キャミィさんがお茶を淹れてきて差し出してくれた。とてもいい香りがする。


「まずはフォルラン。お前に言っておきたいことがある」

「なんだよ?」

「もし私を心配して帰ってきたのなら、余計なことだ。体調を崩したワケではない」

「そうなのか?」

「まだ400歳ちょっとだ。健康に決まってるだろう。まだ、お前の3倍しか生きてないのだからな」

「もう440歳だろ?そろそろ体調も気になる歳だ」


 エルフも親子は似るんだな…。しかも誤差が激しい。倍数まで誤差があるなんて…。もしかして、種族がそうなのか?


「心配は無用だ。私の跡を継ぐのはキャミィだからな」

「はぁ?!フレイじゃないのか?アイツはなにしてるんだ?」


 フォルランさんの言っていた弟妹の1人だろうか。


「フレイは里を出た。魔法の修行をすると言ってな。もう30年は経つか」


 ということは、大体50年過ぎたくらいだと予想していると…。


「兄さんが出て行ってまだ20年よ」


 真顔でキャミィさんが告げる。短い場合もあるのか…。もう予想するのはやめよう。キャミィさんも同様の可能性がある。エルフの会話における年数の真実は闇。

 若干混乱した心を鎮めようと淹れてもらったお茶を頂く。爽やかな甘味と香りがしてとても美味しい。


「このお茶はすごく美味しいです。なんという花でしょうか?」

「花じゃないわ。果実から作ったお茶よ」

「なるほど。ということは覆盆子(ベリー)のお茶ですね」

「そうよ。わかるのね」

「お茶が好きなので」


 もう一口飲んで自然に表情が緩むと、キャミィさんがまた震え出す。なにやら刺激してしまったっぽい。祝宴で被ったお面のようにキリッとしておこう。


「なぁキャミィ。お前はそれでいいのか?」


 フォルランさんの問いに震えが止まったキャミィさんは、少し思案して答える。


「若い私に里長が務まるかわからない。けれど、精一杯やりたいと考えてる」

「お前は外に出たくないのか?里長は優秀な他の奴に任せても…」

「フッ!」


 ルイスさんが鼻で笑った。


「里で最も優秀なエルフがキャミィだ。私が里長をやめるのも、キャミィの力が私に匹敵するモノに成長したから。皆にも確認したが異存はなかった」

「だからって…」

「それとも、お前が里長になるというのか?いざというとき魔法も使えぬお前が皆を守れるか」

「…やってみなきゃわからないだろ」

「やってダメなら仕方ないで済む問題じゃない。里に残る者達の問題だ。我々はこれから先もこの森で暮らしていく。街で生きるお前とは違う」

「………」


 フォルランさんは黙り込んでしまう。会話を聞きながら感じた。ルイスさんは、フォルランさんのことをエルフだと認めてないワケじゃない。遠回しだけど、むしろ優しさから言っているように聞こえる。

 浴びせる言葉は厳しいけど、決して頭ごなしではなく納得できる。おそらく「お前はココにいてはいけない」と言われているだけだ。

 理由はわからない。魔法を使えないこと以外にもあるような…。だけど、ボクにはフォルランさんの気持ちも理解できる。大事なのは…。


「フォルランさんは里で暮らしたいんですか?」

「そりゃそうさ。俺は里で暮らす方が性に合ってる。街も悪くないけど、生まれ故郷は静かで気持ちいいからな」


 ルイスさんとキャミィさんは、なぜか苦い表情を浮かべた。


「ルイスさん。里長にならずにフォルランさんが里で暮らすことはできないんですか?」

「お前は…フォルランのことを知らないからそんなことが言えるのだ」

「よく知りませんが、キャミィさんを裏で支えるとかやりようはあるのでは?」

「それはいい!俺でもできそうだ!」

「兄さんには無理よ」


 ジト目で即座に否定された。


「うぐっ…!キャミィは厳しいな…」

「というか、兄さんはなにもわかってない」

「俺がわかってない?」

「なぜ兄さんが里を追い出されたか忘れたの?」

「俺は魔法も使えなくて弓も下手だ。だから、里では暮らせないと思って外に出た」


 溜息を吐くキャミィさんは、表情に乏しいけど呆れてるっぽい。


「全っ然違うわ。やっぱり忘れてるのね…。まだ100年も経ってないのに」

「お前は本当に期待を裏切らないエルフだ」

「俺がなにを忘れてるっていうんだ?」

「それは…」

「…おいっ!ルイス!」


 キャミィさんの言葉を遮るように、外から大きな声が聞こえた。腰を上げたルイスさんが家を出る。外にはエルフが集まっていた。木を取り囲むように10人はいる。


「どうしたことだ?」

「さっきの獣人を出せっ!」


 憤っているエルフ達は興奮して聞く耳をもたない。


「まだ話している。しばし待て」

「もう待てん!今すぐ引き渡せっ!」

「困った奴らだ」


 目的が想像できるので木から飛び降りた。地上に降り立って、集団の先頭に立つエルフに向かって冷静に尋ねる。


「ボクになにか用ですか?」

「わからないとは言わせん。獣の分際で、エルフを揶揄するような発言をしておいて…」


 やはりか。やっとエルフに関する予想が当たってホッとする。


「獣ではなく獣人ですけど、エルフを揶揄しました。それがなにか?」

「お前は万死に値する…。下等な獣人ごときが俺達エルフを揶揄するなど…」


 エルフの言葉に表情をなくす。一度火が付いた気持ちは再燃するのも早かった。


「お前は何様のつもりだ?」

「なに?」

「街に住んでいた頃、何人かエルフに出会ったが、お前達のように他の種族を見下してなかった。なぜそこまで傲慢になれる?」

「はっ!ソイツらはエルフじゃない。お前の目は節穴だ。種族の見分けもつかないのか?あっという間に消えてしまう短命な存在に教えるだけ無駄なこと。それにお前達獣人も同じだろうが」

「同じ?」

「獣人も力に劣る種族を蔑んでいる。違うか?」

「………」

「どれほど頑強な肉体を持とうが、死ねば骨しか残らない。長命であるということは、神に選ばし種族ということ。お前の拙い頭でも理解したか?ははっ」


 嘲笑うエルフに告げる。


「獣人や人間は太く短く生きている。お前らのように昔のこともまともに思い出せず、ただ長く生きているだけの耄碌した輩とは違う」


 エルフは額に青筋を立てた。後ろに控える者も同様。このくらいの挑発で…だ。自分達は優秀でなにを言っても許され、侮辱されるのは許さないとでも言いたそうだな。

 

 勘違いも甚だしい。コイツらは、どれだけ多種族を…獣人をバカにしてるのか。


「お前は…絶対に許さん…!劣等種族の分際で!」

「単なる事実だ。許されないことを言った覚えはない」



 ★



 フォルランが木の上で諍いを眺めていると、ルイスが訊いた。


「フォルラン。アイツは何者だ?これだけのエルフと対峙して一歩も退かないとは。余程の阿呆か」

「俺にもわからない。昨日道に迷った俺を家に泊めてくれて、里まで送ってくれた優しい獣人だよ」

「優しい…獣人…」


 キャミィと親父を残して俺も飛び降りた。ウォルトと話しているのはウークでも指折りの魔導師フラウ。変わりなければ里でも指折りの実力者だ。


「フラウ。ウォルトは俺を手伝ってくれただけで里になにもしてないだろ。このまま帰してやってくれ」

「うるさい!最早お前のことはどうでもいい!この獣人は…許さん!」


 聞く耳を持たないか。俺にはどっちが悪いと言い切れない。先に仕掛けたのは里の皆だけど、ウォルトも挑発するようなことばかり言い続けてる。


「フラウ。私も反対よ。なぜそんなに怒っているの?」


 いつの間にか飛び降りたのか隣にキャミィがいた。


「キャミィ!エルフならわかるだろ!?獣人ごときに虚仮にされて黙っていられるか!」

「バカにしているのは貴方も同じでしょう?皆で取り囲んで脅すのがエルフのやり方なの?」


 冷静なキャミィと興奮しているフラウ達は対照的で、同じエルフとは思えない。俺もキャミィと同意見だ。


「2人は下がってくれませんか…?コイツらと話ができない」

「ウォルト…」


 俺はウォルトのことをよく知らない。昨日出会ったばかりだ。けど、初対面の俺を助けてくれて、里まで連れてきてくれたいい奴なのは間違いない。

 そして、大勢のエルフに囲まれても全く怯まない度胸もある獣人。優しくて知的で、魔法を使えるけど獣人なのに力は弱いと教えてくれた。


 コレだけの数のエルフと争って勝てるはずがないのに…俺はウォルトと争うことに恐怖を感じている。

 闘ったらフラウ達はタダではすまない。そんな不思議な予感があるんだ。


「ボクを許さないならどうする?」

「しれたこと。骨まで燃やし尽くして灰にしてくれる!」

「お前らの得意な魔法でか?」

「そうだ。無駄に毛が生えた獣人の悶え苦しむ姿はさぞ愉快だろう!ふはは!」

「お前らの耳は無駄じゃないのか?えらく長い割に人の話を聞かない。お飾りなら千切って棄てろ」


 挑発してもフラウは押されてる。ウォルトは賢くて、俺の知るどの獣人とも違う。


「貴様は…死に値する!侮辱による処刑だ!」

「驕ったエルフの魔法を見せてもらおう。お前らは全員でくるのか?」

「ふざけるなっ…!獣人1人に誇り高きエルフが集団で挑むと思うか!?」


 フラウの台詞にウォルトは目を細めた。そして…蔑むような視線を送る。


「お前らが集団で来たのはなぜだ?万が一にもボクを逃がさないタメか?それとも……」

「……っ!」

「ククッ!臆病者にはどんな言葉も届かないのに、なぜ耳がそこまで伸びているか不思議だ。神とやらの気まぐれだろうが」

「貴っ様ぁ…!」

「散々獣人を劣等だと主張してくれたが、劣等種族がエルフを称してやる。一度しか言わないからよく聞け」


 ウォルトは無表情で告げる。


「群れなければ獣1匹すら狩れない臆病者で、頭ではなく口が回る。魔法が自慢だと言うが、力は一切見せず下らない御託だけを並べ続け、耳と寿命が長いという特徴にだけ異常に執着する…」


 ニィ…と笑う。


「下劣な生物だ」


 フラウは眉を吊り上げて顔を赤く染めた。後ろに控えるエルフ達も同様。それでもウォルトは微塵も動じない。むしろ嬉しそうに嗤っている。一体どんな神経をしてるんだ…。


「フラウと言ったな?お前が相手をしてくれるんだろう?」

「骨も残さず燃やし尽くしてくれる!」

「だったら他のエルフは黙って見てろ。邪魔すれば…許さない」


 俺には……ウォルトの言葉が大袈裟だと思えない。なぜなんだ…?

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