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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
223/715

223 不思議なエルフ

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ある日の夜。


 どっぷり夜も更けて、ウォルトは眠る前に住み家の外で心地良い夜風にあたっていた。


 動物の森の夜は静かだ。住み家の周りに獣や魔物が出現するのも稀で、基本的には明るくなるまで寝静まっているかのよう。そんな中、気になる音が聞こえた。パキッと枝を踏みしめる音おそらく人の足音で、少しずつ近づいてくる。警戒を強めて音のする方向に注意を向けても足音の主は変わらぬテンポで歩を進める。


 そして…。


「ココは…?」


 姿を現したのはエルフの男性。色白の肌に尖った長い耳と鮮やかな金髪。背中に長い弓を背負ってる。オーレンより少し年上くらいだろうか。


「エルフ…?」

「誰かいるのか?」


 ボクの声に反応した。夜目の効くボクは姿が見えているけれど、向こうからは見えないみたいだ。近寄って話しかけてみる。


「こんばんは」

「おわっ!?ビックリした!……獣人か?」


 目を細めてボクを見てくる。


「ウォルトといいます。貴方は?」

「丁寧にありがとう。俺はフォルラン。見ての通りエルフだ」

「フォルランさん。夜更けにこんなところでなにを?」

「久しぶりに里に帰る途中だったんだけど、道に迷ってしまったんだ!アハハッ!」


 フォルランさんは豪快に笑った。詳しくないけど、ボクが知るエルフっぽくない。街で見たことのあるエルフの静かで落ち着いた雰囲気ではなく、明るく溌剌としている印象。


「よかったら、ちょっと休憩していかれますか?」

「休憩?いいのかい?」

「お茶くらいしか出せませんが」

「いや!凄く助かるよ!」


 住み家に招き入れて居間に案内すると、ランプを灯して台所に向かいお茶を淹れてきた。


「もう寝るところだったろうにすまない」

「気にしないで下さい」


 差し出したお茶を飲んで驚く。


「美味い!君の淹れたお茶は美味いよ!こんなに美味いのは初めてかもしれない!」

「ありがとうございます」

 

 グッと飲み干して、お代わりも飲んだフォルランさんは一息つく。


「生き返ったよ」

「大袈裟ですよ。ただのお茶です」

「ところで、君はココに1人で住んでるのか?」

「今は1人です」

「…そうか」


 少しだけ眉をひそめた。


「フォルランさんの向かう里はどちらですか?ボクが知っていれば方向は教えられます」

「【ウーク】という里なんだけど知ってる?」

「ウーク…。聞いたことないですね」

「そうだよな。エルフしか住んでいない里だから、あまり知られてないんだ」

「隠れ里ですか?」

「もしそうなら名も教えてないよ」


 聞いた話では、エルフは獣人でいう【原始の獣人】と同様に昔ながらの生活を送る者達が多く存在するらしい。ほとんどのエルフがそうだとも云われてる。


 その後、話を聞いてウークのおおよその位置を掴んだので、さらっと地図を描く。絵を描くのは絶望的だけど、丸と矢印くらいならなんとか描けるんだ。


「フォルランさんの話を聞いた感じだと、ウークはこの辺りです。そして、住み家がココなので…こう行けば…」

「ふんふん。なるほど」


 納得した様子で地図を受け取る。


「ありがとう。ウォルト、君は凄いな!」

「ボクは至って普通ですが?」

「誤解しないでほしいんだけど、獣人なのに言動が丁寧だ。君みたいな獣人に初めて会った」


 フォルランさんもエルフっぽくないと思った。お互い様だし好感が持てる。


「ありがとうございます。フォルランさんがよければ泊まっていきませんか?明日ボクが里の近くまで案内します」

「助かるけど…いいのか?」

「はい。朝ご飯を食べてから出発しましょう」

「すまない。凄く助かるよ」

「気にしないで下さい」

 

 フォルランさんに入浴してもらい、客人用の寝室に案内して居間のランプを消すと、明日に備えて眠ることにした。



 ★



 次の日。


 出発前に朝食をとる。


「美味すぎる。エルフ好みの味付け…。君は…料理人なのか?」

「森に住んでるただの獣人です」


 エルフは獣人とは真逆で肉を好まないと聞いたことがある。野菜中心のさっぱりした朝食に仕上げてみたけど、どうやら気に入ってもらえたみたいだ。


「ふぅ…。こんな美味い料理は久しぶりに食べた。ご馳走さま」

「片付けるので少しだけ待ってて下さい」


 片付けを終えて戻ると、フォルランさんは既に準備を終えていた。


「かなり見辛いけど、ウォルトに貰った地図があれば1人でも辿り着けると思うんだけどな」

「ボクの画力のせいです。すみません」

「いや。とても助かる。地図がなくてもなかなか辿りつかないから」

「失礼ですけど、フォルランさんは方向音痴なのでは?」


 フォルランさんは溜息をついた。


「バレてたか…。獣人は方向感覚に優れているから羨ましいよ」


 夜中、森を徘徊している者を見かけたらそうかもしれないと疑う。フォルランさんに聞いたウークの所在は、この場所からそう離れていないにもかかわらず迷うなんて普通あり得ない。


「方向感覚は獣人の先天性の能力の1つですからね。ココから近いですし気にしないで下さい」

「君は…なんで初対面のエルフに親切にしてくれるんだ?」

「フォルランさんを放っておけないんです」

「あはは!君は優しいな。俺よりかなり若そうなのにしっかりしてる」


 エルフの年齢はボクには見分けられない。


「ボクは21歳ですけど、フォルランさんはお幾つですか?」

「150歳とちょっとだ。正確には177歳かな?エルフじゃ若造だよ」


 27歳の開きはちょっとじゃない。ボクの年齢以上の差がある…と思ったけど、エルフの常識かもしれないので黙っておく。


「では、向かいましょう」

「よろしく頼むよ!」


 準備を終えて住み家を出発し、ウークへと向かう。連れ立って歩いている道中で尋ねた。


「フォルランさん。幾つか質問していいですか?」

「いいよ。俺が答えられることなら」

「久しぶりの帰省ですか?」

「なぜわかる?」

「帰るのが久しぶりすぎて、道を忘れたのもあるんじゃないかと思って」


 互いに苦笑する。


「実はその通りなんだ。もう50年ちょっとは帰ってないかな?」

「大体、75年ぶりくらいですか?」

「惜しい!80年だ!鋭いなウォルト!」


 フォルランさんは感心してるけど、誰でも勘付く。…というより、ちゃんと把握できてるのになぜ誤差が…?


「あと、言いたくなければ答えなくて構わないんですが」

「なんだい?」

「フォルランさんは…魔法を使えないんですね?」


 一瞬驚いた表情を見せたフォルランさんだったが、すぐに柔らかい表情を浮かべる。


「よくわかったなぁ」

「昨夜フォルランさんは近付いたボクを見て驚きました。つまり、ボクの姿が見えていなかった。エルフは魔法が得意だと聞いています。普通なら夜目が効く魔法を使っているはずです」

「なるほどなぁ。よく見てる」


 推測したあと、フォルランさんの前で薄ら魔力を纏ったり糸状で発現させたりしたけど、気付いている様子がなかったことで確信した。


「俺は…ウーク出身で唯一魔法を使えないエルフなんだ。他に同じようなエルフがいるかは知らないけど、ウォルトが言ったようにエルフは魔法が得意で操れない者はいない」


 黙って耳を傾ける。


「だから里に居辛くてね。まだ駆け出しの頃に里を出て、もう長く街で暮らしてるけど今回は帰らなきゃいけないんだ」

「なにか理由が?」

「俺は里長の息子なんだけど、本来なら後継者として里を引っ張っていく立場だったのに、魔法も使えなくて期待されてなかった。だけど…街にいるエルフから近い内にウークの里長が退くらしいと聞いたんだよ」

「そうすると、誰が里長に?」

「多分、俺の弟妹だ。もしくは優秀なエルフの内の誰か」

「それで、フォルランさんはなぜ?あまり帰りたくないのでは?」

「親父の体調が気になるんだ。それに…俺が受け継ぐべきだった。エルフは能力に血統が強く反映する。もし里長になれば、何百年と里を出れなくなって不自由な生活をさせてしまう。役立たずな俺が行っても解決しないかもしれないけど…話だけでもしておきたくて」


 真っ直ぐ前を向いて話す。そんなフォルランさんに言葉をかけられなかった。



 やがて、ピタッと歩みを止めた。


「おっ!この辺りは見覚えがある。もう大丈夫だ。あとは俺だけでも行けるよ」

「それはよかったです。気を付けて」

「世話になった!いずれ礼をさせてもらうから!」

「いりません。手ぶらでお茶でも飲みに来て下さい。もてなします」

「ありがとう。じゃあな」 


 笑顔を見せたフォルランさんは、前を向いて歩き始める。見送ったあと、振り返って歩き出すと直ぐに背後から声が聞こえた。


「ぐうっ…!がぁっ…!」


 苦しむようなフォルランさんの声。一目散に駆け出す。目に入ったのはうずくまるフォルランさんと木の上に立つ2人のエルフ。


「フォルランさん!大丈夫ですか!?」

「ウォルト…」


 見たところ傷はないようだけど、苦しそうだ。見下ろすエルフが声をかけてきた。


「獣人がなんの用だっ!?」

「速やかに立ち去れっ!」


 見上げると、ボクらに向かって矢を構えている。


「貴方達は…フォルランさんになにを…?」

「答える義務はない」

「関係ない者はさっさと消えろ」


 取り付く島もないエルフ達だが、黙って見過ごすことはできない。なにより矢を向けられて大人しくしているつもりもない。


「フォルランさん」


 手を翳して『治癒』を使う。


「痛みが……引いた…?」

「ぬっ?!獣人!なにをした!?」

「動けるようになっただと?」


 確信した。木の上に立つエルフに告げる。


「貴方達は…フォルランさんを魔法で攻撃したんですか?」

「こちらの質問に答えろ!」


 会話にならないエルフ達に苛立ちを覚える。


「答える義務はない」

「なんだと!?」

「獣人風情が!」


 ボクを目がけて弓を引き絞る。そっちがその気なら…。


「やめろ!ウォルトは関係ないだろ!」


 声を荒げるフォルランさんを手で制する。木の上のエルフに向かって嗤った。


「撃ってみろ…。弓で撃たれて黙ってると思うな」


 即座に魔法で撃ち落としてやる。コイツらの全てが気に食わない。木の上から見下してくる姿も。獣人を蔑むような言葉と態度も。


 エルフ達はゆっくり弓を収めた。


「まぁいい」

「命拾いしたな、獣人が」


 捨て台詞を吐いて木の枝を飛び移りながら去って行った。フォルランさんに向き直って告げる。


「フォルランさん。ボクと一緒にウークに行きましょう」

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