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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
220/715

220 お礼するならコレしかない

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトが屋敷を出発して4時間近く経過した。ランパードとキャロルは部屋で帰りを待っている。


「今回も世話になってしまったな。彼には恩が増える一方だ」

「商談も成立してないのに気が早いだろ」

「きっと上手くいく。お前もそう思ってるんだろ?」

「アタイはそうさ。そう言ってもらえてウォルトは嬉しいと思うよ」

「嬉しい?なぜだ?」

「こっちの話さ。知らなくていい」


 会話していると、扉がノックされてウォルト君が姿を現した。


「戻りました」

「おぉ!お疲れさん!」

「おかえり。疲れたろう?ゆっくりしな」


 ソファに座るよう促す。


「誰か!回復薬を持ってきてくれ!」

「心配いりません。さほど疲れてないので」

「本当か?」


 汗を少しかいているくらいで確かに辛そうに見えない。見るからに暑そうなローブを着ているのにボルトとは大違いだ。本当に王都まで駆けて戻ってきたのか怪しいくらいの余裕を感じる。


「このローブを着てると涼しいので。先に報告を。無事ベルマーレ商会に封書を届けました。余裕を持って着いたので時間は問題ないと思います」

「そうか。君には世話になりっぱなしだ。ありがとう」

「コレで終わりならいいんですが」

「どういう意味だ?」


 気になることを言う。


「試練を課してくるような相手です。難癖つけられるかもしれません」

「大丈夫だ。ベルマーレ商会も信用第一なのは変わらない。約束を反故にしたら大商会の名が廃る。そんな相手なら取引する必要もない」

「ならよかったです。幾つかわからないことがあったので心配しました」

「なにが心配なのさ?」


 俺も聞きたい。


「まず、封書の魔法封蝋に込められてた魔力がかなりの量だったんだ。優秀な魔導師が魔力を込めたんだろうけど」

「アンタは直ぐ開けたじゃないか」

「ボクでも開けられる程度だったからね。なにかしら意味があるかもしれないから、より多く魔力を込めて返したけど」


 そうだったのか。意趣返しでも素人には気付きようもないな。


「向こうの策だろう。簡単に破られたうえにお返しされた形か…。向こうが開けられなかったら…それはそれで面白いな!はははっ!」

「笑い事じゃないだろ?…けど、アンタもやるねぇ」

「それに、向こうの飛脚に追跡されました。途中で引き離しましたけど、見張られていたのかなんなのか」

「アンタは賢いのに、そんなこともわからないのかい?」


 呆れたようにキャロルが言う。俺も理由がわからない。


「姉さんはわかるのか?」

「アンタより駆けるのが速いっていう優越感に浸りたかったんだよ。王都まで付いて行って、後で「遅い」ってバカにするつもりだったのさ」

「そんなことして楽しいのかな?」

「獣人は、自分の得意なことで人をバカにするのが好きな奴が多いだろ?」

「もしそうなら、もっと早く置き去りにすればよかったよ」

「アンタに負けて今頃ヤケ酒でも飲んでるだろうさ。駆けるのに自信がありそうな顔してたからねぇ。いい気味だ」


 キャロルの言う通りで愉快すぎる。胸がスカッとするな。


「君のおかげで色々と気分が晴れる!ワハハハ!」

「そうですか?」

「ところで、報酬を渡したいんだ」

「ボクがやりたいとお願いしたので必要ないです。まだ上手くいったかわかりません」

「そういうワケにはいかない。旦那さんが上手く契約できたら、アタイがお礼する。残念ながらアンタに拒否権はないからね!」


 キャロルは笑顔でビシッ!と指差した。ウォルト君にとってキャロルは断れない相手なんだろう。


「姉さん。気を使って上手くいったって嘘吐くのはダメだよ?」

「アタイをなんだと思ってんだ」

「気遣いのできる姉御肌の猫獣人だね」

「間違いないな」


 ウォルト君と笑い合って、キャロルは「やれやれ」と呆れた風に苦笑した。



 ★



 封書騒動から数日後。


 ランパードとベルマーレの契約は無事に履行された。その頃アニマーレでは…。


「サマラちゃん!ありがとぉ~!ホントに助かったよぉ~!」

「私はなにもしてません」


 チャミライさんが私に抱きついて喜ぶ。


「彼氏がランパードさんから「怪我が治ったら次は頼むぞ」って言われたって喜んでた!ホントありがとね!」

「大袈裟ですって。私が飛脚を変わったワケじゃないんですから」


 代わりに駆けてくれたウォルトが凄いんだ!


「でも、紹介してくれたのはサマラちゃんだから!ウォルトさんが駆けるの速いなんて知らなかったよ。彼氏も「負けられない!」ってやる気出してる!」

「ウォルトも喜ぶと思います」


 教えるつもりはなかったけど、しつこく聞かれたからチャミライさんにだけ飛脚を変わったのはウォルトだと話した。目立つのが嫌いだから、他の人に絶対言わないことを約束させて。

「気を使われると心苦しいから言わないでくれ」って頼まれてたけど、「どうしても知りたい!」という勢いに負けて教えてしまった。


「ウォルトさんになんのお礼もできないのが心苦しくて…」

「ウォルトの性格からして「お礼はいりません」の一言で終わりです。でも、1つだけチャミライさんでもできそうなお礼があります」

「えっ!?是非教えて!」

「じゃあ、本人に聞いてお礼の日程を教えますね」

「お願いね!」



 ー 数日後 ー



 アニマーレの店員達は、仕事終わりに全員で私の家に集まっていた。チャミライさんから「美味しい晩ご飯を奢るから食べに来て」とお願いされて集合した次第。

 マードックには事前に事情を話して「外で酒を飲んで遅く帰ってこい」とお金を渡してある。バッハと一緒に飲みに行くらしい。


 今回のお礼について、内容を知ったチャミライさんは混乱してた。


「サマラちゃん…。私はもんの凄く心苦しいんだけど…」

「気にせずいつもの図太い神経でいて下さい!本人はすごく喜んでました!」

「…一言多いのよね。ホントかなぁ…?」

「ホントですって!そろそろお礼の時間ですよ!」


 ウォルトが料理を運んで来た。


「今日は集まって頂いて、ありがとうございます。口に合うといいんですが」


 私も手伝って食卓に並べられていく料理の数々にチャミライさん達は驚きを隠せないみたい。


「コレ…ウォルトさんが…?」

「すご…。料理人顔負けじゃない?」

「美味しそうです…」

「いい匂い…」


 準備が終わるとウォルトから声がかかる。


「どうぞ。召し上がって下さい」

「いただきます」


 声を揃えた店員一同は、料理を口に含む。


「おいしい!」

「すっごく美味しい!」

「お金を払って食べる料理ですよ!」


 幸せそうに食べ進める一同を見て、私とウォルトは顔を見合わせる。


「ありがとね!」

「こっちこそ。こんないい食材を準備してもらって申し訳ないよ」

「気にしなくていいよ!ウォルトへのお礼なんだから!」


 食材費はチャミライさんが出して、「どうしてもウォルトにお礼がしたいから、アニマーレの皆のタメに料理を作ってくれない?」とお願いしてみた。二つ返事で了承した料理&もてなし好きの白猫獣人は嬉々として料理を振る舞った。


「まだお代わりはあります。よかったら…」

「「「お代わり下さい!」」」


 言い終わる前に皆が笑顔で皿を差し出す。


「サマラも食べてくれると嬉しいよ」

「もちろん♪」


 嬉しくて尻尾が振れちゃうね!その後も、最後の甘味に至るまで綺麗に食べ尽くした皆はお腹をさすってる。


「ウォルトさん!めちゃくちゃ美味しかったです!ありがとうございました!」

「すっごい美味しかったです!」

「【注文の多い料理店】にも負けてないよね」

「確かに。フクーベで唯一のライバルになれる料理だと思う」


 チャミライさんに続いて、皆もそれぞれ感想を伝える。だよね~。


「ビスコさんには敵いませんが、褒めて頂いて嬉しいです」

「ウォルトさん。本当にコレがお礼でいいんですか?」


 チャミライさんはまだ半信半疑みたいだけど、「もちろんです」とウォルトは笑った。不思議な会話を聞いた同僚達はヒソヒソ話す。


「ウォルトさんに料理してもらうのがチャミライさんのお礼…?どういうこと?」

「実は逆で、『コレが私へのお礼でいいの?もしかして、この程度でお礼になると思ってんの?』的な意味…?」

「草食種族なのに男には肉食系だもんね…」

「あぁ見えて怒らせたら怖いからね。昔は【フクーベの首狩り兎】って呼ばれてた時期もあるらしいよ…」

「一瞬たりとも呼ばれてないわ!小声で話しても丸聞こえなのよ!さすがに失礼すぎる!」


 その後、「余った材料で肴もできますけど」と言われた一同は目を輝かせる。マードックのタメに常備している酒を出して、しばし楽しい女子会が開催された。


「ウォルトさんが店を開いたら毎日行っちゃう!」

「それね!間違いない!」

「ありがとうございます」


 終わる頃には外はすっかり暗くなって、ウォルトと私で酔っている皆を家まで送り届けることに。

 送る途中で酔った獣人や人間に絡まれても、ウォルトが誰にも気付かれないよう魔法で眠らせて道路に捨て置いた。皆は「なにが起こったの?」と混乱してたけど、ほどよく酔ってるから深く考えてないよね。


 何事もなく全員家まで送り届けて、最後に家まで送ってくれたウォルトは住み家に帰ると言った。玄関先で言葉を交わす。


「今日もありがとう。いつもお願いばかりでごめんね」

「気にしなくていいよ。調理させてもらって楽しかったし、サマラの気持ちも嬉しかった。嫌なら断ってる」

「ふふっ。ウォルトは滅多にないけどね。でも、コレは断るのわかってる」

「なに?」

「泊まっていけばいいのに♪」

「う~ん…。泊まるのは難しいかな」

「ね?断ったでしょ?」

「そうだね。ボクの負けだよ」


 ウォルトは笑顔で返してくれた。


「またね!私が泊まりに行くよ!アニカ達と一緒に!」

「楽しみに待ってるよ」


 とびきりの笑顔でウォルトを見送る。きっと、マードックがいないことに気を使って泊まろうとしなかったんだよね。


 バカが付くほど真面目なんだから!

読んでいただきありがとうございます。

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