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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
22/706

22 告白

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ボクは酒を飲めない。お茶を片手にマードックの晩酌に付き合っていると、サマラの元気な声が聞こえた。


「ご飯できたよぉ~!」


 サマラが料理を運んでくる。手伝おうとしたけど、「コレも番になるための修業なんだから、そんなことしちゃダメだよ!」と怒られてしまった。

 関心半分、寂しさ半分で黄昏れていると、食卓に料理が出揃って準備完了。

 並べられた料理を見て言葉を失う。魚のパニッシュや山菜のムール、カーシのキシカン。


 サマラが作ってくれたのは…ボクの好物ばかり。


 涙が溢れそうになるのを気合いで堰き止めて、少し震える声で感謝を告げる。


「ボクの好きな料理…覚えてくれてたんだね。ありがとう」

「もちろん!忘れるワケないよ!」


 花が咲いたように笑うサマラ。ふと横を見ると、なぜかマードックが不細工な顔で涙ぐんでいた。おかげで、逆に心は落ち着きを取り戻した。マードック、ありがとう。


「頂いていいかな?」

「もちろん!たくさん召し上がれ♪」


 ゆっくり料理を口に運ぶと、一口食べるごとにあの頃の思い出が鮮やかに蘇る。味覚や嗅覚は記憶を強烈に呼び覚まして、嬉しさで胸がいっぱいになる。無言で食べ進めるボクをサマラは微笑んで見つめていた。



 綺麗に食べ終えて口を開く。


「ごちそうさま。すごく美味しかったよ」

「ホント?!昔と比べてどうだった?」

「上手く言えないけど、味が洗練されたというか。今のほうが美味しい」

「やったぁ!」


 サマラは満面の笑み。本当に美味しかった。街から…サマラから逃げたボクによくしてくれて、一片も悔いはない。コレで最後と覚悟を決めて、今日の本題である話をしよう。上手く話せるといいけど。


「サマラはいい番になるよ。ボクが保証する」

「え?」

「すごく綺麗になったね。本当に驚いた。ボクが知ってるサマラじゃなくて、立派な大人の女性だ」

「そうかな」

「料理も凄く美味しくて、毎日でも食べたくなってしまう味だったよ」

「ありがと」

「ボクは…マードックから「サマラが番うからその前に会え」って言われて番うことを知ったんだ。でも、今さらどの面下げて会うんだって思った」

「うん…」

「サマラに会ったら思い出が溢れて止まらない…。困らせるようなことを言ってゴメン…」


 まとまりのない話を聞かせてる。自分でもなにを言いたいのかわからない。言葉に詰まっているとサマラが口を開いた。


「ウォルト」

「なに?」

「ウォルトは…私のこと好き?」


 いきなり問われて言葉に詰まる。答えていいのか…?今までハッキリ伝えたことはない。最後に…伝えてもいいのかな…。


「…好きだよ」


 あの頃の『好き』とは違う。相手に恋い焦がれる『好き』じゃない。ボクは彼女の横に立てる獣人じゃないんだ。でも、今の正直な気持ちを我が儘で言わせてもらった。


 サマラは下を向いて肩を震わせてる。表情は見えないけど、きっと怒ってるだろう。恋人のいる幼馴染みに好きだと伝えるなんて非常識にもほどがある。たとえ奪うつもりじゃないとしても。


 だから、最後は怒られて…嫌われて終わっても後悔はない。サマラは俯いたまま立ち上がって歩き出すと、ボクの横で立ち止まる。

 殴られても仕方ない。そう思ったのに、サマラは顔を上げると微笑んでそっとボクを抱き締めた。





 突然の出来事に、ボクとマードックが呆気にとられているとサマラが口を開く。


「……上手くいった♪作戦成功っ!!」

「「作戦?」」


 獣人の男が2人揃って間の抜けた声を上げた。


「うん!作戦!」


 ボクに抱き付いたままあっけらかんと答える。


「おい、サマラ!どういうことか説明しろ!なんだ?!作戦っつうのは!」


 マードックが吠える。やっと狼っぽいところが出た。


「珍しく、全部マードックのおかげだよ」

「なんだと…?」


 眉を顰めて『意味がわからねえ』とでも言いたそう。


「この間、番になりたいって獣人を紹介したよね?」

「あぁ。熊の獣人のバッハっつったか?それがどうした…?」

「嘘だから」

「はぁ~っ!?」


 サマラは悪びれた様子もなく告げた。番が噓って…?


「バッハ、そもそも女の子だし」

「グハッ…!!」

「男の格好してただけなのに、簡単に騙されるね。バカな兄を持つと妹は心配だよ♪」

「バっ…!お前ぇぇぇっ…!!」


 揶揄うように笑うサマラと憤慨するマードックは対照的で愉快な気持ちになってきた。驚きで思考が止まってたけど、今の会話でちょっとだけ話が見えた気がする。推測したことを伝えてみよう。


「サマラ。ちょっと訊いてもいい?」

「いいよ」

「まず、サマラはマードックに嘘の恋人と番いたいって伝えた」

「うん」

「マードックは、「お前に相応しいか俺が見定めてやる!」とか言って、実は女性であるバッハさんを気に入ってしまった」

「そうみたい。バッハは頭よくて性格いいからね。演技上手かったよ」


 マードックは顔が引きつってる。獣人は体臭で性別を判別できる。コイツも五感は鋭い方だ。気付かないほど動揺か緊張してたのか、付けていた香水とかで匂いが判別できなかったのかもしれない。

 なんにせよサマラの恋人に会うってことで平常心ではなかったはず。本人は言わないけど、マードックは昔からサマラに優しい。


「このままではマズいと思ったマードックは、サマラが番う前にボクにそのことを伝えに行く」

「そうそう。予想通りだね」


 マードックの顔が真っ赤に染まる。図星なんだろう。昔からわりやすい。


「そこから先は賭けだった。ボクが生きていてココに来れば、サマラの作戦は成功。来なければ失敗で終わり」


 目的はボクが生きてるかの確認だったのかな?それとも違う目的があるのか?そこまでは推測できない。


「違うよ」

「え?」

「来なかったら次の作戦を考えてた。だって…ウォルトに会いたかったから」

「ボクが生きてるって…知ってたの?」


 サマラはコクリと頷く。


「ウォルトがいなくなってからもう5年だよ?私も大人になっていろんなコトを知った。街からいなくなった時の気持ちも理解してるつもり」

「そうか…」

「忘れようとしたんだよ。けど、忘れようとしたら余計に会いたくなっちゃってさ。だから、普通にウォルトのコトを考えながら生活してた。きっと生きてて、また会えるって信じてた」


 ボクは…忘れようとしてたのに。


「そしたらさ、ちょっと前に噂で聞いたの!」

「噂って?」

「マードックがたまに誰かに会いに行ってるらしいって。それも森の方角にね。お酒飲んだとき周りに話してたみたい。私は直ぐにピンときた!マードックが自分から会いに行く友達なんてウォルトしか知らないもん!」


 目をやると、マードックは誤魔化そうと口を尖らせて口笛を吹いて……ない。ひゅーひゅー音がしてるだけだ。なぜなら獣人は口笛を吹けない。

 それはさておき、マードックに口止めしたことはないし、黙っててもサマラに言うことはないとわかってた。だから誤魔化す必要はない。


「俄然やる気が出てきてねぇ~。ひねくれ者のマードックは絶対教えてくれないだろうし、なんとか会えないかって自分なりに考えて今に至る!とにかく来てくれてよかった!凄く嬉しい!」

「うん。ボクも会えて嬉しかった」


 立ち上がってサマラの頭を優しく撫でる。目を細めて気持ちよさそう。


「サマラの作戦って、ボクに会えたら成功だったの?」

「違うよ!ウォルトに会って今の気持ちを聞けたら成功!」


 わかってないなぁ!とふくれっ面のサマラ。そんな顔も可愛い。


「サマラ。ありがとう」

「こっちこそだよ!」


 マードックはなんとも言えない顔でボクらを見ている。若干胸焼けしているかのような表情で…。そんなマードックに向き直る。


「お前のおかげでサマラに気持ちを伝えられた。この恩は必ず返す」

「いらねぇよ!その代わり…もうサマラを泣かすな!」

「わかった」


 サマラがニコッと笑った。


「そうそう。マードック」

「なんだよ?」

「バッハがマードックのこと好きになったってさ。今度デートしてあげてね」

「グハッ…!」


 その後、お互いの近況や思い出話に花を咲かせて夜を過ごした。


 サマラに会いにきて、約束通りちゃんと笑えてよかったと心から2人に感謝した。

読んで頂きありがとうございます。

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