217 意外な訪問者
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
今日も今日とて、クエストに精を出す森の白猫の面々。森で休憩しながら魔物を調理して食そうとしていたところ。食いしん坊のアニカは最高にお腹を空かせていた。
私とオーレンは冒険者になって1年過ぎて、お姉ちゃんも冒険者が板についてきた。ウォルトさんの住み家に行くとき以外はほぼ毎日クエストをこなして着々と経験値を上げてる。
「まだかな♪まだかな♪」
今や倒した魔物を食べるのにも慣れた。最初は抵抗もあったけど、ウォルトさんが魔物の調理法に詳しくて、美味しい食べ方を教わっからは立派な食材に見えるときすらある。
「もうちょっと待ってね。もう少しで焼けるよ」
お姉ちゃんが優しく微笑む。
「食いしん坊の妹を持つと苦労するな」
「うっさい!そんなことより、このナイフ凄いよね!」
魔物を捌いたのはウォルトさんが作ってくれた漆黒のナイフ。
「買うとしたらもの凄く高そう。切れ味も丈夫さも売り物とは比べものにならない。全然刃こぼれもしないし」
「ダガーとして使えば硬い魔物の鱗を一発で貫通するし、剥ぎ取りや調理に万能。ホントにすげぇよ」
そんな話をしていると肉が焼けた。
「もう大丈夫かな」
「よし!いただきます!」
「いただくか」
塩と胡椒を振って焼くだけのシンプルな調理でこの魔物は美味しく頂ける。
「よぉし!漲ってきたぁ~!」
満腹になって残りのクエストをこなし、真っ直ぐフクーベに帰った。
「あいたたた…」
「うぅ~ん…」
フクーベの住み家に戻った私達は、それぞれの部屋のベッドで横になってる。帰ってくるまで異常はなかったのに帰って直ぐ腹痛が襲ってきた。
駆け出しの頃、ウォルトさんから教えてもらった腹痛の薬を飲んでみたけど、一向に痛みが治まらない。
嘔吐や下痢の症状はないけど原因不明でキリキリ痛む。
どうしよう…。医者に診てもらうべきかな…。「魔物を食べました」って言い辛いけど…。
…と、玄関のドアがノックされた。
「誰か来たみたいだね…」
「動けそうにないから放っておこうか…。約束もしてないよね…」
お姉ちゃんはかなり辛そう。
「ちょっと行ってくる…。届け物だったら悪いから…」
「ごめんね…アニカ。お願い…」
「気にしないで…」
どうにか立ち上がると、玄関へとゆっくり歩を進める。ドアを開けて驚いた。
「突然訪ねてゴメンね」
笑顔のウォルトさんが立っていた。嬉しいけれど、急に強い腹痛が襲って座り込んでしまう。
「うぅっ…」
「アニカ?!大丈夫!?」
「お腹が……痛くて…」
「わかった。ゆっくり話を聞く」
優しく両手で抱えられて部屋まで運んでくれた。ウォルトさんは横になっているお姉ちゃんを目にする。
「ウイカも…?もしかして、オーレンもなのか?」
「……えっ!ウォルトさん?!いてて…」
お姉ちゃんは慌てて動こうとして、顔を歪める。
「動かないでくれ。横になったままでいいから少しだけ話を聞かせてくれないか?」
そっとベッドに寝かせくれてた。今日の冒険についてありのまま話すと、ウォルトさんは今日食べた魔物の肉に原因がありそうだと言う。
「いつものハウンドドッグと同じだったと思うんですけど…」
「似てるけど毒のある魔物だったんでしょうか…?」
自信があったけど見抜けなかったのかもしれない。
「心当たりはある。今から治療するけど、予想通りならすぐよくなるはず。少しお腹に触るよ」
「はい…」
ウォルトさんは、まずお姉ちゃんに向かって『解毒』を詠唱した…けど、やっぱり痛みは治まらないみたい…。
「ウォルトさんの魔法でも無理ですか…?薬が必要でしょうか…」
「いや。よくなるはずだよ」
腹部に翳したままの掌が淡く白い魔力を纏う。すると、お姉ちゃんは驚いた表情でウォルトさんを見つめる。
「よくなったみたいだね。原因は『瘴気』だ」
「『瘴気』ですか?」
「そう。次はアニカだけど、ウイカにこの魔法を教えたいから前みたいに身体を通して使ってもいいかい?」
「はい!」
「よろしくお願いします…」
その後、お姉ちゃんを通して私を治療してくれた。噓みたいに痛みが引く。
「もう全然痛くないです!なんで!?」
「説明はあとだ。オーレンも治さないと」
ウォルトさんとオーレンの部屋に入って、今度は私の身体を通して治療すると直ぐに元気になった。確かに魔法。
「ありがとうございます。マジで助かりました」
「治ってよかったよ」
「ウォルトさん。『瘴気』ってなんですか?」
「そう!それが知りたい!」
「お茶でもしながら説明しようか」
「お願いします!」
私達は笑顔で台所へ案内する。オーレンはやれやれと言いたそうに居間へと向かった。ウォルトさんが淹れてくれたお茶を飲みながら一息つく。
「生き返るね」
「落ち着く~!」
「まさか、俺達の住み家でウォルトさんのお茶が飲めるなんてな」
何回誘ってもきてくれなかったから、やっぱりフクーベに来るのは嫌なんだと思ってた。
「ずっと遊びに行きたいとは思ってたんだ。『瘴気』について説明していいかい?」
「お願いします!」
「魔物は稀に瘴気に侵されてることがある。アンデッドが纏っている魔力みたいモノだね。なぜかはボクにもわからない。けど、確かに存在する。実は…ボクも何度か気付かずに食べてお腹を壊してる。よく見ると判別できるんだけど」
「だから薬も効かなかったんですね!」
「毒じゃないから薬や『解毒』では治療できない。光魔法で体内の瘴気を消滅させたんだ。瘴気は闇魔法の魔力とほぼ同じだから、対になる魔力で相殺できる」
「「なるほど~」」
私とお姉ちゃんは口を揃えた。
「光魔法で消さなくても、俺達はいずれ治ったんですかね?」
「時間はかかるけど体内で霧散して回復する。体が弱ってたりしたら危ないかもしれない。さっきの感じだとアニカが一番瘴気の量は多かったかな」
「軽く俺達の倍くらい食べてましたよ!」
コイツ…。ゲラゲラ笑うオーレンを睨んでポツリと呟いた。
「……否定はできない。でも…後でコロス…」
私が食いしん坊なのはウォルトさんにもバレてる。隠しようもない。でも、面と向かって言われるのは恥ずかしいんだ!
「…ウォルトさん。今日泊まっていってくれませんか?」
「ボクはいいけど、皆はいいの?」
「「もちろんです!」」
最高に嬉しい!オーレンが目で訴えてくる。『いい仕事したろ?コレで勘弁してくれよ』と。
ふむ…。確かに考慮すべき働き。私も目で語るとしよう。
『もちろんダメだよ。半殺しにしとく』
オーレンはテーブルに突っ伏した。とりあえず無視しよう。
「ところで、ウォルトさんは今日フクーベに用でもあったんですか?」
「久しぶりに友達の家に顔を出してたんだ。ラットっていう友達で画家なんだ。いずれ有名になると思ってるから皆にも名前を教えておくよ」
「「「へぇ~!覚えておきます!」」」
ウォルトさんの推し画家の名前は記憶に留めておこう!
「よく考えたら皆の住み家に来たことなかったと思って、帰る前に寄らせてもらったんだ。急に来てゴメン」
「全然迷惑じゃないです。私達はいつでも大歓迎です」
「お姉ちゃんの言う通りです!毎日でも来て下さい!そして、ご飯作ってもらっていいですか?!」
「もちろんだよ。食材はある?」
「「あります!」」
「じゃあ、いつ頃食べる?」
「今からでもいいですか?」
「いいよ」
笑顔で台所に向かうウォルトさんのあとに続いて、私とお姉ちゃんも向かう。すると、流し台の前で意外なことを言われた。
「2人は居間でゆっくりしてていいよ」
「「えぇ~!手伝いたいです!ダメですか?!」」
「ダメじゃないけど…」
なんだか歯切れが悪い。私達を見ようとしないウォルトさんに姉妹揃って首を傾げる。
「私達、なにか変ですか?」
「いつも通りだと思うんですけど!」
『言っていいのかニャ…』って顔に書いてる。
「部屋着が…いつもと雰囲気が違って……その……」
「「部屋着?」」
ウォルトさんの住み家にいるときと違って、かなり薄着ではあるけど変かな?
「目のやり場に困るというか…」
『照れるニャ』状態に変化したウォルトさん。お姉ちゃんに目で合図を送ると、笑顔で頷いてくれた。
「じゃあ、なおさら手伝わなきゃ♪」
「手伝いまくります♪」
「えぇっ?!」
ウォルトさんの住み家より広い台所なのに、いつもより密着して調理を手伝った。
★
「「「ごちそうさまでした!」」」
「後片付けしてくるよ」
ウォルトを家に泊めたいと誘ったオーレンは、ちょっとした問題に気付いた。
料理に舌鼓をうった俺達は、嬉々として後片付けに向かったウォルトさんをよそに大事なことを話し合う。それは、ウォルトさんにどこで寝てもらうか。
「俺の部屋で寝てもらうとして、ベッドがないな。今日は2人で寝て、1個貸してくれよ」
姉妹揃って「なに言ってんの?」「意味わかんない」って顔してる。
「ふざけないでよ!有り得ないこと言って!」
「ふざけてないだろ。じゃあ、どこで寝てもらうんだよ?」
「「私達の部屋」」
即答しやがった。
「無理だぞ。森の住み家でもダメって言われたろ?ベッドもないのに」
「この家は私達が家主だ!決める権利がある!」
「そうだよ」
面倒くさい奴らだ。欲望のまま喋りやがって。
「あんまりワガママ言うと、ウォルトさんは間違いなく帰るぞ。それでもいいのか?」
「うっ…!」
「たしかに…」
俺の言い分が正しいはず。コイツらと寝るくらいなら、ウォルトさんは間違いなく帰る。真面目な師匠だから。
しかめっ面で思案する幼馴染み姉妹を見て思う。コイツらは…ウォルトさんと一緒の部屋で寝たとしてなにが楽しいんだ?アニカは当然のこと、ウイカもウォルトさんに好意を持っているのはさすがに俺も気付いてる。
『全ての女性はウォルトさんに靡くのか?』と嫉んだこともあるけど、強くて優しい頼れる男なのは間違いないし、ウイカやアニカが惚れる気持ちも理解できる。
ただ、一緒に寝たとしてなにも起こらないと言い切れる。なぜこだわるのか不思議だ。
さらに理解できないのは、コイツらはウォルトさんを取り合うのではなく、共有財産のように扱っているように見えること。
例えるなら、仲良く切り分けようとしているように感じる。いくら仲良し姉妹でも理解不能。
「……よし!お姉ちゃん…」
「なに?」
アニカがなにやら耳打ちして、ウイカはコクコクと頷いてる。嫌な予感がするな…。
「いい案だと思う。やってみる価値はあるね」
「でしょ~!」
笑顔の姉妹は、居間に戻ってきたウォルトさんに話しかけた。
「ウォルトさん!この間、美味しいお酒をもらったので久しぶりに飲みませんか!酒精も薄くて飲みやすいですよ♪」
アニカが誘い…。
「森の住み家なら粗相してもいいけど、ココでは迷惑かけるかもしれないし…やめておこうかな」
ウォルトさんはやんわり断って…。
「私達に他人行儀なんて…寂しいです…」
ウイカが見事に落ち込んだ。
一連の流れが芝居がかってる…。計画的な犯行だ。
「そんなつもりじゃないよ」
「じゃあ1杯だけって決めて飲むのはどうですか♪もしなにかあっても、たまには私達にお世話させて下さい!」
「そこまで言ってくれるなら…1杯だけ頂こうかな」
「「そうこなくっちゃ!」」
気持ちが嬉しいのか、ウォルトさんは笑顔になった。
間違いなくコイツらの罠です!口に出すとあとが怖いので目で伝えますね!
……って、俺をまったく見てねぇ~!
そして…酒を2滴入れた水割りを飲んだウォルトさんは直ぐに眠ってしまった。床で気持ちよさそうに顔をこすってる…。この姿を見るのはマタタビを嗅いだとき以来。姉妹の作戦は見事に成功した…のか?
「本で見る猫みたいで可愛いね!…っと、そんな場合じゃない!お姉ちゃん!」
「ホントだね!…っと、わかってる!」
自分達の部屋から毛布を持ってくると、丸まったウォルトさんの両手両足を掴み、その上に「よいしょ!」と息ピッタリで載せる。身体を包むように毛布を持ち上げた。
「むニャ…」
ぐっすり眠っていて起きる気配はない。ハンモックで眠る猫のよう。
「「じゃ、おやすみ!」」
「はいよ」
泥酔させて女をお持ち帰りするような悪い男が使いそうなゲスなやり口。己の欲望のために『身体強化』を無駄に使用する姉妹を見て溜息を吐いた。
★
部屋にウォルトを運んだ姉妹は、細心の注意を払って毛布に載せたままそっとベッドに寝かせた。
「ウォルトさんの寝顔、初めて見た…」
「だよね…」
私は川での水浴び事件の時に見たことがあるけど、お姉ちゃんは寝顔を初めて見るはず。姉妹で肩を寄せ合って寝顔を眺める。
「凄くいいね…」
「落ち着くね~…」
起こさないように小声で呟いて笑い合う。オーレンには理解できないだろうけど、私達はいつもと違う一面を見たいだけだ。
「ちょっとはサマラさんに近づけたかな…」
「まだまだだよ…。次の目標は添い寝かな…!」
顔を見合わせて笑顔になる。
翌朝。
私達はウォルトさんに優しく起こされた。
お酒を飲んでから記憶がないウォルトさんは、隣のベッドで私達が仲良く眠っている姿を目にして『女の子の部屋で寝てしまった!』と頭を抱えたらしい。遅れて起きた私達に平謝りだったけど、「気にしないで下さい♪」とご機嫌に返した。
「ウォルトさんはただ寝てただけなので、気にすることはないです」
「オーレンと一緒に寝たくなかったので私達の部屋に運びました♪」
「ボクから嫌なことをされたり言われたりしてない…?」
獣人とは思えないほど気遣ってくれて真面目なウォルトさん。
「されてないです」
「言われてもないですよ!」
「よかった…」
「「むしろ、ごちそうさまでした!」」
「なにが?」
言ってる意味が理解できなくて混乱してる姿も可愛い。ただ、残念なことが起きてしまった。
なにもなかったとはいえ『さすがによくない』と反省したウォルトさんは、しばらく禁酒することに決めたらしい。
読んでいただきありがとうございます。




