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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
21/708

21 久々の訪問

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 再会から数分後。


 ボクとマードックはサマラの同僚であろう女性店員に囲まれ問い詰められていた。


「サマラちゃんになにしてるんですか?!」

「付き纏ってるんですか!衛兵を呼びますよ!」

「ち、違います」


 酷い言われようだ…。そんなに怪しく見えるかな?サマラのことを守ろうとしてくれてるんだろうけど。

 サマラはボクに抱きついたまま泣き続けていて、弁解してもらえそうにない。マードックは「うるせぇな!サマラは俺の妹だ!」と説明したけど…。


「嘘でしょぉぉ?!」

「全っ然似てない!吐くならもっと上手い噓にしなさいよ!」

「サマラちゃんは狼だけど、貴方はゴリラの獣人じゃない!どんな嘘よ!?」


 集中砲火を浴びて不貞腐れている。強面獣人のマードックを相手に一歩も引かない同僚達。女性は逞しいな。


 一方ボクはというと…。


「貴方は……うん。獣人にしては痩せ型で理想的な体型ね。ローブも似合ってる」


 初めて言われたけど悪い気はしない。


「確かにモデル体型ね。猫みたいでカワイイし悪い人ではなさそう」


 猫みたいではなく猫だけど。


「サマラちゃんが懐いているから悪い獣人じゃないわね!」


 もはや見た目は関係ないんだな。とりあえず、好意的に受け止めてもらえてよかった。マードックには「同じ獣人なのに不公平すぎんだろ!」と言われたけど、日頃の行いの差かな。その後、どうにか従業員達の誤解を解いて納得して帰ってもらった。


 それにしても…サマラが離れてくれない。こんなところを知ってる誰かに見られたら…と気が気じゃない。番になろうという若い娘が見知らぬ男に抱きつくのは明らかによくないことだ。

 とはいえ、ボクも離れがたい。久しぶりに会ったサマラは、多少変化しているけど懐かしい匂いで心が安らぐ。

 仕方なく頭を撫で続けていると、サマラも落ち着いたようでようやく離れてくれた。


「ウォルトは私に会いにきてくれたんだよね!?」


 赤い目をしたサマラが笑う。


「そうだよ」

「別の街から来たんでしょ?今日はフクーベに泊まるの?」

「決めてないんだ。サマラに会えたからどっちでもいいけど」

「じゃ泊まっていって!部屋あるから!マードック、いいよね?」


 とびきりの笑顔で泊まりのお誘い。マードックを見るとコクリと頷いた。


「お言葉に甘えて泊まっていこうかな」

「やった!晩ご飯は腕によりをかけちゃうよ~♪」



 

「ふんふふ~ん♪」


 その後、街で食材を調達したボクらは兄妹の家に向かう。ご機嫌な鼻歌を奏でるサマラは、ボクとマードックの少し前を悠々と歩いて、後ろ姿を見ながらつい頬が緩んだ。


 マードック達の両親はボクらの故郷の町で暮らしていて、この街に住んでいるのは兄妹だけ。


「今もあの家に住んでるのか?」

「お前がいた頃と変わってねぇよ。引っ越すのも面倒くせぇしな」

「ウォルト!そろそろ着くよ!」

「うん。場所は覚えてる」

「そっか!」


 家に到着するや否やサマラは台所に向かう。


「ボクも手伝おうか?」

「大丈夫!今日は任せて!座って待ってて!」


 サマラは、昔から料理が得意だった。食べさせてくれた料理がとても美味しかったことを覚えてる。直ぐに台所から軽やかな鼻歌が聞こえてきて、とても楽しそう。

 しかし…落ち着かない。この家はあちこちにサマラの匂いがちりばめられていて、心が乱れる。


 そんなことを考えていると、マードックが酒を持ってきて、ドン!とテーブルに置くなり手酌でぐいぐい飲み始めた。なぜか腹立たしそうに。


 気になっていたことを訊いてみる。


「もしかして、サマラの同僚に言われたことを気にしてるのか?」

「んなワケねぇだろ!俺がゴリラの獣人に見えるっつうことは、すげぇ力があるように見えるってことだろうがっ!!」


 誰もそんなこと言ってない。けど、ハッキリした。思いっきり気にしてるな。


 獣人は動物や獣が長い年月をかけて進化した存在と云われていて、それぞれの種族の特徴が色濃く残る。

 犬の獣人なら、総じて嗅覚が優れていて足が速い。ゴリラや熊の獣人なら力が、猫なら俊敏性が優れている…といった具合だ。

 だから、マードックのように狼の獣人なのに異常に力が強いのは結構珍しい。だからこそゴリラの獣人に間違えられるんだけど。


 獣人は己の種族に誇りを持っているから、少なからずショックだったはず。そっとしておこう。


「それにしても……悪ぃな…」

「またか。なにが悪いんだ?」


 意味がわからなくて聞き返す。マードックにはケンカを売られただけでなにもされてない。


「久しぶりにお前に会ったっつうのに、サマラは……結構普通な感じでよ…。お前のことはなんとも思ってねぇっつうか…」


 サマラがボクのことを気にしている様子がないのを気に病んでるのか。マードックは脳筋だけど根は優しくて気遣いもできる。

 サマラの性格からして、好きな男性ができたら昔のことに未練なんか微塵も感じないはず。そもそもボクのことが好きだったワケじゃない。マードックはそう言ったけど、思い違いだろう。


「お前…。失礼なこと考えてたろ」


 顔に出てたかな?


「サマラはボクみたいに過去にこだわらず前に進んでる証拠だ。自分の意志で来たんだから、どんな結果になってもお前が気に病む必要はない」


 会ってもらえない可能性もあったのに、再会して泣いてくれた。急に姿を消して5年ぶりなのに普通に会話してくれる。それだけでボクの心は満たされてる。


「これ以上なにかを望んだら罰が当たるんじゃないかと思う」

「そうかよ」


 グイッ!と酒を煽ったマードックが、「全然話は違うけどよ」と別の質問をしてくる。


「お前、冒険者に興味はねぇか?」

「いきなりなんだ?」

「強ぇのはわかった。けど、俺に魔法を全部見せてねぇだろ?」

「あぁ」

「自分がどれだけ強いか試してみてぇと思わねぇか」


 少しだけ思案して答える。


「思わない」

「獣人なら力を示したいだろうが」

「その気持ちがないとは言わない。今日の闘いでも、やっぱり自分は獣人だって再認識した。ただ、ボクに冒険者は無理だ」

「なんでだよ?」

「今の暮らしが好きで、冒険に命を賭けたいと思わない。それに、今はまだ住み家を離れるつもりはない」

「しょうがねぇな」

「誘ってくれたのに悪いな。冒険したい時があったら声をかける」

「あぁん!?絶対だぞ!忘れんなよっ!!」

「あ、あぁ。約束する」


 そんな時が来るかな…?と思いながら、冒険者になった自分を想像してほんの少し心が高揚した。 

読んで頂きありがとうございます。

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