表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフの魔導師  作者: 鶴源
209/716

209 姉弟ゲンカ?

 アルクスさんが眠ってしまったので、食事の後片付けをしながら目を覚ますのを待っていると子供達が先に起きた。


「うぉると!ありがと!」


 笑顔が弾ける可愛い子供達にしゃがんで話し掛ける。


「なにが?」

「ごはん、おいしかった!」

「みんなをなおしてくれてありがと!あるくすも!」


 それは結果論で、実際は頭に血が昇って皆を殺すつもりで来た。子供達の笑顔を見て、冷静さを失っちゃダメだと猛省しながら頭を撫でる。


「気にしないで。ボクの方こそ謝らなきゃいけないんだ。それに、ボクとアルクスさんは親戚なんだよ」

「しんせき?」

「親とか兄弟じゃないけど、家族なんだ」

「えぇ~?!ぜんぜんにてない!」

「ボクは猫でアルクスさんは熊だからね。でも家族なんだ。獣人だから」

「「「へぇ~!」」」


 子供達と遊んでいると、皆が次々起きてきた。


「いやぁ~。久々にちゃんとした飯食った。生き返った」

「アンタは命の恩人だ。いや、恩猫人だ!」

「頭も俺らも…殺さないでくれてありがとうな。恩に着るよ」


 話し声に反応したのか、のそりとアルクスさんが起きてきた。


「おい、ウォルト。俺はいつでも行けるぞ」

「わかりました」

「カシラはどこへ行くんだよ?」


 揃って事情を説明する。里にいる熊の獣人が、アルクスさんの姉であることやボクは孫であること。

 里の住人に山賊の襲撃だと勘違いさせてしまったことや、ばあちゃんを怪我させたお詫びに行くことを伝える。


「あの熊の獣人が、まさかカシラの姉ちゃんだったなんて…」

「ウォルトのばあちゃんだったのか…。道理で強いはずだけど、すまねぇことしたな…。そりゃ怒るよな…」

「俺もアイツがいるなんて知らなかった。お前らには、死ぬまで見張っとけなんて見栄張ってすまねぇな」


 アルクスさんが苦笑すると皆から声が上がる。


「それなら俺達も行くぜ!」

「そもそもカシラのせいじゃないしな!俺らが悪い!」

「あるくす!ぼくらもあやまる!」


 皆は意気込んでいるけど、アルクスさんは真剣な表情で伝える。


「気持ちは嬉しいけどよ、まずは俺が行ってくらぁ。とりあえずここにいてくれ」

「けどよ……カシラの姉ちゃんは化け物みたいに強かったぞ?今度は殺されちまうんじゃねぇのか?」


 アルクスさんを心配する皆にちゃんと伝えておこう。


「ばあちゃんはそんなことしませんよ。それに、暴れてもボクがなんとかします」

「ウォルトが助けてくれるなら間違いないな!お前もすげぇ強いからな!」

「それなら安心だ!カシラをたのむぜ!」

「うぉるとはつよいし、もふもふだし!」

「大袈裟ですよ。でも、安心して下さい」

「ははっ。お前ら…仲いいな」


 アルクスは苦笑した。



 


 ボクとアルクスさんは、里までゆっくり歩いて向かう。手と足に麻痺が残っているというアルクスさんが駆けるのは難しい。足を引きずって歩いている。気になって訊いてみた。


「昔、怪我したのはどこですか?」

「背中だ。デカい木材が倒れて下敷きになっちまってな。そっから手足が痺れて力が入らなくなった。医者が言うには背骨がどうとか言ってたけどよくわかんねぇ」

「そうでしたか。ところで、アルクスさんは、なんで皆にカシラって呼ばれてるんですか?」

「知らねぇよ。いつからか勝手に言い出したんだ」


 アルクスさんは苦笑いを浮かべる。


「アルクス一派ですか」

「やめろ。アイツらを手下と思ってねぇし、ただの同居人だ。俺はまともに仕事もできねぇが、アイツらはまだ戻れる。生きてりゃいいこともあるかもしれねぇ。こんなやさぐれ獣人と縁があったと思ってもらっちゃ困るんだよ」


 やっぱりこの人はばあちゃんの弟。見た目は熊なのに、とても優しい心を持つボクの大叔父さんだ。

 ゆっくり会話しながら歩いて、里に辿り着いた。静かな里に入りばあちゃんの家の前に立つ。


「ボクが呼んできます」

「悪いけど頼むわ」


 中に入って玄関で呼びかける。


「ばあちゃん、いる?」

「いるよ。戻ってきたのかい?」

「ばあちゃんにお客さんだよ」

「誰だい?」


 顔を覗かせると、アルクスさんを見た瞬間に目を見開いた。


「アンタ……。アルクスかい……?」

「久しぶりだな……アイヤ」


 ばあちゃんは、凄い勢いでズンズン近寄ってくる。そして…アルクスさんのズボンを掴むと、思い切り腰に乗せてぶん投げた。


「グアッ!!」


 アルクスさんは背中から床に叩きつけられて悶絶する。大袈裟ではなく家が震えた。

想外の行動に面食らって、開いた口が塞がらない。ボクに兄弟はいないけど、久しぶりの再会でいきなりぶん投げるものなのか?


「バカ弟がっ!久しぶりじゃないか!元気だったのかい!」


 屈託なく嬉しそうに笑うと、ムクリと起き上がったアルクスさんが胡座をかいたまま続ける。


「相変わらず馬鹿力だな…。お前に…謝りに来たんだよ…」

「アタシに?なにを?」

「今日…お前を怪我させたのは……俺だ…」

「なんだって…?」


 なぜそうなったのか経緯を説明する。ばあちゃんはなんとも言えない顔で黙って耳を傾けていた。


「お前を刺すつもりはなかった。悪かったな」


 しばしの沈黙のあと、ばあちゃんがアルクスさんに告げる。


「よし!相撲とるぞ!」


 満面の笑みで告げると、アルクスさんは呆れた表情。


「なんでそうなるんだよ。意味がわからねぇ」

「やかましい!獣人のくせに細かいことを言うな!…あ~ぁ、唐辛子の粉末は苦しかったねぇ~!ビックリしたからって実の姉にぶつけるかね。あたしゃ顔よりも心に傷を負ったよ!」

「ぐっ…!」

「黙って付いてこい!バカタレが!」


 笑いながら家を出ていく。ボクがアルクスさんを引き起こして後を追った。


 ばあちゃんは、土俵に移動する途中に住人たちに声をかけて「弟と相撲をとるから見に来い」と笑顔で伝えてる。娯楽の少ない里では珍しいからか、皆もぞろぞろと家から出てくる。


「なにがしたいんだ、アイツは?」

「わかりません。それより、アルクスさんは大丈夫ですか?その身体で相撲はキツいんじゃ?」

「アイツは昔から言い出したら聞かねぇ。今回は晒し者にされても仕方ねぇな。殴り殺されなかっただけマシだ」


 アルクスさんはそう言うけど、ばあちゃんが悪趣味なことをするような獣人じゃないことは知ってる。なにか考えがあるはずだ。思惑を察するより先に土俵に辿り着いた。


「アルクス!さっさと土俵に上がりな!」

「うるせぇな。わかってるよ」


 土俵で対峙する熊の姉弟。揃って身体が大きいから迫力が凄い。観客からも「凄いな!」と声が上がる。


「麻痺だか下痢だか知らないけど、気合いが足りないから動けないんだよ!アンタのしょぼくれた根性を叩き直してやる!」

「うるせぇ。気合いじゃどうにもならねぇことがあんだよ」

「やかましい!かかってきな!」

「騒がしいババアだぜ」

「なんだと、このガキが!」


 溜息をついたアルクスさんは、低く構えてぶちかます。ばあちゃんはドシッと受け止めて、ピクリともに動かない。


「はっ!ぬるい!」

「グルァ…!」


 いなされて、簡単に土俵に転がされてしまう。


「大の男がババアに簡単に転がされて恥ずかしくないのかい!」

「うるせぇ……な!」


 何度ぶちかましても転がされるアルクスさんを見て、観客もさすがにおかしいと気付き始める。


「アイヤの弟はどうなってんだ?いくらなんでも弱すぎないか?」


 皆にアルクスさんの身体のことを説明する。住人達は理解してくれた。


「ばあちゃんがなにを考えてるかわからないんですけど、嫌がらせするような獣人じゃないので」

「そりゃ俺らも知ってる。意味があるんだろうな」


 その後もひたすら投げられ続けるアルクスさんだが、何度も立ち上がっては向かっていく姿を見る内に、住人達はアルクスさんの応援を始めた。


「アルクス!次は足を取れ!見た目はダイコンだろ!おもいきり引っこ抜け!」

「ちょっとぐらいなら反則しても大丈夫だ!まぁまぁのヤツでもイケる!」

「また唐辛子をかけてやれ!」

「アンタら~!どっち味方なんだい!」

「「「アルクス」」」

「この…薄情者どもがっ!」


 ばあちゃんは嬉しそうに笑って、アルクスさんを思い切り土俵の下にぶん投げた。ボクが直ぐに駆け寄る。


「くそっ…!痛ってぇ…!」

「あはははは!まだまだだねぇ!」

「アルクスさん。少しだけ休みましょう。うつ伏せになって下さい。ボクが腰をほくじます」

「悪ぃ…!頼むわ…!」


 言われた通り横になってくれる。


「ハァ…ハァ…。あの野郎……俺よりババアのくせになんであんなに若いんだ…?おかしいだろ…!」

「アンタとは鍛え方が違うんだよ!出直してきな!」

「クソがっ…!」


 高笑いのばあちゃんを土俵に残して、しばらく休憩する。背中から腰の辺りを優しく揉んだ。


「アルクスさん」

「なんだよ…」

「痛みがとれる魔法をかけてみました。騙されたと思って全力でぶちかましてみてください」

「へっ…。魔法ねぇ…。ありがてぇがもう動く体力はほとんど残ってねぇ…。次が最後だ」



 ★



 立ち上がったアルクスは違和感に気付く。


 なんだ…?足が……痺れてねぇ…。手も…。


 いつもなら力が入りにくい手足の感覚がちゃんとある。怪我してから今日までこんなことはなかった。


「痛みがとれる魔法…か。騙されてみっか…!」


 気合いを入れて土俵にあがる。


「どうしたんだい。えらいシャキシャキ動くじゃないか」

「お前の孫が動けるようにしてくれたんでな。一矢報いろってこったろ」

「ウォルトがかい?はぁ…困った孫だねぇ。相撲好きなばあちゃん孝行過ぎて困っちまうよ!はははっ!」

「けっ!次が最後だ…行くぜっ!」


 おもいっきり…ぶちかましてやらぁ!



 ★



 グッと膝を溜めたアルクスさんが突進した。今までとは全く動きが違う。姿勢を低くして頭からぶちかます。


「グルァァ!食らいやがれっ!」

「くおっ…!」


 ズズズッ!と、ばあちゃんの巨体を土俵際まで一気に押し込んでいく。


「「「おぉぉっ!イケるぞっ!」」」

「こんの…クサレババアが!おらぁぁぁ!!」

「誰がっ…ババアなんだい!グルァァッ!」


 ばあちゃんが中央まで押し返して、がっぷり四つに組んだ。


「やればできるじゃないか!辛気臭い顔してたさっきまでとは大違いだ!役者だねぇ、アンタはっ!」

「うるせぇ!最後くらい調子に乗ったババアに土を付けてやらねぇとな!」

「やれるもんならやってみな!」


 そこから実力伯仲の勝負が繰り広げられる。熊の獣人が繰り広げる大迫力の相撲に住人達は大熱狂。


「うぉらぁぁっ!死ねや、クソババアッ!」

「くぉらぁっ!死ぬのはアンタだよ!」

「どっちも頑張れ!」

「いい勝負だ!」

「今だ!あぁっ!惜しいなっ!」


 周囲は熱気に包まれる。ボクもハラハラしながら勝負を見つめていた。


「フゥ…フゥ……グルァァッ!」


 体力の限界に近いアルクスさんが、一気に勝負に出た。最後の力を振り絞り、押し出しにかかって土俵際まで一気に詰め寄る。


「おぉぉっ!」

「もらったぜ…!ババア!」


 誰もがアルクスさんの押し出しを確信した、その時…。


「…くぉらぁ!せぇぇいっ!」


 ばあちゃんはアルクスさんを吊り上げて、身を捻りながら思いきりうっちゃった。


「ぐはぁっ!」

「はぁ…はぁ…。まだまだだねぇ!出直してきなっ!」


 肩で息をしながらも、ばあちゃんは充実感を見せる。アルクスさんも息は荒いけど大の字になって笑顔だ。周りに観客が集まって笑顔で労う。


「いい勝負だった!あと少しだったな!」

「面白かったぞ!また見せてくれよ!」

「強かったぜ!さすがアイヤの弟だ!」


 疲れ切って手を上げて応えるのがやっと。そんなアルクスさんに近寄る。


「凄い勝負でした。興奮しました」

「久しぶりに思いっきり動けて気持ちよかったぜ…。お前がなにかしたのか…?」


 アルクスさんの問いには答えず、困ったように笑ってみる。


「…なんでもいいか。…で、アイヤ」

「なんだい?」

「コレで…お前は俺を許してくれんのか?」

「お前はバカだねぇ~!出来の悪い弟が粗相したぐらいで腹かくワケないだろ!許すも許さないもないよ!この負け熊が!」


 あははは!と豪快に笑うばあちゃん。アルクスさんも声を上げて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ