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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
205/715

205 祖母現る

 ウォルトが食材を調達して家に戻り、鍵を開けて中に入ると廊下の先で下着姿のまま水を一気飲みするミーナが目に入った。


 母親のあられもない姿に呆然とした。


「母さん…」

「なによ…」


 なにかしら小言を言われるのだろうと警戒を強めた母さん。


「相変わらず、若々しくて綺麗だね…」


 予期せず息子(ウォルト)に褒められて、ヘニャッ!とだらしない笑顔になる。


「なによ、いきなり!ホントのことでも照れるじゃない♪」


 頬を染めてクネクネする母親を見つめる。年甲斐もなく…なんて言えないな。殺されてしまう。


「刺激が強すぎるから服を着てくれないか?それに、万が一にも他の人には見られたくないと父さんも思ってるはずだ」

「仕方ないなぁ~!今後はそうするよ♪じゃあ、毛皮の乾燥だけ頼んでいい?」

「いいよ」


 魔法で毛皮と髪を乾かすと、ふわふわ三毛猫母さんの出来上がり。


「乾いたよ」

「はぁ~!どうやったらこんな艶々になるの?!」

「口で説明するのは難しいんだ」


 喜ぶ母さんを尻目に、重症だった父さんの様子を確認しに部屋へ向かう。静かに部屋に入ると、父さんはまだ眠っていた。顔色は格段によくなって順調に回復しているのが見てとれる。母さんも部屋に入ってきた。


「かなり具合が悪そうだったから、治るまで時間かかるかもね」

「そうだね。ところで、母さん達はどこで感染したんだ?」

「知らない。気付いたら具合が悪くなってた。しばらくハルケの診療所は大繁盛だったよ」

「だろうね。だとすると、他の獣人も同じ時期にかかったのか…」


 原因はなんだろう?誰かが町に持ち込んだのか?素人が考えるだけ無駄かな。


「ウォルト。アンタの作った薬なんだけど…アタシ達の分だけなの?」

「かなり余ったからハルケ先生に渡してきた。処分は先生とミシャさんに任せてる」

「そう…。ありがと」

「感謝されるようなことはしてないよ」


 と、そこで…。


「ん…。ミーナ…。ウォルトも…?」


 ボクらの話し声に反応して父さんが目を覚ました。


「父さん。大丈夫か?」

「楽に…なってる…?なぜ…?」

「ウォルトが薬を作ってくれたんだよ。寝てる間に飲ませたからね。アタシを見れば効果はわかるでしょ?」


 母さんが笑うと父さんも微笑んだ。


「ウォルト…。助かった…」

「大袈裟だよ。動けそうならお風呂に入ってきたら?毛皮がベトついて気持ち悪いだろう?そのあとご飯にしよう」

「そう…するか…」

「アタシが身体を洗ってあげるから」

「ウォルトが…いるからな…」

「なにを親子で恥ずかしがってるのよ!気にしなくていいって!行くよ!」

「……わかった」


 母さんはもっと気にした方がいい。父さんが普通なんだ…と言いかけてグッとこらえる。


「ご飯を準備しとくよ。なにが食べたい?カーユとか消化にいい料理がいいかな?」

「「肉」」


『間違いニャい』とか言いそうな顔で口を揃える。ボクは笑顔で頷いた。




 お風呂上がりの父さんの毛皮も魔法で乾かす。猫の獣人なのに大柄な父さんは、ボクと同じく毛皮の範囲が広くて乾かし甲斐がある。


「コレは……助かる…」

「すっごいふわふわじゃん!」


 ふわふわ茶猫父さんが完成した。母さんが、いろんな角度から何度も抱きついてはモフっている。

 優しい瞳でなされるがまま困ったように微笑んでいる父さんを、ボクはなんとも言えない生温かい目で見つめた。


 その後、2人を居間に残して調理を進める。我が家の台所では久しぶりに腕を振るう。肉がいいと言ってたからガッツリお腹に溜まる料理にしよう。

 

 作った料理を居間へと運ぶ。居間に入ると、なぜかまだ上半身裸のままで困った顔をした父さんと、抱きついて胸に顔を埋めたまま息を大きく吸い込む謎の行動を繰り返す母さんの姿。


 ずっと父さんの匂いを嗅いでるのか…?なにが楽しいんだ…?


 ボクの心の声に答えるように母さんが声を上げた。


「『猫吸い』はやめられない止まらない!」


 自分も猫なのになにを言っているのか…。病み上がりで熱が下がりきってないんだな…と自分を無理やり納得させて声をかけた。


「ご飯できたよ」


 ボクに変なところを見られた父さんは、「あ、あぁ…。ミーナ…」と珍しく焦った様子。対照的に「よしっ!満足したっ!ご飯を頂こう!」と母さんは晴れ晴れした表情。


 作った肉料理は好評。


「う……んまぁ~い!ナニコレ!?私は…伝説の料理猫を生んでしまったかもしれない!」


 伝説の料理猫ってなんだ?こういう意味不明なことを口走るところがサマラと似てる。よく言えば天真爛漫、悪く言えばノリと勢いだけのおバカ三毛猫。褒められてるのはわかるから、素直に喜んでおこう。


「美味い…。とにかく美味いな…」


 父さんも絶賛してくれた。料理の師匠である父さんに褒められるのは純粋に嬉しくて思わず笑みがこぼれる。満腹になるまで食べた両親は満足そうな笑みを浮かべた。


「ご馳走さま!もう食べれない!凄く美味しかった!」

「ご馳走さま…。美味かった…」

「お粗末さま。あとはゆっくりしてて」



 ★



 アタシとストレイは、後片付けのために台所へと向かうウォルトの後ろ姿を見つめる。


「あの子はなんでもできるよね。料理に魔法に薬まで作れる…。ストレイのおかげだよ」

「いや…。ミーナの…おかげだ…」


 顔を見合わせて微笑み合う。


 ウォルトが得意とすることは、獣人らしくない。だけど、私やストレイからすれば知ったことじゃない。

 今日だって特効薬を作るという人の命を救うようなことを平然とやり遂げて、信じられないほど美味い料理を食べさせてくれて、便利な魔法を使って人を幸せな気持ちにさせた。


 そんな獣人がどこにいるっていうの?優しくてなんでもできる器用な唯一無二の獣人。またの名を天才料理猫!他の獣人とは大きく違うかもしれないけれど、そんな息子を誇りに思う。


「ところで、調子はどう?」

「もう…大丈夫だ…」

「よかったね。それと、ウォルトが薬を余るくらい作ってハルケに渡したってさ。きっと町の皆も直ぐによくなるよ」

「そうか…。ありがたい…」


 私とストレイは、誰よりもウォルトの心中を理解している。自分達やお世話になったミシャは別だと思うけど、トゥミエに住む他の獣人のことをよく思ってない。


 中には『殺してやりたい』と思っている奴もいるだろうね。でも、この町で暮らす私達にとっては、大事な獣人の友人もいる。できる限り苦しまず元気になってほしいと思うから、ウォルトの心境は複雑だと思うけど薬を作ってくれたことに感謝しかない。


「あと、話は変わるけど…まだウォルトに会いたがってるんだよ…」


 ストレイには言っとかなきゃ。


「そうか……」

「今まで誤魔化してたけど、いい加減に堪忍袋の緒が切れそうなんだよね。いつ言おうか?」

「む…。直ぐに…言ったほうがいい…」

「だよね」


 ウォルトがお茶を淹れて戻ってきた。椅子に座ったところで話しかける。


「ウォルト。そこに座って」

「もう座ってるけど?」


『ニャに言ってるんだ?』とか言いそうな顔で首を傾げた。揚げ足とられた…。腹立つ…。ストレイは顔を背けて小刻みに肩が震えてる。どうやらツボに入ったみたいね…。


「……まぁいいわ。単刀直入に言うよ。アンタに会いたいんだって…」

「誰が?」

「母さんが」

「今、会ってるだろう?」


 ウォルトは『母さんはバカニャのか?』とか言い出しそうな顔をしてる。かなりイラッとしたけど、とりあえず話を進める。


「違う。アタシの母さん…アイヤばあちゃんだよ」

「アイヤばあちゃんが?そういえば、かなり会ってないなぁ。元気かなぁ」

「元気だよ。久しぶりに会いたいってさ。どうする?」

「どうするもなにも、明日にでも行ってくるよ」

「あっそう。気を付けてね」


 ウォルトは昔を懐かしむような表情。アンタがいいならいっといで。



 ★



 次の日。ウォルトは宣言通り祖母の家に向かうことにした。


 父さんは、長く休んで迷惑をかけたから早速仕事に復帰するという。朝から同時に出掛けることに。


「じゃ、母さん。行ってきます」

「行ってくる…」

「いってらっしゃい!」


 笑顔でボクらを送り出してくれる。母さんはテテッと父さんの前に立って目を瞑った。


「ん!」

「………」

「ストレイ、どうしたの?いつものっ!ん!」

「む…ぅ…」


 父さんは困ったように頭を掻く。鈍いボクでもさすがに気付いて苦笑する。なにも見なかったことにして先に家を出た。恥ずかしそうにしていた父さんにちょっと申し訳なく思いながら。

 家族に対して全く恥ずかしがらない母さんの精神力はやっぱり凄い。まぁ、仲よきことは美しきかな。


 一目散に祖母の家を目指す。母方の祖母であるアイヤばあちゃんは、トゥミエから少し離れた里に住んでいる。

 前に訪ねたのは町を出る直前。かれこれ7年は会ってない。久しぶりに会うから楽しみだ。



 休みなく駆けること1時間弱。アイヤばあちゃんの住む里、【タオ】に到着した。


 山間の集落はクローセと同じで空気が澄んでいて気持ちいい。昔ながらの家屋が建ち並ぶ集落を歩くと、前に訪れたときの記憶と大きく変わったところはない。ばあちゃんの家はハッキリ覚えている。


 静けさの中ゆっくり歩を進めて家の前に辿り着くと、引き戸の玄関を開けて呼びかけてみる。


「お~い」

「はいよ」


 懐かしい声が聞こえて、思わず笑みがこぼれる。


 ドスドスと大きな足音をさせて近づいてくる。奥から顔を出して玄関を覗き見たばあちゃんと目が合った。


「アンタ……ウォルトかい!?」

「久しぶりだね。ばあちゃん」


 笑いかけると、ばあちゃんは素早く駆け寄って抱きついた。余りの勢いに思わずグラつく。


「久しぶりだね!元気にしてたのかい!?大きくなって!あたしゃ心配してたんだよ!」

「ありがとう。元気だったよ。ばあちゃんも元気そうだね」

「あははは!病気1つしないよ!まだまだ生きるさ!」

「元気に長生きしてよ」


 ばあちゃんの笑顔は昔と変わりなくて若々しい。


「アンタは相変わらずいい子だねぇ。バカ娘(ミーナ)とは大違いだ」

「母さんはいい母親だよ。ちょっと変わってるけどね」

「アンタは優しすぎる。あんまり甘やかすんじゃないよ。まぁ、とりあえず上がりな!」

「お邪魔します…と、そうだった。ばあちゃんにお土産があるんだ」

「土産?」

「来る途中で見つけた蜂の巣に、蜂蜜が沢山溜まってたから少しだけ拝借した」

「アンタはさすがだね!」


 ばあちゃんは喜んで、また抱きついてきた。身長はボクより高くて、身体は父さんのように大柄。


 なぜなら…アイヤばあちゃんは熊の獣人だから。

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