2 初めての戦闘
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
魔物は四つ足で駆けているが、その速度は人間を軽く凌駕していて瞬く間に距離が詰まる。
「グルァァッ…!!」
「危ないっ!!」
どうにか固まっているアニカを突き飛ばす。
「痛っ!」
間一髪で魔物の突進から逃れたアニカは、突き飛ばされた衝撃と痛みで冷静さを取り戻してくれたのか、表情を引き締めてる。
突進してきた魔物は勢いそのままに木に激突。鈍い音を響かせて止まった。ザァッと大量の葉が落ちる。俺は衝撃に一瞬怯んだものの、気を取り直して剣を構えた。
「グルルァァァ!!」
吼える魔物に対する警戒を解かずアニカに確認する。
「アニカ!大丈夫かっ!?」
「…大丈夫!驚いただけで怪我もしてない。助かったよ!」
「動けるなら逃げるぞっ!アレは…俺達の手に負えない!」
「わかった!」
駆け出し冒険者の俺でも見ただけでわかる。コイツはヤバい。
魔物は、身を翻して赤い目を向けてくる。興奮して唸りをあげる口からは、ボタボタと涎を垂らしながら。
その様子から、空腹状態なのだろうと推測できた。おそらく、焼けた肉の匂いに誘われて現れたのだと。
次の瞬間。魔物は巨体をグッと縮めたかと思うと、爆発して一気に力を解放するかのように一瞬で間合いを詰めてくる。
「はやっ…!」
「グガアァァァ!!!」
咆哮とともに右前足を振り上げ、鋭い爪で切り裂こうとしてくる。剣で受け止めるのは危険だと判断して、攻撃を躱して反撃した。
「オラァァ!くらえっ!」
幼い頃から、冒険者に憧れていた。
俺達の故郷はなにもない静かな村で、剣術に詳しい師匠もいなかったけど、毎日のように自己流で剣の稽古をしていた。
平和な村でもたまに獣や魔物が現れる。村を守るタメに大人と一緒にフォレストウルフと呼ばれる狼型の魔物や、ゴブリンも倒したことがある。自己流とはいえ、長年鍛えてきた剣技に多少なりとも自信があった…けど。
魔物の前足を切断するつもりで振り下ろした渾身の一振りは、刃が埋まりきるくらいの深さで止まった。肉を斬っただけで骨にすら届いていない。
「そんな…」
「グギャアァァア!!」
反撃を受けた魔物は激高し、喚きながら斬られた右前足をそのまま外に振って、裏拳のように殴りつけてきた。
「しまっ…!」
一瞬動きが止まった隙を突かれた。両腕でガードしたけれど、直撃は免れず衝撃を受けて軽く吹き飛ばされてしまう。
「がはっ…!」
今の一撃は効いた…。痛みで身体が動かない。今まで味わったことのない衝撃。
「オーレン!!私も戦う!」
「来るなっ!お前は先に逃げろ!俺も直ぐに追うから!」
今のアニカに戦闘は無理だ。武器もナイフしか持ってない。その程度の装備で太刀打ちできる魔物じゃないことくらいわかる。
「でも!」
アニカは今にも泣き出しそう。それでも闘わせるワケにはいかない。
「早くギルドへ行け!応援を呼んでこい!」
「……わかった!」
「頼んだぞ!俺も隙を見て逃げるから!」
頷いたアニカは踵を返して駆け出す。走るのは俺よりアニカの方が速い。とりあえず希望はできた。
ふぅ…。あちこち痛ぇ…。さっきの一撃で骨がイッたっぽいな。この状態で逃げきれるか…?
とにかくやるしかない。まだ動ける。そう思って魔物に剣を向けた次の瞬間…。
「なっ…!?」
魔物は俺を無視するように横を通り過ぎ、背を向けているアニカへ突進する。すかさず後を追うが魔物の方が数段速い。あっという間にアニカに追いついた魔物は、鋭い爪を振りかぶった。
「アニカぁ!!後ろだっ!!避けろぉ~!」
知らせるために叫ぶ。振り返ったアニカは、眼前に迫り来る魔物の爪を躱そうと後方に跳んだ。
「…うあぁぁっ!!」
直撃は避けたけど、防具のない腹と脚の一部を抉られて倒れ込んでしまった。痛みに顔を歪めてる。
「オラァァァ!」
「グルァ…!」
追いついて背後から魔物に斬りかかっても、驚くこともなく反撃してきた。逆に避けきれず腕の肉を削られる。
「痛ってぇな…!!くそったれ!!」
傷は浅くても痛みと出血が激しい。距離をとって睨み合いながら、持っていた包帯を雑に巻いておく。綺麗になんて考えてる暇はない。
このままじゃマズイ。確実に追い詰められてる。アニカの傷じゃ走るのは厳しい。どうする?どうすればいい?思考を巡らせて最善を探っても正解が見つからない。
「グルァァァ!」
「くっ…!どうすりゃいいんだ!?」
とにかく、今は倒れたアニカに意識を向けさせちゃダメだ。次に狙われたら攻撃を避けることすらできずに屠られてしまうかもしれない。
俺はまだ動ける。時間を稼げばアニカだけでもこの場を離れることができるかも…。いい案なんて思い浮かばない。けど…やれるだけやってやる…!
冒険者になったばかりで、死んでたまるか!
「お前の相手はこっちだ!かかって来い!」
「グルァァ!」
傷を増やしながらどうにか立ち回っていると、倒れていたアニカが痛みを堪えながら立ち上がった。
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