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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
197/706

197 魔法の代償

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~



「仮装祭り?」

「はい!近い内にフクーベで催されるんです!」


 今日はオーレン達が住み家を訪ねてくれた。昼ご飯を食べたあと、まったり寛いで会話しているところ。


 アニカの説明によると、今度フクーベで初めて【仮装祭り】が開催されるらしい。思い思いに仮装して、見知らぬ人と交流を広めようという趣旨らしいけど…。


「変装してたら顔がわからないし、交流なんかできないんじゃ?」

「誰かわからないから、気を使ったりしなくてもよくて楽しいんです!地位も年齢も関係ないので!」

「なるほど。でも、ボクには向いてないかもしれない」

「なんでですか!?」

「ウォルトさんは匂いで人を判別できる。きっと目隠ししても当てられるぞ」

「オーレンの言う通りで、ボクは顔より匂いで人を判別してるからね」


 獣人は大丈夫だけど、人間の顔は全員似てるように感じるから。でも、オーレン達のような友人は特別。


「ウォルトさんは嗅覚で獣人の頂点ってことを忘れてました!」

「大袈裟だよ。ボクより嗅覚が鋭い獣人は山ほどいる。むしろ普通だよ。昔聞いた犬の獣人には、1滴垂らした魚醤を50歩以上離れたところで感じられる人もいるらしい」

「凄いです!」

「でも、日頃は色んな匂いの情報が混じりすぎて頭がおかしくなりそうだって。あと、臭いモノを嗅ぐと腹が立って仕方ないらしい」

「はっ…!私達の汗臭さもウォルトさんにとっては不快…」

「ショックだね…」


 アニカとウイカは肩を落とす。


「人が汗をかくのは当然だし、2人は臭くない。気にしなくていいよ」

「よかったぁ~!」

「よかったね~!」

「でも…やっぱりオーレンの足は臭いですよね?!」

「なにが『やっぱり』だ!俺の足も臭くねぇよ!ですよね!?」

「…臭くないよ」

「師匠…?妙な間がありましたけど…?」

「気のせいだよ」


 いくら嗅覚が鋭くて、放つ匂いが強かろうと体臭は気にならない。他人の体臭が気になるなら街には住めないし、一緒にいることができない。恋人や番になるなんて夢のまた夢。でも、女性は匂いを気にする。なんでだろう?


「あの…ウォルトさんの嗅覚でどのくらいまで嗅ぎ分けられるか知りたいです」

「私も知りたいです!」

「俺もです」

「いいよ。やってみようか」


 ボクも気になる。外で試してみよう。



 ★



「ウォルトさぁ~ん。いきますよぉ~!」

「いつでもいいよぉ~!」


 ウォルトさんはアニカの呼びかけに遠くから応えてくれる。離れて風上に立つ俺達の手には、調味料や保存食の容器。

 容器の蓋をウォルトさんから見えないように開けて、匂いでなんの蓋なのか当ててもらうことに。布袋に入れて持ってきたから、どの容器を持ってきたか見られてないはず。


 既に30歩以上離れてかなり遠く感じる。ウォルトさんも「この距離で当てられるかなぁ?」と自信なさげ。

 ただ、出会って間もない頃、これくらいの距離で俺のことを判別できた実績があるので期待は高まる。


「よし。俺からいくぞ」

「いけぇっ!」


 背を向けたまま魚醤の蓋を開けた。


「魚醤かなぁ~」

「嘘だぁっ!?」


 尋ねる前に答えられてしまった。たまたま当たった可能性もあるけど…。


「次は私の番だっ!」


 アニカが蓋を開ける。


「味噌だよぉ~」

「はやっ!」


 間髪入れずにウイカも開けた。コレは難しいはず…。


「カラムの茶葉だねぇ~」


 余裕の全問正解。


「そんなに匂いも強くないのに…。すごい…」

「一撃で見抜かれたな」


 好奇心を抑えきれず、ウォルトさんに断って更に遠くへ移動する。距離は軽くさっきの倍はある。姿がかなり小さくなった。人間ならあり得ない距離。


「いきますよぉ~」

「いいよぉ~」


 俺が蓋を開ける……と見せかけて…!


「草醤と豆醤と辛子だよぉ~」

「ぶっ…!?マジかよ…」

「信じられない…」

「ちょっと怖いかも…」


 目で合図して3つ同時に蓋を開けた。なのに、開けた直後に全て当てられてしまった。師匠の嗅覚、恐るべし。

 

「ウイカぁ~。ボクの鼻は別に怖くないよぉ~」


 間の抜けた声が聞こえる。小声で話している声まで聞こえてるのかと、顔を見合わせて笑った。

 どこまで判別できるか試すつもりだったけど、充分驚いたのでウォルトさんの立つ場所に移動した。


「やっぱり凄い嗅覚ですね。あと聴覚も」

「それほどでもないけど、ボクには必要な能力だったんだ」

「どういうことです?」

「力が他の獣人より劣るから、無用な争いや命の危機を避けるタメの…ハッキリ言えば逃げるのに必要な能力だと思う。生きるタメに」

「危機を素早く感知できるように…って意味ですか?」

「そう。だから俊敏性や持続性、五感に能力が振れてるんじゃないかな?勝手な予想だけどね」


 獣人は強靭な肉体を持って生まれるのが普通で、そうでない者は珍しいらしい。文明が今ほど発達していなかった昔だと、生きていくのが困難だったのかもしれない。

 付き合いが長くなった俺達とウォルトさんは、言い辛かったり聞き辛かったことも話せる間柄に変化してる。師匠と友人という密接な関係になれたというのも大きい。


「ウォルトさんは、やっぱりマードックさんみたいにゴツくなりたかったですか?」

「マードックほどは望まないけど、もっと力を付けたい。今でも憧れはあるよ」

「ムキムキでオラオラのウォルトさん……。悪くないです♪」

「私は今の方が格好いいと思う。確かに見てみたいとは思うけど」


 褒められて照れている様子のウォルトさんは、意外な言葉を口にした。


「オラオラは無理だけど、ムキムキなら見せられるよ」

「えっ!?マジですか!?」


 普通逆なんじゃないか?ムキムキよりオラオラの方が簡単だ。オラつけばいいから。


「うん。見たい?」

「「「見たいです!」」」


 鼻息荒い姉妹に俺も乗せてもらおう。ムキムキのウォルトさんは気になる…。是非見てみたい。

「恥ずかしいから少しだけだよ」とローブを脱ぐ。獣人としては細身だけど、普段隠している肉体は鍛え上げられていて、アニカとウイカは穴が空きそうなほど見つめてる。男が女に向けたら叫ばれそうなレベルの凝視なのに、ウォルトさんの反応は違った。


「そんなに見られると…。やっぱり恥ずかしいからやめようかな…」


 まさかの乙女モード。


「「ダメです!師匠たるもの有言実行です!!」」


 手で大きなバツを作って『断固見ます!』と意思表示するアホ姉妹。


「お前ら…。ウォルトさんを困らせるなよ」


 確かにムキムキのウォルトさんは見たいけど、下心丸出しの幼馴染みに呆れてしまう。


「私達はウォルトさんの魔法が見たいだけだ!」

「そうだよ!困らせるつもりなんてないから!」

「わかった。すぐ終わるから見てて」


 ウォルトさんは、大きく息を吸ってピタッと動きを止める。そして詠唱した。


『身体強化』


 筋肉が少しずつ肥大化して、最終的にマードックさんのように筋骨隆々になる。その体躯はいつもより一回り大きい。

 しかも、いつもと変わらない優しい笑顔とのギャップが凄い。ニコニコしてるのに、膨張した胸の筋肉がピクピクしていて不思議すぎる。


「すっげぇ!猫というよりゴリラみたいだ!」

「めっちゃ強そうです!」

「野性味が凄いですね」


 少し経つと、ゆっくり萎むようにしていつもの体型に戻った。


「ふぅ…。満足してもらえたかな?」

「めっちゃゴツかったです!『身体強化』ってそんなこともできるんですね!」

「魔法の応用なんだけど、『身体強化』というより『筋力強化』だね。無理やり筋肉を肥大させるから魔力の消費と肉体の負担が大きい。長くやり過ぎると動けなくなるくらい全身が痛むんだ。ボクは長い期間修練してるから、短時間なら後遺症なしで動けるけど」

「今の魔法をかけてる間って、かなり力が強くなるんですか?」

「普通の『身体強化』の倍くらいかな。反動が凄くて、動けば動くほど痛みが強くなるのが欠点だけど」


 それでも奥の手として使える気がする。


「勉強になります。私やアニカでもできるんでしょうか?」

「コツを掴めばできるけど、ウイカやアニカは筋肉が強化に耐えきれなくて大怪我するかもしれない。使えるとしたらオーレンかな」


 言われて試してみたくなった。


「俺、ちょっとだけでも今の魔法を体験してみたいです」

「う~ん…。明日の予定は?」

「クエストに行く予定があります」

「だったらやめたほうがいい。この魔法は慣れない人には勧められない。本当に後遺症が辛いから。身体を慣らしてからじゃないと」


 今は諦めるか…と残念に思ったけど、アニカが援護してくれる。


「大丈夫です!やっちゃって下さい!オーレンなりの考えがあるんだと思います!」

「奥の手として使ってみたいと思ったんだよ」

「常時使うつもりでなければいいよ。やってみようか。『筋力強化』」


 俺の筋肉が徐々に膨張する。身体に違和感はない。胸筋で服がはち切れんばかりに膨らんだ。


「ムキムキオーレン気持ち悪ぅっ!」

「うるさいなっ!このまま少し動いてみてもいいですか?」

「いいけど、少しだけだよ」


 愛剣を振って確認すると、まるで棒きれのような軽さ。重さをまるで感じない。


「もう解除しよう。初めてであまり動かない方がいい」

「いえ!.ウォルトさん!一太刀だけ相手してもらえませんか?」

「構わないけど、一太刀だけだよ」

「はい!」


 対峙して構え、ウイカ達が見守る。


「…いきます!」

「いいよ」


 一気に間合いを詰める。身体が軽くて自分じゃないみたいだ。


「はやっ!すごっ!」

「コレはっ…?!」


 アニカ達も驚く速度でウォルトさんに迫り、全力で剣を振るう。


「せぇぇい!」

「いい動きだね」


 渾身の斬撃は一瞬で発動した『強化盾』で防がれた。キィン!と弾かれた剣を構えて息を吐く。


「まだ遅いんですね…」

「躱そうと思ってたのに、魔法を使わないと防げなかったのは初めてだよ。かなり驚いた」

「確かに…。初めて魔法で防がれました!ありがとうございました!」

「じゃあ解除するよ。覚悟はいいかい?」

「はい!」


 ウォルトさんが手を翳して『筋力強化』を解除してくれた。けど…!


「いでででっ…!!いってぇ~!あだっ!いたたたっ!!」


 全身を針で刺しまくられるような痛みが襲ってきた。右へ左へ地面を転げ回ると、アニカ達が呆れた表情で見下ろしてくる。


「いっくらなんでも大袈裟でしょ!ウケ狙いならつまんないからやめなよ!」

「オーレンって、意外に構ってちゃんだったんだね」

「マジだっつうの!いってぇ~!!あたたっ!洒落になんねぇ!」


 襲い来る痛みで悶絶が止まらない。


「ねっ?言ったとおりだろう?」


 何度も「やめたほうがいい」と忠告してくれたウォルトさんは、おもいきり苦笑いしてる。


「ウォルトさん!『治癒』でなんとかなりませんか!?あたたたっ…!」

「なるけど、しばらくそのままにしておくのをお勧めするよ」


 えぇぇっ?!


「なんでですか!?…いったぁっ!」

「1つは魔法の怖さを知るタメ。すぐ治療したら、痛みを忘れてまた使おうとする。無茶な魔法を使う代償を身をもって知ってほしい」

「そうだそうだ!しばらくそのままで反省しなよ!楽して強くなろうとするからだぞ!さすが【愚弟】だね!」

「身をもって知る…。確かにそうですね。世の中、そんなにうまい話があるワケないです」


 ぐうぅ…!今は言い返す余裕がない!


「そうは言っても…いててっ!コレはっ…キツすぎるぞっ!!」

「直ぐに治療しないのには、それ以外にも理由があるんだ。しばらく我慢してくれないか?」

「わかり…いでっ!…ましたっ!」


 この状況は…俺の自業自得。魔法への興味を抑えきれなくて、師匠の忠告に耳を貸さずに無視した。


 ウォルトさんは下らない嫌がらせをしたりしない。この状況に理由があると言った。少しでも動くと激痛が全身を駆け巡るから、とにかくジッとして動かない。遠目に見ると屍のように見えるだろうな…。

 ウォルトさんとアニカ、ウイカが3人で魔法の修練を続けている間、ずっと空を見上げて痛みと格闘していた。


 修練の休憩に入ったウォルトさんが、柔らかく話しかけてくれる。


「そのまま自然に痛みが引くまで待つと、次に同じ魔法を使ったとき少しだけ長く動けるようになる。それが直ぐに治療しなかった理由なんだ。『治癒』で治すと、痛みは引くけどそれがない。どうする?オーレンが決めていいよ」


 なんてこった…。魔法に対する耐性はほしい。奥の手になり得る力だから。けど、キツすぎる…。


「むむぅぅ~…。ちょっと考えさせて下さい……」


 強くなりたい気持ちと、痛みから逃れたい気持ちで葛藤する。


 俺は…決めたっ!!


 最終的に『治癒』を選んで「この根性なしがっ!」とアニカにバカにされた。

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