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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
195/706

195 男子会と女子会

 ジニアスの誕生祝宴から数日が経った。


 祝宴以降、リスティアは何事もなかったように振る舞っていて、ナイデルやストリアル達とも普通に接している。

 ただ、例の話題に一切触れることはなく、少しでも話題になりそうになると誤魔化すように笑って姿を消していた。

 ウォルトの魔法を見ることができなかった王族の男性陣は、識者会議のあと会議室に残ってそれとなく話し始める。

 


「父上。結局リスティアが見せたモノとはなんなのでしょう?」


 疑問をぶつけたのはストリアル。


「見当もつかないが、おそらく曲芸の類だと思っている。もしくは芸術作品か。どちらにしても確信はなく信憑性も卑い」

「やはりそうですよね…」


 気になるものの予想に苦慮している。女性陣が口を揃えて「心が震えるほど感動した」という事象が全く思いつかない。


「レイがあれから毎日大興奮で…。気になって仕方ないんです。「教えられないけど!」って言われすぎて、どのタイミングで来るのか読めるようになりました」


 アグレオは少々疲れているようだな…。


「確かにレイはずっと機嫌がよさそうだ。ウィリナはどうなのだ?」

「ウィリナは落ち着いています。ただ、時折悩ましげな表情を浮かべています。祝宴を思い出しているのかもしれません」

「母上の様子はどうなのですか?」

「ルイーナは、さすがというべきかいつも通りだが…」

「だが、なんでしょう!?」


 ストリアルが身体を乗り出す。


「つい先日、ポロッと「常識を覆すモノ」と言っていた。「過去に目にしたことはありません」とも。ルイーナが言うのだから曲芸の類ではないかもしれん」

「確かに…。母上が見たことがない曲芸が国内にあるとは思えませんね」


 ルイーナは、カネルラ王妃になって既に20年以上経つ。その間、様々な式典や国外訪問などの政務をこなしてきた。

 しかも、ウィリナと同じく元友好国の王族。そんなルイーナが過去に目にしたことがないと言っている。

 

「極東や大陸を違えた国の珍しい曲芸の可能性もある…が、そんな曲芸師がカネルラにいるのか疑問だ。少なくとも耳にしたことはない」

「確かに…。それほどの技量があれば名が知られていると思います。リスティアに国外の伝手があるとは思えませんが、常識破りな妹なので可能性はあります」

「レイは「感動した!」を連呼してます。夢に出てくるほどに。曲芸でそこまで感動するでしょうか?」

「「「むむむ…」」」


 文殊の知恵でも答えを出せないでいると会議室の扉がノックされる。


「入っていいぞ」

「失礼します」


 礼と共に入室してきたのはボバン。


「アグレオ様。間もなく騎士団の記念式典の打ち合わせが始まります。念のためお知らせに参りました」

「そうだった!すまない!」

「しっかりしろ。アグレオ」

「それでは失礼します」


 退室しようとするボバンに声をかける。


「ボバン。少しだけ時間をもらってもいいか?」

「勿論です」


 身を翻した。


「リスティアの開いた祝宴には、お前も参加したのだったな?」

「その通りです。ダナン殿、アイリス、テラと共に」

「リスティアが見せたかったモノとは、お前達も初めて目にするモノだったのか?」

「私共は、元々その者を知っております。ですが…稀有なモノを見せてくれました。二度と見ることは叶わないかもしれません」


 一体なんだというのだ…。


「そうか。1つ教えてくれ」

「答えられることならば、なんなりと」

「俺達はなぜその者を知らないのだ?ルイーナやウィリナ達、そしてお前達も知っているというのに」


 ずっと疑問に感じていた。そんな人物が存在するとは思えん。


「あくまで私の推測になりますが、申し上げてよろしいですか?」

「勿論だ」

「国王様やストリアル様、アグレオ様がリスティア様を大切に思われているからかと」

「なに?」


 ボバンがなにを言いたいのか理解できない。


「ゆえに王女様は皆様にお伝えしていないのだと思われます」

「どういう意味だい?」

「皆様にお伝えすると、王女様に対して『害をなすかもしれない』と判断を下されると思われているのではないかと」

「俺達がその者を排除しようとする…ということか?」


 ストリアルは眉をひそめる。口にせずともそうであると予想できるな。


「あくまで私の推測になります」

「考えすぎだ。俺も父上もアグレオもそんなに狭小な人間ではない」

「確かに。いくらリスティアの人間関係でも頭ごなしに反対なんかしないよ」

「うむ。知らぬ者とはいえ、そんな横暴なことなどするはずもない。そんなことをするのなら街への脱走など一切認めん」

「私が申し上げられるのはこの程度かと」

「あいわかった。呼び止めてすまなかった」

「失礼致します」


 ボバンは一礼して去って行く。残された俺達は、今回も謎が解けぬままそれぞれの公務に向かう。



 ★



「そうなのね。伝えてくれてありがとう」

「いえ。失礼致します」


 ボバンは、ルイーナに先程のナイデル達とのやりとりを報告した。


 王族の男性陣にウォルトのことが明るみに出ていないか、ルイーナは気になることがあれば報告してもらうよう宴の出席者にお願いしていた。

 ウィリナとレイも訪ねていて、会話しながらお茶を楽しんでいたところ。赤子達はメイドや乳母に任せている。


「やっぱりアグレオ様達も気になっているのですね!」

「レイは毎日アグレオに素晴らしさを説いているのよね。さすがに気になるわ」

「つい言いたくなってしまうんです!絶対言いませんけど!ウォルトさんの魔法を見たあとで平常心でいれたら凄いと思います!」

「私もふとした時に口に出しそうになってしまいます。王女様はよく我慢しておられます」


 私も気持ちはわかる。彼の魔法は間違いなく見れただけで自慢に値する。口止めされているのに「凄い魔法を見た!」「こんな魔法だった!」と口に出しそうになってしまうほど。


 お茶していても、最近はもっぱら彼の魔法について語り合うことが多い。揃って魔法に詳しくないけれど、彼の魔法は見たことも聞いたこともないモノばかりで、あれこれ想像するのが楽しかったりする。いくら話しても結論は出ないけれどね。


「あの娘は事情が違うの。ナイデル様に教えてしまったら、ウォルトに会わせてもらえなくなる可能性を考えている。だから絶対に口に出さない」

「ウォルトさんが獣人だからでしょうか?」


 レイの問いに頷いた。


「加えて男性であること。リスティアの人間関係は…ある意味カネルラにとって最重要事項なの」


 ウィリナとレイは揃って頷いた。2人もリスティアの才覚について重々承知している。


「だから、素性の知れない者……特に変な男性と接触させたくない気持ちは理解できる」

「確かに」

「それはそうかもしれません」

「けれど…ナイデル様やストリアル達が彼の魔法を見たいのであれば、その気持ちを抑えなければならない。たとえナイデル様が命令したとしても魔法を見せてくれないみたいだから」


 リスティアは「ウォルトは人を見るの!私が頼んだから披露してくれたんだって!お父様が命令しても無理なの!」と自慢げに語っていた。


「ウォルトさんは頑固な方なのですね」

「意外です」

「以前ナイデル様は「お前の親友に礼を言いたい」とリスティアに仰ったけれど、今のボバンの話を聞いた限りでは『やはり会わせなくてよかった』と感じているわね」


 自覚があるのなら更生の余地もある。無意識のままでは対策を立てようがない。


「私は信頼できる方だと思います」

「私もです!」

「そうでなければ、得などないのに親友のタメにフクーベから遠く王都まで駆けて来て、あれほど人を楽しませ感動させる素敵な魔法を披露できないと思います」

「披露してくれた料理も魔法も感動しかなかったです。相手を喜ばせようと誠心誠意考えられたに違いありません!信頼できる方です!」


 2人とも鼻息が荒いわ。


「私達が彼の美味な料理を食べて、祝福の魔法を見ることができたのはリスティアのおかげ。あの子は私達に味方になってほしいと思っているの」

「味方…ですか?」

「また彼と関わることがあれば、その時は私達に後押ししてもらいたいと考えている。今回の嘆願のように」


 あの子の望みはただそれだけ。


「私は…可能な限り後押しさせて頂きます。たとえストリアル様が相手であっても」

「私もです!アグレオ様がなんと言おうと!披露された祝福の魔法は私とハオラの一生の宝物になったのですから!」


 2人は再び彼の魔法を見たいと願っている。私も同じく。狙っていなかったはずなのに、リスティアは完全に味方につけたわね。


「彼の祝福は私達にとって一生の宝物。リスティアが1番わかっているでしょう」


 あの娘は今回の件についてどう御礼するつもりなのだろう。黙っているような娘ではない。聡明なリスティアのこと。なに考えはあるはず。

 それに、私も感謝しなくちゃいけない。嬉しいことに、彼のおかげでウィリナとレイが以前より部屋を訪ねてくれるようになった。

 ウィリナ達とは、やはり姑と嫁の関係であって、気を使われていた部分が大きかったと思うけれど、『ウォルトの魔法』という秘密を共有することによって会話も増え、より打ち解けた気がする。


 王妃として喜ばしい限り。リスティアはこの状況すら読み切っていたはず。あの子は家族の幸せを常に願っているのだから。かくいう私も、ウォルトとリスティアに感謝している。ならば、相手が愛する夫であっても必要とあらばリスティアの味方をすることに決めた。

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