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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
19/688

19 望まぬ再会

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 フクーベに足を踏み入れたボクとマードックは、「とりあえず飯食うか」と言うので食事することに決めた。


 歩きながら街を見渡すと、たった3年で結構変化してる。景観が住んでいた頃とは大きく様変わりして、どこが美味しい店なのか見当もつかないので、店選びはマードックに任せる。

 マードックの薦めた店に入ると、通されたテーブルに座る。まだ混み合う時間じゃないみたいだ。


「久しぶりの街はどうだ」

「人が多い。昔より増えたんじゃないか?」

「そりゃそうだろ。まだ発展してんだ」

「凄いな。まだ大きくなるのか」


 他愛のない会話をしていると、直ぐに1人の獣人が歩み寄ってくる。唸るような野太い声で話し掛けてきた。


「おい、マードック。珍しい奴を連れてるな」

「あん?ティーガか。いたのかよ」


 男はボクもよく知る獣人。近づいてるのは匂いで気付いてた。嫌いな匂いが。


「おい!ウォルト!」

「なんだ?」

「あぁん!?馴れ馴れしいぞテメェ!やんのか?!あぁん?!」


 意味がわからない。獣人は無駄に声がデカいから、店内の注目を集めてしまって他のお客さんに申し訳ない。


 眼前に立つ騒がしい獣人ティーガは、虎の獣人で大柄な体格。マードックよりは小さいけど、大きな牙と白と灰色の縞模様が入った毛皮は威圧感充分。

 容姿もほぼ虎で人間っぽさはない。サマラに惚れていて、ことある毎にボク嫌がらせをしてきた。マードックと違って幼馴染みではなく、フクーベで知り合った獣人。


「うるせぇな。なんか用か?」

「尻尾を丸めて逃げたどこぞの猫と一緒にいるもんだから気になってな。別に用はねぇ」

「そうかよ」

「おい、ウォルト」

「なんだ?」

「うるせぇぞゴルァ!!やっちまうぞゴルァァ!!あぁん!?」


 騒音再び。耳をパタンと閉じた。


 とにかく声がデカくて、吠えるように声を出すから店にとって迷惑極まりない。ティーガのような奴がいるから、獣人は横暴だとか乱暴だと言われる。


「うるせぇな」

「…けっ!」


 マードックに軽く睨まれたティーガは、ボクを睨み付けながら肩で風切るように店を後にする。


「アイツは相変わらずだな」

「変わりゃしねぇよ。ガキのままデカくなったような野郎だ」


 食事が運ばれて来たので頂くことにする。初めて見る肉料理だけど美味しくて満足だ。今日はマードックが驕ってくれた。食事を終えて店を出ると、歩き出して直ぐに立ち止まる。


 また懐かしくて…嫌いな匂いがした。


「おい。無視しろ」


 マードックも気付いたか。


「せっかく来てくれたんだ。ちょっと挨拶してくる。少しだけ待っててくれないか」

「ちっ…。さっさとしろや。ちょっと女んとこ寄ってくらぁ」


 マードックは近くの建物を指差す。獣人の中でも強いマードックは、昔から女性にモテる。風貌よりも強さが獣人のモテる要素。

 ただ、見た目とは裏腹に女性に紳士で優しいのを知ってる。侍らすようなこともしないし厳しいのは口調だけ。


 別れて直ぐに路地裏に入る。何人かの獣人が、後を追うようについてきた。その中には会ったばかりのティーガもいる。


 全員ボクの顔見知りだ。


「久しぶりだな…ウォルトォォ!…つうか、てめぇ死んでなかったのか!?」

「今さらフクーベに帰ってきてどういうつもりだぁ?!」

「昔みたいに可愛がって欲しいのかぁ?」


 ニヤニヤした獣人3人組が蔑むような目で見てくる。


「ボルゾー。コーリン。お前らも元気そうだな」


 犬の獣人の2人も、昔からボクに絡んできては嫌がらせをしてた。ティーガの悪友みたいな奴ら。旧知の大嫌いな顔ぶれがそろい踏み。久しぶりに街に来て、いきなり出会うなんて運がないな。


 断じて会いたくはなかった。


「うるせぇぇぇ!馴れ馴れしいぞボケェ!?殺すぞ、カスゥゥ!!」


 声が路地で反響して思わず耳を塞ぐ。獣人社会ではこんなことが日常茶飯事なので、道行く者も通りからチラリと様子を窺うだけで誰も気にしない。


「鼓膜が破れるかと思った。もうちょっと静かに喋れないのか?」

「相変わらず人をイラつかせるな!」

「この猫ヤローが!」

「ムカつくぜ!」


 イラつかせるようなことをした覚えはない。意味不明だけどとりあえず訊いてみる。


「で、ボクになにか用か?」

「用なんかねぇよ!どっかの猫ちゃんが、サマラにちょっかい出すつもりじゃねぇのかと思ってな」

「なんでだ?」

「なんでって…お前はサマラにホの字だったろうが!この泥棒猫がっ!!」


 ティーガは意味不明なことをのたまう。サマラのことはさておき、言うに事欠いて誰が泥棒だ。このバカ虎。


「ボクがなにを盗んだって言うんだ?お前らが泥棒なのは知ってる。キャロル姉さんの下着を盗んだろ。現場を見てたから知ってるぞ」


 キャロル姉さんは、猫の獣人で少し年上の超美人なお姉さん。スタイルも抜群で若い獣人には目の毒だった。

 同じ猫の獣人だからなのか、なぜかボクは可愛がってもらった。姉さんは元気にしてるだろうか。



 ★



 ところ変わってマードックの彼女宅。


「そういえば、ウォルトが帰ってきてるんだって?」

「知ってんのか。耳が早ぇな」


 コイツも知ってんのか。まぁ、クソ弱いで有名だったからな、アイツは。


「ティーガのバカが通りで騒いでた。あんなデカイ声じゃ嫌でも聞こえるよ」

「へっ。そうかよ」


 時間潰しの酒が美味ぇ。


「アンタが連れてきたんでしょ。付いとかなくていいの?」

「あん?誰にだよ?」

「ウォルトによ。絡まれてんじゃないの?」

「もう絡まれてるぜ。ガハハ!」

「は…?ヤバいじゃない。アイツらバカだから、なにするか分かんないよ?」


 まぁ、そう思うのが普通ってヤツだ。けど、余計な世話だぜ。


「アイツは強ぇから黙ってろ」

「え…?なんて?」

「今のアイツはティーガより強ぇ」


 信じられねぇ…って面してんな。けど事実だ。



 ★



「キャロル姉さんには悪いと思ったけど、黙っておいたんだ。ボクに感謝しろ」


 懐かしみながら苦笑すると、黙ったまま身体を震わせてる。恥ずかしいのか?それとも泥棒したことを思い出して反省してるとか?


 そう思ったのも束の間…。


「テメェ…。コケにしやがって…許さねぇ!」

「ぶっ殺す!」

「オラァァァァ!」


 3人同時に駆けてくる。事実を伝えただけなのに、コイツらはなぜ怒ってるんだ?いや。浮かべているのは怒りというより、ボクを殴れるという愉悦の表情だ。


 脳裏に苦い思い出が蘇る。昔は立ち上がれなくなるくらい殴られた。反撃しても勝てるはずもなく、余計に殴られた。「これ以上は死ぬかもしれない…」とプライドを捨てて謝っても、コイツらは許してくれなかった。


 忘れたことはない。そして、鮮明に思い出した。今、ボクは獣のような顔をして嗤っているのが自分でもわかる。

 

「昔とは違うぞ…」


 薄ら『身体強化』を纏い、3人に向かって駆ける。ローブを着ているので肉体に纏う程度の魔力は視認できないだろう。


「うぉらぁぁ!!死ねやっ!」


 ティーガの拳が眼前に迫る。最小限の動きで躱しながら固く握った拳を顔面に叩き込んだ。


「ウラァァァッ!!」 

「ガァァッ?!」


 まともに食らったティーガは吹き飛んで倒れ込んだ。潰れてしまった鼻から血が溢れている。残りの2人は驚いたのか足が止まった。


「ガァッ…!ウォルトォォ!テメェ…!!」

「なんだ…?」


 見下ろされたのが癪に障ったのか、ティーガは目を血走らせて立ち上がり、ペッ!と唾を吐いて獰猛な眼で睨みつけてくる。


「殺してやるっ…!!」

「お前らにはできない」


 挑発するような台詞を口にすると、我先にと襲いかかってくる。


「まぐれで調子に乗るんじゃねぇ!」

「俺らがテメェより弱いだと!ほざきやがって!」

「嚙み殺してやるっ!」


 動きを見てため息が出る。フクーベにいた頃は、コイツらに全く歯が立たなかった。一生敵わないとさえ思った。

 マードックとは全然違う。森の魔物とも違う。今は威圧感や恐怖を微塵も感じない。


「獣人のケンカは引き際が肝心だろ…」


 穏やかな口調とは裏腹に獣の顔で対峙する。




 数分後。


「うぅっ…」


 ティーガ達は呻き声を上げて地面に這いつくばっていた。真っ白な両拳は血で赤く染まり、無傷のまま表情無く見下ろした。


 もういい。これ以上やってもなんの意味もない。殺したいほど憎いけれど、殴って気が晴れたワケでもない。ただやられたからやり返して、気が済んだだけ。

 踵を返して路地を出ようと歩き出し、背後から倒れているティーガの声が聞こえた。


「クソがぁ……気に入らねぇ…。テメェも…サマラも…」


 耳がピクリと反応する。振り返って顔を上げているティーガに訊く。


「なんだと…?」

「気に入らねぇんだよ…!テメェも…いくら言っても俺に靡かねぇサマラもなっ…!」

「だからなんだ?サマラは関係ないだろ?」


 フラつきながら立ち上がるティーガ。


「今までは優しくしてやったが…もう容赦しねぇ…。どんな手を使ってもぶっ殺してやる…!テメェも……テメェに与するサマラもなぁ!サマラは、充分楽しませてもらったあとにやってやるよっ!!」


 下品な笑みを浮かべる。


「俺らも手伝うぜ…!後悔させてやる!クソ猫がっ…!」

「楽しみだなぁ!フハハッ!」


 フラつきながら立ち上がったボルゾーとコーリンも、ティーガの提案に乗ると口を揃えた。

 もはや溜息すら出ない。獣人が負けず嫌いなのは知ってる。…けど、逆恨みでここまでふざけたことを言い出すとは思ってなかった。


 本当に…愉快でゲスな奴らだ…。


 ゆっくり口角を上げて呟く。


「ボクが間違ってた。お前らの好きな獣人のやり方でやってやる」


 徹底的に。嫌というほど。


 満身創痍の3人に向けて全力で駆け出した。

読んで頂きありがとうございます。

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