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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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187 いざ王城

 ウォルトとテラが手合わせをしていた頃。


 王城では、ジニアス達の誕生を祝う宴が催されていた。カネルラの友好国や隣国、縁のある王族や貴族を招いて大々的に執り行われている。

 当然ナイデル以下カネルラの王族はホスト側として滞りなく無事に終了するよう願っていた。ちなみに、リスティアの誕生祝宴でカネルラを揶揄した者達は招かれていない。


 カネルラは大らかな国だが、王族以下国民が底抜けにお人好しなワケではない。揶揄してきたのはさほど関係が深くない国ばかりだったのもあり今回は招聘を見送った。


 会食中のルイーナやウィリナとレイ、そしてリスティアはいつもと違う様子。気になったストリアルはウィリナに尋ねる。


「ウィリナ。体調が悪いのか」

「いえ。体調は良好です」


 ストリアルの隣に座るアグレオもレイにこっそり尋ねる。


「レイ。調子が悪いのかい?」

「そんなことはありませんよ」


 王子達は違和感を感じながらも顔色や声色に不調は見られないと納得した。ただ、ナイデルもルイーナに違和感を感じていて…。


「ルイーナ。大丈夫か…?」

「気になることがございますか?」

「いや…。特にないのだが…」


 歯切れが悪いナイデルにルイーナは首を傾げる。間近で様子を見ていたリスティアは笑みを浮かべた。



 女性陣は私の希望に耳を傾けてくれてる。あと2時間もすれば国賓を招いた誕生祝宴は終わりを迎える。


 お父様がこの場を準備した苦労は私にも理解できる。とても素晴らしい祝宴。食事から余興に至るまでカネルラで考え得る最高が用意されていて、国賓達も満足そうな表情。私も素直に祝宴を楽しんでる。

 それでも…ウォルトが魔法を披露してくれる祝宴も絶対に素晴らしい宴になるという確信がある。根拠なんてないのに間違いないと思える。


 決してお父様より凄いことをやりたいワケじゃない。お父様は偉大な国王で、カネルラ国民と家族を愛する好漢。

 今日の祝宴もジニアス達のタメに考えに考え抜かれたものだ。あらゆる人の意見を取り入れ最高を目指して作られた宴。でも、直ぐに気付いた。私とお父様は祝宴の趣旨が違う。


 私はジニアス達の晴れ舞台に一生の思い出を贈りたい。お父様は『ジニアス達に祝宴の記憶が残るはずがない』と思ってる。私が覚えていたことに驚いていたくらいだ。

 だから、ジニアス達に向けてではなく国賓にカネルラの素晴らしさを知ってもらう構成の祝宴。

 一流の中の一流で固めた内容を否定するつもりはない。他国にカネルラの素晴らしさを伝えるのは国を背負ううえでとても重要なこと。国王としての正しい判断と行為には肯定しかない。


 でも、私は国王じゃない。王女でありただのジニアス達のお姉ちゃん。ジニアス達は成長しても今日という日を覚えているはず。

 なぜなら私がそうだから。他の人ではまずあり得ないなんて…自分が特別だなんて思わない。私がそうなんだから弟だってそうだ。ジニアスもエクセルもハオラも血が繫がった家族なの。


 姉としてなにかしてあげられるのは、今回が最初で最後かもしれない。私に残された時間はわからないけど、カネルラを離れる前にできることをやっておきたいだけ。

 他の誰でもない可愛い弟達に、今まで誰も見たことのないようなモノを見せてあげたい。優しい親友の力を借りて。


 少しずつ、その時は近付いていた。



 ★



 リスティアが想いを馳せていた頃、ウォルトは動き出した。


「では、お願いします」

「お任せ下さい!王城まで御案内します!泥船に乗ったつもりでいて下さい♪」

「沈まないようにお願いします」


 テラさんはただ休暇を取っただけでなく、ボクを王城へ案内する役を与えられていた。王城までのんびり歩く。


「ウォルトさん」

「なんでしょう?」

「王族の前で魔法を披露することなんて普通ないと思います」

「そうですね。あり得ないです」

「私やダナンさん、アイリスさんや団長もウォルトさんにお世話になってます」

「お世話になっているのはボクの方で」

「もし、ウォルトさんが失敗をしたとしても、私達がなんとかします!代わりの芸でもやります!心配せずに思いっきりやっちゃってください!」

「テラさん…。ありがとうございます」


 優しさが嬉しい。心が温かくなって幾分か緊張が解けた。


「そろそろ着きますね!では…コレをどうぞ!」

「はい」


 テラさんに手渡されたモノを装着する。



 ー 数分後 ー



 全身を隠した獣人が完成した。


 元々のローブに加えて、手袋で毛皮を隠し顔も被り物のお面で隠してしまった。辛うじて穴が空いた目の部分から前が見える。

 お面を被るのはリスティアの発案らしいけれど、なぜかキリッとした表情の白猫の被り物。


 テラさん曰く、リスティアはボクが目立ちたくない性格であることと、王城に見知らぬ獣人が入り込むことで余計な混乱を起こさないよう配慮して素性を隠す方法を考案したらしい。その方針には手放しで賛成なんだけど…。


「テラさん…。この被り物、意味ありますかね?」


 なぜ白猫の面なのか理解できなかった。被るのも白猫なのに…。


「きっと意味なんかないですよ!バレなければいいんですから!」

「獣人だってバレないですかね…?」

「猫隠すなら面の中って言いますもんね!」

「それを言うなら、木を隠すなら森の中ですよね?」

「細かいことは言いっこなしです♪」


 テラさんに手を引かれながら王城へ向かう。まぁいいか。なんとかなるだろう。リスティアは賢い子だ。

 

「お疲れ様です!」

「おぉ。テラか、お疲れ」


 王城へ到着して、立哨にテラさんが挨拶するとすんなり通してくれた。ボバンさんから「変な仮装をした男がテラと一緒に来る」と連絡されていたらしい。「その者は決して怪しい者ではない」とも。


 変な仮装して王城を訪ねる者は誰だって怪しいと思うけど…。


「さすが団長の鶴の一声ですね!明らかに怪しいですけど、すんなり通れましたね!」

「やっぱり怪しいんですね」

 

 無事に検問を通過して王城へ入る。中に入るとアイリスさんが待っていた。


「テラ、ご苦労様」


 久しぶりに聞く声。今や2人は騎士団の先輩後輩。


「無事にお連れしました!」

「お久しぶりです。ご無沙汰しています」


 挨拶するボクの視界にアイリスさんはいないけど、前方に立っているのは匂いでわかる。鼻の部分も穴が開いててのかった。キリッとした白猫の面を被ったボクを見て、アイリスさんは微笑む。


「お久しぶりです。…ふふっ。ちょっと面白いですね。なぜそんな被り物を?」

「わかりません。テラさんがリスティアから渡されたみたいですけど、意味なんかないらしいです」

「アイリスさん!とりあえず会場へ向かいましょう!」

「人払いは済んでいるけど、確かに長居は無用ね。行きましょうか、ハンサムな白猫さん?」

「はい…」


 アイリスさんは悪戯っぽく笑う。中身はハンサムじゃなくて申し訳ない。


 アイリスさんも一緒に手を引いてくれて3人で会場へと向かう。

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