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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
185/705

185 久しぶりの王都

 遂に迎えた誕生祝宴当日。最高の晴天に恵まれて、天も3人の王子達の誕生を祝っているかのよう。


 ウォルトは最低限の荷物を背負って住み家を出る。


 カリーが再び破壊したドアは、綺麗に修復したから問題ない。チャチャに「兄ちゃんは…誰の恨みを買ってるの…?」と心配されたけど、カリーに恨まれてはいないはず。…多分。

 軽く身体を動かして準備を整えると、大きく息を吸って前を見据えた。


「よし!」


 リスティアの待つ王都へ向かって、一目散に駆け出した。



 一度でも行ったことのある場所へ向かうのは、獣人にとって容易い。頭の中には王都までの地図が浮かんでいる。その地図を元に、自分が思う最短の距離を駆ける。森を抜け野を駆けて川を渡る。とても気持ちいい。


 疾走すること2時間と少し。爽快な気分のまま王都に到着した。王都の東門には以前来たときと変わらぬ爽やかな青年がいる。


「王都へようこそ!…って、あれ?アンタは前にも来たことあるよな」

「覚えてるんですか?」

「あぁ。獣人なのに丁寧な物腰で珍しかったからな…。いや、他意はないんだ。すまない」


 青年はバツが悪そうな顔をしてる。『変な獣人だと思った』と勘違いされたくなかったのだろう。気遣いに笑みがこぼれる。


「気にしないで下さい」

「そう言ってくれると助かる。今日は用があって来たのか?」

「知り合いに会いに来たんです」

「そうか。もうちょっと早ければジニアス様達の御披露目に間に合ったのにな」


 城下町でもお披露目されたのか。見たかったな。


「残念です。盛り上がったんですか?」

「そりゃあな。カネルラの王族は国民に愛されてる。声援が祝福の雨だったよ」

「見たかったですね」

「まだ王都のお祭り気分は抜けきってない。楽しんでいってくれ!じゃあな!」


 男は笑顔で持ち場へと戻った。本当に爽やかでいい男だと思う。


 よし。行こう


 ダナンさんに聞いた予定通りに目的地を目指す。目的地といっても、ボクが王都で知っている場所は少ない。王城とキシック墓地と闘技場。そして、今から向かうテラさんの家だ。


 街を歩くと、門番の言った通りまだ祭りの熱が冷めやらない雰囲気。沢山の露店や、道端での大道芸が非日常感を感じさせる。大通りを抜け、しばらく歩くとテラさんの家に到着した。

 ダナンさんの話によれば、テラさんは今日は休みで家にいるはず。玄関に立って軽くドアをノックしてみる。


 中から反応がない。急な仕事かな?

 

 なんの疑問も持たず、テラさんが戻るまで時間潰しに王都の食材でも見て回ろうと歩き出したとき、背後で玄関のドアがバーン!と開いた。


「ちょっと待ったぁ~!お待たせしたのはお花を摘んでたからですよ~!…ってウォルトさんじゃないですか!」


 振り返ると笑顔のテラさんが立っていた。以前と違い、アイリスさんのように髪を短く切り揃えより活発になったような印象。引き締まった身体に日頃の鍛練の成果が現れている。言わなくていいことまで口にするテラさんは、以前と変わらず元気そう。


「お久しぶりです。お元気そうで」

「ご丁寧にどうも!…って違ぁ~う!」

「違う?」


『ニャにが?』と首を傾げてみる。


「ウォルトさんは他人行儀すぎます!『久しぶりだなテラ。騎士になったんだって?ふっ、さすがだな…』って格好つけるところでしょうが!」

「それはボクじゃないです」

「えぇい!とにかく中に入ってください!お茶を淹れますから!」


 勢いに押されるまま家に入るとそのまま居間に通された。前に訪れた時と変わらぬ匂いと光景に心が落ち着く。椅子に座って待っていると、テラさんがお茶を淹れてくれた。とてもいい香りがする。嗅いだことのない香りだ。


「お茶を淹れるのも上手くなったと思いますよ!ウォルトさんには負けますけど♪」

「そんなことないです。頂きます」


 飲んで驚く。


「初めて飲むお茶ですが、とても美味しいですね…」


 色は鮮やかな琥珀色で香りも味も素晴らしい。微かに砂糖で甘味をつけてあるのか。


「紅茶といって、茶葉を発酵?させて作るらしいです。最近知って美味しかったのでウォルトさんにも是非飲んでもらいたくて!」

「ありがとうございます。凄く嬉しいです」


 テラさんは満面の笑みを浮かべてる。本当に笑顔が似合う女性だ。紅茶を綺麗に飲み干してからテラさんに尋ねた。


「もしかして、今日はわざわざ仕事を休んでくれたんですか?」

「はい!」


 やっぱり…。元から休みだったワケじゃなくて、ボクの都合に合わせて休みを取ってくれたのか…。


「すみません。ボクのために…」

「気にしないで下さい!いつも怒られてるので、ちょうどよかったです!」

「怒られてる?」

「私、鍛練しすぎて全く休まないんですよ。だから団長の意向もあって今日は強制休暇です!」

「そうでしたか。体調管理には気を使ったほうがいいかもしれません」

「大丈夫です!やりすぎるとダナンさんに怒られるので!」


 その後、近況を報告しあった。テラさんは、アイリスさんに憧れて入団した数名の女性騎士とともに日々鍛練に励んでいるみたいだ。

 ほんの少し前まで、騎士団でただ1人の女性騎士だったアイリスさんは、女性陣の面倒を見てくれる優しい先輩騎士だという。

 今日のダナンさんは、ボバンさんやアイリスさんと共に、祝宴の護衛の任に就いているらしく王城にいるとのこと。


「それで…ウォルトさんにお願いがあるんですけど…」

「なんでしょう?」 

「私と手合わせしてください!」


 テラさんは頭を下げた。


「いいですよ」

「ホントですか!?」

「もちろんです。約束してましたから。いつにしましょうか?」

「今からお願いできますか!」

「休みなんですよね?ボクはいつでもいいので、今はやめといたほうが…」

「いえ!ウォルトさんには会いたかったけど、今日の休みについては不満だったんです!鍛えたいのに鍛えられない…。そんな私の悲しみに応えてくれるウォルトさんは、もはや聖人と言っても過言じゃない!」

「過言すぎます」


 喜ぶテラさんを目にして思う。テラさんはアニカと似ていると。性格だけならウイカよりテラさんの方が姉妹みたいだ。2人の掛け合いを見てみたくなる。きっと楽しくて面白いはず。


「では、ちょっと装備をつけてきます。覗かないで下さいね♪」

「わかりました」


 移動しようとしたテラさんは、ピタッと止まってボクを見る。


「今のは…フリですよ?」

「そんなこと言われても覗きません」


 オーレンに「覗いちゃダメだ」と言ったのにボクが着替えを覗くわにワケはいかない。そもそも大胆すぎる発言だ。揶揄われてるんだろうけど。


「ウォルトさんは真面目過ぎます。たまにはハメを外さないと疲れちゃいますよ!」

「ボクの場合、着替えを覗くことがハメを外すことにはなりません」


 テラさんはジト目になる。


「私の着替えなんか覗く価値もないと…?」

「そんなことありません。刺激が強すぎるんです。テラさんは魅力的ですから」

「じゃあいいです♪」


 その後、騎士の装備を装着したテラさんと外に出て対峙する。

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