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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
183/705

183 いざ、交渉。そして…

 王城でジニアス誕生の祝宴が開催されるのは、2週間後に決定した。その前に王都で御披露目を行い、国民にお祭り気分を味わってもらうことに決めた王族達。御披露目の準備で城下町は賑わいを増している。


 そんな中、王女リスティアは父である国王に最後の交渉を行うことに決めた。ナイデルは、本日の政務を終えて自室でルイーナ、ジニアスとともに寛いでいる。

 今日は、ストリアルとアグレオもジニアスを愛でるため部屋を訪ねていて、そんな王族勢揃いの場所にリスティアはやってきた。




 俺を訪ねてきたリスティアは、真剣な表情で口を開いた。


「お父様。話があるの」

「どうした?」

「以前もお願いした件だけど」

「以前…?あぁ、ジニアスの誕生祝宴の件か?」


 まだ諦めていなかったのか。


「改めて許可をもらいたいの」

「答えは、残念ながら『無理』だ」

「そうだよね」


 答えを予想していたかのような反応。少し意外に思えた。いつものリスティアなら、勢いで押してくるか、もっともらしい屁理屈を並べて煙に巻こうとする。いやに素直に引き下がったのが気になる。


「前向きに検討はした。だが、見知らぬ者を祝宴に出席させるワケにはいかん」

「だよね」

「納得したか?」

「私だけの要望じゃ難しいのはわかってた。だから、他の人の意見も聞いてほしいの」

「どういう意味だ?」


 真意を掴みあぐねていると、扉がノックされる。


「失礼します」

「お前達は…」


 入室してきたのは騎士団長のボバン。そして女性騎士のアイリスとテラ、ダナンとカリーも続く。俺の前で1列に並んだ。


「国王様。我々も王女様の意見に賛同させて頂きたく存じます」


 ボバンが告げた。


「なんだと…?どういうことだ?」

「王女様の推薦人は我々の知人であるのです」

「お前達の?騎士なのか?」

「騎士ではありません。ですが、決して王族の皆様や国賓の皆様に害をなすような人物ではありません」


 アイリスやテラ、それにダナンやカリーまでも頷く。


「そうは言っても、やはり難しいことに変わりない」

「国王様。その者は我々にとって恩人でございます。そして、ジニアス様達にとって記念となる素晴らしいモノをお見せできるかと存じます」

「ヒヒン」


 ダナンも口添えて、カリーも言葉を理解しているかのように小さく嘶く。


「ダナンまで…」


 黙って聞いていた王子達が口を開く。


「お前達も推薦するような人物が、なぜ素性を明かさない?」

「そうだね。やましくないのであれば、素性を明かしても構わないだろう?まず誰なのかは重要で話はそこからだよ」


 ストリアルとアグレオの意見はもっともだ。推薦はするが、揃って素性に触れようとしない。おかしな話だ。


「それには理由があるのです」


 ボバンが話したところで再び扉がノックされた。そして、王太子妃であるウィリナとレイが入室してきた。


「「失礼致します」」

「ウィリナ。どうしたんだ?」

「レイ?どうしたの?」


 王子達が驚いている。予定にない訪問ということか。


「私達も是非ともその方に来て頂きたく存じます」


 ウィリナが伝えレイも頷いた。


「なぜだ!?お前達となんの関係がある?!」

「その方は私やレイ様にとっても恩人であるのです。信用に足る人物であるかと」


 ストリアルは寝耳に水ということだな。


「レイの恩人だって…?なぜだい?」

「申し上げるまでもないことですのでこの場ではお伝え致しませんが、私もウィリナ様もその方に救われております。むしろ、なぜスアグレオ様はおわかりでないのですか?」

「えっ?!」


 レイの言葉にウィリナも頷いた。


「言うまでもない…だと?」


 ワケがわからない。複数の王族の推薦を受けるような人物だということも驚きだが、皆がその人間性について疑っていない。   

 リスティアに頼まれて口裏を合わせているようには見えない。全員が信頼する、若しくは信頼に値する人物のようだな。集まった者は、リスティアの味方である…ということ。深く息を吐いて口を開く。


「リスティア。祝宴に参加させれば否が応でも素性は明らかになる。なのに、俺が認めるまで素性は教えないつもりか?」

「うん。先に参加の許可をもらえたら教える」

「ならば認めるワケにはいかん。お前達の気持ちは受け取ったが、素性の知れない者を祝宴には加えられない。決定事項で覆ることはない」


 やはり納得できない。信頼できる者なのだろうが、そうであっても俺自身が信用できなければ認めぬ。


 リスティアが静かに訊いてくる。


「国賓に気を使ってるの?それとも、王族として一般人とは同席できないということ?」

「双方だ。国を守るのが国王の役目。そして、王族の長として家族も守らねばならない。万が一にも素性もしれぬ者の行動でカネルラの憂いを増やすことは避けなければならない」


 断固とした態度で述べる。


「一般人で…素性の知れぬ者だから私達の意見を聞いても信用しないというのですね…?」

「その通りだ」


 大人びたリスティアの口調は少しずつ強くなる。静かに小さな身体の中で怒りを膨らませているのが見てとれる。ココまで怒りを露わにするとは。なにがこの子を駆り立てている?


「リスティア。父上を困らせるな。私情ではなく国を思えばこそだ」

「兄さんの言う通りだよ。いくら知人、恩人といっても許されないこともある。わかるだろう?」

「今回の祝宴では万一の失敗も許されん。話は終わりだ」


 今まで沈黙していたルイーナが口を開く。


「リスティア。ナイデル様達の意向は理解したわね?」

「理解致しました」


 リスティアは表情をなくしたまま答える。理由は不明だが怒りは甘んじて受けよう。


「では、こうしましょう。その者を祝宴終わりに招いてナイデル様、ストリアル、アグレオを除いた王族と貴方達だけで小さな祝宴を開きましょう」

「なんだとっ?!」

「母上!」

「母上!?なにを!」


 まさかの提案に目を見開く。

 

「お母様。よろしいのですか?」


 リスティアも驚いた表情。


「構いません。国賓を考慮する必要もなく、コレだけの者が「恩がある」「害をなさない」と言っているのです。ならばその者を信頼する者だけで小さな宴を開き、リスティアの言う一生の思い出に残るモノを子供達と私達に見せて貰う」


 …なんということだ!俺の意向を無視している!


「ルイーナ!そんなことが許されると…」

「許されないと仰るのですか…?」


 真剣な眼差しを向けられた。


「ぬっ…」


 思わず言葉に詰まる。今の発言は冷静ではなかったか。感情的になってしまうところだった。


「不測の事態に見舞われたとしても、ナイデル様達が御無事であればカネルラに憂いはありません。ボバンやアイリス、ダナンも同席する宴で起こりようもありませんが。私は単に母親として、皆が信用に足ると語る者が見せる素晴らしいモノをジニアス達に見せたいと思うのです」

「むぅ…」


 ルイーナの静かな迫力に口を噤む。さらに真っ当な意見で、見事な折衷案でもある。ふと悲しげな表情に変化したルイーナは、誰にも聞こえぬよう俺の耳元で囁いた。



 …………なにっ!?


 目を見開きリスティアに視線を向けると俺を射抜くような目で見つめている。そんなことが……あり得るというのか…。なんということだ…。リスティアは……。


 ゆっくり瞼を閉じる。


「…いいだろう。後の宴を許可する」

「父上!?」

「よろしいのですか!?」

「構わない。身内のみで行う宴に一般の国民が参加したとしてなんら問題はない」


 俺の決断に驚いているようだが、王子達がなにを言おうと覆らない。先程と同様でなければ平等ではないだろう。


「お父様。ありがとうございます」

「礼など必要ない。ジニアス達にいいモノを見せるようその者に伝えてくれ」

「畏まりました」


 大人びた表情からいつもの子供らしいリスティアに戻る。


「みんな、ありがとう!」


 集まってくれた皆に頭を下げるリスティア。ボバン達は笑顔を見せ、それぞれの持ち場へと戻った。


 



 その日の夜。


 ルイーナと寝室のベッドで寄り添っている。ジニアスはすでに夢の中。俺達は穏やかに話す。


「リスティアが自身の祝宴を覚えていたとは…。信じられない娘だ…」


 ルイーナはリスティアがなぜ誕生祝宴にこだわるのか伝えてくれた。自分の誕生祝宴でカネルラを揶揄されたことや、開催に至る経緯を全て覚えていて、ジニアス達にいい思い出を残してあげたいと考えていること。

 赤子であっても記憶に残ると信じる素晴らしいモノをどうしても見せてあげたいのだと。


「10歳の自分が最も感動したモノをジニアス達に見せたいと…。本当に…申し訳ありません…。貴方を支える立場でありながら…威厳を崩すような出過ぎた真似を……」


 俯くルイーナに微笑む。


「気にするな。俺に威厳など必要ない。いい落としどころだった。それに…こういうところだろう?」

「と、申しますと?」

「俺の意固地な部分というのは」

「全然違います」

「なっ!?」


 クスクス笑うルイーナ。参ったなと苦笑した。

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